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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第九章:資格者達は玉座を目指し、その命は最後の輝きを見せる
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もう一つの戦場


暗殺課を裏切り暗躍していた「6」

その「6」にトドメを刺した「4」は、通信機に向かって言う


「こちら「4」、「6」を仕留めたぞ」

「ご苦労様。こちらは現在、飛山副課長の残した書類等を調査中よ」


そう答える吹連に対し、「4」は一仕事終えたと言った感じで言う


「飛山の確保が出来なかったのは残念じゃが、裏切り者があやつだったと言うのは間違いないんじゃろ? なら、とりあえずこれで背後から刺される心配はなくなったな」


だがその「4」の言葉に対し・・・


「ええ・・・そうね・・・」


吹連はやや歯切れの悪い返事を返す


「どうした? まだ何か問題が?」

「・・・いえ、何でもないわ。少し気になる事があるだけよ」

「ふむ・・・?」


吹連の煮え切らない態度に釈然としない物を感じつつも、「4」は続けて言う


「まあ良い。それより現在の状況を確認したい、西側の状況はどうなっておる?」


その「4」の問いに、吹連も気持ちを切り替え答える


「隅田川を挟んで牽制を繰り返していた多国籍軍と接続者部隊の戦闘だけれど、ほんの少し前に多国籍軍が渡河に成功したとの報告が入っているわ」

「多国籍軍が? では西側に展開していた暗殺者の奇襲が成功したと言う事か?」

「いえ、そちらは「7」と「8」と交戦し撤退を余儀なくされたわ。18人中12人が死亡し、ほぼ壊滅状態よ」

「ふむ、なら多国籍軍は自力で渡河に成功したという事か」

「ええ、「5」が指揮していた部隊が西側から抜けたのも大きいでしょうね」


その時、「4」は「5」の遺体を運んで戦線を離脱していく部隊の事を思い出す


「その部隊なら「5」が倒れ、戦線離脱していく様じゃ。追撃は必要ないじゃろう」

「そうね。戦力には限りがあるし、藪をつついて蛇を出す恐れがあるわ」


吹連がサツキ隊は放置しておくと決定すると、「4」は続けて吹連に問いかける


「では、西側は多国籍軍が優勢と言う事かのう?」

「いえ・・・それがどうやら問題が発生している様なの」

「問題?」

「ええ。隅田川を渡河した後、多国籍軍の連携に乱れが生じているわ。恐らく、オリジンを巡っての争奪戦が始まっている様ね」

「つまり・・・味方同士で争っているという事か・・・」


そう、多国籍軍の目的は「1」の確保で一致はしているが

どの国がオリジンを手に入れるかという問題は解決してはいなかった


全ての国がオリジンを手に入れようと行動する以上、最終的には味方同士で争う事となる

この仲間割れは、事前に予測されていた出来事に過ぎない。しかし・・・


「早すぎる・・・。まだ「1」の確保も成功しておらんと言うのに。こんな状態で「1」の確保が成功すると思っておるのじゃろうか?」

「無理ね。けれど、誰もが常に賢明な判断が出来るとは限らない。誰か一人が功を焦って先走り戦端を開いてしまえば、枯れ野に放った火の如く戦線は燃え広がる。もう止める手段は皆無よ」

「愚かな・・・。これが奴の言っていた人類の愚かさと言う物なのかのう?」

「そうかもしれないわね。「4」、貴方も人類に絶望したのかしら? 「1」に付くなら今かもしれないわよ?」

「何、元より人類に大して期待しておらん」


あけすけな吹連の言葉に、やれやれと言った表情でそう答える「4」


「ともかく、西側は正に混戦と言った状態ね。三つ巴、四つ巴どころの話じゃないわ。自分達以外は全員敵、もはや疑心暗鬼でまともな作戦行動が取れるとは思えない。今は小競り合い程度で済んでいるけれど、爆発するのは時間の問題と言った所ね」

