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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第七章:騒乱の種は蒔かれ、亡霊達は蘇る
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それぞれの信念


「この世界に神を降臨させる為の戦い。たった一人の「接続者せつぞくしゃ」を決める為の戦い。それを今・・・始めようではないか」


その場に集った8人に対しそう宣言する「1」

だがその言葉に対し、「4」がフンと鼻を鳴らしながら言う


「「神」じゃと? 10年会わない内に何やら可笑しな宗教にでもハマったか?」


そう嘲笑を浮かべる「4」に「7」が声を荒げながら言う


「「4」! ナンバー・「1」を侮辱するのか!?」

「ハッ、でなければ新興宗教の教祖にでもなったか? 妄信的な信者もおるようじゃしのう?」

「「4」ッ!!!」


今にも「4」に襲い掛かりそうな「7」と「8」

しかしそんな二人を制しながら、「1」は笑みを浮かべたまま答える


「神と言っても宗教的概念の神ではない、神の様な万能の力を持った存在と言う事だ」

「万能の力じゃと?」

「そうだ。我々接続者コネクターの使う能力、それらの源は全てオリジンの力。オリジンとの完全接続を果たした時、それを果たした「接続者せつぞくしゃ」はオリジンの持つ全ての力を手に入れる。それは正に神に等しい力と言っていい」


その時、「1」の言葉に違和感を感じた「13」が「4」に問いかける


「どういう事だ? オリジンは奴の手の中にある。「1」はオリジンを手に入れたんじゃないのか?」

「正確には違う。オリジンは長い休眠状態から目覚め「1」の呼びかけに答えたにすぎん、奴はまだオリジンとの完全接続は果たしておらん、「手に入れた」だけで「使いこなせてはいない」のじゃ」


そして「4」は「1」に対し疑問の表情を浮かべながら言う


「だが「1」、オリジンとの完全接続じゃと? それが不可能である事はよく知っているはず。10年前の実験でその身を持って思い知ったはずじゃ」

「確かに、我々は一度失敗した。だが方法はある・・・あるのだ。その為の10年だ」

「何?」


その時、その「1」の言葉に興味深そうな顔を浮かべ「6」が問いかける


「オリジンを制御する方法? それは是非とも教えてもらいたいもんだねぇ?」


舌なめずりする「6」に対し、「1」はフッと笑みを浮かべながら答える


「それを知りたければ選ばれる事だ。8人の資格者の中から選ばれた、真の「接続者」だけがそれを知る事が出来る」

「ふ~ん? じゃあどうやってソイツを選ぶんだ? まさか話し合いで決めましょう、なんて言うんじゃないだろうなぁ?」


嘲る様に言う「6」

それはただの冗談で、もちろん本気などではなかったのだが・・・


「それも一つの手段ではある。この場に居る8人全員が同意し選んだ人物ならば、オリジンもそれに応えるだろう」


「1」はその冗談を事もなげに肯定する


「フン・・・だから自分を選べってか?」

「お前達全員が私に同意してもらえるならば、無用な争いはせずに済む」

「そいつはまた、平和的解決手段な事で・・・」


争いと言う言葉を口にしてはいるが

「1」の言葉からは自分が負ける事など一切考えていない、絶対的な自信がにじみ出ていた


(死にたくなけりゃ従え、って意味だろ? 涼しい顔して傲慢極まりない事言ってくれるぜ)


「1」の力は「6」もよく知っている、少なくとも正面から戦って勝てる相手ではない


(万能の力っては魅力的だが・・・。さて、どう立ち回るべきか)


「6」が逡巡していたその時、「9」が「1」に問いかける


「その前に「1」、一つ問いたい」

「何かな?」

「貴方はその神とやらになって何をするつもりだ? それを聞かなければ同意は出来ない」

「・・・なるほど、最もな意見だ」


「9」のその言葉に、「1」は襟を正しながら答えた


「ならば答えよう。私の目的は接続者の解放、そしてこの世界を救済する事だ」

「救済だと?」

「そうだ。まずはこの東京という檻に囚われている全ての接続者達を解放する。そしてその力を持って世界から全ての争いを消し去り、永遠の平和を作り上げる。私はオリジンの力を私利私欲の為に使う気はない。世界を救おうという理念は、私が暗殺課を設立した時から何一つ変わっていないのだ」


