混迷する戦局
「一体何が起こっているの!?」
ゾーフ管制室で防衛部隊の指揮を執っていた吹連が大きく声を上げる
「敵の第二波です! 敵に複数の接続者を確認! 防衛部隊にも大きな被害が出ています!」
「くっ・・・」
先程退けた金で雇われたチンピラ達とは比べ物にならない程の攻勢
訓練を受けた、明らかに戦い慣れしている敵だ
(既に国連の監視団と皇女の保護は完了している。このタイミングで仕掛けてくるという事は、やはり最初から目的はゾーフ・・・?)
だが、研究施設であるゾーフを襲撃した所で何を得られるというのか?
不透明な敵の目的、他にも不可解な点はある
(こちらの通信が途絶えた直後に本命の投入、タイミングが良すぎる・・・。情報が洩れている? 内部に裏切り者が・・・?)
突然起こった緊急事態
しかし、治安維持課課長としてここで判断を間違える訳にはいかない
「各部隊、戦線を下げゾーフまで後退。敵の接続者は手練れ揃いです、一般の防衛部隊は可能な限り交戦を避け防衛に徹する事。接続者の相手は暗殺者に任せます。有線通信エリア外の部隊には直接伝令を向かわせて。カメラの映像は?」
「それが、監視カメラの大半が破壊されて使用不可能です!」
「生きているカメラの映像だけでも回して」
素早く現状を判断し、吹連は部下達に指示を出していく。その時・・・
「ゾーフ南、A-18エリアにて! ナンバー・「9」と敵接続者の交戦を確認!」
「映像を」
すぐさま、正面のモニターに交戦中の「9」の姿が映し出される
そして、大太刀を振るう「9」と共に映し出されたのは・・・
「ッ!? まさか! この二人が!? ならばこの襲撃の主犯は・・・!!!」
ガキィンッ!!!
「9」の振るう大太刀と、「7」と「8」が持つ中華刀がぶつかり合い火花を散らす!
巨大な大太刀をまるで木の棒でも振るかの様に軽々と扱う「9」
長大な刃が凄まじい速度で「7」と「8」に襲い掛かる! しかし・・・!
「よっ!」
「きゃっ!」
その尋常ならざる斬撃を軽々と回避する双子の兄妹!
そして「9」の攻撃を回避しながら懐に飛び込むと、今度は双子の方が仕掛ける!
「ええい!」
「9」の頭部に向かって振り下ろされる「8」の中華刀!
「フッ!」
ギィンッ!!!
「9」はこれを刀で受け止めると、力任せにはじき返す!
そして体勢を崩した「8」へ反撃を行おうとするが! その瞬間!
「もらった!!!」
その瞬間を狙って! すかさず「7」が仕掛ける!
「チッ!!!」
ガギィンッ!!!
「9」は素早く刀を構え直すと、後ろからの「7」の攻撃を防ぐ!
「まだまだ! 「8」!!!」
「うん!」
今度は「8」の攻撃!
お互いの隙を補いながら繰り出される双子の連続攻撃!
体格、獲物のリーチでは勝っているが
敏捷性、小回りに関しては双子の方が上
その上「7」と「8」のコンビネーションは正に一心同体
完全に継ぎ目のない連携、「9」の技量をもってしても一分の隙すら見つけられない
「くっ!」
凄まじい連続攻撃に耐えきれず、「9」は後方へ飛び間合いを離そうとする!
「させるかよ! 畳みかけるぞ「8」!」
「うん! 「7」」
だが! 双子の更なる連撃により、「9」は仕切り直す事が出来ない!
その打ち合いの最中! 「7」の陰に「8」の姿が消える!
「何っ!?」
一瞬、「9」から「8」の姿が見えなくなる!
そしてその一瞬! まるで地面に伏せるかの様に体勢を低くした「8」は「7」の真下を潜り抜け・・・!
「ええい!!!」
下から! 「9」に向かって斬り上げた!
「ッ!!!」
視界の外からの奇襲に「9」の対応が一瞬遅れる!
ギィンッ!!!
なんとかこの一撃を受け流すが! 体勢を大きく崩す「9」!
