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追放された仲間を庇ったら、いつの間にか結婚してた  作者: 豚肉の加工品
運命覚醒 Ⅰ
5/39

聖女の理  2

何か中途半端に終わった気分だ

「(バル……バルッ――――バル!!)」


心の中で名を呼べば、それに伴って鼓動がうるさくなっていくのが分かる。

身体が熱いのに頭は冷静……言わば、興奮状態なのに何故か綿密に物事を捉えることが出来るだ。

部屋の前までは足音がなるほど大股で歩いて来たが、部屋に近づくにつれて足音は消えていく。

ドアノブをゆっくりと指で確かめるように握り回す。


「あぁ…………良かった」


扉を開いた先にはトリプルベットが見え、その真ん中には大の字になって眠るバルファの姿がある。

胸部が動いているところを見るに息はしている。ぐっすりと深い眠りの中にいるからかポカンと開いた口元から唾液が流れて行くのが見える。


「……ふぅ、そうですよね。ぐっすり寝てるだけですよね」


白を基調としたアイテムポーチ付きの戦闘服が床を擦る。

それくらい一気に膝から崩れ落ちた。


「私は何をそんなに焦ってたんでしょうね……」


少し自嘲気味に、掠れた声が漏れた。

徐々に力が入っていく身体を起こし、パチンパチンと音のなるボタンを外して服を脱いでいく。

思わず「うわぁ……」と言ってしまいそうな嫌な汗の掻き方をした体に少しでも解放感を与えるために軽い服装になり、窓際にある長椅子に身を倒す。

流石に完全に目を覚ました状態でバルファの隣で横になるなんてことは恥ずかしくて出来たものではない

、そうして良いのは次の日を迎えるために眠りにつく時のみだ。


「これからどうなるんでしょうね」


誰に聞いた訳でもない呟きはやけに響いた。

王都から追手だって向かって来ているはず。

魔王討伐まであと少しのところだ、配下でもある魔族たちの動きはより活発さを増していくことだろう。

幸いなことは、ここに勇者パーティが追ってこれないことを知っていることだけ。

詰まっていく。

苦しくなっていく。

いつかは動けなくなって、一人だけ立ち止まってしまうんじゃないかと本能が怯え始まる。


「バルと別れてしまえば私は独り。せめて、せめて最後は誰かに見送られたいよ……」


先の見えない闇へと自らが歩み始める、

やはり一人は恐ろしい、二年前だって宿で自分は独りだった。

名ばかりの聖女、それは肩書にしては重すぎた。

笑っているのは勿論のこと、何なら立っているのもやっとの状態だ。


「(丁度横になっていると、バルの寝顔が見れますね……)」


いつも、いつも隣には彼がいた。

だから体が勝手に欲しがってしまうのだろうと思う。

ダメだと分かっていても理性は働かず、善し悪しも分からずに無意識(本能)に彼に体が近づいていくのは、もう自分では止められない。


「――――あっ」


ほら、もう遅い。

気が付けば目と鼻の先にはバルファの寝顔が映っている。

本当はこんなことはいけないと思っている。

思っているが、どうしても逆らえないのだ……

いつの間にか寄り添う形で体が密着している。

バルのがら空きの懐に潜り込み、勝手に腕を枕にして、少しだけ服の端を握りしめながら瞳を閉じる。

野営の見張りをしている時もそうだった。

最初は焚火を二人で囲み、気が付けば自分が隣に座っている。


「(良かった……私もまだ女の子で」


国王から〝聖女〟と任命され、一人で存命させていた廃れた教会である実家を勇者パーティとして旅をしている間に乗っ取られ、日に日に増していく周りからの侮蔑の眼差しを笑って誤魔化して。

正直――――バルと出会っていなかったら一年前に死んでいただろう。


「バル」


一定のリズムで呼吸をすることすら分かるような距離にいるのを許して欲しい。

貴方は私に恩があると言ったけど、それは逆だよ?