堂々とそう言い放つ「1」

力強い言葉と、その内側にある強固な信念


「私の行動は全て、世界を救う為の正義である」


この場の全員が理解する、「1」のその言葉に嘘はない

「1」は本心からこの世界の救済を望んでいるのだと。しかし・・・


「クック・・・! 世界の救済だと? 笑わせるなよ「1」」


その言葉に「4」が歪な笑みを浮かべながら言う


「貴様の言葉に嘘はない、貴様は間違いなく本当の事を言っているのじゃろう。だが・・・貴様は「真実」を語ってなどおらん」


その言葉に、「1」の表情から笑みが消える


「真実だと・・・? 何の事か分からないな?」

「フン、では問うが。世界の救済とやらを、貴様は具体的にどうやって成し遂げるつもりじゃ?」

「・・・」


その「4」の言葉に「1」は黙り込む

そしてしばらくして、「1」は静かに、冷たく言い放った


「旧人類の抹殺」

「「!?」」

「私は接続者以外の人類を全て抹殺する事により、この世界を救済する」


「1」の言葉に、暗殺者達は衝撃を受ける


「人は愚かだ。欲望のままにこの星を食い尽くそうとしている癌細胞。そしてそんな人類に世界を任せておけば、遠からず世界は滅びるだろう」

「だから人類を滅ぼし、接続者だけの世界を創るつもりか?」

「貴様にも分かるだろう「4」。人類はもはや進化の袋小路へと入っている、これ以上の成長を望む事は出来ない。だが接続者は違う、新たな種である彼らであれば次なるステージの知性体へと進化し、この世界を変える事が出来る。今こそこの星の盟主、霊長類の座から旧人類を引きずり下ろすのだ。その為に、私はオリジンの力を使う。接続者達を導く「神」となろう」


