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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第九章:資格者達は玉座を目指し、その命は最後の輝きを見せる
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贖罪の果て


その男は仇だった

ある者にとっては両親の、他の者にとっては兄弟や育ての親の

もしその男が不死でなかったのなら、すぐにでも仇を討っていたに違いない


しかしその男と生活を共にする内に、次第にその生き方に興味を持つ様になる


彼は奪う、だが同時に与える

私達から生きる拠り所を奪っておきながら、この世界で生き抜く術を私達に与えた


罪を犯しながら、罪を償おうとする

そんな生き方は滑稽だ


罪を償うつもりがあるのなら、最初から罪を犯さなければいい

罪を犯すのなら、何も償う事なく忘れてしまえばいい


だが彼は進む、殺した数と同じだけその背中に罪を背負う

その矛盾した生き方が自身を苦しめ続けようとも、その足が止まる事はない


何故なのだろう?

何故あの人は・・・










「行け!!! 全員突撃!!! ナンバー・「5」を救出しろ!!!」


サツキの号令と同時に、周囲に控えていたサツキ隊の隊員達が「9」に向かって襲いかかる!


「なっ!? 増援だと!?」


銃弾を折れた刀で防ぎつつ「9」は顔をしかませる!


(くっ! しまった! 「記録」は「5」を拘束する為に使ってしまっている! しかも能力を維持する為、私はこの一帯から動く事が出来ない・・・!)


「9」の「記録」の射程距離はおおよそ20メートル

もし「5」から20メートル以上離れてしまえば

「記録」は消え去り、二度と「5」を拘束するチャンスはなくなるだろう


(敵は武装した接続者16人・・・! この場で凌ぐしかない・・・! だが・・・ッ!!!)


ダダダダダッッッッッ!!!


その時! 突撃銃での集中砲火が「9」を襲う!


普段の「9」であれば何の問題もなく防げたはずの攻撃だ

だが右手を負傷し、「記録」も使用出来ない

満身創痍の状態で折れた刀を左手で振るいながら、なんとか銃弾を回避する「9」! しかし・・・!


バスッ!


「ぐうっ・・・!」


一発の銃弾が「9」の脇腹を貫通する!

如何に「9」と言えども、負傷した身体で全ての攻撃を防ぐ事は出来なかった!


「ッ・・・! 行ける!!! 勝てるぞ!!! 全員奴を追い込め!!! ここで「9」を始末する!!!」


優勢と見たサツキは隊員達に向かって叫んだ!

そしてサツキ隊の隊員達は「9」を仕留めるべく距離を詰めていく! だがその時・・・!


「止めろ・・・! お前達下がれ!!! 奴に手を出すな!!!」


「記録」に拘束されながら「5」がそう叫ぶ


「「5」? 何を言って・・・? 奴は手負い!!! 今なら勝てます!!!」


そして「9」にトドメを刺すべく、隊員達が距離を詰め一斉に襲い掛かり・・・!


「下がれーーーーーッ!!! 「9」はまだ死んでいない!!!!!」


ザンッ!!!!!


瞬間!!!

襲い掛かった隊員達は鮮血を散らせながら倒れた・・・!!!


「なっ!?」


突然の事に動揺する他の隊員達!

その隙を見逃さず、「9」は即座に間合いを詰め折れた刀を振り下ろす!!!


「はっ速い!!! 照準が追い付・・・! ぐぁあああっ!!!」


宙に舞った血が地面に落ちるよりも速く・・・!

まるで閃光の様に移動しながら、次々と隊員達を斬り伏せていく「9」!!!


「そ・・・そんな馬鹿な・・・! 何故あの負傷であんな動きが出来る!?」


右腕はもはや皮一枚で繋がりぶら下がっているだけ、出血多量で意識も朦朧としているはず

その上、刀は折れ能力も使えず、戦闘能力は極端に低下


「なのに・・・どうして・・・!?」


その時、折れた刀を振るいながら「9」が呟いた


「許せ・・・私はまだ死ぬわけにはいかない。護国の為・・・、これから訪れる未来の為・・・。私は再び鬼となる・・・!」


「9」から放たれる凄まじい気迫に気圧されるサツキ


「そんな・・・勝利したはず・・・勝利したはずだったのに・・・」


こちらは万全の状態の隊員が16人、相手は手負い一人

そう、常識的に考えて負ける要因など何一つなかったはずだ

もし誤算があったとしたら、それは・・・


「これが・・・シングルナンバーだとでもいうのか・・・!!!」


最初の9人にして最強の暗殺者達

その力を見誤った事


「くっ! くそっ!!! サツキ!!! 父さん!!! があああっ!!!」

「ケイ!!!」


鬼神と化した「9」により、次々と倒れていく仲間達・・・!

残っているのはサツキを含めあと3人・・・!


「こうなれば・・・!!!」


その時!

指揮を執っていたサツキ自ら、突撃銃を連射しながら「9」に向かって突撃を開始した!


