4.祝賀パーティー準備
リルちゃん、復帰です。完全ではありませんが。
早く元気になってほしいですよね。(お前が言うなって?)
4.祝賀パーティー準備
翌日、完全ではないが動けるようにはなったので、城内を歩き回ってみることとした。
皆が慌ただしく走り回っている。祝賀パーティーの準備と戦後処理で情報を運んでいる方々だ。
戦争は、戦うことよりも意外と戦後処理が大変である。
まあ、今回は、北の国に関しては国交断絶と国境封鎖となる。単純である。
西の貴族については、元の地区に戻し、壁を作るかして断絶。西の国が欲しがれば上げることとなろう。
自分でもこう考えるのだから、国王も同じではないだろうか。
ちょっと国王に元気になった旨の挨拶をしようか。
ついてきている侍女に、国王の予定を聞いてみる。今は執務室にいるらしい。
執務室のドアをノックする。反応があったので、中に入る。中にはいつもの4人がいた。
「リルリアーナです。ちょっと挨拶に来ました。」
「おう、リルか。元気になったのかのう。」
母上から話を聞いていたのだろう。
「完全ではありませんが、動けるようにはなりました。」
「そうか。」
「ところで父上、戦後処理の件ですが…」
といい、自分の考えを述べてみる。
「…といった具合になるかと思われますが、いかがでしょうか。」
「そうじゃな、リルの言った通りに儂も考えておる。細部を煮詰めているところじゃ。」
「そうですか。わかりました。」
「話は他にあるのかな?」
「いえ、今回の目的は私の姿を見せに来ることでしたから。では、失礼します。」
「無理はするなよ。」
「わかりました。」
執務室を出て、城内をぶらぶらする。仕事をしている方々のじゃまにならないように気を付けながら。
しばらくぶらぶらしてから部屋に戻る。気づいたらお昼だ。
侍女に軽食を持ってくるよう指示する。
しばらくして、サンドイッチと飲み物を持ってくる。今日は何のティーだろう。
食事が終わり、まったりタイム。侍女にはまだ残ってもらっている。
今日は天気がいい。外に出てみるか。少しは元気が出るかもしれない。
侍女に指示を出す。
「母上に外出してくると伝えて。夕方までには帰るからと。」
「わかりました。」と侍女。いつもの私の外出パターンだ。勝手にいなくならないようにと家族で決めたルール。
侍女ももう慣れたものだ。
侍女が退出してから、私は冒険者の服に着替える。戦うわけではないので、武器・防具は出さなくてもいいかな?
いざというときは即アイテムボックスから取り出せるし。
準備ができたので、部屋にある隠し扉から出る。隠し通路を使い城から出た。
そのまま郊外へと向かう。
街道が続いている。続々と貴族がやってきているはずなのだが、今のところ見当たらない。
道外れにいい場所を見つけた。まだ青さが残っている草原。寝転がってみよう。
やっぱりいい感じだった。空を見上げる。青い空。雲が流れている。壮大な自然を感じると、いかに自分がちっぽけな存在なのかがわかる。
ぼーっとしていると、馬車がやってくる音が聞こえた。
「うわぁ、庶民があんなところで寝転がってる。きったな~い。」むかっ。
「顔を見た?イモ女よ、イモ女。ワタクシの方がかわいいわ!」むかむかっ。
「あんなブスで汚い庶民なんかみるものじゃないザマス。さっさと通り過ぎるザマス。」むかむかむかっ!
馬車が通り過ぎるのを気配で確認してから体を起こす。通り過ぎた馬車を見る。あの紋章はモリー伯爵家か。
色々な作戦が頭を駆け巡る。ブスで汚いイモ女呼ばわりされたことはゆるさない!
ある程度形ができあがったところで、行動に移す。
立ち上がり、身体に着いた葉っぱを払い、町へ戻る。
今回の作戦とは別に気になる点がでてきたので、冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドに入り、受付嬢にギルドマスターに会いたい旨を伝える。
ギルドマスターは在室であり、直接マスター室に行ってもいいと答えられた。
今までより態度が丁寧である。おどおどされるよりはマシだが、ちょっとこそばゆい。
2階に行き、マスター室のドアをノックする。反応があってから、中に入る。
「ギルドマスター。リルです。今回、気になることがあってきました。」結界は張っていない。そこまでの話はしない。
「おう、リル嬢か、話ってなんだ?」
「今、城下町には貴族の方々が集まってきております。国王復帰パーティーのためです。しかしながら、素行の悪い貴族もいるのが現状です。どうか冒険者の方々は、キレたりして自分を貶めることの無いようにさせてください。『自分たちは、国王に認められた冒険者だ。』といって警備兵に突き出してください。」
「わかった。いつも冒険者の事を気にしてくれてありがとうな。」
「私も冒険者ですから。」とニッコリ笑顔。
冒険者ギルドを出て城に戻る。十分外を堪能した。あとは先ほどの作戦を父に話し、許可をもらうだけだ。
隠し通路を使い、自室に戻る。自室に入ると人がいた。母上だ!私に抱き着いてきた。
「リルちゃん、心配したわぁ。昨日の今日のことですもの。大丈夫だった?」
「何も問題ありません。ぶらぶらしていただけですから。」
侍女を呼び、ドレスに着替えさせてもらう。さすがにドレスは自分では着ることができない。着替えた後、今日着た冒険者の服一式(服、ズボン、マント、ブーツ)を渡す。毎回洗ってもらっているのだ。だから数着用意されている。
「母上、外をうろついていた時、気になることがありました。父上にお話ししたいのですが。」
「執務室にいるから会えると思うわ。」
母上はそういうと私を連れて執務室に向かう。心配だったのだろう、手をつかまれている。
執務室に到着すると、母上が扉をノックし、中に私を連れて入る。
中では3人がくたびれた顔をしている。もう夕方だからね。
「父上、外をうろついていた時に不穏な言葉を耳にしました。お話よろしいでしょうか?」
「なんじゃ、リルよ、話してみよ。」と父上。
そこで、郊外の草原に寝転がっていたこと、その時通り過ぎた馬車の乗員たちから、ブスで汚くて、イモ女の庶民と馬鹿にされたこと。そしてその場所の紋章がモリー伯爵の物だったこと。
青筋を立てて怒りをあらわにする父上。顔を真っ赤にして怒る母上。レイモンドも怒りの顔になっている。付き合いの長い宰相のダレス様も怒っている。
「モリー伯爵の評判はすこぶる悪い。しかし、庶民を馬鹿にするとはな。庶民がいてこその貴族だというのに。しかもかわいい儂のリルになんて言葉を投げかけたのじゃ。」
「そこでです、父上。」と私が声を上げる。
こちらを向く4人。怒りの顔がこっちを向いている。私のために怒ってくれているとはいえ、ちょっと怖い。
「この連中は、パーティーでも問題を起こすと思われます。そこで、わたしは仕掛けてみようと思うのです。」
口角を上げてにやっと。
父上は察してくれたようで、少し怒りを抑えてくれた。リルちゃん、言われた悪口は許さない、絶対!
