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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第八章:革命の生贄は起源へと捧げられ
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壊れる心


「10年前に何があったのか、その全てを話します」


吹連課長は冬香に対しそう答えると

モニターに映った男、ナンバー・「1」について語りだした


「元暗殺者、ナンバー・「1」、本名「九代くだい 誠壱郎せいいちろう」。暗殺者になる前は、警視庁公安部公安第五課課長だった男よ」

「公安第五課課長・・・」

「ええ。2020年から始まった接続者による犯罪行為、それに対し一番最初に対応に当たったのが公安第五課」


2020年、ゼロ・オリジンの飛来と同時に現れた接続者達

超能力者による犯罪という未曽有の事態に、警視庁は公安部公安第五課を対応に当たらせた


だがしかし・・・

人知を超えた力を持つ接続者達に対し、彼らは余りに無力だった


「強力な力を持つ接続者達に通常装備の警察官では太刀打ち出来ない。第五課課長であった九代は上層部に対し人員の増員や、装備の見直し・・・。そして、接続者に対する発砲、及び射殺の権利を上層部に訴えたわ」

「射殺・・・ですか」

「接続者に対し殺さず確保するというのがどれほど難しいか、霧生監査官もよく理解しているはずです」

「それは・・・はい」


吹連の言葉に冬香は頷く


殺人を肯定するわけではない

だが現実問題として、接続者を殺さず逮捕するというのがどれほど至難の技であるのかも分かっている


今の冬香達と同じく、当時第五課を率いていた九代もそれを理解していたのだ。しかし・・・


「・・・けれど、上層部はそれらの訴えを全て却下した」

「えっ!?」

「彼らは部下の身の安全よりも犯罪者の人権や生命の保護、対外的な体面を優先したのよ。そして結果的に公安部第五課は多くの人員を失い、公安部だけでは接続者達を抑える事が出来なくなり、最終的には自衛隊を自国の都市に対して投入する事となったわ」


2021年、爆発的に増え始めた接続者達に対し政府は自衛隊を投入

自衛隊と接続者達の戦いは正に「戦争」であり、旧山手線内側エリアは「戦場」と化したのだ


「それにより接続者達をグラウンド・ゼロ内部へと押し込め、東京はある程度の治安を回復したけれど、増え続ける接続者という根本的な問題に対処する事は出来なかった。そして丁度その頃よ、公安第五課課長であった九代誠壱郎が接続者になったのは。そして彼は、当時の刑事部捜査第一課課長であった「霧生きりゅうあきら」氏と共に新しい組織を立ち上げる事にした」

「私の父さんとナンバー・「1」が・・・!? じゃあもしかして、その組織というのが・・・!」

「ええ。「東京特別治安維持課」、通称「暗殺課」よ」






それは2021年、今から17年前の事

接続者となった九代誠壱郎は、捜査第一課課長であり友人でもあった霧生彰を呼び出し

そして彼に接続者としての力を見せてからこう言った


「霧生、私はこの力を平和の為に使いたいと思っている。その為に、お前に手伝ってほしい事があるのだ」

「手伝う? それは一体どういう事だ、九代・・・?」


戸惑う霧生に対し、九代は自らの構想を語る


「接続者に対し、通常の警察組織は余りに無力だ。だから私は新しい組織を立ち上げようと思う」

「新しい組織だと?」

「ああ、普通の手段で奴らを止める事は出来ん。「接続者」を倒す為には「接続者」の力が必要なのだ」

「では・・・まさか!」

「そうだ。私が接続者になった事は、これを成せと言う神の啓示だと私は受け取った。毒を以て毒を制す・・・接続者によって構成された対接続者用組織「東京特別治安維持課」。霧生、お前にもその組織の立ち上げに協力してもらいたい」

「・・・」


九代の言葉に、霧生は口を閉ざし考え込む

そして悩みに悩んだ末・・・


「・・・分かった、九代。新組織の設立、「東京特別治安維持課構想」に俺も乗るぞ」

「感謝する、霧生。共にこの街の平和の為、尽力しよう」


霧生はそう答え、二人は固く握手を交わしたのだった






「こうして捜査第一課課長だった霧生氏は九代・・・ナンバー・「1」に協力し特別治安維持課を発足させ、その初代課長となった」

「父さんが・・・暗殺課の・・・」

「ええ。とは言っても、私がそれを知ったのは私が特別治安維持課課長となってからだったわ。特別治安維持課は存在自体が半ばグレーな秘密組織。表向き、霧生氏は東京警察本部本部長という役職に付いていて、私達暗殺者ですら彼が暗殺課のトップである事は知らされていなかった」


