3.戦争の爪痕
みんな、リルちゃんこと、勘違いしてないかな?
リルちゃんはか弱い女の子なんだよ。
3.戦争の爪痕
私は王城のテレポートが認められた空間に戻ってきた。今日の出発点だ。私は玉座の間へと向かう。指示を出したのちは、基本報告を受けるだけとなる。父上は玉座の間にいることだろう。
入口の騎士に国王が在室か聞くと、在室の旨を伝えられる。
王女から報告があると伝えアポイントを取る。
1人の騎士が中に入る。しばらくしたのち、会見が認められた。
「国王、第一王女のリルリアーナです。無事戻りました。」
「して、どうじゃったかのう?」
私は説明を行った。
北の国とは、土壁で道をふさぎ、第一王子を周辺の兵士ごとまっくろこげにしたこと。離れた敵にも強力な破壊力の火炎球を2つ飛ばし、半壊させたこと。残っている兵士に脅しをかけ、黒焦げ死体を持ち帰らせたこと。土壁はそのまま残し、国境を封鎖したこと。
西の貴族連合には、川に隕石を4個落とし、白旗を上げさせたこと。
「後処理は騎士団長と魔導師団長にお願いしてきました。これで私からの報告は終わりです。」
「ありがとう。しかし、メテオとは…」
あ、父上も知ってるんだ、メテオストライク。ゲームによってメテオ、メテオスウォームなど、いくつかの呼び名があるが、決まって隕石を落とす呪文である。
「私はあとは部屋に戻らせていただきます。よろしいでしょうか。」
「ああ、大儀であった。ところで、大丈夫か?」
何についてかはわかっているが、あえて私は明るくふるまう。
「はい、大丈夫です。失礼します。」
父上は何かを感じ取ったのだろうが、私は今は一人になりたかったのだ。
自室に戻り、部屋着に着替えてからベッドにダイブする。部屋着では行儀悪いだろうが、寝たいわけではないので、寝間着ではないのだ。
自然と涙がこぼれてきた。
私はいつも言うように戦闘狂ではない。そして、冷血でもない。感情を持った一人の人間である。
いつもは刀で敵と斬り合うのが主だった。自分の自由を奪われないように、刀をふるう。命の掛け合いをしているから相手の命を奪い、自分が生き残った形になる。そう自分に言い聞かせて今まで人間を斬ってきた。
しかし、今回は大量殺戮魔法である。問答無用で大量に相手を殺す。手も足も出ない形で。反撃もできない。
これは心に何も来ないはずはない。でも、昇華できるのは自分自身だけである。
「うぅ~」
涙が全然止まらない。体も震えている。そうこうしているうちに、私は泣き疲れて寝てしまっていた。
ふと気配に気づき目を開けると、ベッドに母上が腰かけていて、私の頭をなでてくれていた。
「母上?」かすれ声で私は声を掛ける。いっぱい泣いたためだろう。のどがちょっと痛い。
「あら、リルちゃん。起こしちゃった?泣いているかと思って来てみたら案の定だもの。つい頭をなでてしまっていたわ。」と母上。どれほどいたかわからないけれど、たった今ではないはずだ。
「ちょっとまってね」と言って母上はそばのテーブルにあるベルを鳴らす。やってきた侍女に指示を出し、戻ってきた。
「ねえ、リルちゃん。あなたのつらさは想像できるけど、実際どんなものか私にはわからないわ。そしてリルちゃん自身が昇華しなけれなならないことも知ってる。でもね、そばにいてあげることはできるのよ。私がそばにいてはだめかな?」
「そんなことない。母上、そばにいて。」といって母上に抱き着く。また涙が出てきた。今日は泣き虫リルちゃんだ。
「あらあら」といいながら、母上は私を受け止めてくれた。頭をなでてくれる。背中をさすってくれる。
しばらくしてから、私は母上から離れた。
「ありがとうございました。母上。」
「どういたしまして。ちょっとこちらにいらっしゃい。」とそばのテーブルに私を誘導する。
テーブルの上には2人分の飲み物が用意されてある。先ほど母上が侍女に指示をだしていたのはこれだった。
しかも、私の分はホットミルク。子供っぽいけど、私のオアシス。心を落ち着かせてくれる飲み物。さすが母上。
お互い飲み物を飲み終わったところで、母上から話しかけてくる。
「ところで、そろそろ夕方よ。食事はどうするの?」
