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恋するメイドくん。  作者: 藤代景
5/8

第5話 メイドくんとオタク同盟

 アマリリスで働くようになって約二か月。段々仕事にも慣れてきて、店長に褒められるようになった。ミスも少なくなってきたし、私もアマリリスの一員を名乗れるほどになっているはずだ。

 バイト仲間であるみんなとも仲良くなってきてるし、順調としか言いようがない日常を送っている。


 だけど最近、悩んでいることがあるのです。それは______。


「ふゆちゃん!!全力で罵ってください!!!」

「相変わらずキモイな、お前」

「はうっ!!!!!♡」

「………………」


 頻繁にやって来る常連さんが気持ち悪いということ。


 いや、もちろんオプションを頼むのは自由だし私に迷惑はかかってない。それに冬里くんのお客さんは基本的にああいう人が多いからいつものことと言われればそう。それでもあのお客さんは別格で気持ち悪い。主に言動が。


 見たところ高校生っぽいけれど、どこの学校の人なんだろう。……もしかして私達と同じ学校だったりして……?


「ふゆちゃんはどういう人がタイプ?♡」

「別に……興味ないけど、強いて言うならお前以外」

「はううううっ!!!!!♡」


 …………そんなわけないか。あんな変態、同じ学校にいたら気付いてるもん。


「あ、あの……とう……ふゆちゃん」

「どうした?」


 戻ってきた冬里くんにこそっと耳打ちする。


「あの人、常連さんだよね?いつから来てるの?」

「知らない。気付いたらいた」

「き、気付いたら……?」


 ああ、そういえば冬里くんはそういうの興味ないから覚えないんだっけ。誰が相手だろうとこんな感じだもんね……。


「……そんなに気になるなら本人に聞いてみればいいんじゃないか?」

「ええっ!?」


 本人にって……。


 チラッと常連さんを見る。彼は冬里くんから言われた言葉を噛み締めるように目を伏せてガッツポーズしている。


「ちょ、ちょっと嫌かも……」

「……そうか」


 できれば直接関わりたくない……!




 ◆    ◆    ◆




「もう、冬里くんったら……」


 彼から来たメッセージを見て苦笑いを零す。


 放課後になり、今日はアマリリスも休みだから帰ろうとしたところで冬里くんからメッセージが来たのだ。その内容は端的で、「職員室まで来てくれ」とのこと。

 夏輝くんいわく、毎日授業中に寝ているうえに成績が落ちてきているから教師に呼び出されたらしい。


 それにしても、どうして私を呼ぶんだろう。……一緒に帰ろうってことなのかな。最近駅まで一緒に帰ること多いし……。


「(まさか私があの雪乃冬里くんとこんなに仲良くなるなんて……)」


 きっと一年前の私なら考えもしなかっただろうな。

 なんて少し浮かれた気持ちになっていると。


「____わっ!?」

「うわっ、」


 角を曲がるところで、向こうからやって来た男子とぶつかりかけてしまった。慌てて避けたせいで足がもつれ、転びそうになる。だけどそこをなんとか踏ん張り、謝るため顔を上げた。


 か、考え事をしてたせいで人とぶつかりかけるなんて……!何やってるの私!!


「ごっ、ごめんなさい!考え事してて、」

「いや、俺も前見てなかったから別に……」


 その男子と目が合った瞬間、既視感のようなものが私を襲った。

 あ、あれ……?知らない人のはずなのに、見たことがあるような……。なんか最近見たような……。


 そこまで考えて、「あーっ!!」と思わず声を上げた。


「……!?きゅ、急にどうした?」

「(こっ……この人……この人は……!)」


 そうだ、どこかで見たと思ったら……!アマリリスによく来る常連の……!!


「変態だーーー!!」

「はあ!?おまっ、誰が変態だ!!」


 眼鏡を掛けた男子……もとい常連さんは困惑した様子で声を上げた。けれど私はそれどころではなくて。


「(なっ……何でここにあのお客さんが……!?)」


 高校生だろうとは思ってたけど、まさかの同じ学校だったの!?嘘でしょ!?どんなミラクル!?世間は狭いって言うけどここまでとは!

