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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第九章:資格者達は玉座を目指し、その命は最後の輝きを見せる
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正しさも間違いもなく


この国の国民なら誰もが知っている事だとは思うが

自衛隊とはその名の通り、専守防衛の理念に基づき設置された日本の組織である

体面がどうであれ、武力を持った武装組織である事には違いないだろう


しかし、我々の持つ武力が行使される事は決してあってはならない

その組織の一員として、我々はただの抑止力であるべきだと私は強く思っていた


ただそこに存在しているだけでいい

厳しい訓練によって積み上げた技術も、非常に高価な武器の数々も実際に行使する事はない


戦争をしない軍隊

それが我々の誇りであり、我々の正しさなのだと






だが、2021年

そんな我々に、その武力を行使する初めての機会が訪れた


敵は我が国に侵略を試みる諸外国・・・などではなく

この国の首都東京に突如として現れた「接続者」と呼ばれる超人達だった


人知を超える力を持つ接続者達に対し

本来この国の治安を担うべき警察組織は成すすべなく、政府は自衛隊の投入を決定


戦場は国内、敵は元々は同じ国民だった者達

戦争をしない軍隊である我々にとって

おおよそ考えうる最悪の形での戦争が始まったのだった










暗殺者ナンバー・「5」

元陸上自衛隊所属、克摩桐吾かつまとうご曹長


当時の私は能力など持たない、ただの兵士の一人

自らの行いを正義だと信じていた、ただの愚かな男だった











突撃銃を手に、戦場と化した市街地を走る

牽制をしながら走る私の横を敵の攻撃がかすめ、後ろに居た仲間の腕を吹っ飛ばした!


私の仲間の腕を吹っ飛ばしたのはほんの小さな針だ

腕に刺さった小さな針が、まるでグレネード弾の様に爆発したのだ


「くそっ! 衛生兵を! 早く!!!」


ダダダダダッッッ!!!


私は手に持った突撃銃で更に牽制攻撃を仕掛けるが、敵はまるで野生の虎の様に素早く飛び跳ねこれをかわす


(弾丸をかわす!? なんなんだこれは・・・!? 悪い夢か何かなのか!?)


あれは人間ではない

ヒトの形をしているが決してヒトではない

ヒトはあんなに早く動いたりはしない


「援護するぞ! 克摩!!!」


私の射撃に合わせ、仲間達が敵に集中砲火を仕掛ける


「ッ!?」


それで不利と悟ったのか、敵は素早く身を翻し撤退していった

逃げて行った敵に対し、仲間の一人が焦燥した様な声で叫ぶ


「くそっ! あんなに撃って一発も当たらないなんて! なんなんだあいつらは!? 一体この戦場は何なんだ!?」


この国の国民を守る為

そんな理念を持って踏み込んだ戦場は、私の理解を遥かに超える物だった


敵は兵隊ではなく超能力者

人間とは思えない程の身体能力と、それぞれ特異な能力を持った敵

まるでゾンビかエイリアンを相手に戦う、B級映画の様な悪夢だ


「ぐあっ・・・!」


苛烈極まる戦場で

仲間は一人、また一人と倒れていく


「くっ!? また襲撃か!?」


もはや何度目になるかも分からない遭遇戦

仲間の叫び声で私はすぐに戦闘態勢に入ろうとする。だがその時・・・!


ビシャッ・・・!


私の顔に真っ赤な血が飛び散る

目の前を見れば、牽制を仕掛けていた仲間の身体にコルクをくりぬいたかの様な穴がいくつも空き、そこから血が噴き出していた所だった・・・!


「克・・・摩・・・」

「・・・」


絶命する仲間の姿に、私は唖然とした様に口を開けたまま黙り込む

そんな私の心を占める物・・・それは怒り

仲間を殺した敵に対する怒りだ






今にして思えば、あの時の私は完全に正気を失っていた

度重なる仲間の死に、私の精神は耐えきれなかったのだ






「ッ!!! うおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」


物陰から飛び出すと、私は雄たけびを上げながら突撃を開始した!!!

