disconnection
10年前
ゼロ・オリジンとの完全接続実験の最中、突如として反旗を翻したナンバー・「1」
不測の事態に備え、ゾーフ周辺に配置されていた重武装の警官隊がこれの鎮圧に当たる。しかし・・・
ダダダダダッ!!!!!
警官隊の持つアサルトライフルから無数の弾丸が発射され弾幕を形成する!
しかしそれらの弾丸は「1」には一発も命中せず、「1」が通り過ぎた後の残像を撃ち抜くだけだ!
「くっ! 速い!!!」
「化け物め!!!」
建物の陰に隠れた「1」を追い詰める様に警官隊が移動、曲がり角の先に向かって銃を構える! だが・・・!
ヒュンッ!
「ッ!? がっ・・・!」
それを読んでいたかの様にナイフが飛来!
先頭の警官の頭に突き刺さる!
「なっ!?」
仲間をやられた他の警官達が動揺した・・・その瞬間!
「弱い」
「ッ!?」
シャッ!!!
真後ろから聞こえてきた声に対し警官達が振り向こうとするより早く、一筋の閃光が煌めいたかと思うと!
その場に居た全員の首から鮮血が飛び散る!
「脆い」
倒れた警官達に対し、苛立った様な表情を見せる「1」。だがその瞬間!
「ッ! あそこだ!!!」
ダダダダダッ!!!
すぐさま別の警官隊が増援に駆け付け「1」に向かって銃を乱射する!
「・・・」
「1」はそれを回避しながらビルの陰へ移動、またもや姿を消す!
「迂闊に追うな! 距離を保て!!! 弾幕を張って近づかせるな!!!」
警官隊の指揮に当たっていた警察本部本部長、「霧生彰」が大声で叫ぶ!
その指示に従い、陣形を組んで迎え撃とうする警官隊と
それに対し、物陰から物陰へ高速で移動しながら奇襲をしかける「1」
たった一人で反旗を翻した「1」に対し、配置されていた重武装の警官隊は100人近く
だが圧倒的な人数差であるにも関わらず、一人また一人と警官隊は倒れていく。そして・・・
「がっ・・・!」
最後の警官が倒れる
全くの無傷のまま警官隊を全滅させた「1」。だがその時・・・!
「九代!!!!!」
「1」の目の前にリボルバーを構えた霧生が現れ叫ぶ!
「何故だ・・・!? 九代!!! 何故裏切った!? 一体何があった!?」
「・・・」
その言葉に対し、「1」はゆっくりと霧生の方を振り向くと落ち着いた声で告げた
「人間は不完全だ」
「何・・・!?」
「人間は愚かで弱く脆い、そしてそれが創る世界もな。だが・・・接続者は違う、接続者ならば「完全な世界」を創りあげる事が可能なのだ」
「完全な世界だと・・・!?」
「そうだ。私はオリジンと接続した一瞬、ほんの一瞬だけその世界に触れる事が出来た。それは怒りも憎しみも、誤解も不安も存在しない完全な世界。我々は古い世界を捨て、新しい世界を手に入れるのだ」
「1」が語る言葉は常軌を逸している、とても正気とは思えない
だがその瞳に宿る輝きは暗殺課を設立したその時と同じ、世界を救うという確固たる信念が宿る瞳だった
「霧生。新しき世界の為、お前達古い人類は消え去れ!」
「九代ッ!!!!!」
パァンッ!!!
霧生が放った弾丸
突撃してきた「1」を十分に引きつけた上で放たれた一発!
バスッ!
「うぐっ・・・!」
それは「1」の左肩に命中し貫通する! だが・・・!
「・・・がっ!」
同時に「1」のナイフが霧生の心臓を貫いていた!
「自分の命と引き換えに一矢報いたか・・・。だがそこまでだ・・・!」
そう告げると! 「1」は霧生の心臓に突き立てたナイフを逆手で掴み直し、そのまま斬り上げる!
ザシュウッ!!!!!
