最後の暗殺者
冬香と別れ、単身でスカイツリーへと向かっていた「13」だったが・・・
(・・・こっちだ。激しい衝撃音が響いてきたのは)
その途中、何者かが戦闘を繰り広げている音を耳にし
状況を確認するべく、そちらの方へ向かっていた
(・・・状況から考えて資格者同士の戦いに違いないだろうが、音が止んでからもう5分程が経過。既に戦闘は終わった後か・・・?」)
ビルの陰に身を隠しながら慎重に進む「13」。だがその時・・・
(ッ!? 何だこの破壊の跡は・・・!?)
「13」の視界に広がる一面瓦礫の山
元はビル街であったはずだが、周囲1キロ程の範囲は完全に破壊しつくされ
まるで都会に忽然と姿を現した「穴」の様な異様な光景が広がっていた
(この桁違いの力・・・これをやったのは「1」か・・・?)
以前、「13」も目にした「1」の力
その力の前に「13」は「1」に近づく事すらも出来なかった
だがその時でさえ、「1」はゾーフの施設内という事もあって力を抑えていたのだろう
(これが奴の本気という事か・・・)
ビル街を一つ更地にしてしまう程の能力、接続者としての能力は規格外と呼ぶ他ない
(勝てるのか・・・? 俺に・・・?)
この後に及んで逃げ帰るつもりはない、だが・・・
目の前の戦いに勝算を見いだせずその足がやや鈍る。だがその時・・・!
「・・・ッ!!! あれは・・・ッ!!!」
瓦礫の中にある物を見つけ、「13」は全力で走り出す!
そしてそれの前に立った「13」は、下を見下ろしながら呟いた・・・
「「4」・・・」
赤い血だまりの中、倒れていた女
それは暗殺者ナンバー・「4」の姿だった
ピクリとも動かないその物体に対し、「13」はほんの少しだけ眉をひそめる。そして・・・
「・・・仇は取る」
そう一言だけ呟くと、それに背を向け歩き出そうとする。だがその瞬間・・・!
「・・・阿保。お前まで引っかかってどうする・・・」
「ッ!?」
背後から聞こえてきた蚊の鳴く様な「13」は勢いよく振り返る!
そしてすぐさま倒れていた「4」の元に駆け寄りその身体を抱きかかえた!
「「4」!!!」
「・・・大声で叫ぶな。頭に響く・・・」
弱弱しく言う「4」に対し、「13」は出来るだけ感情を抑えながら言う
「・・・てっきり死んでいるとばかり」
「クック・・・。「1」すらも騙された、儂の死んだフリじゃ・・・」
そう、「4」が「1」に対し最後の攻撃を仕掛けた瞬間・・・!
(運命を見せろ!!! 「絶対回答」ァァァァァッ!!!!!)
あの時「4」が「絶対回答」で確定させたのは
「1」に勝利する未来ではなく、敗北した「4」に「1」がトドメを刺さずに立ち去るという未来だったのだ
「0.1%でもその可能性があるのなら、確実にその事象を引き起こす事が出来る・・・それが儂の「絶対回答」。まさか「1」も、儂が攻撃ではなく死んだフリをする為に「絶対回答」を使ったとは思わなかった様じゃな・・・クックッ・・・」
そう言って不敵な笑みを浮かべる「4」。しかし・・・
「・・・とにかく、今すぐ救援を! いや、俺の「根源接続」なら・・・!」
「たわけ・・・! 今こんな事で体力を消耗しとる場合か・・・! 大体、見れば分かるじゃろう・・・? 儂はもう死ぬ・・・」
その身体に残されていた命の火は、今まさに燃え尽きようとしていた
「「4」・・・」
言いたい事は沢山あるはずなのに何を言えばいいのか分からない
かろうじて名前を呼びかける事しか出来ず、言葉を詰まらせる「13」
その時、「4」は優しい笑みを浮かべながら「13」に対し言った
「悲しむ必要などない・・・儂ら暗殺者の末路は皆同じ。いつかこういう日が訪れる事も分かっていたはず・・・」
「・・・」
「そんな事よりも、お前に伝えなければならない事がある・・・。「1」の能力じゃ・・・」
「4」が言ったその言葉に「13」はハッとした様に冷静さを取り戻す
「「1」の能力・・・!? それは一体・・・!」
「口で全部説明するのは面倒じゃ・・・、その時間もない・・・」
そして「4」は真っすぐ「13」の瞳を見つめながら言った
「「接続」を使え・・・それで全て伝わる・・・!」
「ッ! ああ、分かった・・・!」
そう言って頷くと、「13」は「4」の瞳を見つめながらその能力を発動させた!