世界を救う為に人類を滅ぼす、そう答える「1」

その理念に対し、その場に居た全員がそれぞれの思いを抱き口を閉ざす


そして全員が口を閉ざしたのを確認すると、「1」は逆に問いかける


「さて、私の目的は話した。君達の意見を聞きたい所だが?」


その時、真っ先に「7」が声を上げた


「僕達はもちろんナンバー・「1」に付いていく! そうだろ? 「8」!」

「もちろん!」


笑顔を浮かべながらそう答える双子、彼らの表情には一切の迷いはない

「1」に従い人類を滅ぼす、それが「7」と「8」の意思なのだ


だがそんな双子に、「4」は舌打ちしながら言う


「ガキ共め・・・。外見と一緒で中身も全く成長しておらんようじゃな」

「何だと!?」

「自分の意思も持たず他人に付いていくだけ。頭の中身も二人で一人分か? 貴様らに比べればあの「12」の方がよっぽどマシじゃったわ」


「4」の侮辱に対し、「7」と「8」は激怒し叫んだ


「黙れ! 「1」の言葉は間違ってなんかいない! 僕達を助けなかった旧人類なんて滅んでしまえばいいんだ! 「1」はその事を理解してくれている!」

「そうよ! 私達の事、何も知らないくせに!」


だがその言葉に、「4」は更に苛立った様に答える


「知るものか。その自分達だけが被害者だと言う様な物言いが気に食わんと言っておるのじゃ、たわけ」

「「4」・・・ッ!!!」


その一触即発な状態の中


「私は・・・ナンバー・「1」の考えに反対する」


静かに、だがハッキリとした口調で「9」が声を上げた

その「9」の言葉に、「1」は冷静に問い返す


「ほう? 何故だ「9」? お前の言う護国と私の救済は同じ物だと思うが」

「違う。護国とは国を護る事、そして国とは民だ。民が国を作り上げるのだ。ならば私は、民を護る為に戦おう」

「確かにその通りだ。だがお前の言うその民が、国を破壊する事もあるのではないか? 人の本性は醜い物だ」

「そうかもしれん・・・」


14年前、「9」が東京へと足を踏み入れた時

妹の様に大事にしていた女性を欲望のままに奪い、汚し、傷つけた畜生共

そしてその畜生共を怒りのまま斬り殺した、自らの中に眠る悪魔


「9」は人の本性と言う物を誰よりも理解している。だが・・・


「それでも、人類は自分の中の悪魔になど負けはしない。私は人の理性を信じている」

「「9」・・・誰もがお前の様に強くはないのだ」

「それでもだ」


「9」の言葉に、「1」は仕方がないと言った様子で首を横に振る


そして「9」は続けて、それまで他の全員のやり取りを静観していた「5」に向かって問いかける


「「5」、貴方の考えを聞かせてもらいたい。貴方も旧人類の抹殺に同意するのか? かつては軍の英雄とまで呼ばれた程の人物が、「1」の言葉に従うつもりなのか?」


その言葉に、「5」はようやく重い口を開いた


「・・・人と接続者は異なる生き物だ。そして知性ある異なる種族は決して相容れる事はない」

「相容れないから滅ぼすと言うのか? それが貴方の正義なのか?」


納得出来ないと言った様子で問い返す「9」。しかし・・・


「これは生存競争だ、そこに善悪など存在しない。私は接続者が生きられる世界の為に戦う」

「くっ・・・」


そう静かに告げる「5」の言葉

だがその時、ニヤニヤと嘲る様な笑みを浮かべ「6」が言った


「流石は「5」、ご立派な理由だねぇ? 接続者が生きられる世界の為ときたか」

「・・・何が言いたい「6」?」

「いやぁ別に? その接続者とやらにさっきの可愛らしい女の子が含まれているのか気になっただけさ」


瞬間!

「5」からとてつもない殺気が「6」に向かって放たれる!


「怖いねぇ・・・? そんなに娘が大事か? ていうか、アンタに娘が居たなんて初めて知ったぜ?」

「・・・それ以上口を開くな」


並の人間なら一瞬ですくみあがる様な殺気に晒されながら、「6」は笑みを浮かべたまま続ける


「ハッ、まあいいさ。喋りついでだ、俺の意見も言っておいてやるよ「1」。端的に言って「NO」だ」

「ほう?」


その言葉に「1」だけでなく、「4」や「9」も意外そうな表情を見せる


「俺は「9」や「5」と違って人類だの接続者だのはどうだっていい。だが、人類を抹殺されるのは困る」

「それは何故かな?」


その「1」の言葉に、「6」はニヤリと加虐的な笑みを浮かべ答えた


「そりゃもちろん、奴らは大事な大事なオモチャだからさ。弱くて脆くて醜い、そんな人類が俺は大好きなのさ、勝手に変えられちゃ困るのさ」


その醜悪な言葉に、「5」が嫌悪感を露わにした声で言う


「所詮はただの殺人鬼か。シングルナンバーの面汚しめ」

「お前らの言い分が御大層すぎるだけさ。俺は俺の愉しみの為だけに行動する」


そう言ってハッハッハと笑い声を上げる「6」

悪性を隠す素振りすら見せない、それが「6」と言う暗殺者なのだ


その態度に「1」はやれやれと言った様子で視線を反らし、「4」の方へ向け問いかけた


「さて。「4」、お前の意見は?」

「・・・」


それまで目を閉じ、黙って腕を組んだまま聞いていた「4」が口を開く


「下らん、論ずるに値せん」

「何?」


怪訝そうに言う「1」に対し、「4」が続けて言う


「世界の救済か、まあその思想にあーだこーだと言うつもりはない。だが・・・それ以前の問題じゃ、貴様の計画は絶対に成就する事はない。例え貴様がその真の接続者になろうともな」