私に返せないほどの恩があったから、貴方に返そうとしていたの。

例え私の全てを渡しても返せない大きな恩……


「どうすれば返せるかな……?」


ゆっくり、ゆっくりと瞼が沈んでいく。





瞼のその先にある影が赤くなったり暗くなったりと動き始める。

眠っている時によくある、意識外からの意識で目を覚ます現象である。

脳から覚醒、順序よく下に流れていけば目覚めは良いものだ。


「…………んぅ、ん」


「おう、おはよう。ティナ」


物凄い近い距離からバルの声が聞こえ――――え?


「……ッ!?」


「お、おい。頼むからそんなに動かんでくれッ……う、腕がぁ」


「あっ、ごめんなさい!」


布団の音が大きく立つくらいには勢いよく体を起こすアレフィティナの目線の先には、極力左腕を動かすまいと微動だにしないバルファの寝姿があった。

だがアレフィティナが動いてしまったことで痺れが回し、苦悶な表情になってしまっているが……。


「やっ、こ……これは、そのっ!」


「分かってる分かってる。どうせアレクたちの仕業だろ?」


「い、いや、違――――」


これは私の仕業である。

何を隠そうと、私自身が自分に勝てずに誘惑に吸い込まれていった結果だ。

だからこそ恥ずかしいし混乱してしまっているのだが、バルファは落ち着きがなくなったアレフィティナの様子を見て宥めようとしてくれる。

その優しさが、現状のアレフィティナをどれだけ苦しめていることだろうか……


「まぁまぁ落ち着けティナ。そんなことよりも俺はどんくらい眠ってた?」


「……多分ですが、二日間程かと――――あっ」


そうだ!

バルファが目を覚ました時のために料理を作って待っていると言ってたのだ。

それ自分が寝てしまってはどうする!?

「やってしまった」と思う反面、動揺は色濃く外に流れ出ているだろう。

少しでも恥ずかしさを紛らわすために背後にある大窓を見たアレフィティナは、唖然とした。


「ん? どうした?」


「いや、あ、朝に変わってるなぁ……と、ということは私もかなり深く眠っていたようです」


「そうなのか? んじゃ、まだ二人とも朝飯は食べてないのか」


「あ、え……いや――――」


「ん?」


あぁ、どうやっても逃げ場のない選択肢以外進めない。

この恥ずかしさが、どうしても正直を隠そうと必死になってしまった結果がこれだ。

もういっその事、全て正直に話せてしまえたら楽になるのにどうしようもなく恥ずかしい。


「まぁ、なんだ……とりあえずご飯食べようぜ?」


勇者パーティとして魔王討伐の旅をしている時だって何回かあったことなのに、使命という建前がないとこれほどまでに恥ずかしいものなのかと胸に刻み込んだアレフィティナは、バルファの言葉にただ頷くことしか出来なかった。