 冬里くんがいる職員室はすぐそこ……!とにかく冬里くんに近付けさせないようになんとかしないと……!冬里くんをこの変態から守らないと……!!


「志季、待たせた」

「って来ちゃったし!!」


 私の決意も虚しく、冬里くんは少し嬉しそうに曲がり角からやって来た。何も分かっていない様子の彼に慌てて声を掛ける。


「こ、こっち来ちゃダメだよ冬里くん!変態に襲われちゃう!!」

「だから誰が変態だ!!デカい声で何言ってんの!?つーかお前誰だよ!」

「誰って……!」


 そこまで言って、咄嗟に口をつぐむ。


 そうだ、散々知ってるていで喋ってたけどよく考えたらおかしいよね。あっちからしたら私や冬里くんがアマリリスで働いてることは知らないんだから。

 あの変態常連さんを見つけた驚きで騒いじゃったけど、私達が女装して働いてることは内緒にしなきゃいけないじゃん……!特に私なんかは分かりやすいんだから……!


「いっ、いや、あの、ごめんなさい!人違いだったかも……!」

「……ん?お前……」


 男子は慌てて弁明する私の顔をじっと見ると。


「どっかで見た顔だと思ったら……まさか、アマリリスのしぃちゃん?」


 驚いたように目を丸くして呟いた。


 終わった_____。ついにバレてしまった……。い、いやもうこうなったら切り替えよう!とにかく冬里くんだけはバレないようにしないと……!


「……何で頭抱えてるんだ?痛いのか?」

「ち、違うけどありがとう……」


 頭痛だと勘違いしたのか、冬里くんは心配そうに優しく頭を撫でてくれた。嬉しいけど全然違う。

 すると男子が「おい雪乃!」と冬里くんに声を掛けた。


「お前俺のことどういう風に説明してんだよ!変態呼ばわりされてんだけど!?」

「……お前が変態なのは本当のことだろ。それに俺が言ったんじゃなくてアマリリスでの言動を見た志季が判断しただけだ」


 淡々と返す冬里くんに、私は恐る恐る口を開いた。


「あ、あの……冬里くん?まさかこの人と知り合いなの?」

「同じクラスの奴だからな」

「同じクラスだったの!?」


 何でもない顔で言ってのける彼の姿に、混乱と困惑で思わず倒れそうになった。

 アマリリスの常連がうちのクラスにいたなんて……!普段みっちゃん以外と関わってなかったから全然知らなかったし気付かなかった……!!


「こいつは山田。アマリリスの常連で、俺達があそこで働いてることを知ってる一人。まあ……変態で合ってる」

「合ってねーよ!もうちょっといい紹介の仕方しろ!!」


 山田と呼ばれた男子は眼鏡を掛け直すと、私に向き直った。


「俺は山田やまだ てつ。百合をこよなく愛するただのオタクだ。アマリリスに行ってるのは可愛い女の子が見られるからであって……断じて変態じゃない」

「百合……?はよく分かんないけど、冬里くん達は女装してるだけで普通に男の子だよ?」


 女装喫茶だって知ってるだろうに……と不思議に思って聞いてみると、山田くんは呆れたようにため息を吐いた。


「分かってねーな……。いいか?どう見ても男にしか見えない奴が女の恰好してるならそれは間違いなく「女装」だ。けど、どっからどう見ても女にしか見えねーっていうなら……それは紛れもなく女だろ!!」

「そんなことはないよ!?」

「男が可愛い女の子に罵倒されて喜ぶのは普通のこと。だから俺は変態でもホモでもねーわけ。分かったか?」

「全然理解できない……」


 何でこの人はドヤ顔してるんだろう。


「えっと……つまり、冬里くんのことを女子として見てるってこと……?」

「は?ふゆちゃんと雪乃は全くの別人だろ何言ってんだ」

「ええ……?」


 山田くんの超理論を理解することはできないけれど……なんとなく分かったことがある。それは______山田くんはみっちゃんのような暴走するタイプのオタクだということ。