左胸から肩にかけて切り裂かれ、鮮血を飛び散らせながら仰向けに倒れる霧生。そして・・・
「冬・・・香・・・」
最後にそう呟くと、僅かに動いていた右手が地面に落ちる
そして完全に息絶え、動かなくなった
「さらばだ霧生。お前と誓った理想は、私が必ず実現しよう」
「1」は自らトドメを刺した旧友に対しそう告げると、霧生に背を向けその場から立ち去ろうとする。だがその瞬間・・・!
「死ね、ナンバー「1」・・・!」
ヒュンッ!!!
「1」の身体を刺し貫く様に現れたナイフ!
それは「1」の真下! 霧生の死体の影の中からだった!
「ッ!!!」
咄嗟に身体を捻り回避行動を取る「1」!
完全に意表を突いた奇襲だったにも関わらず、「1」はこの一撃をなんとか回避し間合いを離す! そして・・・!
「「2」か・・・」
真っ黒な影からはい出る様に現れたのは、暗殺者ナンバー・「2」の姿だった!
「「2」・・・私を追ってきたのか」
そう呟く「1」対し、影から姿を現した「2」は静かに、殺気の籠った声で告げた
「「1」・・・。貴方の理由はどうでもいい。ただ死ね・・・何の意味もなく、ただ無様にこの場で屍を晒せ・・・!」
それだけ告げると、「2」の姿はまたもや影の中に溶け込み消える・・・!
「「2」の能力「影」か・・・。影のある場所からならどこからでも消え、現れる。厄介だな」
姿を消した「2」に対し、「1」は問いかける
「「2」、お前にも見えたはずだ、オリジンの世界が。全てが繋がった完全な世界が。オリジンに触れた我々9人がそれを導かねばならない、それが我々の使命だ。共に来い「2」」
そう呼びかける「1」だったが・・・!
「どうでもいいと言った・・・!」
「1」のすぐ側の影から現れ、同時に攻撃を仕掛ける「2」!
ギィィンッ!!!
「1」はこの一撃を手に持っていたナイフで受け止める!
そして反撃の体勢に入るが、既に「2」の姿は影の中に消えていた!
「フンッ・・・」
刃を交えたその瞬間、「1」に見えた憎悪に満ちた「2」の瞳
「個人の感情で動き大義を見失うか」
「個人の感情で何が悪い!」
能力を駆使し、一撃離脱を繰り返す「2」!
その苛烈な攻撃を「1」は紙一重でかわしていく! だが・・・
(ちっ・・・、先程霧生にやられた傷の出血が激しいな)
いくら超人的な身体能力を持っていたとしても、身体の構造は人間と大差はない
肩の銃創、弾丸が貫通した穴からは今なお血液が流れ続けていた
(並の接続者ならまだしも、「2」相手にこの状態はマズイ)
当然、「2」も「1」のダメージを理解した上で攻撃を仕掛けている
徐々に、だが確実に「1」の命を削っていく暗殺者の戦い方
反応が鈍くなりつつある左腕
「1」の表情にやや焦りが見え始める。だが・・・
(万が一の時は「能力」を使う事も考えねばならんか・・・)
その手にある「切り札」
それがある限り、同じ接続者相手ならば「1」に敗北は100%無い
ギィンッ!!!
そして何度目かになる「2」の攻撃!
「1」の背後、ビルの壁面から姿を現し攻撃を仕掛ける「2」! だが・・・!
「ッ!!!」
怒りに身を任せた結果、攻撃に勢いが付きすぎたのか
攻撃と同時に「2」の膝より上の部分が外へ飛び出る!
(間に合うッ!!!)
この戦闘が始まって初めて「2」が見せた隙!
「2」が影に潜るより自分の反撃の方が早い!
直感でそれを理解した「1」の身体は反射的に反撃を放とうとする! しかし・・・!
ザシュッ!
「何ッ!?」
突然、足にダメージを受けバランスを崩す「1」!
真下を見れば、影の中から「2」の足だけが飛び出し
ブーツに仕込まれていた隠しナイフが「1」の脛を切り裂いていた!
「身体の一部を別の影から・・・!」
それは「1」も知らなかった「2」の切り札!
仲間にも見せた事のない能力の応用技! 一度限りの奇襲攻撃だ!
