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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第七章:騒乱の種は蒔かれ、亡霊達は蘇る
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翌日

旧渋谷駅前、国道246号沿いに旧国会議事堂前へと向かう数台の車の列があった


最低限の舗装のみが施された道路を

車の列は周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいく


辺りの風景は数十分前の煌びやかな都会の風景とは打って変わり

崩壊したビルが立ち並ぶ廃墟に変わっていた


オリジンと接続者により都市機能が麻痺した地

死んだ街の姿、そこがグラウンドゼロであった


その時、国連の監視団とは別の車両に乗って

車の窓ガラスから外を眺めていたルミリアム皇女がポツリと呟く


「ここガ・・・グラウンドゼロ・・・。本当の隔離都市・・・」


その言葉には、昨日まで爛々と目を輝かせていた少女の無邪気さと言った物は一切ない


東京という街から

いや、この世界から隔絶された地に対する驚き、畏怖等と言った物があるだけだ


「人一人いまセン・・・」


そう呟く皇女に、護衛として車に同乗していた「13」が答える


「そうでもない。見てみろ、左側前方のビル、3階の窓だ」

「えっ?」


その言葉に従いビルの窓に目を向ける皇女、その瞬間


「あっ!」


皇女が驚く声を上げるのと、窓際からこちらを伺う人影が物陰に姿を隠したのはほぼ同時だった


「心配ない、ただの住人だろう。こちらの様子を伺っているだけで危害を加える気はなさそうだ」


「13」の言葉の通り

車は何のトラブルもなくそのビルの横を通り過ぎる


「こんな廃墟でも、人は生きているんデスね・・・」

「人だけじゃない。接続者もだ」


その単語に、皇女はハッと顔を上げる


「「接続者コネクター」・・・。特殊な能力を持った人達・・・と聞いていまス」

「・・・」


「13」はその言葉に対し何も答えない

代わりに、車を運転していた冬香が皇女に質問する


「皇女は接続者に興味があるんですか?」


その質問に、皇女はハッキリと答える


「ハイ。私がこの東京に来た一番の理由は、接続者と言う人達を知りたいと思ったからデス」

「接続者を・・・?」


疑問の声を上げる冬香に、皇女は自分の考えを説明する


「私は接続者と人間の共存について模索してるのデス」

「共存・・・ですか?」

「接続者は超常の力を持った恐ろしい存在だと、それこそ生まれた時から、私は教えられてきましタ。人と同じ形をした人でない存在、この東京にのみ存在する新人類。その力に恐怖した人達が、彼らに対し迫害を行うのは仕方のない事なのかもしれまセン・・・。ですが、本当にそれでいいのだろうか? とも思うのデス。彼らは人を殺すだけの怪物ではない、同じ言葉を使い意思を疎通させる事の出来る同じ人間なのではないでしょうカ?」

「それは・・・」


皇女の言葉に口ごもる冬香


言っている事は理解出来る

確かに接続者は言葉の通じないエイリアン等ではない


現に目の前の「13」や

「4」「9」といった暗殺者達は真っ当な思考を持っている様に冬香には思える。だが・・・


「・・・それは難しいだろうな」

「ミオンさん・・・?」


その皇女の言葉に、「13」は静かに答える


「普通の人間からすれば、接続者は強力な爆弾の様な物だ。ほんの少しの悪意さえあれば、いとも簡単に周囲にある物を吹き飛ばす」

「でも! それは人間だっテ・・・!」

「人と接続者では破壊の規模が全く違う。接続者はただそこに居るだけで危険な存在だ」


「13」の言葉には皇女の様な理想や希望等と言った物は一切ない

皇女に対し、淡々と現実を突きつけていく


「・・・だから隔離すべきだト?」

「もしくは・・・皆殺しにするかだな」


その「13」の言葉に黙り込む皇女、しかし・・・


「ええ。ミオンさんの言う事はその通りなのかもしれまセン・・・」


皇女はあっさりと首を縦に振る


「私の父や兄も同じ事を言いまシタ。私の考え方は彼らにとって・・・、イエ、ほとんどの人にとって異端だと言う事は理解しているのデス・・・。今回の東京行きも彼らの猛反対を押し切って強行した事なのデス・・・。父や兄からすれば、私は国の恥さらしと言った所でしょうネ」


そう言いながら、少し自嘲気味に皇女は笑うのだった






「そこまでして・・・」


皇女の言葉に対し、そう冬香が言いかけようとした・・・その時!


