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2.異世界は徒歩0分②

「神様は名前あるの?」

「あ、ゼニスって言います」

 唐突ではあるが何気なく質問を投げかけた三毛のおかげで、教室内の雰囲気も多少落ち着きを見せ始めた。

 親しみを込めてゼニスちゃん呼びをするか、神様と言っているからゼニス様と呼ぶべきか、それぞれ思案に暮れている。緩太が難しい顔で「ゼニ……銭神様」と呟くも間髪入れずゼニスに拒否されている。


「俺は宇佐美三毛、それとも神様だから名前なんて知ってた?」

 先ほど声をかけてくれた三毛が人懐っこい表情でゼニスに近寄る。

「いえ、実はひとりひとりの名前までは把握してませんでした。それにしてもウサミミにミケですか……可愛い動物の欲張りセットですね」

「よく言われる」

 一緒にクスクスと笑いあい、それからゼニスは改めて教室を見回してみるのだが……何やら違和感を感じて小首を傾げた。

「あれ? なんだか少ないような?」

「少ない? 何が?」

 三毛も教室内をぐるりと確認してみるが、少しも見当がつかない。


 ゼニスが抱いた違和感の正体は生徒の数だ。並べられた机の数と生徒の数が明らかに釣り合っていない。人数を数えてみると12人。半分以下だった。


「今日って欠席多いですか? 史上最も団結力が高いと噂のこのクラスの皆さんにお願いがあったんですけど……」

 その言葉に教室内が再度ざわつき始める。

「え? いつもはもっと多いってこと?」

「くそっ初耳だ……」

「私今まで仲間外れにされたの?!」

「ひどいよえーん」

 どこかで評判らしい団結力にさっそく亀裂が入りかける。

 一体どうしろっていうの……。ゼニスも泣きたくなる中、三毛が喧騒の中に割って入る。


「待った待った! そもそも今日は休みだから! 土曜だろ!」

「確かにー! あはははは」

「そういえばそうだった」

 まっさきに麗央と琥太郎がのんきな声を上げ、周りもほっとしたように平静を取り戻していく。

 もっとも、ゼニスだけはいまひとつピンとこないようだ。そんな心情を察したのか、三剣(みつるぎ)セレスティナが

「今日は土曜だけど、球技大会でソフトボールをやるメンバーだけで集まったんだよ」

 と親切に説明してくれた。

 対するゼニスの顔には「うーんわからん」と書いてある。そう感じるだけの根拠を神妙な面持ちで問いただしてみた。

「皆さんこそ何言ってるんですか? 土曜日は登校日ですよね?」

 少しの間を置いてから三毛が全員を代表した言葉を吐く。

「それいつの時代……」



「うう……人数が見込みと違ってしまいました……」

 学校のシステムについてほんのちょっと賢くなった女神は相当へこんでいる様子だ。

「なんか飲み物いる? 飲みたいものあれば自販機行ってくるけど」

 満の優しい声かけにゼニスが潤んだ瞳で「じゃあ炭酸系で」と答えると、「130円」と手が伸びてくる。涙も乾き、ゼニスは小さく首を横に振った。

「みんなに用事があるならまた今度来るっていうのは?」

 世界一強そうな名前で世界一可愛くてこの先10億年は彼より可愛い男の子なんて絶対生まれるわけがないしそんなこと許さないと評判の乱獅子烈火(らんじしれっか)がもっともなことを言う。ゼニスは「はぅ……可愛い……」と呟いてから小さく首を横に振った。

「いえ、大丈夫です」

 そして、決心したように

「今から皆さんを異世界に転移します!」

 女神は高らかに宣言した。提案ではないらしい。


 横暴としか言えないゼニスの一言に教室がまたまたざわつき始めた。

「ええっ!? 私王子に溺愛されちゃう! ごめんねみんな!」

「まじかー、俺のチートスキルがついに発動するのか」

「おいおいみんな俺を追放とかするなよ? 実は最強賢者だからな?」

 希望や歓喜に満ち満ちた生徒たち。明るい未来を予期させる面々にゼニスはフフッと微笑してから

「そういうのは一切ないです」


 それきり、教室から一切の音が消えた。


1,2話で無理やり全員分の名前は出せたはず。きっと。

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