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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第八章:革命の生贄は起源へと捧げられ
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本当の契約


「あの二人は暗殺課の下を離れた。・・・これで「お前の指示通り」じゃな?」

「ええ。全て想定通りよ」


そう事もなげに答える吹連に、「4」はソファーに腰掛けたまま問いかける


「それで? 何故あの二人を自由にさせた?」


その「4」の問いに対し吹連はほんの少し考えた後、こう答えた


「これは現在、私とごく一部の人間だけが知る機密情報になるわ・・・」

「機密情報?」

「ええ。先日のゾーフ襲撃の際、ゾーフに移送されていたチップ、約5千が強奪されたの」


突然の吹連の言葉に疑問を抱きつつも、「4」は問いかける


「チップ? 外部電脳にセットするあのチップか?」

「ええ、そうよ」


その問いに首を縦に振ると、吹連は続ける


「持ち去ったのはナンバー・「1」と行動を共にしていた、カズヤと言う男」

「「13」と同じ技を使う男・・・「1」の元に下っていたか」

「ええ。チップを持ち去ったのも、恐らくは「1」の指示でしょう」


ゾーフ襲撃の裏で行われていたチップ強奪事件

しかし、それに対し「4」は首を傾げながら言う


「しかし、何故チップなどを持って行った? 外部電脳にセットして強化するにしても5千は多すぎるじゃろう」


外部電脳にチップをセットする事により、暗殺者は複数の能力を使用する事が出来る

しかしその為には高い能力適正が必要であり、現在最多能力を誇る「6」ですら10個程度である


その「4」の疑問に対し、吹連は・・・


「彼らがチップを持って行った理由はまだ不明よ。それより・・・」


そう答えると、声を潜めながら続きを言った


「そもそも・・・、何故ゾーフにチップが移送されていたのか? そこが問題であり、この情報を機密とした理由」

「・・・ふむ」

「暗殺者が外部電脳にセットしているチップ以外は、全て本部で厳重に保管されているはず。それが何故か、襲撃の数日前にゾーフへと全て移送されていた。まるで最初から彼らに引き渡す為の様に・・・」


