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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第八章:革命の生贄は起源へと捧げられ
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静かなる開戦


冬香と「13」が暗殺課を離れてから3日後

街の明かりすらも落ちた深夜0時

辺りは静まり返り、車が走る音すら聞こえない。だがその時・・・


「・・・?」


突然、部屋の隅で毛布を被っていた「13」が目を覚まし窓の方へ歩いていく

そしてビルの窓から静寂と暗闇に包まれた街を見下ろすと、すぐに近くで眠っていた冬香を起こす


「おい、起きろ冬香」

「・・・ん? なんだ「13」・・・こんな夜中に」

「動いた」

「・・・何!?」


その「13」の言葉に冬香は飛び起きると、近くにあった自分のジャケットに袖を通しながら言う


「どういう事だ? 多国籍軍はまだ東京防壁の外で編成中のはず」

「さあな、だがかなり訓練された部隊だ。俺でも気配を感じるのがやっと、恐らくは何処かの国の特殊部隊だろう・・・」

「特殊部隊・・・」


一体何処の国が送り込んだのか・・・?

目的はまず間違いなく、「1」とオリジンのはずだが・・・


考え込む冬香に対し、戦闘服の上にコートを着込んだ「13」が問いかける


「どうする? 冬香」

「・・・」


現状分かっている事は多くない

しかし、ここで動かなければ手遅れになる可能性もある


そう決断すると、冬香はホルスターの中の銃の感触を確かめながら答えた


「・・・行くぞ、「13」」

「了解」


そして二人は東京スカイツリー跡に向かって移動を開始した











同じ頃・・・


「動いた? 何処の国じゃ?」


暗殺課の方でも、謎の部隊の行動をキャッチしていた


「A国よ」


吹連が「4」に答えた国の名前

それは竜尾会のバックに付いていたとある大国の名だった


その答えに、「4」は少し考える素振りを見せながら言う


「ふむ・・・。この行動の速さからして、ゾーフ襲撃前から部隊を送り込んでいたのじゃろう。大方、別の悪さをする為に部隊を向かわせておったが丁度良くオリジンを手に入れられるチャンスが巡ってきたので、これ幸いと東京周辺で待機していた部隊を動かした・・・という所じゃな」

「ええ。こちらに向いていた矛先が、そっくりそのまま「1」に向けられた形ね」


A国によるオリジン奪取作戦

他の国が多国籍軍の編成を急ぐ中、偶然から先手を打つことに成功したA国

成功すれば、オリジンを手にしたA国は他の国に対し大きなアドバンテージを得る事が出来るが・・・


「それで? 儂らはどうする?」


そう問いかける「4」に対し、吹連はデスクの椅子に腰を掛けたまま答える


「待機よ。政府からの待機命令はまだ継続中、暗殺者を動かす訳にはいかないわ」

「まあ、そうじゃろうな」


そして「4」は、ドサッとソファーに腰を下ろしながら言う


「この程度で奴が殺せるなら苦労はせん。むしろその特殊部隊とやらに同情するな」

「そういう事よ」


A国に対する二人の対応は冷ややかな物だった。しかし・・・


(あの二人はどう動く・・・? こんなつまらん戦いで死ぬなよ? 「13」・・・)


ほんのわずかな懸念を胸に抱き、「4」は目を閉じるのだった











冬香と「13」が行動を開始して数十分後

ビルの上から次のビルの上へ、「13」は冬香を抱えたまま飛び移っていく


ギュイイイイッ! と音を立て右手の義手に搭載されたモーターがワイヤーを巻き取り

闇に包まれた市街地の空を二人の影が疾走する


そして隅田川を超えた辺りのビルの屋上にたどり着くと、「13」は冬香を下ろして言う


「これ以上近づくと例の部隊に感づかれる。この位置で様子を伺うぞ」

「分かった」


そう答えると、冬香は眼前の光景を見下ろしながら言う


「この辺りはグラウンドゼロ、旧山手線エリアからは遠い普通の市街地のはず・・・。それにしては静かだ」

「だろうな。端末を確認してみろ」

「?」


「13」の言葉に首を傾げながらポケットから携帯端末を取り出す冬香、しかし・・・


「電波が・・・繋がらない」

「おそらくオリジンが移動した影響だろう。以前は霞が関を中心に展開されていた不可視領域が、今はスカイツリー跡を中心に展開されている。言ってしまえば、ここは新しいグラウンドゼロ内部と言う事だ」


