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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第七章:騒乱の種は蒔かれ、亡霊達は蘇る
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彼の姿は炎の中に消えて


ルミリアム皇女を連れ冬香が移動を開始した頃より、更に前の時間


「よっ・・・と」


能力の負担によって体力を使い果たしたアイリを、静かにベッドに寝かせる安栖


睡眠導入剤の効果が出ているのか

すぅ、すぅ、と安らかに寝息を立てるアイリの寝顔に、安栖はホッとした様に笑みを浮かべる


「これで問題ないだろう、しばらく休めば体力も回復するはずだ」


そう言った後、安栖は医務室の出口に向かって歩いていき

部屋を出る直前、医務室のスタッフに対して声をかけた


「それじゃあ。後はよろしく」

「はい、分かりました。・・・安栖研究主任はどちらへ?」


そう問いかける医務室のスタッフに、安栖はいつもの穏やかな笑みを浮かべながら答える


「少し、オリジンの様子を見てくるよ」


それと同時に医務室の自動ドアが開き、安栖はその場を立ち去って行った











「敵の狙いは・・・オリジン!」


端末の見取り図を見ながらそう叫ぶ冬香


ゾーフに侵入した「本命」の接続者、ソイツは間違いなくオリジンの間に向かっている。しかし・・・


(オリジンに接触した所で、どうする気だ・・・?)


オリジンに対する干渉は不可能

それは暗殺課のみならず、オリジンに関わる全ての人間の結論だ

侵入者がオリジンの間へたどり着いたとしても、出来る事など何もないはず


(だがもし・・・万が一の確率だが。侵入者がオリジンに干渉する、何かしらの手段を持っているとしたら・・・?)


人知の及ばぬ謎の物体、ゼロ・オリジン

今なお接続者を増やし続けている未知の存在


もしも・・・もしもこれを制御できる何者かが現れ、その人物がなんらかの悪意を持っていたならば

その時は誇張ではなく、本当に世界が滅ぶ瞬間となる


(だとしても・・・接続者を相手に私に何が出来る・・・? 「4」か「13」、もしくは他の暗殺者の到着を待つべきだ・・・)


それが合理的判断

いや、それ以外に手段はない。だが・・・


その時、通路の曲がり角で立ち尽くす冬香にルミリアム皇女が言う


「・・・私は大丈夫デス、自分で動けマス」

「皇女?」

「だから貴方は自分の為すべき事の為に行動してくだサイ」

「・・・!」


為すべき事・・・

監査官として、治安維持課の一員として、今自分が為すべき事は・・・


ほんの少し逡巡した後、冬香はルミリアム皇女に向かってうなずくと言った


「ここを真っすぐ行けば医務室にたどり着けるはずです。私は・・・先程の侵入者を追います」

「はい。どうかお気をつけテ・・・」

「ルミリアム皇女も」


そして、決意の篭もった表情でリボルバーを構えながら

冬香は皇女をその場に残し、侵入者の後を追っていった











その頃、ゾーフ管制室では


「「9」は「7」「8」と、「6」は「5」、「4」も謎の接続者と交戦中・・・」


戦況を把握しながら、吹連が呟く


(元シングルナンバーの襲撃。間違いない・・・、この襲撃には「あの男」が関わっている。けれど、その姿が見えない・・・)


どこか後方で指揮を執っているのだろうか?

いや、そんなはずはない・・・

あの男は後方で高みの見物など出来るタイプではないはずだ


(一体何処に・・・?)


その時、オペレーターの一人が吹連に向かって叫ぶ!


「西区画16ブロック防衛隊からの通信途絶! 何者かがゾーフに侵入した模様!」

「何ですって!?」


大声を上げる吹連に対し、オペレーターは更なる報告を告げる!


「12ブロックからも応答ありません!」

「16・・・12・・・!?」


オペレーターからの報告に、吹連は敵の侵攻ルートを予測する。そして・・・!


「敵の狙いはオリジン・・・!? オリジン周辺の部隊は!?」

「今、映像出ます!!!」


映し出される監視カメラの映像

そこには銃を乱射する防衛隊を倒しながら進む、ぼろをまとった謎の人物の姿!