「貰った・・・ッ!!!」
反撃の最中に態勢を崩した「1」に対し、影から姿を現した「2」がナイフで斬りかかる!
「チッ!!!」
タイミングは完璧
どう足掻いてもこの一撃をかわす事は不可能!
勝利を確信した「2」はナイフを振りかざしながら叫ぶ!
「死ね「1」!!! 姉さんの仇!!! 姉さんを「殺した」罪を償え!!!」
そして・・・それがトリガーとなった
「ッ!!!???」
突然! ナイフを振りかざそうとしていた「2」の動きが鈍る!
完璧かと思われた一撃はその遅れによって回避され空を切った
「なっ・・・!? 何で・・・!?」
何が起こったのか分からず驚愕する「2」
それに対し「2」の一撃を回避した「1」は、身体を捻った体勢のまま咄嗟に蹴りを放った!
「ッ!? ぐあっ!!!」
ドガァッ!!!
その何でもない蹴りを「2」はまともに食らうと、地面を転がりながら10メートル以上吹っ飛ばされる!
「ぐっ・・・「影」!!!」
ダメージを負った「2」はすぐさま影の中に潜ろうとする! しかし・・・
「えっ!? 能力が・・・? 「影」が発動しない・・・!」
その身体は影に溶け込む事はなく、接続者が放つ瞳の輝きも消えていた
「・・・そういう事か」
能力を発動出来ず焦燥した様子の「2」に対し、「1」は構えを解き「2」に向かってゆっくりと歩いていく
「ッ!!! 「1」!!!!!」
無防備に近づいてくる「1」に対し、「2」はその手に持っていたナイフで斬りつけようとする! だが・・・!
「フン・・・」
「1」は攻撃を仕掛けてきた「2」の一撃を軽々とかわすと、「2」の顔面に平手打ちを放つ!
パァンッ!
「うあっ・・・!」
そのただの平手打ちで地面に倒された「2」は、身体を起こしながら信じられないと言った様子で頬を押さえる
「能力が発動しない・・・!? それに身体の動きも鈍い・・・まるで・・・!」
そんな「2」に対し、「1」は冷酷に告げた
「・・・何が起こったのかは分からないが、どうやらお前は能力を失った様だな。まあ・・・ある意味そのお陰で「命拾い」をしたわけだが・・・」
パァンッ!
今度は「2」の顔面をを払いのける様に、右手の甲で逆の平手打ち
「2」は先程とは反対側に倒れ、その手からナイフが零れ落ちカランと音を立て転がっていく
「きっかけは・・・お前の姉の死か? お前の能力「影」は、自らが姉の「影」であるという認識から生まれた能力。姉が死んだ事を認めた事により、「影」は消え去った・・・という理屈か?」
「あ・・・ああ・・・」
冷静に状況を分析する「1」に対し、能力を失った「2」はただ茫然とうめき声をあげる
そう、私はずっと姉さんになりたかった
けどそんな夢が叶うはずがない
叶うはずがないから諦めていた、諦めていたつもりだった
けれど倒れた姉さんと、それを抱く宗次の姿を見てこう思ってしまったのだ
姉さんが居なくなれば私が姉さんの代わりに・・・
「私」が「私」になれる・・・と
不可能だと知りながらも追い続ける
矛盾した願いを持つ存在、それが接続者だと言うのなら
願いを「叶えて」しまった接続者は、もはや接続者ではない
「2」とオリジンの「接続」はこの瞬間に失われたのだ
「・・・残念だが、接続者でなくなったお前にもはや価値はない。他の人間達と共に死ぬがいい」
そう告げると「1」はナイフを構え、能力を失った「2」にトドメを刺そうとする! だがその時・・・!
「「2」!!!」
二人の間に一人の男が飛び込み、「2」をかばい「1」の目の前に立ちふさがった!
ギィンッ!!!