「1」がオリジンを奪取し北上、スカイツリーに移動させた事により

台東区、荒川区付近もオリジンの展開するジャミングフィールドの内部に飲み込まれる事となった


西エリアに比べ非常に治安が悪化していた東エリアに住んでいた為か

周辺住民は即座に異常を察知、蜘蛛の子を散らす様に街から逃げ出して行った。だが・・・


「ここで戦闘を始めるつもりか・・・」


東エリアでは警察による避難誘導も難しい

自主的に避難しているとは言え、まだ逃げ遅れている住民もいるかもしれない


しかしその時、眉間に皺を寄せる冬香に「13」が告げる


「目的を忘れるな冬香」

「「13」・・・」

「ここで俺達に出来る事は何もない。俺達の目的はあくまで「1」を殺す事だけだ」


その言葉に、冬香は軽く息を吐くと・・・


「ああ、分かっている」


そう答えて頷いた


そしてその後、しばらくして・・・


タタタタッ・・・


静寂に包まれた市街地の中に、静かに音が響く

耳を澄ましてようやく聞こえる程の音だったが、それは間違いなく銃声だ


「始まったか・・・」

「・・・行くぞ、冬香」

「ああ」


そう呟くと、二人は闇の中に身を隠すのだった











そのほんの少し前

暗闇の中、無人と化した街の中を闊歩する人影があった


「んでその時、オレは能力を使って言ったわけよ・・・」

「・・・うわ、マジか!」


何やら無駄話をしながら、近くのコンビニから奪った食料を口にし歩く二人組の男

二人は「1」がスカイツリー周辺に放った斥候部隊の一つ、怪しい何かがあれば本隊に報告する事が任務


当然ながら二人とも接続者であり

その強化された五感は、常人には感知出来ない異常であってもすぐ見つけ出す事が出来る


しかしながらその多くは、「1」に心酔した「5」や「7」「8」、本隊に所属する接続者達とは違い

「1」の圧倒的な力を目にし、その下に付いていれば自分達もおいしい目にあえると付いてきただけのゴロツキ上がり

訓練された兵士でもなければ、命を賭ける覚悟を持った戦士でもなかった


そしてそれ故に、暗闇の中から自分達に向けられている視線に気づく事はなく・・・


タタタッ・・・


サプレッサーの付いたライフルの音

能力を使う間もなく、一人が頭を撃ち抜かれた


「なっ!? 何だ!?」


突然頭を撃ち抜かれ倒れた仲間の姿を見ると、もう一人は即座に戦闘態勢に入る!


「そこか!!!」


そして僅かな発砲音から敵の位置を割り出し能力を放とうとした! だが・・・!


タタタッ!


「がっ・・・!」


その瞬間! 背後から放たれた銃弾により心臓や肺を撃ち抜かれ、地面に倒れ伏し絶命した


「クリア」


二人の接続者を一瞬で始末した影達はそれだけ言うと

ササッとハンドシグナルで合図をかわし素早く移動を開始する


迅速なる奇襲

夜戦装備に身を固めた、人類トップクラスの技量を持った部隊

彼らに狙われて命があった者は今まで誰一人としていない。だが・・・


「フッ・・・。来たか」


1キロ程離れた場所で起こった静かなる襲撃

にも関わらず、「1」はそれを感知するとニヤリと笑みを浮かべるのだった











そして闇の中、「1」の斥候を排除しながら迅速に行動するA国特殊部隊

彼らはじわじわと「1」の潜むスカイツリー跡に向かって進撃していく


「・・・」


ビルの陰から周囲を警戒する特殊部隊の兵士

周辺に人影の様な物はなく、後方の味方に合図を出し先へ進もうとする。だが・・・その時!!!


「アッハハハハハッ!!!!!」

「ッ!?」


突然の叫び声に銃を構える、だが敵の姿はない!


「上だ!!!」


一人の兵士が叫ぶと同時に全員が銃口を上に向ける! しかし!!!


「0.5秒遅いんだよ!!!」


ザシュッ!!!


上空から現れた影が手に持っていた中華刀を振り下ろした!!!

そしてそれと同時に銃を持っていた兵士達の一人、その両腕が斬り落とされ地面に落ちる!


「ぐあああああっ!!!」


両腕を斬り落とされ叫び声を上げる兵士!

上空から現れたのは元暗殺者、ナンバー・「7」だ!