「相変わらず気持ち悪いな、お前」

「やめろ!ふゆちゃんならご褒美だけどお前に言われるとシンプル傷付くんだよ!」

「(……やっぱり変態だ……)」


 山田くん以外にも冬里くん達が働いてることを知ってる人がもう一人いる。その人もこんな感じの人なのかな、と思うと少し胃が痛くなった。




 ◆    ◆    ◆




「えっ、また!?」


 あれから一週間後。

 夏輝くんに一緒に帰ろうと誘われた為帰りの支度をしていると、「冬里と職員室に行く用事ができた」と彼から電話が入った。


『最近成績が落ちてるからって呼び出し。冬里はともかく、俺はただ部活の助っ人やバイトが忙しくて勉強してなかっただけだってのにさー』

「冬里くん……反省してないんだろうな……」

『てかそもそも話聞いてないんじゃね?』


 冬里くんならあり得るな……。


『まあとにかく、ちょっと教室で待っててくれよ。すぐに行くからさ』

「分かった。あ、智秋くんと春佳さんは?」

『春佳は女子に呼び出されたみたいだから後から合流予定。智秋は暇そうにしてたから連れて来た!』

『何で俺まで引っ張ってくんだよ!二人で行けよ!!くそっ、離せバカ冬里!!』

「…………ほどほどにね」


 電話の向こうで抗議する智秋くんに苦笑いを零す。智秋くん、いつも振り回されてるな……。まあいいや、みっちゃんと連絡取り合って時間潰そうかな。


 自分の席に座り、操作し始めた_____その時だった。


「____月宮さん」


 後ろから声を掛けられ、顔を上げる。


「えっと……佐藤くん?どうしたの?」


 そこには同じクラスの佐藤くんがいて。何気に話すの初めてだな、なんて思いながら返事を返した。

 すると彼は少し照れ臭そうに視線を泳がせた後、「実は……」と口を開いた。


「ずっと月宮さんと話したいと思ってたんだ。だけど中々声を掛けられなくて……」

「え?そうなの?」

「その……迷惑でなければ、色々話したいんだけど……いいかな……?」

「うん、もちろん」


 笑顔で答えると、佐藤くんは嬉しそうに目を輝かせてスマホを取り出した。











「あ゛~……疲れた……」


 死んだような目をして肩を落とす智秋。そんな智秋に同意するように夏輝は「俺も~」とため息を吐いた。


「話長すぎだよなあ、あの先生」

「……眠い」

「お前らがまともに話聞かないからだろーが!!」


 智秋は疲れた様子で声を荒げた。慰めるように春佳がその背中を優しく撫でる。


「挙句の果てには面倒見てやってくれとか言われるし……。何で俺がこいつらの保護者しなきゃいけねーんだよ……」

「ツッコミ役の宿命ってやつだね、可哀想に」


 別に好きでツッコミに回ってるわけじゃねーよと、智秋は深いため息を吐いた。


 自分だって面倒事は避けたいし同級生の保護者代わりになどなりたくはない。けれどこの自由気ままに暴走する二人……いや、三人を止められるのは自分しかいないのだから仕方ないだろう。