ドォンッ!!!!!


後方から激しい爆発音が響く!


「何っ!? 御音!」

「襲撃だ! 警戒しろ!」


冬香達の後方を走っていた護衛車の一台がロケットランチャーの直撃を受け

ハリウッド映画の様にガシャン! ガシャン! と大きな音を立てながら転がっていく!


「敵か!? 応戦しろ!!!」


すぐさま周囲の車から護衛達が飛び出て応戦体勢に入る!

そして間髪入れず襲撃者達との間で銃撃戦が始まった!


「敵は何者だ!?」

「分からない、とにかく車を降りろ。さっきのを食らったら終わりだ」


すぐさま冬香と皇女を車から降ろし、道路脇の路地へと逃げ込む! その直後!


ドォンッ!!!!!


さっきまで乗っていた車がロケット弾によって吹っ飛ばされる!


「ッ! 危機一髪だな!」

「ああ。危うくバーベキューになる所だった」


タンクのガソリンに引火したのか、炎上する車を見ながら冬香と「13」は言葉を交わす


「でも! これからどうすれバ!?」


そう叫ぶ皇女に対し、冬香は端末を確認しながら答える


「不幸中の幸いかここからゾーフまでの距離はそう遠くありません、そこまで逃げ切れば安全です」


暗殺課の研究施設であるゾーフ

そこは接続者の襲撃すら防ぎきる、鉄壁と言える防衛体制が整っている施設だ

襲撃者の規模は不明だが、ゾーフの中に入ってさえしまえば敵も手を出せなくなるだろう


「ああ。急ぐぞ」


そう言うと、「13」は二人の先導をしながら路地を移動していく


「国連の監視団が乗っている車は大丈夫だろうか?」

「さあな、監視団が乗っていた車は俺達の車よりかなり前を走っていたはずだ。同時に襲撃でもされていなければゾーフに逃げ込んでいるだろう」


監視団が居る方向から銃撃音等は聞こえなかった

火器を扱わない襲撃である可能性もあるが、今の「13」達にそれを確認する術はない


その時、「13」と冬香の通信機に通信が入る


「無事ですか? 霧生監査官、「13」」


それは前日の内にゾーフへと移動していた吹連課長からの通信だった


「吹連課長! 現在敵の襲撃を受け車を降り、徒歩でゾーフに向かっています!」

「位置情報はこちらでも確認しているわ。引き続き、皇女を護衛しながらこちらに向かって下さい」

「了解です!」


吹連からの通信に対しそう答える冬香

その時、「13」が吹連に問いかける


「吹連課長。「4」達は? 周囲に付いていた暗殺者達はどうなっている?」

「そちらの方だけれど、貴方達が襲撃を受けたのとほぼ同時に一斉に攻撃を受けたわ。接続者ならいざ知らず、通常の襲撃程度「4」達なら問題ないとは思うけれど。どうやら数が多いみたいで、念の為ゾーフの防衛隊の一部を向かわせています」

「了解」


吹連の通信に対しそう答え

引き続き移動しながら、「13」は現状について思案する


(俺達を襲撃した奴等の他にも敵・・・。敵はそれなりの規模・・・)


そして、いくつかの不可解な事柄・・・


(しかし、敵は何処から現れた? 俺達の周囲の護衛の他に、それらを全てまるごと囲む様に「4」を含む暗殺者達が伏せていたはず。最初からあの場所に伏せて気配を殺し、暗殺者達の索敵をすり抜けた可能性もあるが・・・)


暗殺者達の包囲をすり抜けてこちらの護衛体勢の内側に入り込む

それは接続者であっても容易ではない芸当だ


(いや待て・・・内側・・・?)