「何・・・?」


その言葉に「1」の眉がピクリとつりあがる


「貴様の計画は根底から間違えておるのじゃ、よって論ずるに値せん」

「・・・どういう事だ? 私の計画の何が間違えていると言うのだ?」


その「1」の言葉に、「4」はクックと笑うと言った


「分からんのか? 貴様が何を間違えておるのか、分からないと言うのか?」

「・・・」

「クック、なら教えてやろう」


そう言うと「4」は顔だけで後ろを振り向く


「「13」、お前なら分かるじゃろう? 奴が何を間違えているのか。儂の代わりに答えてやれ」

「・・・ああ」


「4」の言葉に「13」は静かに頷き、「1」の瞳を正面から見据える。そして・・・


「ナンバー・「1」。例えどんな力を手に入れたとしても、それが万能の力だったとしても・・・」


ハッキリと、「1」に向かって断言した


「人は神になどなれない」


その言葉に「1」は静かな敵意を「13」に向ける


「貴様・・・ッ」


だが「1」は、ふう と息を吐き、気を取り直す

そして冷静さを取り戻すと暗殺者達に向かって告げた


「なるほど、君達の意見は分かった。同時に、我々が相容れないと言う事もな。ならばこの先は力で、自らの意見を押し通す事にしよう。この時点を持って、君達は私の敵となった」


その「1」の言葉に、「4」はニヤリと笑みを浮かべながら答える


「10年遅いわ、たわけ。とっくの昔から、10年前に暗殺課を裏切った時から貴様は儂の敵じゃ」

「ゴタクの時間は終わりか? なら殺し合いを再開するとしようぜぇ!?」

「ナンバー・「1」。護国の為、お前達を斬る」


そう言って戦闘態勢に入る暗殺者達。だが・・・


「フッ。ここでやりあうつもりはない」


「1」はそう言って「4」達に向かって右手をかざし制止する


「目の前のお前達だけならいざ知らず。今ここを包囲しつつあるゾーフの駐留部隊と暗殺者達、その全てを相手にするのは少々骨が折れそうなのでね」

「それは大変じゃのう、まあ知った事ではないが。このまま逃がすと思っておるのか?」

「もちろん、撤退の手段は確保している」


その「1」の言葉と同時に、「5」、「7」、「8」の3人が「1」の元に集結する。そして・・・


外部電脳デバイス起動。「飛行フライ」」


1が能力を発動

それと同時に4人の姿が重力を無視し、上空へと飛び上がる!


「あれは!?」


その時、「4」の脳裏に以前倒した飛行能力の接続者の姿が浮かび上がる


(まさかあの接続者のチップか!? だが使用してないチップは本部で厳重に保管されてあったはず!)


そして「1」は上空から、為すすべなく上を見上げる「4」達に向かって告げる


「私の理想、接続者達による新たな世界。それを阻もうと言うのなら向かってくるがいい、あの塔の下で私とオリジンは待っている。では、さらばだ」


そう告げると「1」達は北東、スカイツリーの方へと飛んで行った











「チッ・・・逃がしたか」


忌々しげに呟く「6」

「1」達はすでに飛び去っており、追撃が不可能なのは明らかだった


仕方なく、「4」と「9」も戦闘態勢を解く


「・・・とりあえず、戦闘終了だ。私も帰還する」


刀を仕舞うとその場から立ち去る「9」


「フン、望む所じゃ。奴らは必ず殺す、暗殺者の名に賭けてな」


そう呟き、武器を仕舞う「4」。そして・・・


「ナンバー・「1」・・・。暗殺課の・・・人類の敵・・・」


「13」も、静かに銃を下ろしながら呟く







いや・・・違う


奴が何者であろうと関係ない、俺にとって奴はただの殺害対象だ


(奴を殺せ! 「13」!!!)


冬香との契約


アイツの父親を殺したナンバー・「1」を、俺は必ず殺す






「・・・それが、俺に残された最後の生きる意味だ」


迫りくる終幕の予感に、「13」は決意の籠った眼差しを空に向けるのだった

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