6話 彼女(アルケミ)の事情。
本日もよろしくお願いいたします。
「カノン。あたしね……。たぶん、昨日のことは、一生忘れないと思うんだぁ……」
まだ薄暗い朝空の下。俺の家の壁に背中をあずけながら、アルケミは目を伏せて、となりでぽつぽつと語りだした。
今日、いやもう昨日か。俺が荷運びの仕事をクビになったのと同じ日、自分が働いていた錬金魔道技師の研究所をクビになったその顛末を。
◇◇◇◇
――照明に空調、その他数多の最先端の魔道具によって整えられた研究所、そこがあたしの職場。いまはピリピリと張りつめたように静まりかえっている。
固唾を飲んで見守る先輩たちの前。ぎゅっと唇をひき結んで立ちすくむあたしに向かって、バンッ! と目の前の机が思いきりたたかれた。と同時に、研究所長のモストル博士が怒り狂ったように叫び、まくしたてる。
「アぁルケミぃ! ペぇルぅエクスぅっ! キっサマぁ! この儂に恥をかかせおってぇっ! いったいなんだ!? あのとんでもない欠陥品はっ!? だれひとり使えない魔道具などつくりおって……! 人並み外れた魔力量を持つと言ってはばからないあの侯爵が撃てさえせずに魔力枯渇で失神したのだぞ!? キサマのせいで、無知蒙昧な貴族どもに、頭を下げさせられたわ! この儂がっ! 王都の発展に寄与し、錬金魔道技師界にそのひとありと言われるこのモストル・レイジーク博士がだぞっ!?」
その博士の剣幕にあたしは、震え、汗ばむ手のひらをぎゅっと握りしめて、叫びかえした。
「モストル博士……! あたしの夢、〈魔砲〉の研究を許可してくれたことは感謝してます……! でも、あれはまだ試作品だって、あたし、言ったじゃないですか!? 博士のオーダーに応えて威力だけを追求してみたら、必要魔力消費が多すぎて〈魔砲〉試作第一号はとても実用できないものになっちゃったので、これから試作を重ねて調整しますね、って! なのに、製作者のあたしに無断で勝手に……! 博士こそ、なんでそんなことしちゃったんですか!? 魔力枯渇なんて……! 下手すれば侯爵さま、死んじゃうところだったんですよ!?」
「ええいっ! うるさぁいっ! だまれぇぇぇっ! 小娘ぇぇぇっ!」
「あっ……!?」
研究所中に響くような怒号とともに、博士がブンッ! と一気に机の上をなぎはらった。その拍子にまだ研究途中の、あたしの先輩たちがつくった最先端の魔道具になるかもしれなかったモノたちが、落ちる。
「だ、だめぇっ!?」
――割れて飛び散るいくつもの欠片。とっさに床の上に飛びこんだあたしが、すんでのところで救えたのは、たったひとつだけだった。
「ふーっ! ふーっ! こ、この儂に耐えがたい恥をかかせたばかりか……! あまつさえ、口ごたえをするだと……!? もう、もう許さん……! 破門だっ! クビだっ! 追放だぁぁぁぁっっ! 貴様のような無能は役立たずの言わばゼロも同然っ! この儂には必要ないぃぃっ! キサマら、なにをしておるかぁぁっ! さっさとこの見ているだけで不愉快な小娘をこの儂の城からつまみだせぇぇっ! その魔道具と名乗るのもいまいましいゴミクズとともにだぁっ! もちろん処置も忘れるなよぉぉぉっ!」
「え、あ……!? そ、そんな……!? つ、追放……!? しょ、処置って……!? そ、そんなことされたら……あ、あたし……!? ま、待ってください、モストル博士!? ――い、いやっ!? 離してっ!?」
床の上に這いつくばったままのあたしに、容赦なく上から降りかかるその激昂。そして、なんの反論も抵抗も許されないまま、うしろから男たちに両腕をつかまれ、あたしは無理やりに入口へと引きずられていく。
「わ、悪く思うなよ……! アルケミ……!」
「こ、こうしないと、ぼ、ぼぼ、僕たちまで……!」
「も、モストル博士に逆らうなんて、身のほどしらずなことするからだぞぅ……!」
「きゃあっ!?」
引きずられたまま入口から外に出されたあたしは、今度は男たちに無理やりに四つんばいに、地面の上に手をつかされた。
あたしのカバンがぼすっと横の地面に放り出されたかと思うと、うしろから、チャプンと音のする液体を持った新たな男がにじりよってくる。
「オレの研究成果、救けてくれてありがとうな。アルケミ。……じゃあ、元気で」
「や、やめてください……!? せんぱい……! や、やめて……!?」
ばちゃっ。
「い、いやああああぁぁぁぁぁっ!?」
――かけられたのは、真っ黒な液体。これが、処置。特別な材料でつくられた決して落ちないそれは、コートの背中に描かれた研究所の紋章を塗りつぶす――あたしの未来を塗りつぶす、追放のあかしだった。
・余談ですが、アルケミの背中に液体をぶっかけた先輩は、他の技師より少し顔が良くてイケボだったりします。
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次回「誓いの朝に」
それでは、また明日お会いできますように。