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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第一章:恋の炎はその身を焦がして燃え上がる
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その銃弾に殺意を込めて


悪夢を見ている

目が覚めている間ずっと、アタシは悪夢を見ている

もしも地獄と言う物があるのなら、アタシにとってはこの東京まちがそうだ



それでも、昔は友達や仲間と呼べる、そんな大事な人達が居た

だからアタシは耐えられた

けれど、そんな人達も一人づつこの東京に飲み込まれ、消えていった



強者と弱者、奪う者と奪われる者、この東京には二種類の人間しかいない

そして彼らは皆後者だった、アタシも含めて



だからその瞬間が来た時も、アタシはそれ程不思議に思わなかった

順番が来たのだ、次はアタシの番だったのだと。けれど・・・



(彼女を放せ!)


眩しい物を見た


(アンタは何をしているんだ?)


気高い物を見た



強者でも弱者でもない、奪う者でも奪われる者でもない

この東京で生きながら、この東京のルールに縛られない存在

あの二人の様になりたいと、生きたいと初めて思った



そう、思ったはずだったのに・・・






(何も見えない・・・)


意識は闇

何も見えず、何も聞こえない

けれど、外で何が起こっているのかだけは感覚で分かる


ゴオオオオッッッッッ!!!


燃えている

燃え尽きようとしている


(でも・・・いいや・・・)


何もかも燃やし尽くしてしまおう

この街も、弱いアタシ自身も・・・

それで、この悪夢は終わる


(悪いが、そういう訳にもいかない)

(えっ?)


突然、意識の中に自分以外の声が聞こえてくる


(おにーさん・・・?)

(ああ、能力を使ってオマエの心に直接語りかけている)


目の前に居る様な、遥か遠くに居る様な不思議な感覚


(レン、意識を取り戻せ。このままではオマエの炎で周囲一帯が火の海になる)


彼はアタシにそう語りかけた、しかし・・・


(嫌・・・)


アタシは彼の言葉を拒否する


(アタシはもう何もかも嫌になったんだよ・・・、だから全部燃やして終わりにする。この東京もアタシも全部燃やして、全てを終わらせたいの・・・)


アタシは全てを否定する

だが、そんなアタシに彼は・・・


(それは駄目だ)

(!?)


彼は全てを否定するアタシを否定した


(何で!?どうしてアタシを否定するの!?これまでアタシがどんな目にあってきたか!どれだけ辛い目にあってきたか!もう嫌なんだよ!アタシはもう何もかも終わりにしたいだけなのに!おにーさんはアタシの事何も分かってない!)

(もちろん分かってなどいない。それでも俺はオマエを否定する)

(・・・!?)


その時・・・!一瞬、意識の中にノイズが走る!

彼がアタシの心を見る様に、アタシにも彼の心が見えた


(何これ・・・。もしかしてこれ・・・おにーさんの記憶・・・?)






二人の少年と一人の少女


血の繋がらない、この世でたった3人の家族


他には何も持たない彼らにとって、その絆だけが全てだった


しかし、終わりの日が訪れる


狂気の中、少年はその手を血に染め


そして全てを失った






それは地獄と化した東京で生きてきたレンですら目を背けたくなる様な、想像を絶する記憶

だが、そんな本物の地獄を見てきたはずの13は

いつか聞いた時の様な迷いのない、力強い意思でレンに語り掛ける


(オマエの思っている通り、この東京は地獄だ)

(そうだよ!だからアタシが終わらせて・・・!)

(だが、それでも人は生きている)

(え・・・?)

(弱くても、力が無くても生きようと足掻いている人達が居る、オマエと同じ様に)


アタシみたいな人達・・・?

弱くても生きようとしている人達・・・?


(だからたとえ地獄だとしても、俺はこの東京を守る。そこで生きようとしている人達が居る限り)


彼は守ろうとしていただけだったのだ、この東京に住む人達を

でも・・・


(それは・・・嘘だよ。だっておにーさんがアタシを見ているみたいに、アタシにもおにーさんが見えたんだから・・・)


そう、彼が本当に望んでいる物は・・・


(おにーさんもアタシと同じだったんだね・・・。何もかも失って、それでも足掻いている・・・。なくしちゃったそれを手に入れる為に・・・)

(・・・)

(もうアタシにはそれを探す事は出来ない・・・でも・・・)


先程までの闇が嘘の様に消えていく、そして・・・


(安心しろ、オマエは俺が・・・)






冬香がレンに呼びかけ、その視線が13に向けられた瞬間!