だがその時、「13」の脳裏に数日前のある光景が思い出される

直後、「13」は突然その場に立ち止まると皇女に向かって振り返る。そして・・・


「ルミリアム皇女、一つ聞きたい事がある」


「13」は後ろに付いてきていた皇女に対しある質問をした


「え・・・? 一体なんでショウ・・・?」


突然立ち止まり質問をしてきた「13」に対し、やや緊張した様子を見せる皇女


「確かアンタの側に付いていた護衛隊長が居たな」

「えっと・・・バーディさんですカ?」

「ああ、その男だ。その男は何処に行った? さっき周囲の車から出て応戦を始めた護衛の中にソイツの姿は見えなかった。確かアンタの執事でもあるんだろう? なのに何故居ない?」


突然の質問に対し首を傾げながら皇女は答える


「バーディさんならこちらの護衛はお二人が居るからと、国連の監視団の方が乗った車の護衛に回っていたはずデスが・・・?」

「・・・」


その答えを聞きながら「13」は周囲への警戒を強める。そして・・・


「・・・誘いこまれたか」


「13」はそう呟きながら冬香に視線を送る


「・・・!」


そして・・・次の瞬間!

「13」は皇女を抱えると近くのビルの陰に走りこむ!


「エッ!?」


突然の行動に唖然とする皇女、しかし・・・!


ダダダダダッ!!!!!


「えっ!? キャアアアアアッ!!!」


突然降ってきた銃弾の雨に悲鳴を上げる!


「こっちだ!」


先に移動していた冬香に続いて銃弾を潜り抜け、近くのビルの中に逃げ込む!


「くそ! どういう事だ!? すでに回り込まれていたのか!?」


リボルバーを構えながら叫ぶ冬香に、「13」が答える


「いや、敵はどうやら最初から内側に居たらしい。国連の監視団と一緒に先行する様に見せて、俺達を待ち伏せしていたんだ」

「何だと!?」

「さっきの襲撃は他の護衛をあの場所に釘付けにする為、本命はこっちか・・・」


だがその「13」の言葉に冬香が声を荒げながら質問をする


「ちょっと待て! それはつまり、敵の狙いは・・・!」


その時、ビルの外から大きな声が聞こえてきた!


「ルミリアム皇女! そこにいるんでしょう? いい加減観念して出てきてはくれませんか!?」

「エッ・・・? この声は・・・!?」


近くに落ちていたガラス片を使い、外の様子を伺う「13」

そこに映っていたのは・・・


「やはりあの男か・・・」


先日出会った護衛隊長、バーディの姿だった






「バーディさん!? ソンナ! どうして!?」


そう叫ぶ皇女に対し、バーディは大声で答える


「まあ一言で言えば「命令」されたからですよ。皇女には気の毒ですが、貴方には死んでいて欲しい人物が居ると言うわけです」

「皇女を殺すだと・・・!?」

「ええ。ですが、表立って一国の皇女を殺したのでは何かと都合が悪い。しかし、ここなら? 世界の情報から隔絶された空間、このグラウンドゼロでなら! 全てを事故として処理できるのでは!?」

「フン・・・、なるほど。皇女を暗殺し、全てを接続者のせいにしようという魂胆か」

「その通り! 皇女にはここで死んでもらい、目撃者である貴方達も同じく死んでもらう!」


そしてバーディの部下達が一斉に銃を構え、ビルの入り口に狙いを定める! だが・・・


「・・・はぁ」


それに対し、「13」は軽くため息をつく


「ミオンさん?」


バーディとその部下により完全に周囲を包囲されている

そんな絶望的な状況にも関わらず、「13」と冬香は平静を崩さない

まるで「いつもの事」と言った様な表情だ


「全く、相手が分かればどうという事もない。やれるな? 「13」」

「「13」・・・?」

「ああ。俺が仕掛けたら皇女を連れてゾーフへ向かえ」

「えっ!? 何を言っているんデスか!? ミオンさん殺されてしまいマス!」


「13」を止めようとする皇女、しかし・・・


「ルミリアム皇女、接続者の事が知りたいと言っていたな?」

「えっ?」

「よく見ていろ。これが接続者、そして・・・」


そして「13」は懐から銃剣の付いた二挺拳銃を取り出す


「暗殺者の力だ」


それと同時に! 「13」は外に飛び出す!