現場における暗殺者への指令を出す人物

シングルナンバーの頂点にして最初の暗殺者、ナンバー・「1」


そしてそのナンバー・「1」に指示を出す、警察上層部と繋がる謎の人物

それが当時ただ一人の「監査官」、霧生彰だったのだ


「そして二人が作った東京特別治安維持課はその後数年に渡って暗躍、東京の治安回復に大いに貢献する事となった」

「・・・」


その事実を知った冬香は、父の事を思い出す






父とは週に一回、電話で話すだけの関係だった


正義感の強い、現場主義の古いタイプ

冬香が知っている父はそんな人間


だがそんな冬香が知っていた姿とは別に

殺人によって治安を守るという矛盾した存在、暗殺課を率いる立場でもあったという


父が何を考え、行動していたのか

今となっては分からない

おそらく今後も知る事はないだろう






「・・・そしてある程度の治安回復を達成した私達は、ついに根本的な問題の解決に取り組む事となった」

「根本的な問題?」

「ええ。増え続ける接続者、その増加を止める手段の模索よ」


暗殺者の登場により、社会に害をなす接続者達は次々と駆逐されていった

しかし、その間も接続者は次々と増えていく


更に巧妙に、用心深く活動し始める犯罪者や接続者達

加えて、突発的に発生する本人の意思とは関係なく起こる能力の暴走


それらの全てを食い止める事は、如何に暗殺者と言えども容易ではない

だがこれらを解決しない限り、東京の完全な治安回復を達成する事は出来ないのだ


「では・・・その手段の模索というのが・・・」

「そう、それが10年前の実験・・・。ゼロ・オリジンの完全接続実験」


無作為に接続者を増やし続けるオリジン

そのオリジンの機能を掌握し、コントロールを可能にする事を目的とする

それがオリジンとの完全接続実験だった


人の意思でオリジンをコントロールする事が可能となれば、接続者の増加を止める事が出来るだけでなく

現在オリジンとネットワークで繋がっている、全ての接続者の意識に介入する事も可能となる


そしてそれを可能とすべく選ばれたのが、当時最強と言われていた9人の暗殺者「シングルナンバー」だった


「ナンバー・「1」を中心に残りの8名でこれをサポート。オリジンとの完全接続を果たし、これをコントロール。これで全ての接続者に関係する問題が解決する・・・はずだった」

「はずだった・・・?」

「ええ。でも、その結果は・・・」











実験の開始からほんの数秒

ほんの数秒でそれは起こった


「アアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」


苦悶の声を上げる「2」

周りを見れば自分だけではない、他の全員も頭を抱えながら床をのたうち回っていた


「アアアアアッッッッッ!!!!! 「8」!!! 「8」!!!」

「「7」!!!!! 頭が!!! 頭が痛いよ!!!!!」


手を取り合いお互いの名を呼ぶ「7」と「8」


「何だッ・・・・!!!??? 何なんだコレは・・・!!!???」

「ふ・・・ふざけんなァァァァァッ!!! こんなもん聞いてねえぞッ!!!!!」

「ぐ・・・ッ!!! オオオオオッッッッッ!!!!!」


「5」「6」「9」も脳を鷲掴みにされる様な苦痛に叫び声を上げている


その時、ガラスの向こう側の隣の部屋

実験のデータを取っていた研究員達も、予想外の事態に取り乱し叫んでいた!


「安栖主任!!! 機器の大半が損壊!!! 計器の数値も全て振り切れています!!! こんな物のデータなんてとても!!!」

「そ・・・そんな!!! こんな事が・・・!」


茫然と立ち尽くす安栖に、瑞葉が叫ぶ


「宗ちゃん! 早く実験を中止させないと!!!」

「あ・・・ああ・・・!」

「宗ちゃん!!!!!」


そう、その実験に参加した全員が見誤っていた事があった






「そう、あの時儂らは全員見誤っていた。オリジンを完全制御する為集められた精鋭9人? クック・・・。アレは・・・オリジンはその程度でどうにか出来る物ではなかったのじゃ」






例えるならそれは、9人乗りのイカダで大海原に挑もうとする行為か

もしくは水も食料もなしで、砂漠を歩いて横断しようとする行為か


ゼロ・オリジンと繋がるとは「そういう物」だったのだ


「ヤベエ・・・ッ!!! 意識が!!! 地の果てまで持っていかれそうだ!!!」

「くっ!!! 「1」!!! 接続を切って!!! このままじゃ全員保たない!!! 「1」!!!!!」


必死に叫び声を上げる「2」、だがしかし・・・


「何故だ・・・!? 何故私に応えないオリジン!?」

「「1」ッ!!!!!」

「私はこの街を! 世界を救わなければならんのだ!!! なのに何故だ!? 何故応えない!?」


「1」は焦燥しながらも接続を止めようとはしない! その時・・・!


「ぐうっ・・・!!! 「絶対回答アンサー」ァァァァァッ!!!!!」


「4」の両目が輝き、その能力「絶対回答」が発動する!


「そこじゃあっ!!!!!」


そして機材の一つに狙いを定めると、渾身の力でそれを破壊した!