「うあああああっっっっっ!!!!!」


銃を連射しながらもう片方の手でナイフを取り出すサツキ!


ザンッ!!!


「頼む・・・! サツキ!!!」


残っていた二人も「9」の斬撃を受け倒れる! 残っているのはサツキ一人!!!

だが構わず、サツキは「9」に向かって真っすぐ突っ込んでいく!!!


(奴を倒す!!! この身と引き換えにしても!!!)


それは特攻!

相打ち狙いの突撃だ!


(奴の刀が私を斬り裂いた瞬間! このナイフを奴の心臓に突き立ててやる!!!)


「ッ!!!」


その覚悟を察知したのか、「9」は刀を構えサツキを迎撃する体勢に入る!

そしてサツキも弾切れになった銃を捨て、ナイフを構え「9」に向かって突撃する!


「「5」の為に!!!」

「ッ!?」


突撃してきたサツキに向かって刀を振り下ろす「9」! そして・・・!!!


ザシュッ!!! ドスッ!!!


「9」の刀が振り下ろされ、サツキのナイフが突き立てられた

だがその攻撃は、互いの身体には届いてはおらず・・・


「ッ!!! 「5」・・・!!!」

「なっ・・・!!!」


二人の間に割り込んできた「5」の身体によって遮られたのだった











「そんな・・・「5」・・・!」


「5」の心臓に突き立てられたナイフから手を離すと、サツキは愕然とした表情のままよろよろと後ろに下がっていく

だが、そんなサツキに向かって「5」はフッと笑みを浮かべると


「無事か・・・? サツキ・・・」

「「5」・・・、父さん・・・!」


その時、咄嗟に間合いを離していた「9」は、驚愕した表情で目の前の光景に目を向けていた


(なっ!? どういう事だ・・・!? 「記録・無限再生」が維持されている限り「5」は動けないはず! それが「5」の能力のデメリットだったはずだ・・・!)


拘束されていたはずの「5」の乱入に動揺する「9」。しかし・・・


(・・・! そうか・・・そういうことか・・・「5」)


全てを理解すると、刀を手に持ったままその場に立ち尽くす


「下がっていろサツキ・・・奴との決着を付ける」


そう言いながら「5」は胸に突き刺さっていたサツキのナイフを引き抜くと

「9」に向かって振り向き、構える・・・!


「そういう訳だ、決着を付けるぞ「9」」

「・・・それが貴方の選択か。・・・分かった、受けようナンバー・「5」」


そして「9」も刀を構えると、周囲がしん、と静まり返る


次が最後の攻撃

二人の間に高まる緊張感。その時・・・


「えっ・・・?」


ポタリ・・・と地面に何かが落ちた

地面に落ちたそれは地面に赤いシミを作る


それは血だ、「5」の胸の傷口から流れ出た赤い血液

それを見たサツキの表情が強張っていく


「なん・・・で・・・?」


なんで血液が・・・?

なんで怪我が治っていな・・・


サツキがそう考えた瞬間!!!


「ナイィィィィンッッッッッ!!!!!」

「ファイブッッッッッ!!!!!」


同時に!!! 「5」と「9」が駆け出す!!!


ブンッ!!!


次の瞬間、互いの間合いに入った二人は同時に攻撃を繰り出した!!!


ドスッ・・・!!!


「ぐっ・・・!」


「9」の胸に突き刺さったナイフ

だが、僅かにそれは急所を外れていた。 そして・・・


「見事だ・・・「9」。お前の・・・勝ちだ・・・」


折れた刀に胴体を貫かれながらそう呟くと

「5」はフッと笑みを浮かべながら倒れた






「あ! あああああっ!!! 父さん!!! 父さん!!!!!」


泣きながらそう叫ぶと、サツキは倒れた「5」の元へ駆け寄る


「そんな! どうして・・・!」


普段であれば一瞬で再生するはずの傷

だが倒れた「5」の傷口からはどくどくと、赤い血が流れ続けていた


「まさか・・・あの時、私を庇ったから・・・!」


「5」の能力「不死身の突撃兵」

どんな怪我を負っても再生するが、その代償として攻撃と認識した物を回避出来なくなる能力


だがあの瞬間

相打ち狙いで「9」に向かって行くサツキを助けるべく

「5」はその能力を「捨てた」のだ


「・・・ッ! そうだ! まだ私の能力が!!! こんな怪我今すぐ!!!」


そう言って能力を発動させようとするサツキ、だが・・・


「止めろ、必要ない・・・」


そう言って「5」は、能力を使おうとするサツキを制止する。その時・・・


「「5」・・・」


重傷を負った「9」がよろよろと「5」の元へ歩み寄る


「ッ!!!」


即座に「9」に向かって襲い掛かろうとするサツキだったが、「5」はそんなサツキの腕を握って引き留める

そして「9」に向かって言った


「お前の覚悟見せてもらったぞ・・・「9」」

「「5」・・・。これで良かったのか・・・? もし貴方が能力を捨てなければ、私はいずれ能力を維持出来ず力尽き、最終的に立っていたのは貴方の方だったはずだ。それなのに何故・・・」