男の持っていたナイフと「1」のナイフがぶつかり激しい金属音を鳴らす
「2」をかばい「1」の攻撃を防いだ男、それはナンバー・「3」の姿だった
「ふう~・・・、まあギリギリ間に合ったみたいだな・・・」
突如乱入してきた「3」に対し、「1」は怪訝な表情を見せながら問いかける
「「3」、お前もそちら側に付くのか?」
「ん? そっちとかあっちとか何の事だ?」
軽薄そうな笑みを浮かべたままそう答える「3」
しかし、次の瞬間その表情が真面目な物に変わる
「「1」、アンタがアレを見てトチ狂いたくなった気持ちも分からなくはない。けど、俺は世界より美女の方を取らせてもらう」
「・・・ふざけているのか?」
「ふざけてるのはアンタさ。俺の目の黒いうちは「2」に手は出させねえ」
そして「3」は「2」の肩に手を置くと言った
「ま、そういう訳だから。「2」は先に戻っててくれ」
「「3」!!!」
「戻ったらデートの一つでもしてくれると嬉しいね」
そう「3」が告げると同時に「2」の姿がその場から消える
「3」の能力「転送」が発動したのだ
「我ながら便利な能力だねぇ・・・。まあ、自分自身は飛ばせないんだけど」
その時、「3」に対し「1」が言う
「「2」を逃がしたか。自らの命と引き換えに「2」を助けるとは殊勝な事だな」
「何・・・?」
怪訝な表情を浮かべながら「3」が振り向く
「3」の目に映る「1」の状態は最悪、肩からの出血はますます酷くなり顔色も悪い
そろそろ出血多量で意識も朦朧とし始めてきているはずだ
だがその瞳
この絶望的な状況にもかかわらず、「1」の瞳の底には絶対的な自信が映し出されていた
(何だ・・・? 「1」のこの自信は・・・?)
この状況で自分が負ける事などありえない
もしそんな「ありえない」事を起こせるとすれば、それは・・・
「まさかっ・・・!!!」
凄まじい悪寒を感じ「3」はすぐさま前方に向かって走り出す! しかし・・・!
「光栄に思え「3」。私の「能力」を見る事が出来るのはお前が初めてなのだからな」
「3」が攻撃を仕掛けるよりも早く「1」の両目が紫色に輝いた!
数分後
地面に倒れている「3」の死体を見下ろしていた「1」の元に、3人の人影が現れる
「呼びかけに答えたのはお前達3人だけか、「5」「7」「8」。まあいい・・・では行こう、新しい世界の為に」
その言葉に3人は頷くと、「1」に続きその場を去って行ったのだった
「以上が、事の顛末よ」
そこまで語ると、吹連課長はふう と息を吐き出してから続けて言った
「私は能力を失い、「3」は死亡。「5」「7」「8」は「1」に従い離反。シングルナンバーの約半数が裏切った上、東京警察本部本部長である霧生氏他、警官隊や研究職員等に100名近い死者を出す大惨事となった」
「10年前にそんな事が・・・」
驚きを隠せない冬香に対し、吹連の横で話を聞いていた「4」が補足する
「そして、当時の警察局はこの事件を隠蔽する事にした。まあ身内の裏切りによって100人以上の死者を出したわけじゃからな、前代未聞の不祥事というわけじゃ」
「・・・」
それが父の死の詳細を知らされなかった理由
全ては「1」の裏切りが原因だったのだ
「10年前。そして今また多くの命を奪ったナンバー・「1」を、決して生かしておくわけにはいきません」
そう、憎悪と決意が入り混じった声で告げる吹連。だがその時・・・
プルルルル・・・
会議室に通信端末の呼び出し音が鳴り響く
吹連は懐から端末を取り出し画面に表示された名を確認すると、応答を選択する
「・・・はい、特別治安維持課課長吹連です」
吹連は電話の相手と何やら話していたが・・・
「・・・了解しました。では、失礼します・・・」
そう答え電話を切ると一呼吸置いてから、その場に居た全員に告げた
「警察局の上・・・政府から直接要請がありました」
「!?」
吹連の言葉に室内の緊張感が高まる、そして・・・
「次の作戦、我々暗殺課には待機命令・・・。ナンバー・「1」に手を出すなとの命令が下りました」
静かにそう告げたのだった