その吹連の言葉に、「4」は軽く頷きながら答える


「・・・つまり、裏切り者が居るという事じゃな?」


その「4」の言葉に、吹連は黙って頷く


「・・・まあゾーフへの襲撃の時から情報が洩れている気はしておった、チップの横流しも言われて見れば納得じゃ」

「ええ、本部からなくなっていたチップは今回の件以外にもあったわ。チップの横流しはゾーフ襲撃以前から行われていたはず」

「じゃろうな、心当たりもある」


その時、「4」はゾーフから離脱する時に「1」が使った能力を思い出す


「1」がゾーフから離脱する時に使った「飛行」

恐らくあれは、「4」が仕留めた竜尾会の接続者「N・271」のチップ

本部に保管されていたはずのチップが横流しされ、「1」の元へと渡ったのだ


「ともかく・・・裏切り者が居る以上、こちらの動きは「1」に筒抜けになっていると考えるべきね」

「なら、その裏切り者を始末するというのは?」

「・・・確証がないわ。既にアタリは付けているのだけれど、どうしても尻尾が掴めない・・・」

「ふむ・・・。しかしこちらの動きが掴まれているのでは「1」の暗殺どころではないぞ」


そう顔をしかめながら言う「4」

だが吹連は一切表情を変えず、今の状況を確認する様に続けて言った


「現在、東京周辺で多国籍軍が編成されている。近々「1」を捕獲する為、グラウンドゼロへ進軍を開始するわ」

「そして奴、「1」はそこで起こる戦争によって生まれる人間の感情をオリジンへと捧げる、じゃろう?」

「ええ、でもそれだけじゃ「1」の計画は成就しない。「1」がオリジンとの完全接続を果たす為には、人間の感情によるオリジンの覚醒。それともう一つ・・・」


そう、それは吹連が先程の会議ではあえて口にしなかった事


「現在残っている8名の「資格者」、「1」が目的を達成するにはその最後の一人にならなければならないわ」


オリジンとの接続を果たした10人の接続者

脱落した「2」と「3」を除けば、残りは8名


「「1」は奴の思想に同調した「5」「7」「8」を除くこちら側の資格者、「4」「6」「9」「13」の4人を倒さなければならない。その為には・・・」

「・・・なるほど。「1」は自分とオリジンを餌にし多国籍軍をおびき寄せ戦争を起こし、そして今度はその戦争を餌にして儂らをおびき寄せ始末するつもりだったわけか」


それが「1」が描いたシナリオ、だがしかし・・・


「けれど・・・現在我々には政府から待機命令が出されている状態。「1」の誘いに乗るにしても下りるにしても、どちらにせよ我々の方から動く事は出来ない」

「ふむ。しかし「1」にとっても、儂らが出てこない状況は望ましい物ではないじゃろうな。なんとしてでも戦いを引き延ばし、儂らを引きずり出そうとしてくる」

「ええ。軍隊程度に「1」がどうにか出来るとは思えない、戦いが長引けば我々暗殺課の出番が必ず来る。最悪の事態を避ける為か、もしくは我々を利用する為か。いずれにせよ、必ず我々に出動要請が来るでしょう。そして、そこで再度問題になるのが・・・」

「裏切り者か・・・」


いずれ起こるであろう全面衝突

しかし、裏切り者がいる状態でこれに臨むのは自殺行為と言っていい


「「1」との衝突までに裏切り者を始末するのも難しい。だから私はこの場に一つ、「不確定要素」を作り出す事にした」

「不確定要素じゃと・・・?」

「ええ。我々の命令に従わない、「裏切り者」にも動きが掴めない。独自で行動し「1」の命をつけ狙う「復讐鬼」。霧生監査官と「13」を」


その言葉に、「4」は僅かにピクリと眉をひそめる


「いつ何処から襲い掛かってくるか分からない。今「1」にとって「13」は、真の意味で闇に潜む「暗殺者あんさつしゃ」となっているわ」

「なるほど・・・。この戦場に於いて「13」の存在は誰にも予測出来ないイレギュラー・・・」

「ええ。そして「13」が「資格者」である以上、「1」は「13」を決して無視出来ない」


そして続けて、吹連は言う


「おそらく「13」と霧生監査官は、多国籍軍か我々の行動に乗じて「1」の命を狙うはず。けれど・・・それは必ず失敗するわ。元暗殺者であるナンバー・「1」を暗殺するのは絶対に不可能。けれど彼らが「1」に仕掛けるその時、必ず隙が生まれるはず」

