第1話 苦笑
カタツムリペースで更新しています。
私、小林 優梨花15歳は今、人生最難関であろう壁を乗り越えようとしていた。
シャーペンが走り、ページがめくられる音で焦り始める自分を落ち着かせながら、必死にマーク式の解答用紙に食らいつく。残り8分。問題の筆記スペースに目を通し、間違いが無いかを確認する。
(よし、あとは解答だ)
少し安堵しながら解答用紙に目を通した瞬間、青ざめた。マーク欄がずれていたのだ。
しかも、大問2の(3)あたりから全て。
(今まで一度もしたことないのに!)
どうして気が付かなかった?原因は?焦りと不安に襲われながら、反射的に時計を見る。あと2分…
(どうしよう。早く直さないと!!)
緊張からか手の震えが止まらなくなっていた。指先に消しゴムが触れる。
(あっ)
――コトン
――キーンコーンカーンコーン
この時脳裏に、「時間は過ぎるのが早いんだから大切にね」という父の口癖が浮かんだ。
(あの8分間、私は何をしていたんだろう。)
普段どうでも良いことは出しゃばり行動するくせに、大事なことになると緊張して声一つでない。昔からの悪い癖だ。
泣きたい気持ちを抑えながら、合否発表の説明等が記載されているプリントを受け取り教室を後にした。
門を出ると、受検生の親であろう人たちが自分の子供を探していたり、「お疲れ様」と抱き着き笑いあっている姿が多々みられた。そんな光景を横目に駅へと向かう。
(馬鹿馬鹿しい)
別に親がいないわけではないし、仲が悪いわけでもない。ただ、やるメリットがない。それだけ。
改札口を通りホームで電車を待っているとすぐ近くでざわざわと騒がしい雰囲気が広がっていた。
(なんだろう)
そう思った瞬間、
「キャアーーーーーー!!!」
と耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。振り返ってみると、一人の若い女性が、いかにも怪しそうなガタイの良い男に刺されそうになっていたのだ。
(これだけ人がいるのになぜ誰も助けに行かないの?)
よく見ると周りの人たちは、スマホを片手に撮影したり、見て見ぬふりをしている人が多数だった。
こんなことがあっていいわけがない。気づいたら体がとっさに動き出し、自分でも信じられないほどの勢いで男に体当たりしていた。
景色が通常の二倍の速さで流れていく。目線が高い。
(あれ?私、もしかしてさっきの勢いで浮いてる?!)
周りが急な出来事に唖然とした表情を隠せずにいるなか、襲われそうになっていた女性だけが叫んだ。
「危ない!そっちはダメ!!!」
想像以上の高さに周りは誰一人手を出せず、私も男も空中では止まれない。
(あぁ、出しゃばって自滅か…ほんと最後の最後まで最悪な人生すぎ)
受検は失敗し人助けでは自滅、頭がおかしくなったのか、開き直ったのか、頬には涙が伝い私の口元には笑みが浮かんでいた。
私の記憶はたくさんの人の視線と、私が乗って帰るはずだった電車の運転士さんと目が合ったところで途切れた。