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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第九章:資格者達は玉座を目指し、その命は最後の輝きを見せる
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崩壊の日・カズヤ


時間は戻り

建物の外に出た冬香とカズヤは、暗闇に包まれた廃墟を歩いていた

遠くでは多国籍軍と接続者達の戦闘の物と思われる砲火の音が鳴り響いている


(音が近づいてきている・・・。多国籍軍は隅田川を渡り切ったのか・・・?)


戦況はどうなっているのだろうか? 暗殺課の動きはどうなっているのだろうか? そして「13」は・・・

冬香の頭に色々な疑問や不安が積もっていく


だがそんな冬香とは対照的に、カズヤは外の一切を意に介す様子もなく冬香の少し前を歩いていく


「・・・」


無言でカズヤの後に続きながら、冬香は辺りを見渡す


暗闇に慣れた冬香の瞳に移るのは、コンクリートの建物跡

研究棟、宿舎、大きな倉庫の様な物がそれぞれ複数

ここが元はそれなりに大きな施設であった事が分かる


だがそんな施設も、今となっては誰一人として人の姿のない廃墟と化しており

無数の白骨死体だけが、以前の名残の様に残されていた


「・・・」


所々に散見する白骨死体の間を縫う様にして進んでいくカズヤと冬香


お互い殺し合ったかの様な形で銃を向けながら倒れている死体

それらが一体何なのか? その時の冬香は全てを理解していた


そしてしばらく歩いた後、カズヤはある建物の入り口辺りで足を止める


「・・・?」


カズヤが足を止めた場所に目を向ける冬香

そこにあったのは血痕の跡、そこで流された誰かの血の跡だ。その時・・・


「・・・この場所で全てが終わり、そして始まった・・・」

「・・・!? じゃあ、ここが・・・」


その言葉に冬香は目の前の地面を見つめる


既にどす黒い染みと化した血痕

この場所こそが、「13」がミナと呼ばれる少女を殺した場所だったのだ


「・・・そうだ、始まったんだ。俺達は・・・まだ・・・」


そう呟くカズヤの言葉に

冬香は一週間前、カズヤの語った過去について思い返していた・・・











5年前、2033年

とある国が配下の組織を使い、東京の孤児を集め実験を行っていた施設

「13」とカズヤ、そしてミナは

その施設で訓練と実験の日々を送っていた


次々と仲間が消えていく過酷な環境で、身を寄せ合いながら耐え抜く3人

そしてある日

その施設で唯一の成功例、施設初の「接続者」が誕生した


接続者となったのは「K・037(ケーゼロサンナナ)」

ミナと呼ばれる、白髪の少女だった










ミナが接続者となってから数日後の事

唯一の成功例となったミナが別の施設へと移送される事が決定し、その移送を翌日に控えた夜

俺・・・「K・018(ケーゼロイチハチ)」ことカズヤは

夜の闇に紛れ宿舎を抜け出し、本棟のミナが収容されている部屋を目指していた


(今日を逃したら当分ミナと話す事は出来ない。アイツだって不安になっているだろうし、最後の挨拶ぐらいしにいってやらないとな・・・)


もちろん本当の最後にする気はない

俺もカズミも、すぐに接続者になってミナを追いかけるつもりだ


(・・・カズミも誘った方が良かったか? ・・・っても、無断で宿舎を抜け出すなんてバレりゃ重罪。アイツにそんな危険を背負わせる訳にはいかねえしな・・・)


ミナにはなんとか上手く言っておこう

そんな事を考えながら、足音すら立てず移動する。その時・・・


(っと、見張りか・・・)


前方に見回りの衛兵が2名

俺は近くの物陰に身を隠し、息を殺して二人が立ち去るのを待つ


(くそっ、とっととどっか行けよ・・・!)


俺は心の中で舌打ちをしながら気配を殺していた。だがその時・・・


「なあ? 聞いたか?」


俺の耳に、二人の衛兵が何かを話しているのが聞こえてきた


「あれか? 「K・037」の事か? 明日本部に移送されるっていう」

「まあその事と関係ある話なんだけど、実は・・・この施設が放棄されるらしい」

(!?)