その「9」の問いに対し、「5」は笑みを浮かべながらこう答えた


「勘違いするなよ「9」。私は私の選択に満足している・・・。私は・・・ようやく振り向く事が出来た・・・」






軍の英雄、「不死身の突撃兵」と呼ばれた男


幾多の戦場に於いて、彼は決して恐れず前に進み続けた


勇敢に戦い続けた、敵を倒し続けた


そんな彼を、皆が褒めたたえた


だが・・・






「敵を倒す為と自らを欺き、積み重ねた犠牲に目を向ける事なく。それから目を背ける様にして前に進み続けた・・・。私は勇敢などではない・・・。臆病者の私は今まで後ろを振り返る事が出来なかっただけだ・・・。私が前に進む為の代償、それを認める事が出来なかっただけだ・・・」

「父さん・・・」


後悔、葛藤

様々な感情を引きずりながら、それでも新たにくる世界の為に進み続けた

そこにさえたどり着ければ、自分が支払ってきた犠牲にも意味があったのだと言える気がしたのだ

彼らに報いる事が出来たのだと胸を張れる気がしたのだ。だが・・・


「だが本当は・・・私は私が犠牲にしてきた者をこそ救いたかった・・・」


背後に積み重なった犠牲の山

それは本当に支払われるべき代償だったのだろうか?


もしかしたら・・・戦友達と共に生き残る未来もあったのではないだろうか?

もし自分が勇気を出して前ではなく、後ろを振り返っていたのならば・・・


「そうやって、私はずっと間違え続けてきた・・・。間違っていると知りながら、犠牲を積み重ね続けてきた・・・。だが、最後の最後に・・・サツキ、お前のお陰で私は正しい選択が出来た。後ろを振り向く事が出来た・・・」


じょじょに弱くなっていく「5」の呼吸音

その時、「5」が「9」に向かって言う


「「9」・・・図々しい願いだと言うのは分かっているが・・・」

「ああ、分かっている」


その言葉に頷くと「9」はサツキに向かって言った


「サツキと言ったか? 倒れている者達の手当をしてこの場から立ち去るがいい」

「えっ・・・?」

「全員急所は外してある、すぐに手当てすれば命に別状はないはずだ」


その言葉に周囲を見渡すサツキ

隊員達は全員血を流し倒れていたが、死んでいる者は一人も居なかった


「何故・・・?」


茫然とした顔で疑問の声を上げるサツキに「9」は答える


「護国の為、民の為。それが私の戦う理由。そして、彼が・・・「5」が護ろうとした者も、私にとっては護るべきものだからだ」


その言葉にフッと笑みを浮かべると、最後に「5」はサツキに向かって言った


「済まなかったなサツキ・・・。お前達の生きる未来を作る・・・。お前達から大切な物を奪ったせめてもの罪滅ぼしに、それだけは成し遂げようと思っていたのだが・・・どうやら私はここまでだ・・・。道半ばで去る私をいくらでも憎んでくれ」

「父さん!!! 違う!!! 違うよ!!!」


その言葉にサツキは涙を流しながら首を横に振る


「私は・・・ううん、私達は誰も父さんを恨んだりなんてしてない! 確かに父さんは私達から大切な物を奪った・・・けれど、父さんは私達を見捨てたりしなかった! 私達を犠牲の一つだと切り捨てる様な事はしなかった!」

「サツキ・・・」

「だから私達は父さんに付いてきた! 貴方は仇であると同時に私達の大切な人だった! だから私達は・・・!」


そう叫んで言葉を詰まらせるサツキの頭に手を乗せると、「5」は微笑みながら呟いた


「そうか・・・。私の贖罪は・・・既に終わっていたのか・・・。ああ・・・良かった・・・」


そして「5」は満足そうに笑いながら、目を閉じた











「ううあああああっっっっっ・・・! 父さん・・・! 父さん!!!!!」


「5」の亡骸に縋りつきながら涙を流すサツキ

その姿に少しだけ悲しみの表情を浮かべながら

「9」は刀を下ろし、フッと息を吐き出すと通信機に向かって言った


「・・・こちら「9」。「5」を倒した」


だが・・・


ザーッザザッー・・・!


監査官である御貴からの返事はなく、耳障りなノイズ音だけが返ってくる


(何だ・・・? 通信が・・・?)


通信が繋がらない事に首を傾げる「9」

・・・その瞬間!!!


「・・・ようやく緊張を解いたな?」

「ッ!!!!! 何ッ!!!???」


背後からの声に「9」は即座に迎撃態勢を取ろうとする! だが・・・!!!


ドスッ!!!


「がはっ・・・!!!」

「・・・オレの勝ちだ、「9」」

「き・・・貴様はッ・・・!!!」


「9」が振り向くよりも速く!!!

背後からの凶刃が、「9」の身体を貫いたのだった・・・!!!

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