神の勅令
仮に、この結果が最初から見えていたとしたら
儂は違った行動を取っていただろうか?
否
例え結果が見えていたとしても、儂は同じ行動を取っただろう
もしやり直せるとしても同じ
儂は何度でも同じ行動を繰り返す
あの人の為に
これが唯一無二の「回答」なのだから
「1」の能力により崩壊し、瓦礫の山と化したビル街
その中心で睨み合う二人の暗殺者、「1」と「4」
そして今まさに、「4」は最後の攻撃を仕掛けようとしていた
「・・・」
無言のままブレードを構える「4」
「4」の手にあるそれは刃渡り50センチ程、ナイフと呼ぶにはやや大型
機械で出来た柄の部分にはトリガーの様な物が備えられており、刃の部分までその複雑そうな機構が伸びている
刃物と呼ぶよりは、棒状の機械の先に刃を取り付けたと言った具合の外観だ
その時、そのブレードを逆手に持った「4」が小指でトリガーを引く。それと同時に・・・!
キィィィィィンッ!!!
「4」の手の中にあるブレードが甲高い駆動音を上げた!
それを見た「1」がボソリと呟く
「高周波ブレードか・・・」
「いかにも。まだ試作段階の代物じゃが、これに斬れぬ物などないぞ?」
そうニヤリと笑いながら答えると、「4」はブレードを構え前傾姿勢を取る!
「いいだろう・・・来い、ナンバー・「4」」
それと同時に「1」も懐からナイフを取り出し、「4」を迎撃する体勢に入った!
「・・・」
互いにタイミングを伺う二人、距離は約20メートル前後
勝負は一瞬で決まるだろう・・・
周囲の物体全て、大気すら止まったかの様な緊張感の中・・・
「では・・・逝くか・・・!」
「4」は大きく足を踏み出した!!!
「ッ!!! 外部電脳起動・・・!!!」
すぐさま! それを迎撃すべく「1」も能力を発動させる!!!
「「津波」!!!」
「1」が発動させたのは津波を起こす能力!
「1」の足元から湧き出た水が津波となり「4」に襲い掛かった!
「お前の「絶対回答」で抜けられる隙間などないぞ!」
全てを飲み込むかの様に前方から襲い掛かる水の壁! しかし!
「隙間がないなら作るまでじゃ・・・!」
そう叫ぶと「4」は足元の瓦礫をドガァンッ! と思いきり踏みつけた!!!
それと同時に地面の瓦礫が垂直に立ち上がり、「4」を守る様に2メートル程の瓦礫の壁が出来上がる! さらに!
「ずぇええええいっっっっっ!!!!!」
ドガァンッ!!!
「4」は渾身の力で!
「1」に向かって壁をそのまま蹴り飛ばした!!!
「何ッ!?」
津波を打ち破り「1」に向かって飛来する瓦礫の壁!
それに対し「1」は能力を発動!
「外部電脳起動! 真空刃!!!」
真空の刃で壁を十字に切り裂いた!
4分割された瓦礫の壁は「1」を避ける様に後方へとすり抜けていく! だがその時!!!
「ッ!? 何処だ!?」
壁の後ろに居たはずの「4」の姿がない!
斥力場を張り全方位を警戒する「1」! 次の瞬間!
「後ろじゃ・・・!」
「ッ!?」
ギィィィィィンッ!!!!!
「1」が周囲に張った斥力場に背後からブレードが突き立てられ激しい音を立てる!
「クッ!!! 飛来した瓦礫の後ろに張り付いていたか!!!」
「ハァッ!!!」
気合と共に「4」がブレードを振り抜くと! 「1」の斥力場が切り裂かれる!
「フィールドが維持出来んだと!? だが!!!」
守りを消失した直後! 「1」は手に持っていたナイフで攻撃を仕掛ける!
狙いは「4」が手に持つブレード!
バキィンッ!!!
「チッ!!!」
「4」の持っていた高周波ブレードが「1」の攻撃により破壊される!
「1」の斥力場を破壊する為出力を最大にした後、駆動限界を迎えた直後を狙われたのだ!
「もらったぞ!!!」
すぐさま! 「1」は武器を失った「4」に向かって刺突を放つ!
シャッ・・・!