「ならその前に「1」を始末する必要があるか・・・」

「そうね。けれど焦って事を仕損じれば元も子もないわ。最悪、多国籍軍がいくら殺し合おうと、最終的にオリジンと「1」さえどうにか出来ればそれで問題なしよ」


あくまで優先されるのは「1」の確実な殺害

そう告げる吹連に、「4」はさらに問いかける


「ところで、「7」と「8」は何処へ行った? 西側で暗殺者達と交戦していたはずじゃが」

「その事だけれど・・・あの双子は暗殺者達と交戦した後、姿を消したわ」

「姿を消した? こちらに向かってきていると言う事か?」

「その可能性は高いわね」


ふむ、と呟きながら状況を整理する「4」


「「5」が倒れ、「6」が裏切り「9」も倒れた。残っている資格者は向こうが「1」「7」「8」の3人。そしてこちらが儂と・・・」

「・・・「13」ね」


その言葉にピクリと反応する「4」


「・・・「13」と霧生監査官の動きは掴めておらんのか? 二人の外部電脳の反応は掴んでおるんじゃろ?」

「そうね、その事に関してだけど・・・」


そう言うと、吹連は通信機の向こうで何やら話し始める。そして・・・


「聞こえますか? 「4」さん!」

「ん? その声はアイリじゃな」


それは暗殺課前線基地で、能力「索敵サーチ」とそれを応用した通信網の維持を行っていたアイリの声だった


「はい! それで二人の場所ですが・・・」


そしてアイリは「索敵」によって分かっている情報を話す


「まず冬香さんの現在地は作戦前から変わってないです、両国にある慰霊碑の辺りから動いていません。状況は不明ですけれど、命に関わる様な状態にはないと思われます」

「そうか。で、「13」の方は・・・」

「・・・すみません。「13」さんの方も変わらず反応が掴めない状態で、今は生きているとしか・・・」


状況は変わらず、「13」の動きはアイリの方でも掴めてはいなかった。しかし・・・


「でもその・・・何というか・・・」

「ん?」

「ああいえ・・・私もハッキリとは分からないと言うか・・・」


何かを伝えようとするアイリに対し、「4」は優しく問いかける


「感じた事をそのまま伝えてくれればそれでよい。自分の直感を信じるのじゃ、アイリ」

「は、はい! 分かりました!」


そしてアイリは不鮮明ながらも、今感じ取れる情報について伝え始める


「ええと・・・。「13」さんなんですが・・・、今私が感じ取っている「13」さんは「13」さんとは別人の様というか・・・」

「別人? 「13」なのに「13」ではない?」

「は、はい・・・上手く言えないんですが。私が感じ取っている生体情報は間違いなく「13」さんの物です、にも関わらず「13」さん以外の情報も感じ取れると言うか・・・。まるで「13」さんの身体に二人分の精神が宿っているみたいな・・・」


要領を得ないアイリの言葉

だが「4」は何やら思う所があるのか、続けてアイリに問いかける


「その反応は以前の「13」からも感じ取れておったのか?」

「いえ、前はこんな事はなかったはずです」


となれば、こうなったのは最近の出来事・・・

「4」は顎に手を当て考える


(あやつが他の接続者と違う特別な体質である事は知っていた。接続者でありながら、接続者が保有する身体の強化の恩恵を全く受けておらん肉体。安栖研究主任は「半接続者デミ・コネクター」と呼んでおったが・・・)


「13」の現状について、仮説はいくつか立てられる。だが・・・


その時、二人の会話を遮り吹連が言う


「「4」、彼の現状は気になるけれど、今優先すべきは「1」の始末よ。「5」は倒れたものの、「1」「7」「8」は健在。対して、こちらの戦力と呼べるのは貴方一人。「1」の言っていた資格者の話が真実ならば、貴方が倒されれば全てが終わる。文字通り「全てが」、よ」

「・・・そうじゃな、分かっておる」

「分かっているならいいわ。とにかく慎重に行動して、状況に動きがあればすぐに伝える」

「了解」


そう答えると、「4」は目の前の戦場に集中する


「困難な状況ではあるが・・・。何、いつも通り確実に殺るだけじゃ・・・」


そして「4」は「1」を始末すべく、行動を再開するのだった











やや時間は遡り

多国籍軍と接続者達、「5」と「9」の戦闘が始まった頃

とある廃墟の窓から、戦端の開く音を聞く冬香の姿があった


「始まったか・・・」


その時・・・


「・・・もう少しで始まる様だ。お前ら暗殺課と「1」達の決戦がな。そして同時にアイツも動き出すはずだ」


冬香の背後から男の声が聞こえてきた

冬香はゆっくりと振り向くと男に向かって言う


「カズヤか・・・」











そう、それは一週間前

「13」が敗北し、残された冬香が何者かに連れ去られた後


「こ・・・ここは・・・? ッ! そうだ! 「13」は・・・!」


見知らぬ廃墟で目を覚ました冬香は、すぐさま状況を判断すべく辺りを見回す

その時・・・!


「フン。目を覚ましたか」


突然、冬香に対し呼びかける声が響いた!

冬香は部屋の隅で椅子に座る男の存在に気付くとリボルバーを構える!


「ッ!!! お前は・・・!」


部屋は暗闇に包まれていたが、じょじょに目が慣れ男の顔が明らかになっていく。それは・・・!