バルファが目を覚まして二階から降りてくる姿が一階広間から見えるときには、アレクとディーナが大量の料理をテーブル一杯に並べて待っていた。


「お、おはようございます……」


「おう! おはよう! アレク、ディーナ」


身体が回復している証拠に、バルファは階段から飛び降りて二人の下へ駆け寄っていった。


「……元気になったみたいだな、バル」


「そりゃぁ休んだからな。信頼している場所で寝るってのは自宅で寝るよりも安心できるってもんだぜ? おかげで体は全快だ」


「そうか。まぁ、二日間もぐっすりだったらそうなるよな。とにかく座れよ、ディーナがこれでもかってくらいに食いもんを用意してくれたからな。残すなよ」


「おう! ありがとな、ディーナ」


「いいんですよ。一杯食べて下さいね? バルファさん」


一通りの会話が終わった瞬間、アレクとディーナの視線がアレフィティナを向いた。

アレクが自然とバルファの隣のテーブルに座ると、無我夢中でテーブルの料理を貪るバルファとは別にアレフィティナ用の料理を運んできてくれるディーナ。

まるで、早く座れと言っているようでアレフィティナも自然と開いている席に座った。


「……昨日はお楽しみだったようだな、アレフィティナ」


「えっ!?」


「もうっ! あれから起きてこないから心配しちゃったよ」


「ち、違いますよ!? 私もあの後…………」


「いいのいいの! 私たちはちゃんと知ってるからね」


「まぁオレはディーナから聞いただけだからな、全部は知らんけどな」


「ま……まさか、見ていたんですか?」


「それはもうバッチリ見てたよ!」


ここに来てから一番の笑みだ。

あまり表情に変化がないアレクですら、ブラックコーヒーの香りを嗅ぎながら笑っているように見える。


「わ、忘れてくださぃ…………」


見られていたという事実は、今のアレフィティナに最も効果のある()撃だった。

思い出しただけでも体が熱くなって爆発してしまいそうになることをしてしまったのに、それを他人に知られざるところで見られていたなんて事実。

今にも消えてしまいそうな声量になってしまうのも無理はない。


「何を恥ずかしがってるんだ?」


「そうだよ、アレフィティナさん! 相手はバルファさんなんだからもっとグイグイ行かないと!」


「分かるぞ~、手に取るように分かる。どうせ起きた時だって一緒に寝てたことオレたちのせいにでもしたんだろ? ……ほら見ろ、今だって食いもんに集中してオレたちの会話なんて聞いてねぇ。それくらいこいつは鈍いんだよ」


「そうそう。鈍い人にはね、もうやっちゃうしかないんだよ? 相手が気が付かない内に外から固めていってね、いつの間にか一緒にいないといけないようにしちゃえば良いんだよ!」


確かにディーナの言う通りにバルファは鈍い……というよりかは、近くにいる存在に対しての優しさが尋常ではないのだ。

基本的には何でも許容してしまうし、何でも手伝ってくれる。

今回だって私が追放されたことで勇者(・・)すらも斬り伏せてしまうほどだ。

バルファの力が目当てで追ってきた者たち全て――――つまり、あの瞬間バルファにとってアレフィティナ以外が全て敵であった。

それらを全て跳ね返し、あまつさえ逃げ切ってしまった。


「に、鈍いのは認めますけど……わ、私は別にそんなつもりじゃ」


「でもバルにとってお前だけが〝仲間〟って認識だったんだろ? そうじゃないならここまで頑張らないだろ。どうせ旅の途中でも本気で戦った時なんてなかったはずだ、あの歴戦武具(アーティファクト)の原型で戦ってただろ?」


「そうですね……私もあの力は知りませんでした」


「つまりそれくらい守りたかったわけだ。それならお前にもチャンスがあるな、アレフィティナ」


「それに庇われるくらい思われてたんだって思えば、少しくらい大胆にいっても大丈夫だよ。旅の時だって基本的には一緒にいたんでしょ? その時とか何かなかったの? 例えば一緒にお風呂に入ったとか……二人でデートにいったとかさ」


「な、ないですよ!」


そもそも、初めて出会ったのは魔王討伐のために力を貸してくれる仲間としてだ。

亜人国家ファランクスで出会った後、一度王都へ戻って計画を立てるまで数えられるほどしか喋らないような人物であった。

いつも笑っていて飄々としている掴みどころのない感覚だったバルファと仲が良くなっていったのは、一年前ほどから。その時から魔族との戦いは徐々に激化していったためか、風呂に入ることはあまりなかったし、旅に必要なアイテムを買うのも各自でだった。という、廃れ始めた過去を思い出す。