「「接続」!!!」
「13」の右目が輝き! 「4」の見た全てが「13」の脳へと直接伝えられる!
(見ろ! これが私の能力! 「神令」だ!!!!!)
「ッ!!!」
脳に直接叩き込まれた情報に、「13」が一瞬うめき声を上げる
だがすぐに立ち直ると、「4」に向かって問いかけた
「「神令」・・・それが奴の能力か・・・」
「ああ・・・。「敗北した瞬間に勝利する」、正にインチキじゃな・・・」
そして「4」は続けて「13」に向かって告げる
「・・・「1」の能力「神令」はハッキリ言って無敵じゃ、どう足掻いても太刀打ち出来ん・・・」
「・・・」
「だが・・・本当に無敵と言う訳ではない・・・。奴が言っていた言葉を思い出せ・・・」
瞬時に「13」は「4」の言葉の意味を理解する
そう、「4」が言いたいのは・・・
(私が最善、人事を尽くし行動した場合に限り、天は必ず私を選ぶ。例え敗北の運命にあったとしても、それすらも捻じ曲げ、天は・・・神は私を選ぶのだ)
「1」の言っていたその言葉だ
「つまり・・・奴が「最善を尽くさなかった時」に限り、奴の能力は発動しない・・・」
「13」の答えに、「4」は微笑む
「そうじゃ・・・。つまり奴に勝利するには、奴が最善を尽くしていない時。「奴が油断している瞬間」を狙って一撃で仕留める必要があるという事」
そう、それが「4」が導き出した「1」に「勝利」する唯一の方法だ。しかし・・・
「・・・だが。あの「1」を何らかの手段で油断させ、その一瞬の間に仕留める。その成功率は限りなくゼロに近いと言っていいじゃろう・・・。いや、と言うより・・・」
そこまで「4」が告げた瞬間、「13」は「4」の口をそっと押さえ続きを遮った
そして「13」は、決意の籠った表情で「4」に向かって告げる
「・・・安心してくれ「4」。ナンバー・「1」は俺が「必ず」殺す・・・」
その「13」の言葉にハッと目を見開く「4」
だがすぐに優し気な笑みを浮かべると、「13」に向かって言った
「そうか・・・。分かった、任せる「13」・・・」
「ああ・・・」
そして「4」は満足した様に微笑むと、「13」に向かって手を伸ばす
「もう少し・・・顔を近くで見せろ・・・。目がかすんでよく見えん・・・」
「分かった・・・」
そう答えると、「13」は「4」の傷一つない顔に自らの顔を近づけた。その瞬間・・・!
「ッ!!!」
突然、勢いよく「4」が「13」の首に手を回し身体を持ち上げると、その唇を「13」の唇に重ねた
「・・・」
しばらくの間、互いに無言で唇を重ね合う二人
「・・・ッ」
「13」が「4」の身体に回した手
そこから伝わるのは命が失われる瞬間の冷たさ
それが最後の口づけである事を理解しながら
二人はその身体の熱を確かめ合う
時間にしてみればほんの数秒
だがとてもとても長い口づけを交わした後、「4」は顔を離して言った
「・・・クック。奇襲とはこうやるんじゃ・・・」
「「4」・・・」
「「餞別」じゃ、持っていけ・・・」
そこまで告げると、「4」は「13」を手で押しのける様にしながら地面に仰向けになる
「・・・渡すべき物は全て渡した、もう行くがいい」
「「4」・・・だが・・・」
「儂の最後を看取る必要などない・・・。お前にはやる事があるじゃろうが・・・、とっとと行け」
そう言って「4」はそのまま目を閉じる
そんな「4」に対し、「13」はスッと立ち上がると・・・
「分かった」
そう一言だけ告げ
そのまま背中を向けると、その足を踏み出した。だが・・・
「なあ・・・「4」」
ほんの一歩踏み出した所でその足が立ち止まる
そして「13」は「4」に背中を向けたまま問いかけた
「一度も言った事がなかった気がするが・・・。俺はきっとアンタの事を・・・心の底から愛していたと思う・・・。アンタの方は・・・」
しかしそこまで言った所で、「13」は月も、星の光すらもない真っ暗な空を見上げながら続けて言った
「・・・いや、なんでもない。さよなら、「4」。・・・また会おう」
