2.第一王女、この世界の言語を学ぶ?
2.第一王女、この世界の言語を学ぶ?
2歳になった私は、次のプランを考えていた。
そろそろ読み聞かせがある時期だ。
私が寝るとき、侍女が本を持ってきて私に読んでくれている。子供向けのやわらかい内容だ。
「ねえ、本、見せて。」お願いする。
一瞬躊躇する侍女。でも、本を見せてくれた。本を開くとイラストのみが描かれている。文字はない。
「お話。」
「申し訳ありません。これを見ながら私が物語を紡いでおりました。」
申し訳なさそうにする侍女。罰せられるのかと肩を震わせている。
首を振ってから、本を返す。
「ありがとうございます。」と侍女。ほっとしている。
どうやったら単語を覚えられるのか、悩んでしまった。
翌日、父上に交渉に向かう。侍女に伝え、アポイントを取り、父上のところに向かう。
父親がいる部屋に案内される。
「父上!」
びっくりする父上と母上。
「パパじゃないのか?」
「ママよね?」
「王女の言葉、大事。これから父上と母上。」と説明する。ちょっとがっがりする2人。
「まあ、それはおいといでじゃ。なにをお願いに参ったのじゃ?」
「言葉の先生、欲しい。文字といくつかの単語、学びたい。だめ?」
かわいらしく首を傾けてにっこり。
母上が近づいてきて、私を抱きかかえる。
「わたしは、まだちょっと早いと思うけど。そんなに背伸びをしなくていいのよ。それでもなの?」
「うん、私に取って必要。」
心配そうな顔をする母上。父上はしばし考えをまとめたのち、結論を出した。
「あいわかった。言葉の先生を探そううではないか。2歳児にも丁寧に教えることができる先生をな。」
母親の手から降ろされる。私は数歩後ろに下がる。
「ありがとうございます。」
といって、一礼。適当ではあるが。子どもだ。許してほしい。
「では、失礼します。」という。
「もうちょっといないのかい?」と父上。
「もう、要は済んだ。」
そういって、侍女と退室する。
その後部屋に戻った。どんな先生がくるだろうか。
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「ねえ、あの子、なんか生き急いでいるように見えない?」
「でものう、英才教育をする貴族は2・3歳から言語を学ばせる。間違ってはいないだろう。」
「そうですかね?」
「そうじゃ。心配であれば一緒に勉強をみてあげればいい。」
「そうね。」
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母上がやってきて、私を中庭に連れ出す。太陽を感じる。きもちいい~
さっそく全力で走り回ろうとした。
ビターン。あれっ。
気づくと顔面から倒れこんでいる。つい大人のつもりで全力ダッシュしようとしてしまった。失敗。
「リルちゃん、大丈夫?」母上がやってきて、私を抱きかかえる。顔を強打したけど、泣くほどのものではない。問題ないとうなずく私。
おろしてもらい、今度は慎重に確認しながら動く。まずは歩く。それからとてとてと早歩き。
「やっぱりかわいいわねえ。」と母上。何度も言われ続けているはずなのに、こちょばゆい。
何度も庭に連れて行ってもらい、運動をおこなった。
2歳児のダッシュを覚えたら、庭の奥にダッシュ、そしてダッシュで戻ってくる。それを繰り返す。私の頭の中では、メロディが鳴り響いている。ドレミファソラシド、ドシラソファミレド。シャトルランだ。
「あら、この子、何してるのかしら?」体力テスト&運動です。
2歳児なのでそんなに何度もダッシュできません。疲れたところで終了。
しばらく母上がやってきて何度も庭に連れてってくれた。母上、ありがとう。
父親が見つけ出してきた先生がやってきた。部屋に案内されてきて、顔合わせをする。そばには母上もいる。見学に来たのだろうか。
「姫様、言語の先生をやっています。これからよろしくお願いいたします。」
丁寧な言葉遣いだ。私が王女だからだろうか。
「よろしくお願いします。」と私。
「では、さっそく勉強に入りましょう。これは、私独自の、特殊なやり方です。ほかには見せることができません。王妃様と侍女はご退出を。」
退出を命じる。え、何?
私もびっくりしているが、母上もびっくりしている。
勢いで母上と侍女を部屋から追い出し、部屋の扉を閉め、鍵をかける。こいつ、何者?
