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5.異世界は徒歩0分⑤

「ここが異世界かー。なんかあんまり変わんねーな」

「この机とかすげえ見覚えあるんだよなあ……? 俺、前にも異世界来てたかもしれん」

 満と緩太は自分の机や椅子を感慨深そうにさすってはウンウンと頷いている。

 いったい何が腑に落ちているのか、ゼニスにはまるで腑に落ちない。二人だけさらに異世界へと旅立ってしまったのかと勘ぐりたくもなってしまう。


 しかし生徒の立場で考えてみれば、突然ゴブリンの巣窟ど真ん中に飛ばされたのならともかく、身の回りに何の変化も生じていないのだから多少の挙動不審は大目に見るべきだ。正確にはこの教室、というよりも校舎自体が複製物にすり替わっているので変化は生じているのだが、人間がそれを認識することなど不可能。むしろ可愛らしい反応として受け止めるべきだ。

 ゼニスはそう結論付け、ウンウンと一人頷いた。


 なんにせよ、このあと窓の外を見ればここが元の世界とは違うということは一目瞭然。生徒たちは改めて女神の力を思い知り、驚愕の声で教室中が爆発するという算段だ。


「三毛こっち来て! B科が壁になってる!」


 いつの間にか教室を出ていた琥太郎がそんなことを言い出さなければ。


「どゆこと?」

 呼ばれた三毛でなくても気になってしまう。次々に教室から出て行っては「おぉー」と驚嘆したような声を漏らしていた。


 通常、2-Cの教室を出て左に曲がれば2-Bの教室がある。逆を向けば2-Dがあるはずで、念のため振り返ってみると2-Dもその先の2-Eの教室も当たり前のように連なっている。

 そこでもう一度元の方向に向きなおすと、やはりB科の教室は見えなかった。正しく言えば琥太郎の言葉通りで、目の前は壁で行き止まりとなっている。

 塞がれているのは廊下部分だけではなかった。校舎中央は吹き抜けになっているため、向かいの北側に加えて1階から3階部分まで見渡すことができる。校舎全体を巨大なシャッターで分断したような状態であることは一目で理解できた。


「これはどう考えても……」

 勘の良いリッキーが息をのむ。


「校舎全部をコピーするのがめんどくさいから半分で済ませた……!」

「!!」

 まさかの予想にうろたえる生徒と女神。そんなことないよね先生? 雪祭がそう言いたげに様々な距離、角度からゼニスを見るがどういうわけか少しも目が合わない。


「みなさん外の景色を見ましょう! ね!」

 生徒たちは半ば強引に教室へと引き戻され、渋々ベランダから外を見始める。

 右手を覗くとやはり校舎は途切れていた。

「あはははは! ほんとに校舎半分じゃん!」

 鈴を鳴らしたように笑う麗央。つられて周りも右手ばかりに注意が向く。

「エコだねー」

「でも西側ないと昇降口ないよ。靴どうしよ」

「昇降口どころか自販機もエレベーターもないじゃん。西側優遇されすぎでしょ」


 東側は無能と化しました。校舎も生徒も。

 そんな神らしからぬ想いをそっと閉じ込め、ゼニスは再び窓の外を見るよう促した。生徒の自主性を重んじていては日が暮れてしまう。

「いいですかみなさん。窓の外にはグラウンドも、住宅地も見えません。不思議ですね。

 今は何があるかというと、目の前には広い緑地が見えますね。その先に柵も見えますね。あの柵はこの校舎の周辺をぐるりと囲んでいるんですよ。

 さらにその向こうには家々が並んでいますが、みなさんからすれば中世風の建築様式といった感じでしょうか。

 不思議ですねー! 一体どうしちゃったんでしょうー!」

「異世界だからでしょ」

「見ればすぐわかるよ先生」

「だいたい異世界に行くって先生が言いだしたんだし」

「……」


「あっハエトリグモ」

「ほんとだ可愛いーっ」

「この世界にもいるんだねー」

 女子がキャッキャッと感激の声をあげている。異世界の風景よりハエトリグモのほうが心躍るようだ。

 その様子を絶望に染まった瞳でしばらく見つめていたゼニスだったが、やがてやけくそ気味に言葉を発した。

「はい! それじゃあ何故みなさんをこの世界に呼んだのか、簡単に説明します。

 ここはとある小さな村です。

 みなさんにはこの校舎を冒険者ギルドとして運営していってほしいんです」


 簡単な説明をさらに短くすれば、村おこしだろうか。

 軽い気持ちで来てみれば、意外と重めの要件。そもそも今日中に終わるような内容ではない。


「えー? じゃあ球技大会は?」

 勘の良いリッキーの言葉に一同は声にならない声をあげ始め、その光景を見つめるゼニスはひとり満足そうにしていた。

「やったー! ようやく驚いてくれました!」


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