二人の会話に思わず俺は息を飲む


「放棄!? 何でまた急に」

「それがこの国の国家機関。なんて言ったか・・・? 治安維持とかなんとかって言う・・・」

「暗殺課って奴等か? 接続者を殺して回ってるって言う」

「そうそれ。そいつらがこの施設に感づいたらしいって情報が入ったんだと」

「このグラウンドゼロ内部は、この国の連中の手も届かないんじゃなかったのかよ? 携帯すら使えない陸の孤島みたいなもんなんだぜ?」

「っても絶対じゃないだろう。・・・とにかく、この施設が抑えられると色々とマズイ。ここで行ってた実験と本国の関係が明るみに出たら、国際社会で非難の雨に晒されるのは必至って訳だ」

「ふーん、まあそれはそうだろうけど・・・」


俺は動揺を抑えながら、二人の会話に聞き耳を立てる


(この施設が放棄? なら俺達はどうなるんだ・・・?)


その時、話を始めた方の衛兵がその答えを口にした


「・・・でだ。その際に残っていた実験体・・・、「K・037」以外の実験体は廃棄処分にするって事らしい」

(なっ!?)


その言葉に激しく動揺しながらも、俺は気配を殺し続ける


「廃棄処分!? 皆殺しにするって事か!? アイツらは組織のエージェントにする為に育ててきたんだろう? それを何で?」

「さあな、この施設のトップの上のさらに上からの指令らしい。ほんの僅かでも事が露見する危険性は排除しておきたいんだろうさ。お偉いさんは俺達が思っているよりも遥かに憶病らしい」

「全くだな」


そう話しながら、二人の衛兵はその場から離れていった

そして、その会話を聞いた俺は・・・


(俺達が・・・廃棄処分・・・!?)


組織に対して忠誠を誓っていた訳ではない

俺達は生き延びる為に、過酷な訓練や実験にも耐えてきたのだ。なのに・・・!


(このままむざむざ殺されてたまるか・・・!!!)


呼吸を整えると、俺は再び行動を再開する


(先にカズミと合流して協力してもらうべきか? いや、ここからだと宿舎に戻るには遠い。それに万が一俺の行動が露見すれば、ミナの周辺は更に厳しく警備されるだろう。ミナを連れ出すのは今しかない・・・!)


そして俺は一人で本棟の裏へと忍び込むと、ミナの居るであろう部屋の近くまでたどり着く


「ミナ・・・聞こえるか? ミナ・・・」


声を潜め窓から呼びかけると、すぐに部屋の中から返事が返ってきた


「その声!? カズヤ兄さん!? 何でここに!?」

「ちょっと挨拶にな。でも、それどころじゃなくなった。今すぐここを出るんだミナ・・・!」

「・・・? ここを出る? それってどういう・・・?」

「理由は後だ・・・! とにかくこの施設を出て逃げるんだ・・・!」


声を潜め続けながら必死に呼びかける俺に対し、ミナは静かな声で返答する


「・・・分かった。けど部屋には鍵がかかっているし、見張りもいるはず・・・」

「・・・少し待ってろ」


俺はそう言うと近くの入り口から本棟に侵入し、ミナの居る部屋へと向かう。そして・・・


キィ・・・と静かな音を立てドアが開く

俺が部屋の中に姿を現すと、ミナは驚いた様子で言う


「カズヤ兄さん!」

「よし、行くぞ」


俺は問答無用でミナの手を取り部屋の外へ連れ出そうとする。その時・・・


「カズヤ兄さん。部屋の鍵は? 見張りの人はどうしたの?」

「・・・」


その質問に俺は答えなかった

しかし部屋の外に出た瞬間、ミナはその答えを知る


「ッ!!! カズヤ兄さん・・・! この人達・・・!」


そこにあったのは衛兵「だった物だ」

背後から口を抑えられたまま首を掻っ切られ絶命し、もう動かなくなった物体だ


「どうして・・・!? 何でこの人達を殺したの・・・!?」

「説明してる時間はない・・・。早く行くぞ・・・!」

「説明してよ! どうして・・・!」


尚も食い下がるミナに対し、俺は正面からその目を見つめながら言う


「こいつらは俺を・・・俺達を殺そうとしてたんだ! ミナ以外の全員・・・俺もカズミも、他の仲間も全員!」

「そんな・・・どうして・・・?」

「とにかく今は逃げるんだ・・・! カズミ達と合流して、この施設を脱出する・・・! いいな?」


切羽詰まった様子の俺の言葉に、ミナは動揺しつつも縦に首を振る


「分かった・・・」


その言葉を聞くと、俺はミナの手を引きながら本棟から脱出する。だがその時・・・!