 まあ、最近は志季がツッコミに回ってくれるおかげで負担は減っているが。


「早く志季に会いたい……」

「確かに!結構待たせちまったよな。さっさと話し切り上げてくれたらこんな遅くならなかったのに」

「お前らが適当な相槌あいづちばっかして先生を怒らせるからだろ!」

「はいはい、怒らない怒らない」


 激怒する智秋をなだめながら足を進める。

 しばらくして、志季が待っているであろう教室に着く。早く一緒に帰ろうと、ドアに手を掛けた……その時だった。


「______ってこと…………」

「_______だから…………」


 教室の中から男女の声が聞こえる。そっと中を覗くと、なんと志季が男子と話しているではないか。


「…………誰だあいつ」

「あいつ……誰だっけ?何か見たことある気がすんだけど」

「彼、佐藤くんじゃない?」

「佐藤って、俺らと同じクラスの……?何で志季と佐藤が話してるんだよ……!?」


 志季と会話している男_____佐藤のことはまあまあ知っていた。しかし佐藤と志季の共通点も接点も見当たらない。強いて言えば、同じクラスであることくらいだろうか。

 そんな浅い関係の二人が何故、顔を寄せ合って喋っているのか。しかも楽しそうに。


 春佳は面白そうにニヤニヤと笑いながら眺めているし、夏輝は不思議そうに首を傾げているし、智秋は二人の関係を想像してわなわなと震えているし、冬里は不機嫌丸出しの目で佐藤を睨んでいた。


「ねえ、月宮さん!」


 そんな中、佐藤は興奮気味に志季と距離を詰めた。


「俺、もっと月宮さんと話したいんだ!だから良ければLINE交換してくれないかな?」

「も、もちろんいいけど……。大した話はできないと思うよ?」

「ちょっとしたことでもいいんだ!さっきの話だってすごく良かったし……!本当にありがとう、月宮さん!」


 佐藤は心の底から感謝を伝えるように、志季の手を握ろうとした。

 ______しかし、それは叶わなかった。なぜなら。


「おい」


 様子を見ていた冬里が我慢できずに飛び出してしまったからだ。


「ゆっ、雪乃くん……!?」


 佐藤は冬里の姿を見つけた瞬間これでもかというほど目をかっぴらいた。しかしそんなものお構いなしに冬里は二人に向かって歩く。


「ちょっ、冬里!」


 智秋の制止もむなしく、冬里は不機嫌さを隠そうともせずズンズンと歩いていく。そして無理矢理二人の間に割って入ると、志季を隠すようにぎゅっと抱きしめた。


「とっ、冬里くん!?!?」

「志季に触るな、ムカつく」


 冬里の言葉に固まる佐藤。智秋達はその光景に頭を抱えながらも、冬里に続くように教室へ足を踏み入れた。


「急に飛び出すなよ!せっかく様子見てたのに……」

「つーかそんな怖い顔すんなよ。そいつ、まだ何もしてないだろ?」


 手を握ろうとしただけで、実際に手を握ったわけではない。未遂だ、と夏輝が珍しくフォローするが、冬里の鋭い睨みは変わらない。「未遂だろうと関係ない」とでも言いたげな顔で志季を抱きしめている。


「…………ごめん」


 先程まで目を丸くしていた佐藤は俯き、ぽつりと零した。


「俺、邪魔だね。本当にごめん、すぐ消えるから」

「えっ?さ、佐藤くん?」

「また明日!」

「ちょっ、ちょっと!佐藤くん、これは違くて……!!」


 佐藤は志季の制止も聞かず俯いたまま教室を走って出て行った。志季は慌てて追いかけようとしたが、テーブルを平気で壊す冬里ゴリラの腕から抜けられるわけもなく。

 呼び止めようと挙げた行き場のない手はそのまま虚しく降ろされた。


「ぜ、絶対勘違いされた……!!」

「……そんなに佐藤のことが好きなのか」


 相変わらず不機嫌に、けれどどこか寂しそうに問う冬里。しかし志季は「違うよ!!」と力強く否定すると佐藤のことについて説明し始めた。


「佐藤くんとはさっき知り合ったばっかりなの!佐藤くん、山田くんと一緒でみんながアマリリスで働いてること知ってるみたいで……普段私が冬里くん達とどう過ごしてるのか聞きたいって言われて。だからみんなのこと話してただけなんだよ」