接続リンク!!!」


13の右目が紫色に激しく輝き能力を発動させた!そして・・・!


フッ・・・


レンを覆っていた巨大な火柱が消え失せると、レンはその場に崩れ落ち・・・


「グッ・・・!」


同時に13もその場に膝をついた


「御音!」

「ハァ・・・ハァ・・・」


荒々しく息を吐く13を支える冬香


「一体何が・・・?」


突然目の前で起こった現象が理解出来ず呟く冬香、その時・・・


「今のが13の能力、「接続リンク」だよ」


冬香にそう答えたのは、通信機ごしに聞こえてきた安栖の声だった


「目が合った相手の精神に干渉し、意識や感覚を共有したりする能力だ。けれど・・・」

「う・・・グッ・・・!」


尚も苦しみ続ける13

そして安栖はその原因を冬香に告げる


「それは相手の受ける苦痛や恐怖なども共有するという事だ。今の一瞬で、13は彼女が一生のうちに受けた苦痛や恐怖を全て味わったという事になる」

「なっ・・・!?御音!!!」


心配そうに13に呼びかける冬香、だが・・・


「問題ない・・・慣れている・・・。それよりも・・・」


13はフラフラになりながらも立ち上がると、ゆっくりレンの元へ歩いていく。そして・・・


チャキッ・・・


左手の銃を倒れているレンに向かって突きつけた


「なっ!?止めろ御音!!!」


すぐさま冬香は駆け出すと御音の前に立ちふさがる!


「邪魔だ、どけ」

「もう終わったんだろ!?なら殺す必要は!」

「ある。接続者は殺すのが暗殺者の任務だ。それに、よく見ろ・・・」


そう言うと13は視線でレンを見る様に冬香に促す。そして冬香が見た物は・・・


「うっ・・・!レン・・・!」


そこにあったのは変わり果てたレンの姿

重度の火傷、かろうじて息はある様だが間違いなく・・・

暴走した彼女を覆っていた炎は、すでに彼女の全身を焼き尽くしていたのだ


「もう助からない。だからどけ、俺達に出来るのはトドメを刺してやる事だけだ」


そして13は冬香を押しのけ、銃の引き金を引こうとするが・・・


「待つんだ13」

「安栖さん?」


その13を安栖が制止する、そして・・・


「聞こえるかい?霧生監査官」

「安栖・・・研究主任・・・?」

「13、彼の監査官は君だ。だから君が命令するんだ、「彼女を撃て」と」

「なっ・・・!?」


それは、今の冬香にとってこれ以上ない程に残酷な言葉だった


「暗殺者は強力な力を持つが故に様々な制約を課せられている、その一つが「自分の意思で対象を殺害してはならない」と言う事。だから監査官である君が命令しなくてはならない、それが監査官が負うべき責任であり義務なんだ」

「そんな・・・でも私は・・・」


安栖の言葉に首をふる冬香

だがそんな冬香に13は強く呼びかける


「命令しろ、俺に撃てと言え」

「待ってくれ御音・・・!まだ、何か手が・・・!彼女を助ける手段が・・・!」

「・・・もうレンを助ける手段はない、アンタだって分かっているはずだ」

「それでも・・・私は・・・!」


13に命令する事が出来ず、ただ狼狽え続ける冬香・・・。だがその時・・・


「トー・・・カ・・・?」


とてもか細い声でレンが呼びかける


「レン!!!」


すぐさまレンの側に駆け寄り、大粒の涙を流しながら答える冬香

そのぐしゃぐしゃになった冬香の表情を見ながら、レンはほんの少しだけ笑みを浮かべると弱弱しい声で言った


「もう・・・大丈夫・・・だから・・・」

「レン!!!レン!!!」

「もう・・・満足・・・したから・・・。だから・・・お願い・・・」


その言葉に涙を流したまま愕然とすると、冬香はその場で俯く


「・・・命令しろ」

「・・・」

「俺に撃てと命令しろ!冬香!!!」


それは普段の冷静な13の声ではない、まるで懇願するかの様な叫び声だった

そしてその声に、俯いたままの冬香の嗚咽が止まり。次の瞬間・・・!