「リルよ、どうするのじゃ?」
「入場の際、私とレイモンドは名前だけ名乗り、入場します。そのまま国王のところに行き、並べば普通は王子、王女だとわかるはずです。私の顔を知っている奴らは、『庶民のイモ女がパーティーにいるはずはない』と騒ぐでしょう。父上にはパーティー前に断罪していただきたく存じます。」
「もし、騒がなかった場合はどうするのじゃ?」
「いくつかのプランを用意しました。適宜切り替えればよろしいでしょう。」
リルちゃん、今回のことは怒り心頭である。相手が、泣いても、殴るのをやめない!
「そして、父上にお願いがありまず。今回の目的はみじめな姿をさらけ出し、社交界で冷たい視線にさらすのが目的です。更生するならなお良し。そのため、降格や廃爵などの罰は与えないでください。」
リルちゃんはねちっこいのだ。逃げるなど許さない。
「そうじゃのう、そこまですれば十分な罰になる。よいじゃろう。して、プランとは?」
私は考えてきたプランを説明した。
プランA。入場時に騒ぎ立てられえるパターン。ある程度騒がせてから警備員に会場の脇に連れて行ってもらう。そして、パーティー前に断罪。
プランB。入場時におとなしくしているパターン。パーティー前に一家を呼び寄せ、断罪。イモ女呼ばわりを知っているのは一家とそこにいた少女。十分断罪できる。
プランC。一家が遅れてパーティーに来た場合。騒いだら、その場で断罪。騒がなかったら、パーティーを止めて断罪。
プランBはあるよ。「あっ、ねえよそんなもん」を期待した人、残念。ちゃんとあります。しかも今回はプランCもありますよ。
えっ、パーティーに来なかった場合?そいつは貴族ではありません。
父上が宰相の方を見る。目線に気づき宰相がうなずく。実行可能と判断された!
「よし、基本形はそれでいいじゃろ。後は細部を煮詰めていく。」
母上、宰相、レイモンドがうなずく。皆の心が一つになった瞬間だった。私のために。愛されてるね!
でも、まさかこの「イモ女」がこの後いろんなところについて回るとは、この時の私には予測できなかった…
パーティーの準備がいよいよ佳境に入ってきた。
私のデビュタント用のドレスは、予定では母上決める予定だった。着せ替え人形を覚悟していた。
しかし、帝王様からデビュタント用のドレスが届いたのだ。
「先日は新米騎士の件で迷惑をかけた。このドレスはその迷惑料だ」と。
あらかじめ父上に打診があり、母上と相談。母上は泣く泣く受け取ることとしたとのことだった。
そして今日は試着日。
「くやしいけど、さすが帝国ね。デザインも、色も、生地も最高のものでそろえられているわ。」と母。
そのドレスに会うようにと、母が持っている装飾品の数々を広げ、あーでもない、こーでもない、とやっている。
着せ替え人形ではないが、それに近い心境である。
「それにしても、惜しいのはその髪ね。短いのが残念だわ。」
そう、私は長い髪が動きを邪魔するのが嫌いで、肩付近で髪を切り揃えている。色は母上と同じ金髪だ。
通常、貴族の女性陣は髪を伸ばすのが通例である。気持ちはわからないでもないが、「自由」がわたしのスキルなので、納得してもらったのだ。何歳の時だったかな?
試着等が終わり、普段着に着替えたのちティータイム。母上とまったりとティーを楽しむ。
「後はパーティー当日を待つだけね。」と母上。
先ほど、全てのプランを確認したところだ。気になって、今日まで何度も確認してしまったよ。
私は母上を見る。母上は私を見つめる。どちらからともなく口角が吊り上がっていく。母上も私と同じことを考えたらしい。当日の断罪が楽しみだ。
いよいよ楽しみのパーティーだ!
リルちゃん、最後は完全復活です。
パーティーを楽しもうとしています。(断罪もありますからね)
さあ、どんなパーティーになることやら。