 志季の言葉に、夏輝が思い出したかのように「ああ!」と手を叩いた。


「どっかで見たなあと思ったら、いつも山田と一緒に来てる奴か!山田と違って大人しいから印象薄くて忘れてた」

「ナチュラルにディスってるね」

「それで、普段私が冬里くん達とどう過ごしてるのか聞きたいって言われて……だからみんなのこと話してただけなんだよ」


 志季の言葉を聞いた冬里は納得したのか、「……ならいい」と力を緩めた。志季はようやく息苦しさから解放されたことにホッと息を吐く。


 しかし智秋は佐藤の様子を思い出し、志季に問いかけた。


「けどさっきなんか色々言って走って行ったよな。あれって、好きなやつに彼氏がいたって勘違いしてショック受けてたんじゃねぇの?」


 智秋の疑問に志季は気まずそうに視線を泳がせ、「あ~……」「うーん……」と唸り始めた。


「そんなに言いづらいことなの?」

「ま、まあ……」

「……気になる」

「え、えっと~……。……自意識過剰みたいでめちゃくちゃ恥ずかしいしすっごく言いにくいんだけど……言うなとは言われてないから話すね」


 志季は恥ずかしさを紛らわすように咳払いをすると、視線を逸らしながらポツリと呟いた。


「その……佐藤くん、どうやら私と冬里くん達の仲を妄想するのが……好きみたいで……」

「……はあ?」


 怪訝な顔をする智秋に、志季は顔を赤くした。


「えっと、つまりね……」









「雪乃くん……すごい怖い顔してた……。俺のこと敵だって認識して……月宮さんを取られないと必死に……。て________てぇてぇ~~~~~~!!!!!♡♡♡♡「志季は俺の女だから触るな」ってこと!?!?なにそれ付き合ってんじゃん!!!公式じゃん!!!!はぁぁぁぁ♡♡♡♡♡最ッッッ高♡♡♡♡♡♡♡冬里×志季 (ふゆしき)は公式だったんだぁぁぁぁぁ!!!!!!♡♡♡♡♡ありがとう神様!!!俺はこの事実を一生胸に抱いて生きる!!!!!♡♡♡♡♡♡♡」








「男女のカップリングが大好きなオタクなんだって……」

「…………なんでアマリリスの客は変なやつしかいねぇんだよ…………」


 頭を抱える智秋に賛同するように、志季は死んだ目で苦笑いを浮かべた。




 ◆    ◆    ◆




 次の日、志季は教室で佐藤に話しかけた。このままだと自分と冬里が付き合っていると誤解されたままになる。それだけは避けたかった。


「あ、あの……佐藤くん。ちゃんと言っておこうと思って……」

「え?何を?」

「冬里くんは私に心を開いてくれているだけで、恋愛感情とかそういうのじゃないから。だから昨日のあれは牽制けんせいでもなんでもなく、気に入ってるおもちゃを取られないよう駄々こねてる子供みたいな……そういう感じだからね?」


 そもそも志季と冬里は出会って二か月ほどだ。確かに初めの頃に比べれば距離は縮まっただろうが、たった二か月で相手に恋愛感情を持つなど普通は無いだろう。特に相手はあの冬里だ。あり得ない。


 そう思った志季は弁解したのだが、佐藤は「なるほど」と真剣な顔をして頷いた。


「分かった。つまり……雪乃くんは月宮さんのことが大好きで仕方ないってことか」

「何も分かってない!!」


 志季は思わず大声を出してしまった。


「だから違うんだって!懐いてるだけで恋とかじゃ、」

「誰にも興味が無い、氷のように冷たいクール男子がある日出会った健気な女の子に心打たれ、誰にも取られたくないという独占欲が湧く。そして次第にそれが恋と気付いていって……」

「少女漫画のあらすじみたいなの辞めて!?」

「俺は二人のこと全力で応援するし邪魔するモブどもは殺すから大丈夫」

「「俺は分かってるよ」みたいな顔やめてくれないかな!?さっきも言ったけど何も分かってないから!!」

「なんなら俺を進展の為に利用してくれていいから!全力で当て馬やるよ!?あ、でも推しの間に挟まるのは解釈違いというかあまりしたくないというかできれば二人の世界で育んでいってほしいっていうか俺なんか認識せずに生きていてほしいっていうか」


 ノンブレスで語る佐藤に、志季は全てを諦めた。そして、佐藤も山田に負けず劣らずの面倒くさいオタクだということを痛感したのだった。

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