「撃て・・・!!!!!撃てェェェェェッ!!!!!サーティーーーーーンッッッッッ!!!!!」


その冬香の慟哭と共に・・・


「了解・・・」

「ありがと・・・トーカ・・・おにーさん・・・」


ダンッ!!!


一発の銃声が周囲に鳴り響いた






辺り一帯が静寂に包まれ、そして・・・


スッ・・・


レンの身体から力が抜け、動かなくなった

それを確認した13は・・・


「当該対象の死亡を確認。暗殺終了アサシネイションオーバー、これより帰投する」


頬に付いた返り血を拭う事もなく冷静に告げると、レンに背を向け歩き出す。だがその時・・・!


「待て・・・!」


その言葉にピタリと足を止める13、そして振り向く事なく答えた


「まだ何かあるのか?」

「何かあるのか?・・・だと・・・!」


その言葉に冬香は立ち上がると13に詰め寄り!


ガッ!!!


13を無理矢理振り向かせ、襟元を掴んで叫んだ!


「人が死んだんだぞ!?何も思わないのか!?」


だが、その冬香の叫びに対し13はいとも冷静に答える


「それが俺達暗殺者の任務だ」

「任務だと!?私達の任務はこの東京の治安を守る事だ!!!こんな物は・・・!」


そう続けようとする冬香を、13の言葉が遮った


「アンタこそ勘違いしてるんじゃないのか?」

「勘違い・・・だと・・・!?」

「俺達暗殺者は、東京を守る為悪の接続者を倒す正義のヒーローなんかじゃない。俺達はその名の通り、ただの「人殺し」だ。そして・・・アンタもそうなる」

「なっ・・・私が人殺し・・・?」


その言葉に愕然とする冬香、だが13は構わず続ける


「いいか、羽崎恋は「死んだ」んじゃない、俺達が「殺した」んだ。監査官であるアンタが命令して、暗殺者である俺が撃った。俺達が、レンを殺したんだ」

「私達が・・・レンを・・・殺した・・・」


その言葉と共に、13の襟を掴んでいた冬香の腕から力が抜けると

冬香はその場にへたり込む


「俺もアンタも、ただの「人殺し」なんだ」


そう言って13は背を向けると、その場から立ち去ろうとするが

冬香は何も言えず、茫然と地面を見つめ続けていた

だが、その時・・・


「だが・・・一つだけ言わせてもらうなら」

「・・・?」


13は一度だけ振り向くと、冬香に向かって言った


「アンタには向いてない」


そして13はフードを目深に被り夜の闇に紛れると、そのまま消えていった

一人残された冬香は、地面に向けていた視線を空に向けると


「う・・・・うああああああああああっーーーーーーーーーー!!!!!」


声にならない叫び声を上げ、涙を流し続けた






遠くに聞こえる慟哭を耳にしながら、13は路地裏の闇を歩く。だがその時・・・


「くっ・・・」


その体がフラリとよろけると、そのまま壁にもたれかけるように崩れ落ちる

13の身体と精神に刻まれたダメージは想像以上の物で、既に13の疲労は限界に達していたのだ


(ああ・・・またか・・・)


路地裏で倒れたまま、13は思いを巡らせる






また、誰も助けられなかった・・・


また、俺は殺すだけだった・・・


殺して、殺して、殺し続けて・・・


何もかも失った空っぽの化け物のくせに、他者を殺してまで俺は生き続けている・・・


そうまでして、どうして・・・俺は生きている・・・?






答えはない

どうして自分は生きているのか?

空虚と化した13の心の中に、その答えは見つかりはしない


「俺は・・・五年前と何も変わっていない・・・」


そして13はそう呟くと

路地裏の壁にもたれかかったまま眠った・・・

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