3.異世界は徒歩0分③
神づてに聞いた史上最高という話は団結力ではなくて騒がしさだったのかもしれない。
真っ当な対応をしていては危険だと、神ゆえの直感が教えてくれた。このままでは濁流に飲み込まれてしまうのも時間の問題だ。
対応策はこの場を去るか相手を無視するか。なのだが、前者を選んでしまっては負けなので二択にすらならない。
「突然ですが、みなさんを異世界に転送します」
ゼニスが凛とした声を響かせるが
「今のセリフ神様っぽい!」
楽しそうに笑う麗央のせいで台無しになってしまう。追い打ちをかけるように
「いや神様っていうより引率の先生じゃね?」
「あーそれだ!」
「たしかにー!」
満のひらめきにクラス中が納得の表情をみせる。口々にゼニス先生とコールが始まり、いつしかサッカーの個人チャントっぽいリズムへと昇華を始めた。
オー オ オー オー オ オー
ゼニス ゼニス チームを導け
全身全霊、声の限りを尽くし飛び跳ねる生徒たち。魂の叫びは龍の如く教室中を暴れまわり、反響に反響を重ね勢力を増していく。
その必死の熱い想いがゼニスに伝わらないはずがない。
「みんな……!」
ユニフォームのエンブレムを叩きサポーターの声援に応え……ようとして、ユニフォームではないことに気づいた。
「じゃなくて! そうじゃなくて! 一旦座ってください!」
「そんな生半可な気持ちでゴール裏に集まったヤツ、このクラスにはいないよなあ!」
ピョンピョンと飛び跳ねたまま竜星が吠える。さすがはクラスをまとめる学級委員長だ。
「タキかっこいい!」
「ついてくぜ!」
男子たちはキラキラと尊敬の眼差しを向け、ただでさえ可愛らしい烈火までもそんな瞳をするものだから、女子たちも「らんちゃん……きゃわわ」と顔をとろけさせる。
もはやカオス。
神であってもこの空間に秩序をもたらすことなど到底不可能に思えしまう。
「けど諦めちゃダメよ……!」
なんとかこのチャントを鎮める方法はないものかと思考を巡らせるゼニスを、生徒たちのチャントが後押しする。やはりカオスだ。
オー オ オー オー オ オー
押し寄せるチャントの波に揉まれながら必死に思案を続けると、ようやく光が差し込んだ。
「あーっ! わかりました!」
チャントに導かれたゼニスはついに真理へと到達したのだ。
「みんな! 授業を始めるから席につきなさい!」
その言葉に生徒全員がハッと我に返る。
「ハァハァ……集中しすぎた……」
「先生ごめんなさい……」
「つ、疲れたぁ……。ごめんねー先生」
皆一様に反省の色を見せては各々の席に帰っていった。
ゼニスは全員が着席したのを確認し、それから安心したように頬を緩める。やっとここまで来た。というより、戻ったと言うべきかもしれないが。
「私は先生じゃなくて神です。じゃ、いよいよ異世界に行きますよー」
「えっ先生じゃないの?! どうして今まで言ってくれなかったんですか……」
「ひどいよえーん」
雪祭が泣き、ゼニスも泣いた。