「4」は「1」の刺突を紙一重で回避!
「4」の頬に一筋の傷が走る! だがその時!
キィィィィィンッ!
「4」の瞳が輝き! その能力!「絶対回答」が発動した!
次の瞬間・・・!
「ッ!? 何っ!?」
しっかりと捉えていたはずの「4」の姿が、フッと「1」の視界から消えた!
そして・・・!
トンッ
それは「絶対回答」が見せた勝利の道筋
まるで柔らかい物体に刃物を通す様にするりと
「殺ったぞ・・・ナンバー・「1」」
「4」のナイフが背後から、「1」の心臓付近を貫いていた・・・!
「がっ!」
口から血を吐き出す「1」!
その胸からは、背後から突き刺され貫通したナイフの先が飛び出していた!
「終わりじゃな・・・」
冷酷にそう告げる「4」
そう、ナンバー・「1」はナンバー・「4」の前に敗れ去ったのだ。だが・・・
「フッ・・・フッフッフッ・・・」
その時、ナイフで胸を貫かれた状態にも関わらず「1」が笑みを浮かべる
「フッ・・・流石はナンバー・「4」だ、この私の全力を以てしても届かんとは・・・。認めよう・・・お前こそが最強の暗殺者だ・・・」
敗北したにも関わらず不敵な態度を見せる「1」に対し、「4」が怪訝な表情を見せる
「下らん世辞なら必要ないぞ。黙って死ね」
そう言いながら腕に力を込めようとする「4」。しかし・・・!
「いいや、それは無理だな。何故なら「4」・・・死ぬのはお前だからだ」
「ッ!? 何っ!?」
瞬間! 直感で「4」は危機を察知する!
今この瞬間! とてつもなく危険な事が起こっていると!
「そう、お前は強い。だがそれ故にお前は敗北したのだ」
「1」の言葉から放たれる圧倒的な威圧感に、「4」が驚愕の表情を見せる!
「ッ!!! やはり! 貴様の能力は・・・!!!」
その時! 「1」が両手を広げ天を仰ぐ様にしながら叫び声を上げた!
「運命は流転する! 勝者も敗者もこの一時限りの事! これは勅令である! この世界を救えと! 神が私に勅令を下したのだ!!!」
そして「1」の瞳が輝きを放った!!! 次の瞬間!!!
「何ッ!?」
ガシャァンッ!!! とガラスが割れる様な音と共に視界が砕ける!
割れていたのは目の前の瓦礫の山ではない! 世界その物が割れて砕けていた!
「な・・・! なんじゃ!? 何が起こっている!?」
「誤った世界が砕け散るのだ・・・」
空も地面も割れ、粉々に砕け散る!
世界からテクスチャが剥がれ、真っ黒な空間だけが視界を包んだ!
「世界その物が砕けるだと!?」
「そうだ、そして見ろ・・・!」
その時! 真っ暗になった世界に漂う「4」と「1」に流星の様な光が近づいてくる!
「あれは・・・!?」
「世界だ。誤った世界は砕け、真実の世界がやってくる・・・!」
そしてテクスチャを失った世界を新しい光が飲み込み! 世界が再構築され・・・!
「見ろ! これが私の能力! 「神令」だ!!!!!」
そして世界が新生した! 次の瞬間!!!
ビシャッ・・・!
「な・・・何っ・・・?」
唖然とした表情で目の前に飛び散る血を眺める「4」!
その赤い鮮血は自身の胸部から吹き出していた・・・!
(ダメージじゃと・・・? 何時、何処でやられた・・・?)
胸から吹き出す血を抑えながらその場に膝を付く「4」。その時・・・!
「ば・・・馬鹿な・・・!」
目の前の光景に「4」が驚愕する・・・!
「4」の目の前に立っていたのは「無傷」の「1」の姿だった! そして・・・
「人事を尽くして天命を待つ、という言葉がある」
「・・・?」
「1」は静かに自身の能力について「4」に語り始めた
「考えうる全ての出来る事、つまり最善を尽くし、後は運命に身を任せるという意味の言葉だ」
「・・・知っておるわ、たわけ」
悪態をつく「4」に対しニヤリと笑みを浮かべると、「1」は続けてこう言った
「だが、私の場合は少し違う」
「何・・・?」
「私が最善、人事を尽くし行動した場合に限り、天は「必ず」私を選ぶ。例え敗北の運命にあったとしても、それすらも捻じ曲げ、天は・・・神は私を選ぶのだ」
「ま、まさか・・・!」
その時、「4」は自身の身に起こった現象を理解する!