「今は食べたくありません。また寝ます。」今度は寝間着に着替えて寝よう。
「ねえ、私もリルちゃんと一緒に寝てもいいかな?」
えっ、といった表情を浮かべる私。
「だめなの?」
「そんなことないけど…」
「じゃあ、決まりね。」と言って母上はベルを鳴らす。
しばらくしてやってくる侍女。母上の着替えを部屋から持ってくるよう指示を出していた。
その後、母と私は寝間着に着替え、布団に入る。
「なんだか恥ずかしいな。」
「そんなことないわよ。母にとって、子はいつまでたっても子なんだから。」
母の暖かい愛を感じ、私は眠りについた。
目が覚めると、明るくなっていた。次の日になっていた。
体を起こし、周りを見ると、テーブルのところに母上がいた。いつの間にか着替えを済ませていた。
「あら、おはよう、リルちゃん。少しは元気がでた?」
「はい、昨日はありがとうございました、母上。完全ではありませんが、問題ないくらいにはなりました。」
「それはよかったわ。こちらにいらっしゃい。サンドイッチがあるわ。食べない?」
「いただきます。」
テーブルに向かい、椅子に座る。私用の飲み物は今回もホットミルク。いつ入れたのかはわからないが、いつまでたっても冷めない代物。どうやっているんだろう。カップに細工があるのかな?
サンドイッチを食べ、ホットミルクを飲む。なんかほっとする。
「リルちゃん、あなたは今日はどうするの?」
「戦争の後処理は私は必要ありません。今日は部屋でまったりします。」
「そう。じゃあ、あなたに報告があるわ。あなたの力は強大すぎる。それはあなたもわかっているでしょ。そのため、今回は一部の関係者以外には、かん口令が敷かれることになるわ。騎士団長も魔導師団長もそのつもりで西側の対処を行ったわ。」
「北の砦は?私王女だって名乗ってしまったのだけど。」
「すぐさま連絡をしてあるわ。絶対口外するな。口外したら関係各位全員打ち首だと。」
まあ、怖い。でも、それだけ私のことを守ってくれてるんだ、父上は。
「気遣い、ありがとうございます。」
「あら、いいのよ。あなたは戦闘狂ではないし、武器でもない。一人の少女よ。守るのは当たり前のことだわ。」
母上は私のことをわかっていらっしゃる。
「それじゃあね、リルちゃん。」といって、母上は出ていく。
残ったサンドイッチを食べ、ホットミルクを飲む。一息付けてから侍女を呼ぶ。
大原則として、王女は自分で着替えてはいけない。必ず侍女に着替えさせてもらう。
ある時、ちょっとしたはずみで自分で着替えたら、母上から叱られた。
「リルリアーナ、人の仕事を奪うものじゃないの!」
ハッとした。このことは私の信念に反する行為になるのだと知ったのだから。
それ以来、基本的に侍女に着替えをお願いしている。
侍女に部屋着に着替えさせてもらってから、椅子に腰かける。
ぼーっとしていたら、ふと前世の記憶がよみがえってきた。
私はいつも独りぼっちだった。
私の家族は物心ついたころからすでにばらばらだった。皆が皆、無関心。
幸い、両親は外ゾラはよく、お金もないわけではないので、大学には行かせてくれた。
家から出たくて、大学はなるべく家から遠い場所にした。一人暮らしもさせてもらえた。
大学4年間の間にバイトをしてお金をため、卒業と同時にまた離れた場所へ就職した。この時、家とは縁を切った。
いつのことからか。高校の頃からだったのだろうか。わたしはゲームやラノベやアニメにのめりこむようになっていった。その時間は自分の時間のように感じたからだ。その時だけは私は生き生きとできた。
私は孤独だったのだ。
また涙がこぼれた。でも、今回のはつらいからじゃない。悲しいからじゃない。
父上と母上の愛を感じる。今回戦闘中は、私を守るような力を感じていた。おそらくレイモンドの博愛だろう。
私のスキルは「自由」である。家族には、必ず戻ってくる。家族をないがしろにしてまで自由になってはならないと言ってきた。でも、本当は、「家族愛」を求めていたのは自分だったのだろう。
この世界では、私は孤独ではなかった。家族の愛があったのだ。
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