「ッ!!! チャンス!!!」
すかさず! 「7」がそこへトドメの一撃を放つ! だが!!!
「駄目! 「7」!!!」
「何っ!?」
発光する「9」の瞳!
瞬間! 「7」の目の前!
何もない空間から斬撃が現れる!
ザシュッ!!!
突然空間に現れた斬撃!
「7」の左手が切断され鮮血をまき散らしながら宙に舞う!
「がっ!!! くそっ!!!」
「「7」!!!!!」
たまらず、素早く間合いを離す双子!
「くっそ・・・! アイツの能力・・・! 「記録」か!!!」
切断された左腕から血を流しながら、「7」が忌々しそうに叫ぶ
そう、体勢を崩したのは「9」による誘い
あの瞬間、既に「9」は「記録」によって目の前の空間に斬撃を設置していたのだ
「ぐあっ・・・くそぉ・・・!!!」
左腕の肘から先を斬り落とされた「7」
ダメージは甚大、放置しておけば数分とかからず失血死するであろう。だが・・・
「もう! 油断しすぎだよ「7」!」
「悪い悪い、アイツの能力を完全に忘れてた」
悪い事をした兄とそれを叱る妹
双子の言葉には緊張感と言った物が感じられない
腕を斬り落とされている現状に対して、それは酷く異質に見えた。その時・・・
「けど大丈夫。「8」が無事だからな」
笑みを浮かべながらそう言う「7」
「うん大丈夫。「私」が無事だから」
それに対し同じく笑みを浮かべながら返す「8」
「「だって僕(私)達は・・・!」」
そして!
その言葉と共に、双子の瞳が紫色に発光する!
「「二人で一つ」」
瞬間!
なくなっていたはずの「7」の左腕が元通りに戻っていた!
「チッ・・・!」
舌打ちをする「9」に対し、双子は改めて刀を構えながら呟く
「僕達は二人で一人。それが僕達・・・」
「私達の能力・・・」
「「二身同体」」
不気味に輝く双子の瞳を見据えながら、「9」が呟く
「やはり個々を叩いても効果はないか・・・」
「7」と「8」の能力「二身同体」
思考、感覚の共有により完璧な連携攻撃を可能とする能力
さらに片方が傷を負っても、もう片方が無事であるなら即座に治癒してしまう
例えそれが即死状態からだったとしても
その時、「9」が双子に向かって言う
「片方が傷を負ったのなら、もう片方も傷つくべきじゃないのか?」
その質問に対し、双子はフンと鼻を鳴らしながら答える
「それを決めるのは僕達さ!」
「そう! 私達の能力「二身同体」が決めるんだから!」
勝ち誇った様に告げる双子に対し、「9」は続けて言う
「・・・いくら外見は歳をとらないとは言え、中身はいい大人だろうお前達も? その喋り方はどうにかならないのか?」
そんな何気ない一言
だがその瞬間、双子の顔から笑みが消える
「は? 何を言ってるんだ「9」? 僕達は永遠に変わらない。僕達は永遠にこのままだ」
「「7」の言う通りだよ。私達は今の私達のまま永遠に生きていく。あの方ならそれを可能にしてくれる、私達二人の願いを叶えてくれる」
その言葉に対し、「9」は刀を構えながら呟く
「やはり。お前達の背後に居るのはあの男か・・・」
「どうだっていいだろ? そんな事」
「・・・」
先程よりも数段鋭く、殺意の籠った眼差し
(この状況はマズイな・・・。だが・・・、この二人を相手に背を向ける事は出来ない・・・)
盤面はどんどん不利になっている
だがこの状況で「9」に取れる行動は一つしかない
「暗殺課についた時点でお前は僕達の敵だ! 死ねよ! 「9」!!!」
そして再び双子が「9」に襲い掛かった!
「9」と「7」「8」による南エリアでの戦闘
そこからゾーフを挟んだ反対側
北エリアでもシングルナンバー同士の戦闘が繰り広げられていた
「外部電脳起動!!!」
「6」の叫び声と同時に! 外部電脳が駆動音をあげる!
「発火能力!」
ゴオッ!!!
「6」から放たれる火炎!