ダダダダダッ!!!


それを迎え撃つ様に銃弾が放たれるが、「13」は防弾コートで急所を防ぎながら疾走!

そして走りながらビルの壁に向かってワイヤーのアンカーを撃ち込む!


「なっ!?」


突然空中へと飛び上がった「13」の姿に、銃口を向けていた襲撃者達が動揺を見せる!

そして彼らが次の瞬間見た物は、自分達に狙いを付けるハンドガンの銃口!


バスッ!


20メートル程の距離に、さらに滑空中にもかかわらず

銃を持っていた男の腕を確実に撃ち抜き無力化させていく「13」!


「あと・・・8人」


冷静に敵の位置を把握しながら、「13」は縦横無尽にビルの間を移動していく!


「・・・」


その姿に呆気に取られる皇女だったが


「皇女! 今の内にこっちへ!」


自分に対して呼びかける冬香の言葉に正気に戻る

そして二人で路地を走り抜けようとするが・・・!


「逃がさんぞ! ルミリアム皇女!」

「・・・!」


襲撃者の一人が二人の間に立ちふさがる!

そして襲撃者が銃を構えようとした瞬間!


ダンッ!


「ぐあっ!!!」


ビルの間、上空からの銃撃を受け男は倒れる!

そしてまるで宙を滑走するかの様に「13」は他の敵へと向かう!


「彼は・・・一体・・・?」


茫然とそう呟く皇女に対し、冬香が告げた


「アイツは「13」・・・。特別治安維持課に所属する暗殺者ナンバー・「13」です」


そして「13」にその場を任せ、二人はゾーフの方角へ向け走って行った






バーディを含む、重武装の襲撃犯は9人

しかし、ただの人間である彼らは、暗殺者である「13」の敵ではなかった


「13」が全ての襲撃犯を制圧するのにかかった時間はおよそ10分


全ての襲撃犯は無力化された状態でうずくまり、リーダーであるバーディも「13」に銃を突きつけられ両手を上げている


「こ・・・こんなバカな・・・! たった一人に我々が・・・!」


愕然とするバーディに対し、「13」は銃を突きつけたまま冷酷に告げる


「さて、お前らを殺さなかった理由は簡単だ。皇女暗殺未遂の罪をお前ら自身に証言してもらう」

「くっ・・・!」

「だがその前に、一応この場で聞いておこうか」


そして「13」はバーディに対し問いかける


「お前に皇女暗殺を「命令」したのは誰だ?」

「そ・・・それは・・・」


「13」の質問に対し口をつぐむバーディ、しかし・・・


「別に答える必要はない」

「な、何・・・?」

「俺の眼を見ろ」


次の瞬間!

「13」の右目が紫色に発光し、能力「接続リンク」が発動する!


「ッ!?」


一瞬にしてバーディの記憶を読み取る「13」、しかし・・・


「な・・・なんだ・・・!? コイツの記憶・・・!」


「13」が見たのは不可解としか言いようのない記憶だった

その時・・・!


「あ・・・? ああ・・・」


突然バーディの様子がおかしくなり、うわ言を呟き始める


「私に命令・・・命令したのは・・・したのは・・・」


先程までの態度とは裏腹に、呆けた様にうつろな視線で空を見上げるバーディ

そしてプツリと糸が切れた人形の様に、そのまま意識を失い倒れた


「くっ・・・!」


だがそんなバーディの様子を気にする事もなく

遠くに見えるゾーフの方に視線を向けながら険しい表情を見せる「13」


「接続」によりバーディに記憶に触れた「13」

そこで見た真実・・・それは・・・


「マズイ、これは襲撃犯による皇女暗殺計画なんかじゃない・・・。俺達は最初から間違えていた」


それはまるで「鏡」に映った虚像

全て・・・全てが「嘘」


そして「13」はすぐさまゾーフに向かって走り出したのだった

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