先生がこちらを向く、雰囲気が変わっている。冷たく、威圧感がある。怖い。
「さあ、姫様、学習を始めましょう。」と私をテーブルの方に呼ぶ。相手に気づかれないように、ベルをポケットに忍ばせて、テーブルに向かった。
「この文字はこう書く。」と見本を見せる先生。でも、すらすらと早い書き方だ。手の動きがわからない。
袖は、インクが付くからと、しっかりめくり上げるよう指示を出されたので、仕方なく袖口をめくっている。
見よう見まねで書いてみる。ビターン!。音が聞こえると同時に、私の右腕がジンジンする。鞭でたたかれた!
「姫様はばかか?もう一度書き方を見せる。」といって、文字を書くが、早すぎて何が何だかわからない。
それでも見よう見まねで文字を書く。ビターン!また鞭でたたかれた。
「姫様はばかだ。私の書いた文字を理解できないのだからな。」
何度も何度も鞭でたたかれる。右腕が痛みで感覚がなくなってきた。
こいつは暴力教師だった。相手を鞭でたたき、罵り、完膚なきまでに叩く。子ども相手なので、親に言えないように仕向けてきたのだろう。そして自分の自尊心を満たしてきたのだろう。許せない。
キッとやつをにらみつける。こんなのは先生じゃない。
「なんだ?その反抗的な目は?」
「私はあなたの自尊心を満たす生贄ではありません。あなたの教え方は間違ってる。あなたから学ぶことはもうない。出て行って。そして二度と私の前に姿を現さないでください。」
「ちくしょう!」そういうと、私に襲い掛かるやつ。
それを交わす私。部屋の中で追いかけっこが始まった。
やつが襲い掛かるより前に、わたしはベルを鳴らしていた。魔法のベルで、離れていても侍女に連絡が伝わるのだ。そして、今も数回ベルを鳴らしている。何回鳴らしたかわからない。人員はたくさんほしい。
追いかけっこの最中、わたしは出入り口に向かい、鍵を外す。扉を開ける時間はない。
扉を開けさせないようにヤツが襲ってくる。それをかわし、逃げる私。
最初のベルに反応した侍女が部屋に入ってきた。追いかけっこをしている私たちをみてびっくりしている。
「ボーイを数人連れてきて。こいつをおさえつける。」
すぐさま戻る侍女。
すれ違いざまにやってくる侍女数人。数は数える暇はないけど、それなりの数だ。
こちらの様子を見ると、状況をすぐに察知し、私の周りに集まりだす侍女。侍女のガードだ。すごい連携が取れている。
急いで私は袖を下ろし、腕を隠す。侍女に心配を掛けないように。
「ちっ。」舌打ちをするやつ。と同時に床に押さえつけられるやつ。ボーイもやってきてくれたのだ。
「あなたか学ぶことはない。出てって。そして二度と私の前に姿を現さないでちょうだい。」
といって執事にやつを追い出すよう指示をする。
キッとやつは私をにらみつける。そして、ボーイのいうことを聞かないぞとばかりに自分で立ち上がる。どこまでプライド高いのだ!
それでも逃げられないようにと、ボーイたちがやつを押さえつけながら、連れられて行った。
ほっとして床にへたり込む私。
「姫様、大丈夫ですか?」
「気が抜けただけよ。」とはいったものの、まったく力が入らない。捕まったら終わりのデスゲーム。疲れないはずはない。
飲み物を用意して入室してくる別の侍女。
部屋には思ったより侍女が集まっている。問題なければ帰るよう指示するが、
「「「とんでもございません。先ほどの件があったばかり。本当に大丈夫と言えるまでは、私たちが相手します!」」」
と声を合わせて答える侍女たち。息があっている。
「わかったわ。でも仕事を優先して頂戴。」と答える。
テーブルの椅子に誘導してもらって椅子に座る。私の前に即座に置かれるホットミルク。一口すする。ほっとした気持ちになる。やはりホットミルクは私のオアシスだ。
いつも思うのだが、このホットミルク、なぜかいつまでたっても冷めないのだ。器に細工されているのかな?