「カズヤ・・・!」


「13」と同じ施設で育ち、同じ術を使う男

ミナの仇として「13」を付け狙う接続者「カズヤ」だった


警戒心を露わに銃を突きつける冬香

だがカズヤはそんな冬香に対しフン、と息を吐き出すと言う


「命の恩人に対して礼もなしか? あのまま放置していればお前は間違いなく死んでいたんだぜ?」


「13」がビルの下に落下した後

冬香の目の前で言い争う「5」と「7」「8」の前に突然放たれたスモーク弾

そして煙に乗じて冬香を連れ去ったのが、目の前に居るカズヤだったのだ。しかし・・・


「命を助けただと? まさか善意で私を助けたとでも言うつもりか? 貴様の狙いは何だ?」


そう、目の前の男がただ親切で自分の命を救った等と言う事はあり得ない

何らかの狙いがあるのは確かだ、まずはそれを聞きださなくてはならない


しかしそんな冬香の思惑に対し、カズヤは隠す程の事でもないと言った様子でアッサリと答える


「狙い? そんな物決まっている。俺の狙いはただ一つ、アイツと・・・カズミと決着を付ける事だけだ」

「それで私を助けたと言うのか・・・?」

「そうだ。お前がここに居れば、アイツは必ずお前を助けに来る」

「しかし・・・「13」は・・・」


冬香の脳裏に浮かぶ光景

重傷を負い、ビルから落ちていく「13」の姿。しかし・・・


「死ぬものか・・・! アイツがあんな程度でくたばるはずがねえ・・・!」


カズヤは苛立たしそうにそう言い放つ

そして続けて言った


「・・・ムカツク事だけどな、お前はカズミにとっての生きる理由になっている。そんなお前が死ねば、カズミの心が死ぬ。心が死んだカズミとの決着なんて俺が望む物じゃねえ。だから助けた」

「確かお前はアイツらの仲間になったんだろう? その仲間を裏切ってでもか?」

「仲間? ハッ、アイツらとはただの協力関係だっただけだ。利害が一致しなくなった以上、行動を共にする理由もなくなった」

「利害・・・?」

「そうだ。俺がアイツらに求めたのは、俺とカズミが決着を付ける場を作る事だったんだからな」


「7」と「8」が「13」に攻撃した時点で、カズヤが彼らに協力する義理はなくなった

カズヤの目的はあくまで、自分自身での「13」との決着だったのだから


だがその時、そう答えるカズヤに対し冬香は静かに告げる


「・・・ミナを殺された復讐だったか?」

「ッ!!! テメエ・・・!」

「「13」本人から聞いた、あの日施設であった事の何もかもをな」

「チッ・・・」


舌打ちをしながら顔を背けるカズヤ

だが、カズヤは顔を背けたまま冬香に向かって言う


「そうだ・・・アイツがミナを殺した・・・! だから俺がアイツに復讐する! それが俺達の・・・!」


しかしそんなカズヤの言葉に対し、冬香は腑に落ちないと言った様子で言った


「・・・違う。それは・・・嘘だ」

「・・・何だと?」


瞬間! 部屋の中にとてつもない程の殺気が充満する!

以前の冬香なら動くどころか、喋る事すらも出来なかったであろう

だが自分に対し殺気を向けるカズヤに対し、冬香は臆す事なく告げる


「ずっと前から違和感は感じていた・・・けどそれが何なのか、以前の私には分からなかった。だが、今なら分かる。お前が「13」に向ける感情は決して「復讐」なんかじゃない」


そう断言する冬香に、カズヤは殺気を向けながら言う


「テメエに何が分かる・・・?」

「分かるさ。憎しみ・・・「復讐」したいと言う感情ならよく知っている」


冬香の胸にある感情、「1」に対する「復讐心」

「ソレ」の事ならよく知っている、そしてだからこそ断言出来るのだ


「お前は「13」に復讐したいなんて思ってない。お前は「決着」を求めていると言うが、それが「復讐」ではない事は明らかだ。お前が求めている「決着」、それが何なのかは私には分からない。だが・・・」


その時!


ドンッ!!!


一瞬で冬香の目の前まで間合いを詰めたカズヤが、言葉を続けようとする冬香の肩を掴み床に叩きつける!


「それ以上喋るな・・・! 殺すぞ・・・!」


至近距離から殺意を向けるカズヤに対し、冬香は静かに答える


「やってみろ。それで私に人質としての価値はなくなる、アイツがお前に構う事も二度とない」


その言葉にギリっと歯ぎしりをすると・・・!


ビリッ!!!


カズヤは冬香のシャツの襟を掴み、そのまま力任せにはだけさせる!


「殺さなくとも、死ぬより酷い目にあわせる事は出来る・・・!」


そう冬香に覆いかぶさりながら脅し付けるカズヤ!

だが肌を露わにしたまま、冬香はその事を気に掛ける様子もなく・・・!


「だから、やってみろと言っているだろ・・・! その程度で私の意思を自由に出来ると思っているならな・・・!」


そう正面からカズヤに向かって言い放った!


「・・・」


しばらくの間、無言で睨み合う二人。だが・・・


「・・・チッ」


そう静かに舌打ちをすると、カズヤは立ち上がり冬香に背を向ける

冬香は体を起こすと、服の乱れを整えながら言う


「・・・お前は知っているのか? 「13」がミナを殺した時の事を・・・?」

「ああ・・・」


そう答えるカズヤに、冬香は更に問いかける


「・・・話してくれないか? あの日・・・「13」が言っていた施設が崩壊した日、何があったのか。もしかしたらお前は、「13」の知らない何かを知っているんじゃないのか?」


そう問いかける冬香に対し、カズヤは・・・


「・・・フン。まあいい、アイツが来るまで時間はたっぷりある。こんな話、暇つぶしにもならないとは思うがな・・・」


そして崩壊の日

カズヤが見た、もう一つの真実を冬香は知るのだった

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