「ああ・・・またすぐにな・・・」
そして「13」は、最後の戦いの場に向かって歩きだした
ああ・・・あの人が行く・・・
また私の元から去って行く・・・
ずっと昔、生涯で一度だけ愛した男性
その人が遺した忘れ形見
そのどちらも失った私は絶望と憎しみの中で生きてきた。けれど・・・
(名前は・・・ない)
そう私に告げた白髪の少年
私が手に入れた3つ目の宝物
なのに私はその少年に対し、私が失った恋人と子供
その両方の代わりを求めてしまった
異性として愛されながら、我が子の様に愛される
きっと彼はその矛盾に耐えきれなかったのだろう、だから私から離れていった
そして今また去って行く
彼は私に背を向け去って行く。けれど・・・
「全て託した・・・。この命も想いも・・・」
彼はその何もかもを捨てたりしない、全てを背負って前に進む
だからもう二度と、この心が離れる事はない
「行け・・・。私の・・・」
「4」をその場に残し、スカイツリーへと向かう「13」
その時、突然耳元の通信機に通信が入る
「・・・聞こえますか? ナンバー・「13」。こちら暗殺課本部、吹連です」
「吹連課長? ・・・何か?」
静かに喋りかける吹連に対し、「13」が問いかける
「・・・たった今、「4」の生体反応が消えたわ」
「そうか・・・」
ふうっと息を吐き心を落ち着けようとする「13」に対し、吹連はあくまで冷静に状況を告げる
「これで我々暗殺課は主戦力の全てを失った。残った暗殺者も僅か・・・現戦力で「1」の殺害は不可能だと判断、この戦場からの撤退を決定しました」
「・・・」
「「1」によるオリジンの完全接続を止める事はもはや不可能。けれど、私達があの男の殺害を諦めた訳ではありません。今は表舞台から姿を隠し、戦力を温存しつつ機会を待ち続けます。ナンバー・「1」を殺す為に・・・」
そして吹連は、「13」に対し命令する
「ナンバー・「13」、貴方も撤退を」
「何・・・?」
「みすみす貴重な戦力を無駄死にさせる事は出来ないわ・・・。貴方も見た通り、あの男の能力「神令」には誰も勝てない・・・、あの能力を破るのは不可能よ・・・。だからお願い、今は退いて・・・」
「吹連課長・・・」
その吹連の言葉に、「13」は足を止める。だがその時・・・!
「・・・いいえ! それは逆です! 今しかない! 奴を殺すのは今しかありません! 吹連課長!」
二人の通信の間に割り込んできた声、それは・・・!
「霧生監査官・・・!? 無事だったのですか!?」
そう、それは「13」の後を追って移動を開始していた冬香の声だった!
驚きの声を上げる吹連に対し、冬香は告げる
「はい、でも今はそんな事はどうでもいいんです!」
「・・・今しかないと、そう言いましたか? 霧生監査官、その理由は?」
そう問いかける吹連に対し、冬香は言う
「奴の能力が凄まじい物である事は承知しています、あの「4」が敗れる程に・・・。けどそれでも! 今が奴を殺す唯一にして最後のチャンスなんです! 何故ならば・・・あの男がオリジンを手に入れようとしているからです!」
「・・・オリジンを?」
「はい。もしも「1」が既に絶対無敵の神に等しい能力を持っているのならば、オリジンを求める必要などないはず!」
「・・・それは」
「「1」は絶対無敵の力など持っていない! 奴の能力には弱点がある! だからこそ奴はオリジンを求め、完全なる存在になろうとしているんです! 奴がオリジンを手に入れその力を手に入れてしまったら、もう奴を殺す手段はありません! けれど今なら! まだ奴が完璧でない今なら! 奴を殺す事が出来るんです!」
「確かにそうですが、しかし・・・」
冬香の言葉に、吹連は言葉を詰まらせ考え込む
だがその時、その会話を黙って聞いていた「13」が吹連に向かって言った
「既にプランは出来ている。ナンバー・「1」は・・・奴は殺せる」
「ッ!? どういう事ですか!? 「13」!」
「「4」がその道筋を用意してくれた」
「「4」が・・・?」
