電車に乗るときにする妄想で忍者を並走させるのはありがちだからサーファーにしてみた!
がたんごとん。
電車がゆれる。
窓の外には浅黒い肌をした細マッチョのイケメンが波に乗っている。
ハイスピードで動いて行く景色に置いて行かれないよう大波に乗って、どこまでもどこまでも付いてくる。
波は建物と建物の隙間から生まれて、次々とサーファー君の所へ押し寄せる。
その流れが止まることはなく、次々と生まれる波が、電車と並走するのに必要なエネルギーを彼に与える。
ざぶんざぶん。
波が生まれる。
家々がひしめく住宅街で、彼はさながらスーパースターのようにふるまう。
背の低い建物からは高い波は生まれず、優雅に水面を漂うのだ。
それでもスピードは電車に匹敵。
彼がおいて行かれることは決してない。
都心部に近づくにつれ、背の高い建物が増え来る。
五階建ての建物が近づくと、彼は踏ん張りを聞かせて大波に備える。
あっという間に眼前へ迫った建物を、間欠泉のように噴き出した波に乗って、ほぼ90度直角に飛び上がる。
うねる波がビルを飲み込み、彼は悠々とその頂を乗り越えて水面に着地。
やっぱり彼はスゴイ。
毎朝、彼の姿を見ているけども、このビルで苦戦を強いられたことは一度もない。
大雨の日だろうが、大嵐の日だろうが、難なく乗り越えてみせるのだ。
でも次はどうだろうか?
オフィス街が近づいて、背の高い建物が増えてくる。
彼はその隙間を縫うように進んで、最大の難所へと向かう。
そう……あの禍々しいまでに巨大な公共の建造物。
私はその建物を悪魔のドームと呼んでいる。
あの建造物を乗り越えない限り、職場にはたどり着けない。
果たして彼は今日もこの難所を乗り越えられるのだろうか?
「おいおい……俺を見くびってもらったら困るぜ」
そんな風に言っているかのように、こちらを見てにやりと笑う彼。
私は胸の中で「がんばって……」とエールを送る。
彼の背後から全てを飲み込むような大波が押し寄せてきた。
ボードを滑らせてその大波の天辺へと移動した彼は、迫りくるドームを真っすぐに見据える。
ざぶんざぶん。
波が生まれる。
がたんごとん。
電車がゆれる。
大きく育った大波はドームを軽々と乗り越え、彼をヴァルハラへと運んだ。
「ああ……行ってしまった」
天高く昇って行く彼の姿。
それはまるで太陽を目指して翼を焼かれたイカロスのよう。
曇った空に隠れる太陽。
その光の中へと彼の姿が飲み込まれていく。
アナウンスがなって扉が開いた。
今日の妄想もこれでおしまい。
さぁ……仕事を頑張ろう!