「運命を・・・! 因果を・・・逆転させたのか・・・!」
「4」が負った胸の傷、それは「4」が「1」に与えた傷!
「1」は自身の負ったダメージを、そっくりそのまま「4」に向かって返したのだ!
「お前は私に勝利し、故に敗北した。言っただろう? 私の前に立つ者は絶対に私に勝利する事はないと」
そう、それが「1」の能力
人事を尽くすという条件を満たし、自身が敗北した瞬間に発動
「1」が敗北した世界を破壊し、因果を逆転させた上で再構築
勝者と敗者をそっくりそのまま入れ替える能力
「これが私の能力「神令」、神が私に与えた絶対無敵の能力だ」
そう勝利宣言する「1」に対し、「4」は口元から血を流しながら言う
「後出し能力の分際で偉そうに抜かすでないわ・・・」
キッと「1」を睨みつけながら、自身のダメージを冷静に把握する「4」
(因果逆転・・・! さっき儂が「1」に与えたダメージがそのまま返ってきたという事・・・つまり、この傷は「致命傷」という事じゃ・・・)
背中と胸、両方の傷跡からドクドクと血が流れ続け足元に血だまりを作っている
血を失いすぎたせいで既に身体に力も入らない
自分で付けた傷だ、それがどの程度のダメージなのかはよく分かっている
状況は「絶望的」だと
(儂が「絶対回答」で見た未来すらも逆転させた・・・! これが「1」の能力・・・!)
その時、「4」の目の前に立った「1」は
地面に膝を付く「4」を見下ろしながら言った
「お前の「絶対回答」で見てみろ。0.1%でも私に勝利する可能性が残っているか? お前の能力「絶対回答」でも0%の運命を覆す事だけは出来ないのだろう? 見てみるがいい、まだ私に勝利する確率が残っているかを」
「くっ・・・!」
「1」の分析は正解だ
今の状態から「4」が「1」に勝利する確率は0%
「絶対回答」でも、「4」の敗北はもはや覆す事は出来ない
そう、「4」に打つ手は一つも残されていないという事・・・。だが・・・!
(それでも・・・まだ儂にはやる事が残っている!!! これが儂の最後の能力じゃ・・・!!!)
「4」の瞳が戦いの意思を、最後の輝きを放つ!
「ッ!!! 来るか!!!」
そして「4」はナイフを手に最後の攻撃を仕掛けた!
「運命を見せろ!!! 「絶対回答」ァァァァァッ!!!!!」
「無駄なあがきだ! 「4」!!!!!」
「4」の攻撃と同時に「1」もナイフを突き出し、両者の攻撃が交差する! そして・・・!
ドスッ!!!!!
その胸にナイフが突き刺さった!
「がっ・・・」
突き刺さっていたのは「1」のナイフ・・・!
「4」の胸から更に赤い鮮血が飛び散る!
「あ・・・」
同時に、「4」の全身から急速に力が抜け、その手のナイフが地面にカランと音を立て落ちた
それを見た「1」は「4」の身体からナイフを引き抜く
「サー・・・ティーン・・・」
どさりと、「4」の身体が地面に倒れた
その胸元から赤い血が流れ続け血だまりを大きくしていく
「・・・」
そして・・・その瞳からフッと光が消え去った
動かなくなった「4」に対し、「1」はそのまま背を向け・・・
「眠れ。最強の暗殺者・・・」
そう呟きながら、その場から歩いて去って行った
仮に、この結果が最初から見えていたとしたら
儂は違った行動を取っていただろうか?
否
例え結果が見えていたとしても、儂は同じ行動を取っただろう
(これでいい・・・。これで・・・「1」に勝てる・・・)
もしやり直せるとしても同じ
儂は何度でも同じ行動を繰り返す
(後は託すだけじゃ・・・)
あの人の為に
これが唯一無二の「回答」なのだから




