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子に語る怖い話

【子語り怪談】隣のニパ子さん

作者: 烏屋マイニ

子にせがまれて、毎日語る怖い話の一つです。

 子が、私の怪談を聞きたいと言い出したのは、日課である犬の散歩の最中。ただ、てくてくと歩くのが、退屈だったのでしょう。ところが、「夜眠れなくならないくらいの怖い話」なんて条件を付けやがりまして。まったくもってめんどくさい。しかも勝手に恒例としてしまうあつかましさ。

 いつか本気で怖い話をひねり出して、夜も眠れなくしてやろうかとも思ったんですが、私だってそう何度もオカルト体験なんてしていませんし、まったく悩ましいものです。

 まあ、それはともかく。今日は雨天につきお散歩が中止となったので、先日話した節をひとつ。

 その日、私は犬のリードを引く子と並んで歩きながら、ニパ子さんを知っているかとたずねました。

「え、知らない」

 子は首を振ります。

 誰もいない部屋の隣の部屋から、壁を四つノックする。それを四回繰り返す。全部で何回ノックした?

「えーと、四かける四だよね。だから……十六」

 うん、正解。

「そうしたら、どうなるの?」

 そすると、誰もいないはずの隣の部屋から、二つのノックが八回返ってくる。さあ、全部で何回ノックされた。

「えっと、えー……二かける八だから、えっと」

 おいおい、二の段で悩むなよ。と言う言葉は胸にしまっておきます。

「十六……」

 そう。四かける四と同じ十六回。でも、二かける八で、に・ぱ。だから、ニパ子さんって呼ばれてる。

「ニパコのコって?」

 女の子の名前によくあるやつだね。ほら、花子とか。

「それだけ?」

 うん。それだけ。

「誰かがいるときにやったら、どうなるの?」

 その部屋にいた人が、ニパ子さんと出会うらしいね。なんでも見た人によると、ニパ子さんは大きな真っ赤な口をした女の子で、目が合うとニパァって笑うらしい。それも、ニパ子さんって呼ばれる理由なんだって。

「それだけ?」

 それだけ。あんまり怖くなかった?

「うん」

 頷く子供。まったく、正直なものです。でも、それは仕方のないこと。なにせニパ子さんは、ただニパァっと笑うだけの、害のないおばけなんですから。

「僕の部屋、できるね」

 ぽつりと呟く子供。

 そう。子供部屋の隣は、半ば物置と化している主のない部屋なのです。やってみる? と、私はたずねますが、子供は首を振ります。まあ、怖くないと言いつつも、やはり怪奇現象をわざわざ起こしたくはないのでしょう。

 じゃあ、あんたが寝てから隣の部屋で、ノックを四つ、四回やってみようかね。

「やめろ!」

 と、間髪もなく子供は言う。

「やるなよ。絶対やるなよ。ふりじゃないからな!」

 うんうん。わかった、わかった。やらないよ。

「……けど」

 ん?

「もし、よんよんのノックされた時に、にはちのノックを自分でやったら、どうなるのかな?」

 そりゃあ、ニパ子さんが困るだろうね。と、私は笑って答える。

「そっかあ」

 子供も笑う。

 そう。

 ニパ子さんは怖くない。

 でも、ニパ子さんしかいないはずの部屋で、ニパ子さんのように、二つのノックを八回鳴らした人は、その時点でもう、ニパ子さんになってるってことじゃないですか。ね?

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