「居たぞ!!!」

「なっ!?」


ダダダダダッッッ!!!!!


本棟から出た直後! 俺達を銃撃の雨が襲う!

俺はミナを連れすぐさま近くの物陰まで走り込む!


「おい! 撃つな! 「037」に当たる!!! 警戒しつつ包囲を狭めていくぞ! 「018」は殺していい!」


周囲を包囲しながらじりじりと近づいてくる衛兵達!


「くっ! くそっ! もうバレたのか!? さっき殺した兵士の・・・!? いや、どこかでセンサーにでも引っかかってたのか!?」


思わず俺はそう叫ぶが

今がそんな事を考えている状況ではない事に気付き、すぐに戦闘態勢に入る!


(こっちの武器はさっきの兵士から奪ったハンドガンとナイフのみ・・・。いくら俺でも、この装備であの数の衛兵を倒せるか・・・?)


いくら訓練を受けているとは言え多勢に無勢

この数を相手にするのは無謀と言っていい、だが・・・


「カズヤ兄さん・・・」


不安そうに俺を見上げるミナの頭にポンっと手をおくと


「ミナはここから動くな、アイツらはお前には手は出さない」

「でも・・・!」

「大丈夫・・・! 俺の銃術ガンアーツは無敵だ・・・!」


そう言うと、俺は物陰から飛び出す!


「ッ!!! 撃て!!!」


衛兵達はすぐさま俺に向かって火力を集中させるが

俺は素早く物陰から物陰に移動し、これを回避する!

そして! 衛兵達の懐に飛び込むと・・・!


「これが・・・! お前らが俺達に叩き込んだ「十字銃術クロス・ガンアーツ」の力だ!!!」


ダンッ!!! ダダンッ!!!


一瞬の間に一人! 次の瞬間には二人!

俺は一切の容赦も躊躇いもなく衛兵達を血の海へ沈めていく!


「くっ! くそっ! 速い!!! しかもこう近づかれては!!!」


こちらにあって相手にはないアドバンテージ、それは単独であるという事

懐に飛び込んできた俺に対し、同士討ちを恐れる衛兵達は下手に撃つ事が出来ない!


「こっちは容赦なく撃つけどなぁ!!!」


これ以上ない程の集中! 頭の中が凍り付いたまま熱暴走している!

初の実戦であるにも関わらず、俺の動きは俺の想像した以上の物だった。そして・・・


ダンッ!!!


「がっ・・・!」


最後の衛兵の眉間に銃弾を撃ち込むと、俺はミナに向かって呼びかける


「よし! ミナ! 今のうちに・・・!」


だが、その瞬間・・・!


「・・・くたばれ! 実験体!!!」


訓練によって能力は上がっても、経験だけは補えない

その油断は、正に俺の経験不足から生じた物だった・・・


バスッ・・・!


「なっ・・・?」


仕留めきれていなかった、トドメを刺しきれていなかった

一発の銃弾が俺の身体を貫き、俺はその場にガクリと膝を付く


「・・・!!! カズヤ兄さん!!!」


倒れた俺に向かってミナが駆け寄ってくる


(ミ・・・ミナ・・・? あれ? 声が出ねぇ・・・?)