高い能力適正値を誇る「6」の放つそれは、すでに火炎などと言うレベルではない
それは業火だ
一度敵を飲み込んだなら骨まで焼き尽くすであろう業火
だがそれに対し・・・!
「・・・」
「5」は回避する事すらせず正面から炎を受け止める!
ゴオオォォォッ!!!
「6」の放った炎が「5」の皮膚を焼く! だが・・・!
ピリッ・・・ピリリッ・・・
皮膚が焼け焦げると同時に、凄まじい速度で新しい皮膚が「5」の全身を覆っていく!
「チッ!!! この程度じゃ無理か!」
苛立った様に言う「6」
その表情に普段の余裕、加虐的な笑みはない
「フッ・・・」
僅かに笑みを浮かべると、「5」は身体を覆っていた炎を払い
近くに倒れていた防衛隊の死体からアサルトライフルを拾い上げる!
「ッ!!!」
ダダダダダッッッッッ!!!!!
そしてすかさず! 「5」は「6」に向かって銃弾を連射した!
「チッ!!!」
「6」は素早く近くのビルの陰に隠れる!
「クソがッ!!! あっちと違ってこっちは一発貰っただけでアウトだっつーのに!!!」
容赦なくビルの壁面を削る銃弾の雨! だがその時・・・!
カランッ・・・
「ッ!!!!!」
投げ込まれたソレに対し、「6」は弾かれる様に飛ぶ!!!
ガァンッ!!!!!
次の瞬間!
爆発したグレネードから破片が飛散!
咄嗟に回避した「6」だったが、破片のいくつかが皮膚を切り裂く!
「さすが元軍人! 容赦ないぜ!」
そしてグレネードに追い立てられる様に、「6」の姿がビルから飛び出す!
「・・・」
それに対し、「5」は冷静にアサルトライフルの照準を合わせる
そしてトリガーを引こうとした、その時・・・!
「何・・・?」
ピタリと止まる人差し指、左手の甲に浮かんだ赤い数字は「0」を示していた! 瞬間!
「死の・・・!!! 六階段!!!」
拳を握りしめる「6」!
グシャッ!!!!!
それを合図に「5」の心臓が嫌な音を立てながら握りつぶされる!
「がはっ・・・!」
口から血を吐き出す「5」! そしてその身体が崩れ落ち・・・
「ぐっ・・・うっ・・・!」
ピタリと、その身体が止まった!
そしてその目がギラリと輝くと、「6」に向かってライフルによる反撃を行う!
「くそっ! 「死の六階段」でも殺せないのか!?」
攻撃した対象にカウントを付け、行動権が「0」になった相手を確実に殺す
正に必殺の能力。しかし・・・
「奴の能力と俺の能力は相性が悪すぎる!」
「6」の能力は絶対に殺す能力
だが、「5」の能力は殺しても死なない能力
焦りを募らせる「6」に対し、「5」は静かに告げる
「戦場に於いて「死なない」と言うのは最強の武器となる。どんな攻撃でも殺せない、それが私の能力「不死身の突撃兵 (イモータル)」だ」
そして「5」は、防衛隊を片付けた超巨大なガトリング砲を構える
「どうやっても死なないとか卑怯じゃねーの!? 殺し合いってのは殺すし、殺されるから楽しいんだろうが、「5」さんよ!」
障害物の陰から、「6」は挑発する様に叫ぶ
しかし、「5」はその言葉を全く意に介さず告げる
「私は殺し合いをしに来た訳ではない、ただ敵を殲滅しにきただけだ。あの方が作り出す理想の世界の為に・・・」
「・・・!」
ドガガガガガッッッッッ!!!!!
壁ごと撃ち抜かんとする様なガトリングの連射!!!
「くそがぁっ!!!」
「6」は全力で疾走し逃げる!
無数の弾丸、その中の一撃でも頭か胴体に貰えば終わりだ!
(この俺が逃げるだけで精一杯! 相性の問題もあるが、ヤツの「不死身の突撃兵」は強すぎる!)
殺しても死なない、「5」の能力はただそれだけの能力だ
しかしシンプルが故に、強い
(だが弱点はあるはず! 「5」の野郎だって完全に不死身というわけじゃないはずだ! 何かヤツを殺す条件があるはず!)
