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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第七章:騒乱の種は蒔かれ、亡霊達は蘇る
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光に手を伸ばした女


暗殺者の死亡率は高い


その割合、年間50%

1年経つ頃には半数の暗殺者が死亡する


そんな環境で私、ナンバー・「12」は随分と長く生きてきた

過酷な戦場を何度も生き抜いてきた歴戦の暗殺者、それが私だった


だがそんな私にも、終わりという物はあっさりとやってくる

潜入任務に失敗した私は瀕死の重傷を負い倒れていた


すでに通信機からの応答はない

監査官は既に、ナンバー・「12」などと言う人物は存在しない、と処理している頃だろう


闇の中で一人、無意味に死んでいく

別に悲しくはない、暗殺者となったその時から覚悟はしていた


ただ・・・未練はある

最後にもう一度・・・


「光が・・・欲しい・・・」


小さな呟き

それはそのまま闇の中へ消えていく、はずだった


「ならば、私が君に与えよう」

「・・・え?」


突然聞こえてきた声に、闇の中で微睡んでいた私の意識は覚醒する

そこに居た人物・・・あのお方は私にこう言ったのだ


「君に、光を与えよう」











互いに向かいあう「4」と「12」

その距離はおよそ50メートル、間に隠れられる様な障害物はない


この状況に於いて、自分が敗北する可能性はあるだろうか?

「12」はその手にある手鏡の縁を握りながら考える


(ない。敗北する可能性は0%だ)


障害物のない一本道、能力を反射させる物にもことかかない

圧倒的有利な条件。しかし・・・


(だがそれでも、油断は出来ない)


何故なら、目の前に立っている敵は並の接続者ではない

暗殺課最強の暗殺者、ナンバー・「4」だからだ


一体どんな手を打ってくる?

いや、どんな手であろうと関係ない


(私は勝つ・・・あの方の為に・・・!)


互いに腕を下ろした状態で向かい合う

それはガンマン同士の早撃ち勝負、荒野の決闘を思わせる様子だ

そして、張りつめた空気の中・・・


「ッ!!!!!」


同時に二人は獲物を抜いた!


(油断はしない! 最短最速でその姿を捉える!)


「4」に向かって鏡を向けようとする「12」!

だがその時! 同時に動いていた「4」は「12」に向かって何かを投擲する!


「あれはっ・・・!」


「12」が驚きの声を上げるよりも早く!


ダンッ!


「4」は何かを投擲した逆の手でハンドガンを構え、それを撃ち抜く! 瞬間!


ボシュウウウウウッ!!!!!


強烈な煙が「12」の周囲を覆う!

「4」が投擲した物はスモークグレネードだった!


そしてそれと同時に、「4」は「12」に向かって突撃する!


「姿さえ映されなければ能力は発動しない。シンプルじゃが、煙幕は有効な手段じゃろ!?」


煙幕が晴れる前に間合いを詰めヤツを殺す

「4」のスピードであれば4秒・・・いや3秒とかからない


迎え撃つか、それとも間合いを離すか


一手

「12」が一手間違えた瞬間に、その死が確定する。だがその時・・・!


「はぁ・・・」


「12」がため息をつく

退屈、失望、落胆

そんな感情を込めたため息だ


「煙幕なら私の「鏡」を防げる? ええ、確かにその通りです。ですがそんな弱点、私が一番良く知っています」

「・・・!!!」

「そして、貴方は一つ忘れている事がある・・・」


その時! 「12」の懐から機械の動作音が響いた!


「私が! 元「暗殺者」だと言う事を!!!」


その叫びと同時に! 「12」の目が発光する!


外部電脳デバイス起動! 「竜巻ハリケーン」!!!」


ゴオッ!!!


小さな竜巻が真っすぐに!

最短距離を真っすぐ突っ込んできた「4」に向かって放たれる!


「くっ!!!」


両腕をクロスさせそれをガードする「4」!

竜巻自体の威力は大した事はない! だが・・・!


「これで・・・貴方の姿がハッキリと見えますね」


煙幕はまだ通路を覆ったまま

だが「4」と「12」を結ぶその直線上のみ、煙は完全に晴れている!

能力「鏡」を阻む物は何もない!


「終わりです」


キィィンッ!!!


「12」は「4」に鏡を向け、能力を発動させる!

その、刹那の瞬間!!!


ポシュッ・・・


「えっ?」


「4」と「12」を結ぶ直線上に、何かが頭上の煙を突き抜け落ちてきた

くるくると、光を反射させながら落ちてきたその物体は・・・!