突撃銃を乱射しながらひたすら前に走り続ける!!!


「なっ!? 何!?」


私の突撃に敵は慌てて対処しようとするが、私は敵の反撃など構わず走り続ける!


「うおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」


ダダダダダッッッッッッ!!!!!


その時、私の撃った弾丸の一発が接続者の肩に命中する!


「ぐあっ!!!」


敵の肩から流れる赤い血・・・


「当たった!? 克摩がやったのか!?」


そう、敵は超人だが無敵ではない

その事実が、恐慌状態にあった仲間達を奮い立たせた


「行けるぞ・・・! 全員克摩曹長に続け!!!」

「お! おおおおおっ!!!」


私の突撃を期に攻勢へと転じた他の仲間達


「なっ!? 何っ!? うおあああっ!!!」

「やった! 倒せるぞ! 次の敵に火力を集中させろ!」


集中砲火を食らい倒れる接続者

いくら人知を超えた力を持つとは言え、数で勝るこちらの一斉突撃を受ければ対処しきれない

優勢から一転、なすすべもなく倒されていく接続者達

それが我々の反攻の始まりだった






その戦場で勝利を収めた私の部隊は次の戦場へ


「進めーーー!!!」


走る、走る、走る

銃を手に、敵を殺し、ただひたすら前に向かって走る


「突撃ーーー!!! 曹長に続けーーー!!!」


人はそんな私の姿を英雄と、「不死身の突撃兵」と呼んだ。そして・・・


「ぐあっ・・・!」


最後まで抵抗し続けていた敵が銃弾を食らい倒れる


「これで最後か・・・?」

「・・・ああ、敵の反撃なし。我々の・・・我々の勝利だ!!!」

「おおおおおっ!!!」


1年に及ぶ戦いの末、我々は接続者達をグラウンドゼロへと追い込む事に成功

我々は勝利を収めたのだ。だが・・・


「みんな・・・?」


戦いが終わり、ようやく後ろを振り向いた私の背後には・・・


「誰も・・・いないのか・・・?」


そう、誰もいなかった


両親共に警察官で生真面目な性格だった須藤

訓練のせいで体重が20キロも落ちたとぼやいていた矢島

銃オタクだから入隊したと笑って話していた西田も

この作戦が終わったら田舎に帰ると言っていた菊池も


誰一人として生きてついてはこれなかった

不死身だったのは、私一人だけだったのだ











戦いの終わった戦場に立ち尽くす


「我々は・・・勝利したのだろうか・・・?」


この戦いに勝利する為、我々は多くの犠牲を支払った

だが、それで一体何を手に入れたと言うのだろうか?


「平和か? これでこの国に平和が訪れると言うのか・・・?」


その答えを探す様にあてどなく歩く。その時・・・


「・・・泣き声?」


遠くから子供の泣き声が聞こえてきた

私は泣き声のする方へ歩いていき・・・

そして、そこで見た物は・・・


「おとうさん・・・! おとうさん・・・!」


血を流し倒れていた男と、その側に寄り添う2~3歳程の子供だった


「子供・・・? 何故こんな場所に・・・?」


私が思わずそう呟くと、子供はハッとした様にこちらを振り向く。そして・・・


「ッ!!!」


近くにあったガラスの破片を手に取ると、私に対して真っ直ぐに殺意を向けてきた


「・・・そうか。そういう事だったのか・・・」


倒れていたのは接続者だ

最後まで抵抗してきた接続者達、何故彼らが逃げ出さなかったのか

その理由がこれだったのだ


(国の為、民の為。そんな言葉を信じて多くの仲間が死んでいった。だが、私達がやっていたのはそんな立派な物ではなかった)


そう、自分達がやっていたのは戦争だった

敵は化け物ではない、人間だったのだ


(あれはヒトではないのだと、化け物なのだと。そう思い込もうとしていた、そうでなければ戦えなかった)


その時・・・!