状況は圧倒的に不利
だが、「6」の表情に自然と笑みが浮かぶ
(それに、これはチャンスだ・・・。「不死身」の能力。それが手に入れば、アイツを・・・「4」を永遠に殺してやる事が出来るかもしれない)
「6」の笑み、それは邪悪で醜悪
愛情に狂った殺人鬼の笑みだ
そして両手のバタフライナイフをくるりと回すと、「5」に向かって狙いを定める!
「テメーの能力・・・! 俺が貰うぜ!!! 「5」!!!!!」
そして「6」と「5」の戦いは第二ラウンドへと突入しようとしていた!
「6」と「5」、「9」と「7」「8」がそれぞれ交戦している中
資材搬入用通路にて「4」と「12」も交戦状態にあった。しかし・・・
ダンッ!!!
「4」が「12」に向かって発砲する!
「無駄な行動です」
キンッ!
だが!
「12」の鏡が銃弾を映し出した直後、その銃弾は鏡の中へ吸い込まれる様に消える!
そして「12」はその場に立ったまま、障害物の陰に隠れる「4」に向かって言う
「どうしました? いつまでそこに隠れているんです? 私は逃げも隠れもしませんよ?」
両手を広げる様にして挑発する「12」
「・・・」
しかし「4」は無言のまま、その誘いには乗らずたまに牽制攻撃を仕掛けるだけ
その状態が10分程続いていた
「私の能力「鏡」。鏡に映し出された瞬間、貴方の敗北が決定する」
「・・・」
「12」の言葉に「4」からの返事はない
だが構わず、「12」は話を続ける
「反射させる物がない場所では十分に能力を発揮出来るとは言えませんが、この場所なら反射させる物には事欠かない」
監視カメラのレンズ、鏡面加工の施されたパイプ、人の顔が映りこむ程に磨かれた通路の壁
その全てが「12」の武器
「私はこの場所から動きません、防衛戦には自信がありますから。それに正直言えば・・・私を追ってきたのがナンバー・「4」。貴方で少しホッとしたんですよ?」
「何・・・?」
ピクリと眉を上げる「4」
それに対し、「12」は続ける
「私、実は貴方のファンなんです。無敵の能力を持った最高位の暗殺者、貴方の戦闘記録には全て目を通しました」
「フン・・・。で、何じゃ? サインでも欲しいのか?」
「いえ、サインより。貴方の「能力」をいただこうかと」
温和な笑みを浮かべたまま「12」は告げる
「私の能力はご存じですよね、鏡に閉じ込めた人物をコピーする事が出来る能力。もし貴方を、ナンバー・「4」をコピー出来たなら。私はもっと強く・・・いえ、私こそが最強の暗殺者になれる。貴方の姿は大事に大事に保管すると約束しますよ」
その言葉に対し、「4」は呆れた様に言い返す
「知っておるか? それを捕らぬ狸の皮算用と言うんじゃ」
その言葉に「12」はクスリと笑って答えた
「そうかもしれませんね。では試してみませんか? 私の「鏡」と貴方の「絶対回答」、どっちが勝つか」
その言葉にハンドガンとナイフを構えながら「4」は思案する
(0.1%でも勝てる可能性があれば儂の「絶対回答」はそれを引き当てる事が出来る、じゃが0%である場合だけは別。あの場所に立っている限りあやつの能力に死角はない。ほんの僅かでもいい、ヤツの能力の隙を見つければ・・・)
ほんの僅かでも可能性があれば勝てる
そして、それを引き出す為の条件は「既に見つけている」
そう、この戦い
「4」は既に勝利を確信していたのだった。しかし・・・
(だが、問題はそこではない・・・。儂は既に一手遅かった・・・)
目の前に立つ「12」と言う接続者の存在
それが既に「4」の敗北を意味している。だが・・・!
「いいじゃろう・・・」
そう告げると障害物の陰から姿を現す「4」
それに対し、「12」は少し驚いた様な表情を見せる
「そろそろ決着を付けるとしようか、ナンバー・「12」」
「・・・っ! ええ、望む所です」
そして「4」と「12」の戦いは最後の瞬間を迎えようとしていた!




