ヒナタ
「ほんと、シンジのおかげよ...。
前髪をちゃんとセットして、コンタクトレンズ入れたら、さっすがは、私達の子供ね。
滅茶苦茶美形のイケメンだわ...!
さ、今日も頑張って行ってらっしゃい!」
「う、うん...」
俺の名前は山吹シンジ。
今、高校二年生。昔は規制が厳しくて、
高校生はレンタル彼氏の利用も、
レンタル彼氏としての登録も無理だったけど。
最近は良くなった。
だから。普段は俺、陰キャ。
髪の毛はボサボサの方が楽だし、
コンタクトより眼鏡のほうが手軽だし、
(髪の毛セットを怠る)、服装だって、
適当に着こなしてるのが楽だからさ。
だが。生活が困窮している今。
俺は家族のために一肌もふた肌も脱がなきゃいけなくなった。
陽キャイケメンを演じるのはめんどくさいが致し方ない。
女の扱いは父さんから既にレクチャー済み。
女の喜ばせ方は、母さんからとうに(ガキの頃から)
教え込まれていた。
だから。
俺は上手くやった。
本当なら断りたい、クラスの陽キャ女子からの指名も、適当に難なくこなしてみせたんだ。
「陰キャくん、お菓子とか買ってきてー」
などと、俺のことパシリにしたり、
ヲタクっぽい、などと馬鹿にする女子どもとも、適当に愛想振りまいて上手くやった。
俺的には。お金、ほしかったからさ。
シンジ、なる名前を使っていたが、
バレなかった。ま、イケメン化してたからな。
週末、適当にレンタル彼氏として
大嫌いなギャルたちとデートして。
月曜日に学校に行ったなら、俺の話題で持ちきりだった。
「芸能人並みにカッコいいのよ...!」
「レンタル彼氏、最高!」
「あーあ。うちの学校にもいたらいいのになぁ。そしたら、迷わず誘惑してー、アタックしてー、付き合いたいっ!」
それな。
実は俺な。
学校ではカースト最底辺にいるわけだが。
一度、バイト時の姿になれば、
モテるんだろーがな。
そんな毎日、髪の毛セットなんかしてたら
大変だからな。
にしても。
遂に今週末、レンタル彼氏としての俺に、
同じクラスで、しかも学校一の美女ギャル
が依頼をかけてきたからビビった。
授業中に携帯をいじっていたのだが。
危うく、携帯を床に落とすところだった。
学校一の美女ギャルにして、
親がこの高校で一番大嫌いな女。
キャピキャピしてて、うるせぇやつ。
俺が図書館で勉強してた時も、
「なんの勉強してんのかなー?山吹くんは?」
などとちょっかい出してくる。
「うるさいからあっちに行ってくれないか?
俺なんかと喋るより、もっと陽キャな男子
達と話せばいいだろ?」
「馬鹿ね。お洒落で、快活な男子は
図書館の隅で黙々と勉強してたりしないわよ?」
「うちの高校の男子は殆どがチャラ男だもの。そして、女子も殆どがギャル...。
というか、ギャルしかいないわ」
「そんな中で、あんたは異質よ。
大体が集団と馴れ合わず、ひとりぼっち。
服装だって、流行を追わず、髪型も
美容室で切ってないでしょ、って
髪の毛ね、、、?少しは...外見の手入れ、、
したらどうかしら?」
「ほっといてくれよ。
俺は数学の予習をしてんの。特待生でいつづけるには、努力しなきゃいけないの。
うちは貧乏なんだから」
「あ、もしかして、貧乏だから
外見地味にしとくのか、、ごめん、そっか...」
「だからな、、俺に構うなよな」
「他の男子どもと違って面白いなー、
と思って声かけてたけど、、
他人と違うこと、平気でできてるって
凄いなと思う...」
「興味を持ってくれて、どーも。
ま、でも、俺といると変な目で見られると思うから、今日限りで...。あんまり話しかけてこないで」
綺麗過ぎる女だから。
発育が良過ぎる胸だから。
近寄られると、俺の煩悩が騒ぎ出す。
勉強の邪魔だ。
なのに、こいつは。
「はー、つれないなー!
また、世間話とかたわいもない話しよ??」
図書館に毎日くるようになっちまった件。
俺があからさまに嫌な態度しても
「たまには息抜きしよーよ」
などと、俺の真横に腰掛け、
「これからマックでお茶しない?
私が奢ってあげるからさぁ、、」
などと言ってくる。
おっと、、
大嫌いと言うよりは全くもって鬱陶しいと
言ったほうがしっくりくるな。
「お茶、、ならペットボトルあるし、、」
「んもー、そのお茶じゃなくて、
カフェとか行きたいんだよ、、、」
「俺と行ったって、ほんっととーに、
変な目で見られるだけだぞ。
ヲタクとギャル、、もしくは陰キャとギャル、、。そーだな、罰ゲームかなんかだと
思われるぞ」
「んー
まぁ。そー思われてもいいっちゃいいかな」
「マジ!?」
「え、ちょっと、なに、荷物纏めて帰ろうとしてんの!?」
「もっと、話しよーよ」
「いや、帰る!!」
「勉強にならないから」
「ちぇー」
こんなやりとりを昨日の放課後にしてた。
そのギャル、
名前は橘ヒナタと。
明日、仮とはいえ、デート
しなきゃなんない。
俺は危惧していた。
声で。
普段、こんな喋ってるから、
声で、レンタル彼氏=俺だとバレるんじゃないかと。
ヒナタのいいところをひとつ挙げるとするなら。
他の女子どもは俺に金を握らせ、昼休み、
平気でパシリをさせるが、
ヒナタはそんな小間使いみたいなことを一切させないところだ。