「鏡・・・!?」


その時、「4」の唇がニヤリと笑みを浮かべる


最初から煙幕などで能力を防げるとは考えていない

それは頭上に鏡を投げる動作を隠す為だけの物だ


能力「ミラー

鏡に映した相手を鏡の中に捕えコピーする能力

また近くの物体に能力を反射させる事も可能


「なら話は簡単じゃ、「反射」させればよい」


「絶対回答」によるタイミングの計算は完璧

宙にあった鏡がくるりと回転し、その姿を映し出す!


「取り込め、鏡に反射した「自分の姿」を!」


カッ!!!


「4」に向かって放たれた12の能力「鏡」!

だがその瞬間! 射線上に落ちてきた鏡により「12」は自分自身に能力を放ってしまった!


「あ!!! アアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」


両手で顔を抑えながら絶叫する「12」!

そしてその隙を逃す程、目の前の暗殺者は甘くなかった


「4」はナイフを構えると一瞬で間合いを詰める!


ドスッ!


ずぶりと「12」の胸部に突き刺さるナイフ


「終わりじゃ」


そして「4」が素早くそれを引き抜くと、「12」は胸から血を流しながら・・・


「あ・・・」


ゆっくりと、その場に倒れた


「12」が倒れた事を確認すると、「4」は僅かに息を吐き出す


「ふう・・・」


そして「4」は顔にかかった返り血を拭いながら振り向いた、そこには・・・


「そうか・・・それがお前の「本当の姿」か・・・」


地面に倒れている女

だがその姿は先程まで「4」の目の前に立っていた「12」の姿ではない


「か・・・鏡・・・鏡は・・・どこ・・・?」


鏡は「12」が伸ばした手のほんの少し前に落ちている


「鏡がないと見えない・・・光が・・・見えない・・・」


だが「12」はその鏡に手を伸ばそうとせず、地面を探る様に手を横に振る


「盲目の女・・・」


何も映さない瞳に、病的な程やせ細った身体

それが「12」の本当の姿


先程まで戦っていた女は、「12」がコピーした別の誰かだったのだ


カツン・・・


「あ・・・!」


その手が鏡に触れる、そして手を伸ばそうとした・・・その瞬間


チャキッ・・・


撃鉄の上がる音

「12」の背後から銃口を突きつけた、「4」が言う


「・・・鏡から手を放せ。胸の傷も急所は外してある、お主からはまだ聞きたい事がまだあるからのう」

「・・・」


動けば撃つ

「4」は「12」に向かって警告をする、だが・・・


「申し訳ありませんがそれは出来ません。あの方の不利になる様な事を喋るわけにはいかないので・・・」


鏡を握りしめながら「12」は答える


「そこまでして忠誠を誓う様な意味があるのか?・・・貴様とて分かっているのじゃろう? 貴様は・・・」

「ええ。もちろん承知しています」


「4」の言葉に平然と答える「12」。そして・・・!


「・・・でもそれが何だって言うんです? あの方は私に光をくれた。ずっとずっと闇の中で彷徨っていた私に光を・・・。ならこの命を捧げるのに・・・何の迷いもありません」

「・・・」

「さあ、まだ私は生きています。そして生きている限り、私は貴方を倒す為攻撃を続ける。最後の勝負を始めましょう・・・」


二人の間に緊迫感が漂う

どちらが早いか、今度こそ最後の勝負。その時・・・


「お主は・・・愚か者じゃ」

「そうかもしれませんね」


その言葉と同時に!

「12」は素早く振り向き、鏡を「4」に向ける!


ダンッ!!!


「あ・・・ああ・・・」


瞬間、「4」は迷わず「12」の心臓を撃ちぬいた


「光が・・・光が・・・見える・・・」


カランと音を立て、その手から鏡が地面に落ちる

「12」は穏やかに笑みを浮かべ、目を開いたままゆっくりと生命活動を停止した


満足そうに息を引き取った「12」に対し、「4」は苦々しい表情で呟く


「誰にでも変身出来る、どんな姿にもなれる。じゃが、本当の自分の姿だけは見る事が出来ない。もしかしたら・・・それがお主にとっての光、お主の願いだったのか。・・・さらばじゃ、ナンバー・「12」。他の暗殺者達と共に、先に逝って待っているがいい」


そしてすぐに気持ちを切り替えるとゾーフ内部に視線を向けた。しかしその時!


ゴゴゴゴゴッ!!!!!


突然の地震!