ポケットからベルを取り出し、テーブルに置く。もう持ち歩く必要はない。
飲み終わり、一息付けてから、父上にアポイントをつないでもらうよう、侍女の一人に伝える。
「まだそんな体なのに?」
「時間がないのよ。早く父上に先生の件を伝えないと。」
「では、国王に声を掛けてきます。姫様はここでお待ちください。」といって侍女1人が部屋から出ていく。
「姫様、少しでも体を休ませましょう。」とベッドに連れていかれる。
袖をまくられないようにぎゅっと抑える。体にまだ力が入らず、震えが止まらない。不思議に思われながらも頭や体や足をなでまわす侍女たち。ありがとう。あなたたちの気持ちがよく伝わってくるよ。
「姫様、国王様とのお目通し、叶いました。今から来てくれとのことです。」
アポイントをお願いしていた侍女が帰ってきた。
「わかりました。では、私を抱き上げて、父上のところへ連れて行ってください。私は、今力が入らず、自力で立ち上がることができません。」
「わたくしですか?」と指示を受けた侍女。周りの侍女たちは残念そうな顔をしている。自分がその役目を担いたかったのだろう。
「時間がありません。急いで!」
「はいっ、わかりました。」といって、私を抱きかかえる。
私は残りの侍女たちに向かって声を掛ける。
「皆さん、そばにいてくれてありがとうございました。私は国王と戦ってきます。」
あえて今回のことを戦いといった。やつを選んだのは国王だからだ。
「「「いってらっしゃいませ、姫様!!!」」」
侍女に抱かれながら、父上のところに向かう。さあ、しっかり戦うぞ!
玉座の間に着いた。入口の衛兵に事情を話する侍女。先にアポイントを取っていたので、すんなりと扉を開けてくれる衛兵。
中に入り、父親のそばに向かってもらう。
「リルリアーナよ、今日来た語学の先生を追い出したと聞く。いったい何があったのじゃ?」
「父上、どういった選考を行ったのでしょうか。あんなのは先生ではありません。」
という私。うなずく侍女。怪訝そうな顔をする父上と母上。
「あいつはプライドと自尊心のかたまりです。自分を満足させるため、子供を痛めつけ、心を折ってきます。母上と侍女を追い出したのち、あいつは扉に鍵をかけました。その時から冷たい目線となり、威圧感を私に向けててきました。」
途中で言葉を止めずにそのまましゃべり続ける私。
「文字の練習だと書き方の見本を見せるのですが、何度見ても私が読み取れるようなスピードではありません。見よう見まねで書くと、『それは違う』と私の腕を鞭でたたくのです。『姫様、お前はバカだ、お前はバカだ』といい、何度も鞭でたたくのです。あれは先生ではありません。暴力者です。あまりにひどいので、侍女と執事に来てもらい、やつを追い出したのです。」
ここまで一息で言うと、右の袖口を見せる、びっくりする父上と青ざめる母上。抱きかかえている侍女も驚いている。見せてなかったからね。
母上が下りてきて私のことを抱く。母上と侍女のサンドイッチだ。
「リルリアーナ、痛かったでしょう。大丈夫?」
「今でも痛く、熱を持っていますよ。あれと追いかけっこをしたので、身体に力が入りません。急ぎ報告ということで来ましたが、あとは休ませていただきたく存じます。」
本来なら今までの内容は2歳児が放てるものではない。でも、私は命の危険を感じた。気づかれてもいい。
「あい、わかった。あとはこちらで対処しよう。部屋に戻り、ゆっくり休みなさい。」
母上が名残惜しそうに離れる。
「では、失礼します。」
そういって、侍女と退出する。
部屋に戻ると右腕が熱っぽい。みみずばれが熱を持ってきたのだ。そして体全体も熱っぽい。これは疲れによる熱だろう。寝間着に着替えさせてもらい、すぐに医者を呼ぶように伝える。腕の件があるので、すぐに退出する侍女。
しばらくして、足音が聞こえる。医者の到着だ。
「姫様、どうしたのですか?」と医者。
2歳っぽくないけど、しっかり見立てを伝えよう。
「右腕は、ムチでたたかれたので、みみずばれができて熱を持っています。また、疲れがたまったのか、身体全体が熱を帯びているかと。」
実際に医者が私の身体を診察する。右腕を診察し、薬を付けたガーゼを傷口にあてる。そして包帯で固定する。ちょっと沁みて痛い。
身体は触診を重ね、熱以外の問題がないことを確認された。「過度のストレスによる発熱」とのことだった。
飲み薬が渡された。飲むと苦い。良薬は口に苦し、だから当たり前。我慢して飲み込む。
「あとはゆっくり熱が下がるまで休むことじゃ。安静にの、姫様。」
そして侍女に薬等を渡し、使い方を教える医師。
だいぶ疲れたのだろう。すぐにお休みモードに入る。おやすみなさい。
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「まさか、そんな先生じゃったとは。若くはあるが、評判は良かったのじゃがのう。」
「親には、でしょう。子どもがおとなしくなるのですから。心が壊れていないといいのですが。ところで、これからどうするのですか?」
「リルリアーナが儂らに気遣って追い出したのじゃろうが、残念じゃ。王女を傷つけたのだから、打ち首じゃ。
「2歳児に打ち首まで考えさせるのは酷よ。普通の2歳児じゃありえない。でも、あとはどう探すかね。」
すぐに門兵に確認を取る。ヤツはさっさと城下町の外に出て行ったらしい。逃げ足の速い奴だ。
どうやって探そうかと考えていると、リルリーナを診察した医師から報告があった。
「王女様の腕ですが、みみずばれだけでなく、血が滲んだところを数か所発見しました。もしかしたら、ムチに王女様の血がついているかもしれません。」
それだ!王女の血を媒体に、やつの居場所を探知できないか?
