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シリーズの2作目となりますが、こちらからでも問題なくお読み頂けます◎



 日中は炎天下であった今日も、雲一つない空に月が浮かぶ頃には些か空気が澄んで感じられた。近所の幼馴染が営む喫茶店兼焙煎場の「珈琲屋」を出て私は自宅までの少しの距離を月の明かりを頼りに回り道をしていた。途中にある公園の淡く浮かび上がる緑の中からは、リンリン、ジージーと虫の声が聞こえ季節が次に向かっている事を知る。


 少し前はこの道を今はもう会えない彼と歩いていたなと、姿なき声は私を感傷に浸らせた。先程まで幼馴染と彼の思い出話をしていたせいもあるのかもしれない。別れは覚悟出来ていたのに、会えなくなればやはり寂しい。彼と以前見上げた空には今日よりも少し太い月が浮かんでいた。


「珈琲屋」から数メートルの距離をたっぷり時間をかけて歩き、やっと自宅に到着した私は、玄関扉を開けて唖然とした。お気に入りのアクセサリー置きが靴棚の定位置から三和土へと落下しているのだ。陶器のそれは原型の貝の形も分からない程粉々になって華奢なチェーン等にまとわり付き、踏み込んだ靴底にじゃりりと不快な音を立てた。


 友人から贈られた大切な物なのだが、こうなってしまっては仕方がない。他にも色々と散乱している室内には、抜け落ちてしまったと思われる美しい羽も確認出来た。今日は大きな地震も無かったからその持ち主がこの惨状を生んだのだろう。状況が理解出来ず混乱し暴れてしまったのかもしれないと考えれば、気の毒にも思えて気持ちを落ち着かせられた。


 落下物で怪我をしないよう、スリッパに履き替えたものの慎重にキッチン兼廊下を居室へと進む。飛び散った色々の破片やアクセサリーが居室の窓から差し込む明かりにキラキラと光っていた。奮発して手に入れたカップまで割れてしまっていたが、深呼吸をして気持ちを何とか落ち着かせる。気を立てていたらこの先に待つ者を怯えさせてしまうかもしれない。


 廊下から居室へ進むにつれ徐々に明るさが増し、一際明るい窓際に到達するとはっきりと何者かの気配が感じられていた。窓の片側に纏まってるカーテンの裾が膨らみ小刻みに揺れている。きっと向こうもこちらに気づき気配を隠そうとしているのだろうが、苦しそうな息遣いがそれを困難にさせていた。


  ここまで血痕は見つけなかったが、怪我をしていないとは限らない。自分に手当が可能かは怪しいが何かしてやれる事があるかもしれない。何者かの身を案じる気は逸るが、驚かして更にダメージを与えてはいけないと、努めて冷静にそして慎重にカーテンの裾を捲っていく。


 少しずつ現れる姿は月明かりを反射して黄金に輝く毛に覆われ、小さな翼を生やしていた。私の知る生物にこの見た目を持つものは思い当たらない。その姿は強いて言うなら鶏の雛が一番類似しているがまるで違う。毛玉のような体はサッカーボール程の大きさで、顔と思しき位置には鋭くも宝石のような神秘的な瞳が覗いていた。


(も、もふもふー!)


 おっと、いけない、私とした事が愛らしいもふもふに取り乱してしまうところだった。異世界に精通している私はたとえ異世界生物が現れたとしても動じない。先程思い出されていた異世界人の彼も立派に帰還までサポートしてあげられたのだ。異世界で最初に出会う魔導士が如く、転移者には冷静に対峙しなくては。


「こんばんは、言葉は分かるかしら?私は佐藤千歳と言います。あなたに危害を加えるものではないからどうか安心して?」


 威圧感を与えないように優しく声を掛けた。異世界人の彼とは言葉による意思疎通が幸いにも可能だったが、この毛玉さんはどうだろうか。私の言葉を理解したのかは判然としないが逆立っていた毛並みから緊張感が抜け、じっと私を見上げていたその瞳がゆっくりと閉ざされた。





一作目の簡単な登場人物紹介を活動報告に載せておりますので良かったらご覧下さい(^^)

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