泣き叫ぶミナに対し呼びかけようとするが、声からはひゅーひゅーと言った息が漏れるだけ


(ああ、くそ・・・俺はここまでか・・・。ミナを助けられず、こんな所で・・・)


ミナを守ると誓ったはずなのに、俺にはその力がなかった。けど・・・


(でも、カズミなら・・・。アイツならきっとミナを守ってくれる。アイツはいつも強くて冷静で・・・俺達のヒーローだったから・・・。だからここで俺が死んでも、アイツならきっと・・・)


徐々に薄れていく意識、だが不思議と絶望感はない


(あとは任せたぜ・・・カズミ・・・)


そして最後の瞬間・・・俺が耳にしたのは・・・


「カズヤ兄さん!!! うっ・・・! あああああっっっっっ!!!!!」


能力を暴走させたミナの叫び声と、全てを焼き尽くす様な憎悪だった











どれぐらい気を失っていたのだろうか?

俺はゆっくりと閉じていた目を開く


「俺は・・・まだ生きているのか・・・?」


確かにあの時、俺は致命傷を受けたはず・・・

だがどうして生きているのかなど、考えても分かるはずもない


「そうだ・・・ミナを・・・カズミを助けに行かないと・・・」


俺はよろよろと立ち上がるとミナとカズミを探して歩き出す

だがその道中、俺が見たものは・・・


「何だ・・・これは・・・?」


そこにあったのは地獄だった


タタタタタッ・・・!!!


周囲の至る所から聞こえてくる銃声

敵ではない、アイツらは味方同士で殺し合っていた


「これは・・・まさか・・・」


正気を失った衛兵や研究員達

原因は一つしか考えられない、「能力」だ

そして・・・この施設に居る「接続者」は、ただ一人しかいない


「人の心に「接続」して干渉する能力・・・。これが、ミナの能力なのか・・・?」


だがヤツラが無軌道に殺し合う様子から察するに、おそらくミナは能力を制御出来ていないのだろう


「暴走状態・・・」


思い当たる理由は一つしかない

そう、この惨劇を引き起こしたのは「俺」なのだ


「止めないと・・・」


傷ついた身体を引きずりながら、俺は急いでミナを探そうと進もうとする。だがその時・・・!


「・・・ぐっ・・・あああああああああああっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」


近くの訓練施設の辺りから響き渡る絶叫!


「ッ!!! この声・・・! カズミか・・・!!!」


カズミと思われる叫び声!

俺はカズミを助けるべく声のする方へと急ぐ!!!


「ハァ・・・ハァ・・・! 待ってろカズミ・・・! 今助けに・・・!!!」


だがその時・・・!

なんとか声の元までたどり着いた俺の視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった・・・!!!


「カズミ・・・! ミナ・・・!?」


うずくまるカズミとそれを見下ろす様に立つミナ

近くにはカズミの物と思われる手が転がっていた、そして・・・!


カチッ・・・!


「なっ・・・!?」


うずくまっていたカズミが左手で銃を取り出すと、ゆっくりとそれをミナに向けた!!!


「何をっ・・・! 止めろ!!! カズミ!!!」


俺は絞り出す様に声を出しながら二人の元へ向かう! だが・・・!


「ミナァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!」


ダンッ!!!


引き金は弾かれ、ミナの身体を銃弾が貫通する

そしてミナがその場に倒れると、同時にカズミも地面に倒れ込んだ


・・・その光景を見ながら、俺は心の奥底から叫び声を上げた


「どうして・・・!? どうしてだ・・・!? ミナを守るって・・・!!! それが俺達の誓いだったはずだろ・・・!? なのに何で・・・!!! 何で・・・!!! よりによってお前がミナを殺すんだ・・・!!!???」


分からない

何もかもが分からない

心の中は疑問符で埋め尽くされぐちゃぐちゃになっている


「どう・・・して・・・?」


そして俺も力尽きると・・・その場に倒れた











目の前にある惨劇の跡

5年前、ミナが死んだその場所に立ち尽くしながらカズヤは呟く


「なあ? どうしてなんだ? 俺は・・・いや、俺達は何を間違えたんだ・・・?」

「・・・」


そう呟くカズヤの後ろに無言で立ち尽くす冬香。だがその時・・・!


「なあ? 答えてくれよ・・・。カズミ」

「ッ!?」


その言葉に、冬香は勢いよく後ろを振り向く!

そこに立っていたのは・・・!


「・・・迎えに来た。冬香」

「「13」・・・!」


白髪の暗殺者、ナンバー・「13」だった!

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