「ああ。「1」との戦闘中、おそらく「4」は「1」の能力の正体に気付いていた」
「なっ!?」
「能力を隠していたとしても、その行動から正体を推察する事は出来る。自動発動するカウンター型の能力、「4」はそこまで奴の能力を絞り込んでいた」
そう、「4」は「1」の能力の正体を半分まで見抜いていた。そして・・・
(だが、これ以上は実際に奴の能力を発動させねば分からん・・・。つまり儂か「13」、この戦場に残っている二人の暗殺者のうちどちらか一人が、奴の能力を暴く為犠牲になる必要がある・・・)
「13」が「接続」で見た「4」の記憶
そして記憶の中の「4」はフッと笑みを浮かべると
(・・・なら悩む必要などないな。どちらか一人が犠牲になれと言うのなら儂が逝く。そして「1」の能力を完全に暴き、「13」に伝える。これが奴を倒す為の、儂が出した「回答」じゃ)
「「4」は「1」の能力を暴く為、「わざと」その攻撃を食らいに行き。そして奴の能力の弱点を俺に伝えてくれた」
「弱点・・・!? あの男の能力に弱点が!?」
「ああ・・・。吹連課長、冬香・・・、俺を行かせてくれ。奴は俺が「必ず」殺す」
そう断言する「13」に対し、吹連は少しだけ考え込み、そして言った
「分かりました。ナンバー・「13」、全てを貴方に託します。お願い・・・ッ、「4」の・・・仇を・・・」
「了解・・・」
そう告げると、「13」通信機に指を当て言う
「聞こえたな冬香? 先に行っているぞ」
「ああ。私もすぐに追いつく」
そして二人は通信機越しにフッと笑うと
スカイツリーに向かって移動を再開した
その頃、東京スカイツリーという巨大な塔の根本
そこに鎮座する光る球体、ゼロ・オリジンに向かって叫び声を上げる男の姿があった
「何故だ!? 何故私の呼びかけに答えない!? オリジン!!!」
オリジンに対し訴えかける男、それはナンバー・「1」だった
「「4」は死んだ! 資格を失った「2」以外の全てのシングルナンバーが倒れ! 私が最後に生き残った! 私は勝利したのだ! なのに何故私の呼びかけに答えない!? オリジン!!!」
何の反応も見せないオリジンに対し「1」は必死に呼びかける。だがその時・・・
「・・・それは君がまだ資格を得ていないからだよ。ナンバー・「1」」
「ッ!?」
突然現れた声!
その声の方向に振り向いた「1」は息を落ち着けると言った
「・・・お前か。資格を得ていないとはどういう事だ?」
「言葉通りの意味だよ。この戦いに勝ち残った資格者がオリジンを手に入れる。しかしまだ資格者は残っている、戦いは終わっていない」
「何?」
訝し気に眉を潜める「1」に対し、その人物は涼し気な声で告げる
「もうすぐ彼はここに来るよ。10人目の資格者にして、最後の暗殺者・・・死神の「13」が」
そう言って温和な笑みを浮かべるその人物
だがその言葉に対し、「1」は苛立った様に叫び返した
「「13」だと!? あんなシングルでもない、偶然オリジンに触れただけのイレギュラーが何だと言うのだ!?」
「君がそう思うのは勝手だ。けれど彼は間違いなく、資格を得た10人目の接続者だよ。彼を倒さない限り、オリジンが君に応える事はない」
その言葉に「1」はぎりりと歯を食いしばる
だがすぐに冷静さを取り戻すと、オリジンに背を向け歩き出す
「いいだろう。ならばすぐに「13」を始末し、オリジンに私を認めさせる。お前はここで私がオリジンとの完全接続を果たす為の準備を進めておけ」
「ああ。了解した」
その言葉を聞くと、「1」は「13」を倒すべくその場から立ち去っていった
しばらくして、その場に残ったその人影は涼やかな声で呟く
「これが最後の戦いだ・・・。「1」と「13」、どちらが勝ったとしても僕の目的は達成される・・・。けれど願わくば、君がこの場に立つ事を祈っているよ・・・「13」」
そしてその人影は笑みを浮かべると、オリジンの元でじっと待ち続けるのだった
この戦いに勝利する、「最後の暗殺者」を・・・