「ッ!!! やはり・・・!!!」


その姿に驚愕の声を上げる吹連。その時・・・!!!


「ッ!!! 課長!!! オリジンの間に・・・!!!」

「えっ!?」


オリジンの間を映す監視カメラ

光る物体オリジンの前に立っていたのは、白衣を着た見慣れた人物だった・・・!










「ぐあっ!!!」


叫び声と共に倒れる防衛隊

全ての敵を排除したその男は、ゆっくりとオリジンの間に踏み入る


カツン、カツンと足音を響かせながらゆっくりと歩く男

そして、目の前に立つ男の姿を確認するとピタリと足を止めた


その白衣を着た男、安栖はぼろをまとった男に対し笑みを浮かべたまま言う


「やあ、君か」


まるで旧友への挨拶をするかの様な安栖の言葉に、男は顔を隠していたぼろを取り言った


「時が来た。救済の時だ」

「・・・」


ゆっくりと安栖に向かって近づきながら、男は続けて言う


「神なきこの世界に神を降ろす。そして産まれる新しい神により、この世界は救われる」


その男の言葉に、安栖はやや表情を曇らせながら答える


「その為に支払われる犠牲は・・・」

「・・・覚悟の上」


そして、男は腕を真上に振りかぶる


「では始めよう。新しき世界の為に」


次の瞬間・・・!






ブツッ!


「なっ!?」


監視カメラが破壊されたのだろうか? 映像が途絶える


「宗次! 宗次!!!」


マイクに向かって大声で呼びかける吹連

しかし、向こうからの応答はない


「あ・・・ああ・・・!」


応答のない通信、直前まで映っていた絶望的な状況

吹連は身体を震わせながら後ずさる。そして・・・!


「・・・ッ!!! 宗次!!!」

「え!? 吹連課長!!!」


制止する部下の声も聞かず、部屋から走り去って行った・・・!











「ふう・・・」


ゆっくりと息を整えながらオリジンの間へと向かう冬香

通路には侵入者と交戦したと思われる防衛隊の死体がいくつも並んでいる


「すまない・・・」


何に対する謝罪なのか、冬香自身にもよく分からない

ただ、この場で命を落とした彼らに対しかける言葉が、他に見つからなかっただけだ


そしてゆっくりと通路を進んでいき、冬香はオリジンの間の入り口に到着する


「・・・」


ドアの陰から慎重に中の様子を伺う冬香


(居る・・・!)


部屋の中央奥、オリジンの前に立つぼろをまとった男

何をしているのか分からない、こちらに背を向け立っている


(奇襲・・・は無理だろうな・・・)


曲りなりにも相手は接続者だ

常人よりも遥かに優れた五感を持つ接続者相手に、奇襲が可能とは思えない


いやむしろ、今この場に冬香が居る事すら既に察知されている可能性の方が高い

その上で、あの男はこちらに背を向け何かをしているのだ


(何をしているのかは分からないが、あのまま放置は出来ない・・・!)


とにかく時間を稼ぐ! その為には・・・!


そして冬香はドアの陰から飛び出すと、部屋の入り口からリボルバーを構え叫ぶ!


「動くな! 動けば撃つ!」


我ながら情けない言葉だとは思う

接続者に対し銃を向けて、何の脅しになると言うのか?


しかも手に持っているのは、装弾数5発のリボルバー

接続者にとっては、子供がおもちゃのナイフで脅しをかけてきた様な物だろう


(だがこの行動に対し、なんらかのリアクションを引き出せれば・・・)


その言葉に、男はゆっくりと振り向いた


「・・・? 暗殺者ではない、監査官か・・・?」


その時、男が右手に何か大きな物を引きずる様に持っているのが冬香の目に見えた


それは人だ

大きさ的に成人男性、白衣を身に纏った男

冬香はその後ろ姿に見覚えがあった、それは・・・


「なっ!? 安栖研究主任!!!」


咄嗟に冬香が叫び声を上げる!

意識がないのだろうか、その身体の両手両足はだらりと垂れている


「安栖さんから手を放せ!!!」


再度警告をする冬香、だが・・・!