ブゥンッ・・・


それと同時に暴走状態のまま稼働していた全ての機材が停止し、オリジンとの接続も解除された


「くっ・・・」


力を使い果たし、その場にドサリと崩れ落ちる「4」

周りを見れば、他のシングルナンバーも意識を失い倒れていた

かろうじて意識を保っていたのは、「2」ともう一人・・・


「何故だ・・・? 何を・・・? 何を間違えたのだ・・・?」


直接オリジンとの接続を行っていた「1」だけだった


「ハァ・・・ハァ・・・」


疲労困憊と言った様子でその場に座り込む「2」

その時ドアが開き、万が一に備え待機していた救護班が駆けつけてきた


「全員医務室まで運ぶんだ! 急げ!」


他のシングルナンバー達を担架に乗せ運んでいく救護班、それと入れ替わる様に一人の女性が「2」に駆け寄ってきた


「双葉ちゃん!!!」

「ね・・・姉さん・・・」


「2」の元に駆け寄る瑞葉にかろうじて返事を返す


「大丈夫双葉ちゃん!? 意識は!? どこか痛い所は!?」

「大丈夫・・・じゃないけど・・・とりあえずは平気だから」

「本当!? 本当に大丈夫!?」

「本当だって・・・だから落ち着いて、姉さん」


「2」の言葉にホッと息を吐き安堵する瑞葉


「まったく・・・」


そんな瑞葉に対し、「2」が笑みを浮かべようとした・・・その時だった


「そうか・・・分かった・・・私は間違えていたのだ。オリジンに触れた瞬間に見えたあの世界・・・あれこそが正しい世界だったのだ・・・。だとすれば・・・そうだ・・・」


ボソリと呟く「1」


「・・・「1」?」


思わず「2」がそう問いかけた、その瞬間!


「私は・・・救うべき世界を間違えていた!!!」


カッ! と閃光が辺りを覆った!

そして視界が真っ白に染まったと同時に、激しい衝撃が「2」の身体全体を揺らし吹き飛ばした!











「うっ・・・?」


しばらくして

意識が戻った私が見たのは、瓦礫に埋もれたオリジンの間だった


「一体何が・・・?」


ぼうっとする頭を押さえながらなんとか立ち上がる

その時、施設のスピーカーから男の叫び声が聞こえてきた


『誰か!? 誰か応援を!!! ヤツは化け物だ!!! 我々では相手にならない!!! 敵は!!! 敵は!!!!!』


次の瞬間! スピーカーから男の叫び声が上がる!

そして致命傷を受けたであろう男は、最後の力を振り絞り告げた


『敵は・・・ナンバー・「1」だ・・・!』


その言葉を最後に室内はシンと静まり返った

だが耳を澄ませば、遠くで発砲音と爆発音らしきものが聞こえてくる


「「1」が・・・敵・・・?」


その言葉に、意識を失う直前の事を思い出す


「そうだ・・・確か「1」が能力を発動して・・・」


そしてフラフラと歩き始めようとしたその瞬間、コツンと足元に何かがぶつかる


「えっ?」






人が倒れていた

そこに倒れていたのは「私」だった


いや違う、そんなわけはない

「私」はここに立っているのだから倒れているのは「私」ではない

そこに倒れているのは「私」ではない「私」だ


じゃあ誰なのだろう?

「私」ではない、その半分瓦礫に埋もれた「私」は・・・


「誰・・・?」


さあっと頭から血の気が引く。その時


「双葉ちゃん!? 無事かい!?」


瓦礫をかき分けながら宗次が向かってきた


「宗次・・・?」

「瑞葉を知らないか!? たしかそっちに・・・!」


そこまで言いかけた所で、宗次も「私」の足元に倒れていた「私」の姿に気付く


「瑞葉・・・? あ・・・ああッッッ!!!!! 瑞葉!!!!!」


宗次は素手で瓦礫から「私」を掘り起こす

そして倒れていた方の「私」を腕に抱きながら慟哭する


(何これ・・・? どうして「私」が「私」を見て・・・?)






瞬間! バチッ! と言う音が脳で響くと同時に意識が正常に戻る


「うっ・・・!? 今、私は一体・・・?」


目の前に見えるのは「姉さん」を抱いて涙を流す宗次の姿


「う・・・っ・・・うううっ・・・瑞葉・・・っ!!!」


その音が鼓膜を通じ、喉の深い場所の辺りにしみ込んでいく

そして胸を抉られる様な悲しみと同時に、逆に身体の奥の方から湧き上がってくる感情があった


「ナンバー・「1」・・・!!!!!」


どうして? そんな事どうでもいい

ヤツは絶対やってはならない事をした、それだけで十分だ


「殺す・・・!!!!!」


そして私はナイフを手に持つと、姉さんと宗次に背を向け

戦闘が行われているであろう方向に向かって歩きだした


頭の中で、何かが失われつつある事に気付かないまま・・・

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