宰相を見ると、うなずいていた。いけそうらしい。
「よしっ、王女の血を媒体にヤツの居場所を探知させよ。ヤツの居場所が探知でき次第、すぐに向かい、儂の前につれてこい。儂から直々に打ち首を伝えよう。テレポートを駆使してもいい。とにかく早く儂の前に連れてくるのじゃ!」
宰相を通し関係部局に通達が入る。
医者の力を借りて、王女の血を採血する。探知魔法とテレポートは魔導師団の仕事だ。すぐに探知魔法に反応があった。やつの居場所が分かった。すぐさま騎士団と魔導師団合同で向かう。逃げられないよう、テレポートをつかう。
さびれた村にやってきた。一応宿はあるらしい。再度探知魔法を使う。
「宿屋にやつはいるようです。」と探知していた者。
よし、宿に向かうぞ。
ぞろぞろと宿に向かう。
宿に入る。通常騎士がくるところではないからびっくりされる。
「失礼する。王城で悪行を働いたものがこちらにいることが分かった。調べさせてもらうぞ。」
ぎょっとする宿屋の主人。
「2階、昇ってから3つ目の部屋。」探知の魔法をかけた者からの最終報告だ。
「よし、いくぞ!。」
2階へ上っていく騎士団たち。宿屋の主人はびっくりして全く反応できていない。
目的の部屋に着き、扉を開ける。
そこにいたのは、目はよどみ、ホホはくぼんだやつの姿。逃亡生活の末路だ。
「俺たちは王宮騎士団。ここに来た理由はわかるよな?」
うなずくやつ。もう逃げられないことを悟ったのだろう。おとなしく捕縛されている。
やつをつれて1階に降りる。やつと他の団員達を宿屋から出してから、宿屋の主人に話しかける。
「大変迷惑をかけた。迷惑料として、こちらを預かってきている。」
そういって、金貨の入った袋を渡す。中を見てびっくりする主人。普通は見ない量である。
「これは…」
「国王からの迷惑料だから、受け取ってくれ。では。失礼する。」
と、有無を言わせずさっさと外に出る。
皆と合流し、村の外に出る。そしたらテレポートだ。王宮に戻る。すぐに国王に報告だ。
すぐに国王から指示が入る。玉座の間に連れてこいの事であった。
玉座の間にやつをつれていく、縛られたまま。
国王が声を上げる。
「のう、お主、とんでもないことをしてくれたのう、王女を傷つけるなどと。」
顔を青ざめるやつ。こうなるから逃げたけど、しっかり捕まってしまった…
「王女の傷は、みみずばれだけでなく、血が滲んでいたそうじゃ。大方乗馬鞭で思いっきり叩いたのじゃろう。」
そこまで気づかれていたか。唇をかむやつ。
「王室の者を傷つけるとはとんでもない奴じゃ。裁きを申し渡す。罪状は王女への傷害、刑は打ち首、即決処分。ひったてい!」
連れていかれるやつ。そのまま町のギロチン台に連れていかれる。
「一体何が起こったんだい?」
「どうも、王女を傷つけたらしいわよ。」
「とんでもないやつだなあ。」
住民がささやいている。
準備が終わったのち、住民に罪状を説明され、その後ギロチンが下ろされる。
ざしゅっ。やつの首が飛んだ。