「・・・」

「そこを「4」、貴方がトドメを刺すのよ」


そう冷静に作戦を告げる吹連に、「4」は一言問いかける


「つまり・・・「13」と霧生監査官を囮として使う気か?」


いつになく冷たい口調の「4」の言葉

手塩にかけた弟子と、前課長の娘を捨て石にしろという命令に対し

「4」は吹連の瞳を冷たく見つめながら是非を問いかける


だがしかし、その「4」の問いに対し吹連は・・・


「・・・言ったはずよ「4」。私は「どんな手でも使う」と」


一切動揺する事なく、「4」の瞳を見つめ返したままハッキリとそう言い放った

そして、「4」に対し冷徹に命令を下す


「「4」。ナンバー・「1」を殺せるのは、暗殺者ナンバー・「4」以外に存在しない。貴方がやるのよ、いいわね?」


その吹連の命令に対し「4」は・・・


「・・・ああ、任せておけ。ヤツは儂が必ず殺す・・・」


そう、静かに答えたのだった











それから半日程経った夜

新宿から山手線を北周りに迂回、東京東部エリアのとある無人ビルに「13」と冬香の姿があった


「食料だ。腹に入れておけ」


そう言いながら、冬香にビニール袋を渡す「13」

冬香はその袋を受け取り、暗闇の中、目を凝らして中身を確認する


「これは・・・」


中に入っていたのは軍でも使われている固形食と、ペットボトルに入った水だった

ふと横を見ると、「13」はその味気も何もない食料を無表情のままボソボソと口にしている


「・・・」


しかし冬香はその食料に口を付けようとはせず、無言のまま俯いていた。その時・・・


「どうした? 冬香」


無言のままの冬香に「13」が問いかける

だが、その問いに対し冬香は答えない

「13」も再度問いかけようとはせず、しばらく二人の間に沈黙が漂う


しばらくして、ようやく冬香が口を開いた


「「13」・・・どうしてお前は・・・」

「・・・」

「どうして・・・私に付いてきたんだ・・・?」


呟く様な小さな声で問いかける冬香

それに対し「13」は静かに、だがハッキリと答える


「それが契約だ。お前の父親の仇を討つ、お前が願って俺が叶えると言った。それがお前に付いてきた理由の全てだ」

「「13」・・・」


その言葉に冬香は静かに俯く、そして・・・


「それでも・・・私は納得出来ない。もしかしたらお前は、ただ私に同情しているだけなんじゃないかって・・・。もしかしたら私は、父親を殺された可哀想な女という立場を利用してお前を利用しているだけなんじゃないかって・・・」

「冬香・・・」

「そんな物、私は納得出来ない。お前をそんな物の為に危険に晒す訳にはいかない。だから・・・」


そう呟くと、冬香は着ていたシャツのボタンをゆっくりと外していく

全てのボタンを外しシャツを床にパサリと落とすと、冬香の肌があらわになる


「対価を支払う・・・」


暗闇に包まれた部屋の中、窓から射しこむ僅かな明かりだけがそれを照らし出していた


「・・・」


無言のまま、シャツを脱いだ冬香は他の衣服にも手をかける

しばらくして、全ての衣服を脱ぎすて一糸まとわぬ姿になった冬香は暗闇の中ゆっくりと「13」の側へ近づいていく


「私が持っている物はこれぐらいしかない。お前が私の復讐を叶えると言うのなら、私はお前に私の全てを捧げる」


そう言いながら、冬香は「13」のすぐ目の前に顔を寄せて呟く


「それがお前に支払う対価だ・・・」


そして、その唇を「13」の唇に近づけていく。だがその時・・・


「必要ない」

「えっ?」


そう言って、「13」は冬香を押しとどめた


「どうして止める・・・!? 私は私が納得する為に・・・!」


納得いかないと言った様子で叫ぶ冬香に、「13」は首を横に振って答える


「そうじゃない」


そして、「13」は目の前の冬香の瞳を見つめながら静かに告げた


「俺には生きる理由がない。だからいつ死んだって構わない、そう思っていた」

「・・・」

「だが・・・そんな俺にお前が言ったんだ・・・」


それは「13」を庇い、冬香がカズヤに刺された時・・・


(殺せ・・・13・・・。それまでは・・・絶対に死ぬな・・・)


冬香が最後に言った言葉


「お前の願いを叶えるまでは死ねない。あの時、俺は初めて心の底から生きたいと・・・そう願った」

「けどそれは・・・、私がお前をいい様に利用しようとしただけだ・・・」

「それの何が悪い。理由なんて何でもいい、生きる意味のなかった俺のただ一つの生きる意味。それをお前がくれたんだ」


そして「13」は、近くにあった自分のコートを冬香の肩にかけて言う


「いいか冬香、間違えないでくれ。お前の父親の仇を討つ。それがお前の復讐で、それが俺の生きる意味だ」

「「13」・・・」

「奴を殺す事は俺の望みでもある。だから冬香、お前は俺を利用しろ。お前の願いの為に俺に殺せと命令しろ」


その言葉に、冬香はフッと笑みを浮かべると「13」の身体に自身の身体を預けながら言う


「ああ、分かった。殺せ「13」・・・。私の復讐の為に、お前の生きる意味の為に。そして・・・」


その言葉に「13」は静かに頷き答えた


「俺達が生きる明日の為に・・・」






それが死神との本当の契約


女は死神に仇の死を願い


死神は女に生きる意味を与えてもらった


酷く歪な契約


生と死の狭間で明日を望んだ、死神との契約






そして、暗闇の中で寄り添いながら

冬香は静かに・・・


「そうだ、私は復讐を果たす。お前の全てを利用して奴を殺す。お前は・・・私だけの物だ・・・」


そう呟いたのだった

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