「ッ!!!」


茫然と立ち尽くす私の懐に子供が飛び込んでくる

その動きは子供とは思えない程の俊敏な動きだ


「死ね!!!!!」


そして子供は飛び上がると、その手に持っていたガラス片を私の心臓に向かって迷う事なく振り下ろした!


ザクッ! とガラス片が私の左胸に突き刺さる

心臓まで深々と抉られた傷口から血が噴き出し、私はその場に崩れ落ちた。だが・・・


「ああ・・・そうか・・・。私は・・・「不死身」だったな・・・」


傷口から流れていた血が止まる

致命傷だったはずの傷はすでに跡形もなく消え去っていた


「なんで・・・!? こいつも接続者!?」


恐怖で足をすくませる子供に対し、私は目の前まで近づいていく。そして・・・


「私が憎いか?」


膝を付き、目線を合わせるとそう問いかける

その問いに対して、子供はしばらく考え込んでいたが


「・・・」


目に涙をにじませながらゆっくりと、子供は首を縦に振る


「そうか・・・」


私はそう言うとスッと立ち上がり、子供に背を向ける。そして・・・


「ついて来い、殺し方を教えてやる」


それだけ言うと、返事も待たずに歩き出した


「・・・」


少しだけ考えた後、その子供は何も言わず

男の後に付いていくのだった











「戦場で敵を幾人も殺してきた私は英雄か? 人殺しか?」

「克摩曹長・・・」

「お前は護国の為に戦うと言った。だが、国とは何だ? 民とは何だ? 何が正義だ? 何が悪だ?」


「5」が戦場で見た物

それは、正義でも悪でもなかった


「正しかったのは何だ? 国の為に命を捧げた私の仲間達か? 間違っていたのは何だ? 子供を守る為に抵抗し続けた接続者達か?」

「・・・」

「・・・いや違う、どちらでもない。元々この世に正義も悪も、正しさも間違いも存在していない。私が見た戦場、そこにあったのは弱い物が虐げられるというただの「摂理」だ」


そう、勝者と敗者の間にある物はただそれだけ。そして・・・


「だから私はその摂理に抗うと決めた。この世界に正義も悪も存在しないのなら、私は私が守る物の為だけに戦う。弱者が虐げられる、その摂理を破壊する為、私はこの世界を破壊する。弱者が虐げられる事のない世界の為に、私が「1」の側に付いた理由はそれだけだ」


だがその言葉に「9」は首を横に振る


「接続者だけの世界になったとしても、結局その中で強者と弱者が生まれるだけだ! 貴方の理想が叶う事はない!」


そう叫ぶ「9」に対し、「5」は一切表情を変える事なく言った


「もしそうなったのなら、その時は私が「1」を殺し、もう一度世界を創り直そう。何度でも、何度でも・・・。それが私の・・・何も知らないまま力を行使した私の贖罪だ」

「くっ・・・!」


凄まじい「5」の気迫に、「9」が後ずさる


「分かるか? 「9」。私とお前では覚悟が違う。護国の為、正義の為と自分を偽り戦う者に、私は倒せない」

「私の覚悟が偽りだと言うのか・・・!?」


刀の柄を強く握る「9」。しかし・・・


「そうだ偽りだ。この偽りしか存在しない世界を守ろうとする、ならばその覚悟も偽りに過ぎない」

「ッ!!! ナンバー・「5」!!!!!」


「9」が刀を構えると同時に、「5」も突撃銃を両手に構える!


「なら試してみろ! 私の信念と貴方の信念! 生き残るのがどちらか!!!」

「吠えたな!? ならば来い! ナンバー・「9」!!! 正義と言う名の幻想を抱きながら死ね!!!」


そして、互いの覚悟をぶつけ合う

シングルナンバー同士の戦いが、再び幕を開けたのだった!

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