「はははっ!!! おらっ!!!」


すかさず「7」は両手を失った兵士の体に中心に刀を突き刺した!


ビシャッ!


傷口から吹き出した返り血が「7」の顔を濡らす!

そして「7」はそのまま刀に突き刺さった兵士の身体を持ち上げ盾にすると、他の兵士達に向かって突っ込んだ!


「くっ! 撃て!!!」


タタタッ!!!


兵士達の判断は早く、すぐさま「7」に対し集中砲火を浴びせる!


「っと! こいつら!!!」


盾にされた味方ごと「7」を撃ち抜こうと弾幕を集中させる兵士達!

思った以上に対応の早い兵士達の行動に「7」の足が一瞬鈍る! しかしその瞬間!!!


「あの方の邪魔をする奴は、みんな死んじゃえ」

「ッ!?」


声が聞こえてきたのは背後!

しかし彼らが振り向くよりも早く! 幾筋もの刀の軌跡が彼らを斬り刻んだ!!!


「・・・ッ!!!」


叫び声を上げる暇もなく、バラバラになり絶命する兵士達

兵士達の背後から奇襲をしかけたのは「7」の双子の妹、ナンバー・「8」だった


彼女の前に広がる凄惨な光景

だが、一瞬で数人の命を奪った彼女はそれを気にする様子もなく

バラバラに分割され、血の海に沈んだ兵士達の死体を避けるようにし「7」の元へ駆け寄る


「もう! 「7」は突っ込みすぎ!」


そう言いながら、懐から取り出したハンカチで「7」の顔の返り血を拭く「8」


「悪い悪い。コイツラ思ったよりも動きが良かったから」


その時、「7」の腕に銃弾が掠めた跡があったのを「8」が見つける


「「二身同体ツーマンセル」」


そう「8」が呟くと同時に二人の瞳が発光

兄妹の能力が発動し、次の瞬間には「7」の腕についた傷跡は跡形もなくなっていた


「気を付けてよね!」


仲睦まじい双子の兄妹

しかし殺し合いの場に不釣り合いなその言葉は、双子の異常性を示すものでしかなかった


そして「7」が「8」に向かって苦笑いしながら、はいはいと答えていた。その時・・・!


「正面! 敵2!!!」


タタタッ!!!


現れた他の兵士達が、「7」と「8」に向かって銃口を向け即座に発砲する!


「おっと!」


だが双子はビルの壁を駆け上がる様にしてこれを回避しながら、笑みをうかべ話し合う


「まだまだ沢山いるぞ! 「8」!」

「全部殺そう! 「7」!」


そして双子は無邪気な笑みを浮かべたままビルの壁を蹴り!

上空から兵士達に向かって襲い掛かった!











「7」と「8」が交戦を開始した頃

異常を感知した「5」は直属の部下達に指示を出していた


「人間とは言え敵は手練れだ、油断するな」

「了解!」


そう答えると十数名程の接続者達が行動を開始する


斥候の部隊とは違う、足並みの揃った訓練された動き

さらに彼らが手に持っているのは旧式のアサルトライフル

彼らが接続者であると同時に、一流の兵士である事は誰の目にも明らかだった


そしてその部隊に指示を出す部隊長、一人の少女の姿・・・


「あの方の理想の世界を創りあげる為! お前達の訓練の成果を見せろ!」

「了解! サツキ隊長!」


それは、「5」を父と呼んだ少女の姿だった






「・・・」


部下達が行動を開始したのを見送ると

巨大なガトリング砲を手に「5」も出撃しようとする。だがその時・・・


「「5」。私も行こう」


出撃しようとする「5」に向かって背後から声がかかる

「5」の背後から現れた人物、それは彼らを率いるリーダー、ナンバー・「1」だった


「「1」が? この程度の敵、我々だけで十分だと思いますが」


「1」の言葉に対し、怪訝そうに問いかける「5」

だがしかしその問いに対し、「1」は笑みを浮かべたまま答える


「何、少しデモンストレーションを行う必要もある」

「デモンストレーション?」

「ああ。私の予想が当たっていれば、この後派手な花火を上げる事が出来そうなのでね」

「・・・そう言う事ならば」


そう言うと、「5」は「1」に頭を下げてから先に出撃する

そして一人残った「1」は、ニヤリと笑みを浮かべながら言う


「彼らには生贄になってもらおう。オリジンへと捧げる生贄、そして・・・世界に我々の存在を知らしめる為の生贄にな」

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