だが揺れているのは地面ではない! 揺れているのはゾーフの方だ!


「やはり間に合わなかったか・・・!」


そして「4」はすぐに次の行動を開始するのだった











やや時間は遡り、「4」と「12」が戦闘を開始した直後の事


「大丈夫ですか? 皇女」

「ハ、ハイ・・・大丈夫デス・・・」


衰弱した本物のルミリアム皇女を連れ、冬香はゾーフの医務室へと向かっていた


「残ったあの人は大丈夫でしょうカ・・・?」

「それなら心配ありません。「4」を倒せる敵なんてそうそう居ませんから」


ゾーフを襲撃してきた敵の大半は、防衛隊と暗殺者達によって撃退され

皇女に化けた接続者も「4」が食い止めている、そしてあの「4」が敗北する事はありえない


全ての脅威は去った

そう考え、冬香が安堵したその時・・・!


タタタタタッ!!!


「え? 何デス?」

「銃声? まだ侵入者が・・・?」


通路の曲がり角、その先で戦闘が行われている様だ

冬香は慎重に曲がり角の先の様子を伺う


「な、なんだコイツは!!!」


丁度二つ先の曲がり角に展開している防衛隊

ここからは見えないが恐らく、通路の先に侵入者が居るのだろう


恐怖に顔を引きつらせながら通路の先に向かってライフルを連射する3人の防衛隊。だが次の瞬間!!!


ズシュッ!!!


「えっ?」


正に一瞬だった


一瞬で防衛隊の懐にぼろをまとった何者かが踏み込んだかと思うと

悲鳴を上げる間すら与えず、3人の防衛隊をバラバラに解体してみせた


(な・・・なんだ・・・アイツは・・・!?)


そしてぼろをまとった人物が顔を上げ・・・


「ッ!!!!!」


瞬間! 冬香は咄嗟に曲がり角の先に身を隠した!!!


「・・・!?」


ルミリアム皇女の口を抑え、息を潜める!


カツン、カツンと歩く音が近づいてくる


(敵!? 侵入者!? まさか別の入り口から侵入してきていたのか!?)


ゆっくりと、足音は近づいてくる


(間違いない、相手は接続者。しかもかなりの手練れ・・・!)


リボルバーを持つ手が震える


(今この場には「13」も「4」も居ない。鉢合わせした瞬間、全てが終わる・・・!)


一歩一歩確実に、こちらへ向かってくる


(来るな・・・来るな・・・!)


出来る事はただ息を潜ませ祈る事だけ。そして・・・


カツン


ピタリと足音が止まる


「・・・」


喉元にナイフを突きつけられているかの様な時間

実際には数秒程度、冬香にとっては長い長い時間が過ぎ・・・


カツン、カツン


足音は一つ前の曲がり角を曲がり、通路の先に遠ざかっていった


そして、完全に音が聞こえなくなってから


「っう・・・! はあぁぁぁっ!!!」


二人は大きく息を吐き出した


「た・・・助かった・・・」

「ハイ・・・」


そして慎重に通路の様子を伺うと、侵入者が曲がっていった一つ先の曲がり角まで進む


「侵入者が曲がっていったのは左、医務室は右なのでもう鉢合わせる事はないはず・・・」


そして皇女を連れ、曲がり角を右へ曲がろうとするが。その時


「いや、その前に侵入者の報告をすべきか。無線端末は使用出来ないから近くの有線端末で・・・」


そう考え、冬香は近くの有線端末の場所を探すべく、端末に入っていた館内見取り図に目を向ける


「え?」


思わず、冬香の口から声が漏れた


「どういう事だ・・・? 私達の現在地はここ・・・つまり侵入者が向かったのは・・・」


その時、冬香の中で全ての糸が繋がる


「しまった・・・! 皇女暗殺計画に見せかけた、偽皇女によるゾーフ侵入。けどそれは間違っていた! あの接続者による侵入は防がれる事を前提とした陽動作戦!」


「4」が「12」を食い止めているのではない

「12」が「4」を食い止めていたのだ


「12」の本当の狙いは、暗殺課最強戦力である「4」の足止め!


「敵の本当の狙いは・・・!」


敵がゾーフに攻撃を仕掛けてきた時点で気づくべきだった


侵入者が向かっている方向

その先にあるのは国連の監視団でも、ゾーフの管制室でもない


その先にある重要施設はたった一つだけ・・・


「・・・オリジン!」


静かに鎮座する宇宙から飛来した謎の光る物体

ゼロ・オリジンの間だった

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