「・・・まあ、いいだろう」


男はボソリと呟くと、冬香に向かって言った


「残念だが、その必要はない」

「何っ!?」

「この男は既に死んでいる、そして・・・」


ブンッと、男はその手に持っていた男の身体を冬香の方に向かって投げつける

それと同時に、男の両目が輝いた!


ゴオッ!!!!!


「なっ!!!」


その瞬間! 宙を舞っていた白衣の男の身体が炎に包まれた!


ドサッ・・・


冬香の目の前に落ちた死体

激しい炎がその身体を覆い、骨すら残さず焼き尽くしていく・・・。そして・・・


「そ・・・そんな・・・!」


全てを燃やし尽くした炎は自然と消え

その場に残ったのは、僅かに人の形を残しただけの黒い灰となった


「これで、完全にこの世から消え去った」

「き・・・きさッ・・!!!」


冬香が怒りの声を上げようとした、その瞬間!


ヒュンッ!!!


「ッ!?」

「何っ!?」


一人の影が冬香の真横を通り抜け、目の前の男に向かって襲い掛かった!!!


「あああああっっっっっ!!!!!」


咆哮を上げながらナイフを手に襲いかかる女性の姿! それは・・・!


「吹連課長!!!???」


ギンッ!!!


吹連が振り下ろしたナイフを、男は懐から抜いたナイフではじき返す!


「よくも!!! よくも宗次を!!!!!」


右から、左から!

一本のナイフを自由自在に持ち替えて繰り出される、変幻自在の攻撃!


「凄い・・・! 吹連課長は一体・・・!?」


その凄まじい動きに、冬香が圧倒された様に呟く。そして・・・!


「あああああっっっっっ!!!!!」


鬼気迫る勢いの攻撃が、ナイフの刃が男に届こうとした・・・その時!


「・・・所詮は、この程度か」


ドグォッ!!!


男が呟くと同時に! 強烈な打撃音が鳴り響いた!


「がっ!!! はっ!!!」


吹連の脇腹に突き刺さった男の拳!

ミシィと音を立て、吹連のあばらの骨が折れまがる!


「フッ!」


そして男がそのままの勢いで拳を振り抜くと・・・!


ダンッ!


「かっ・・・!」


吹連の身体は大きく吹き飛ばされ、部屋の壁に激突した!


「はぁ・・・はぁ・・・」


脇腹を抑えながら激しく息を乱す吹連に対し、男が言う


「以前のお前ならいざ知らず、今のお前に私を止める事など出来ん。そうだろう? 特別治安維持課課長、吹連双葉。いや・・・」


そして男は、続けて吹連に対し告げた


「・・・ナンバー・「2」」

「なっ!?」


驚愕の声を上げる冬香

だがそれに構わず、男は吹連に向かって続けて言う


「シングルナンバーの一人、最強を掲げる9人の暗殺者の一人。だが今のお前は、能力を失ったただの女にすぎん」

「はぁ・・・! はぁ・・・!」


目の前の男に向かって憎悪の視線を向ける吹連

だがしかし、そんな吹連に向かって男は冷たい眼差しを向けながら告げる


「しかも今の貴様は何だ? 暗殺課を率いる立場にありながら、単独で私に仕掛けてくるなど。安栖を殺されて逆上したのか? 感情のままに動くなど、部下を率いる立場として失格。こんな事では、10年前、貴様を守って死んだ「3」も無駄死にだったな」

「き・・・貴様ァァァァァッッッッッ!!!!!」


激昂する吹連!

だが身体のダメージは大きく、その場から動く事は出来ない!


そして男がゆっくりと、吹連に向かって歩を進めようとした・・・その時!!!


ダアンッ!!!


鳴り響く発砲音!


「むっ?」


男は咄嗟に身体を反らし向かってきた銃弾をかわす!


「なっ!?」


突然の銃撃に、驚きの声を上げながら後ろを向く冬香

そう、今の弾丸は冬香が発砲した物ではない、それは・・・!


「「13」!!!」


双銃使いの暗殺者、「13」が放った物だった!

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