「そうか……なら、これからだな」


「まだまだ先は長いんだよ、アレフィティナさん。それにこれかも一緒にいるんだから自分のペースでいきなよ!」



「――――何の話だ?」



「……ッ!」


いつの間にかバルファの咀嚼音が鳴らなくなっていたようで、バルファは大量の朝食を食べ終えていたことに気が付けなかった。

それに会話していた内容が内容である。おかげアレフィティナの体がビクっと反応した。


「三人で盛り上がってるけど、何の話?」


「え、え……っと――――」


あまりにも自然に会話に入ってきたバルファに対して、どう伝えていいものかと動揺を隠せないでいたアレフィティナは言葉を淀ませてしまった。

だが、


「いや、少しだけ手伝ってやってたんだよ」


「うん。アレフィティナさんって世にも珍しい聖属性の魔法使えるらしいじゃない?」


先程までニヤニヤとしていた表情を引き締めた二人が助け船を出してくれる。


「そうか、それは盛り上がるな。三人とも魔法使えるもんなぁ」


「……まぁ、お前は魔法なんて使えなくても歴戦武具(アーティファクト)があるけどな。アレフィティナに聞いたが、王都ではド派手に暴れたらしいな」


「あぁ……うん」


何とも巧みな言葉回しである。

魔導士という〝言葉に魔力を乗せる者〟なだけあって言葉が上手い……いや、表情や態度も含めた会話を変える準備が上手であった。


「今朝、家から連絡があったんだけど……その、王城を真っ二つにしたって本当なの?」


「あぁー流石は〝魔導一家〟の情報網だな。多分これから王都から流れてくる噂みたいなやつの大体は本当のことだと思うぞ、とは言っても今は魔族との最終戦だ。俺たちのことなんて二の次だとは思うけどな」


魔王まであと少しという所でのパーティ変更は、決して褒められたものではない。

〝死〟以外でのパーティ変更には改善点が多すぎるために、魔族のような強力な存在と敵対するときには最も悪手と捉えていいものだろう。

それが勇者パーティと呼ばれているのなら猶更のことだ。

戦いに重要な連携、信頼。この二つの要素を消してしまう可能性が高いというのは、強敵を相手にするときに土台がないということ。

一人一人が個々に戦っていくわけではないパーティという存在において、土台がないというのはもはや〝死〟と同義である。

が――――例外が一人だけいた。


「いや、バルを二の次にはしませんよ」


「ティナ?」


「彼らはバルを留めておくために力を結集したんですよ? つまり、そこまでしても手放したくないほどにバルには価値があったわけです。実際にバルの強さを目の当たりにしている人は、どうしてもという感じでしょう。もしかしら魔王よりも重要視されていたりするかもしれませんよ」


聖剣を抜いた勇者フリート

極大魔法を単体で放つ魔導士イヤリス

どんな攻撃も跳ね除ける騎士ゴーン

剣聖の弟子バルファ

聖女と呼ばれたアレフィティナ


様々な肩書があるなかで、最後に捨てられたのはアレフィティナだった。

しかも追放に対して、敵対するとまで言ったバルファをパーティからは抜けさせないとまで言い切ったということはそれほどまでバルファの力が必要だったのだろう。


「――――……それはあるかもしれないよ、バルファさん」


「……どうかしたのか?」


視野を超拡大する魔法を常時発動(・・・・)させているディーナが珍しく神妙に言葉を放った、それ反応したバルファは立ち上がる。


「パッ見た感じは百……いや二百はいるね」


「追手が?」


「うん……しかもあれは戦争奴隷。先頭に立ってる大体は獣人だね、人族は最後尾に二人だけ。あれは冒険者かな? 奴隷の制御を担当してるみたいだね……」


「獣人ってことは〝匂い〟か」


「魔力の匂いを辿れるんだったな、確か。つまりアレフィティナの魔力の香りを獣人の戦争奴隷たちに辿らせて来たってわけか……」


「えっ……」


「大丈夫だ、別にティナが悪いわけじゃねえ。いずれは見つかってたはずだ」


「で、でもっ!」


「大丈夫だって。ここにはアレクもディーナもいるし、何よりも万全な俺がいる。なぁに、一回本気でボコボコにしてやんねえと分からないんだろ」


「でもバルファさん、相手は獣人族だよ?」


人間なんかよりも遥かに身体能力が良い獣人という種族は、敵に回すと厄介なことこの上ない。

彼らは魔力が全くない代わりに異常なまでに発達した筋力で戦う、近距離での高速戦闘を得意とした――――地上で最強の戦闘種族だ。


「相手にとって不足あり、準備運動くらいにしかならねぇよ」


それだけ言い残して、バルファは外へ歩いて行った。

見たところの装備は一本の刀のみ。

回復アイテムや身を守る武具は一切なし。


「これはいい機会だな、アレフィティナ」


アレクがそう言うも、アレフィティナは何も持たずに出て行ったバルファが心配で今にも息が止まりそうだった。

だが、アレクの言葉は止まらなかった。



「一瞬だよ、一瞬。お前を守っている男は、お前が思っている以上に強いさ」



次回 シリアス確定!!



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