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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第七章:騒乱の種は蒔かれ、亡霊達は蘇る
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描かれる意図


国連特別監視団とルミリアム皇女による東京の観察が始まって一週間


自由奔放に動くルミリアム皇女と、それを護衛する冬香と「13」の緊張も他所に

これと言った問題も起こらず、監視団の東京での滞在スケジュールは滞りなく進行していった






そして、翌日にも護衛の任務を控えていたある夕方


特別治安維持課本部の会議室

そこに治安維持課を代表する人物達が集まっていた


部屋の奥、大きな会議テーブルの上座に座るのは特別治安維持課課長、吹連双葉すいれんふたば

その隣には彼女が監査する暗殺者「4」の姿もある


そして吹連から見て右側には 飛山隆鳴ひやまりゅうめい副課長

彼の担当暗殺者「6」の姿はない


この場に「6」を呼べば

些細とは呼べない問題が起こりかねない事を憂慮した為だ


続いて左側には、研究室主任である安栖宗次あすみそうじ

その奥には暗殺者「9」と、彼の監査官である鳥羽御貴とばみきの姿もある


部屋の中央に置かれたテーブルは30名は座れそうな大きな物だったが

その椅子が埋まるのを待つ事なく、吹連は会議の開始を告げた


「さて、議題はもちろん、国連特別監視団の事です」


その吹連の言葉に、飛山が補足説明を行う


「観察が始まってから一週間。その間、彼らを狙った襲撃等は起こっていない。組織的な襲撃はもちろん、野良の接続者との戦闘等も報告されてきていない」


淡々と事実だけを告げる飛山、正に事務的と言った態度

それに対し、4はニヤリと笑みを浮かべて答える


「まあ当然じゃろう。監視団の周囲には遠目でも分かる程大勢の黒服がおるし、距離を置いて儂ら暗殺者も護衛についておる。この状況を見て襲撃を行おうなどと言う輩がおれば、それはとてつもない愚か者か、自殺志願者のどちらかじゃ」


そう言ってクックと笑う「4」

その言葉に同意する様に首を縦に振ってから、安栖が発言する


「「4」の言う通りだね。そう言った輩が居たとして、この状況で襲撃を行ったとしても、成功する確率は限りなく低いだろう。だが・・・」


そう言って続き言いよどむ安栖に対し、吹連が代わりに言う


「ええ、問題は明日・・・」


その吹連の言葉に、部屋の中の空気がほんの少し緊迫感を増す


「明日の監査予定場所は旧国会議事堂跡地、つまりゼロ・オリジンの監視研究施設「ゾーフ」よ」







Zero - Origin Surveillance Research Facility、通称「ゾーフ」

2020年に国会議事堂に飛来したゼロ・オリジンを監視すると同時に、オリジンの研究の為に作られた施設である


旧国会議事堂跡

つまりグラウンドゼロ内部に存在するこの施設の存在を知る者は警察内部でも多くない


グラウンドゼロの特性上、本部との通信が不能の為

定期的に幾名かの研究員が本部とゾーフを往復している


無法地帯であるグラウンドゼロに於いて、唯一政府が管理している場所でもあり

接続者ですら近づく事の出来ない暗殺課の重要施設である






「国連の人間がゾーフを視察か・・・。どうなのだ? 安栖研究主任」

「視察自体は問題ないですよ。研究施設とは言っても、オリジンについては我々にも分からない事の方が多いですし。見られてマズイ物もほとんどありません」

「彼らがオリジンに何かしらの干渉を考えている可能性は?」


安栖に対しそう質問する飛山

だがその質問に対し「4」が横から口を挟む


「不可能じゃよ」

「何?」

「・・・オリジンへの干渉など不可能だと言ったのじゃ。「接続」はおろか、人類にはアレをほんの数センチ横にどかす事すら出来んのじゃからな。そうでなければあんな場所に研究施設など作らん」


「4」の言葉に、飛山はフンッと息を吐き出すと

背もたれに寄り掛かり、指を組みながら口を閉じる


「「4」の言う通りよ。彼らがオリジンに触れた所で何の問題もない、国連監視団によるゾーフの視察は予定通り受け入れます。ですが場所が場所だけに、万が一に備える必要があるわ。安栖研究主任」

「ああ」


そう言って安栖は椅子から立ち上がり、一度部屋から退出する

そしてすぐに、安栖は一人の人物を連れて戻ってきた


「し、失礼します!」


そう言って勢いよく頭を下げ、安栖と共に部屋に入ってきたのは・・・


「ん? あの娘は確か「13」の所の・・・?」


暗殺者の候補生として所属していた、アイリの姿だった


部屋に入ってきた十代半ばの少女の姿に、「9」が訝し気な表情を見せる


「・・・安栖研究主任、その子供は?」

「この子はアイリ。暗殺者候補として保護していた少女で、少し特殊な能力の持ち主でもある」

「能力? それはどの様な?」


そう問いかける「9」に対し、安栖は説明を行う


「彼女の能力は「索敵サーチ」。約3キロ圏内の地形情報や人員の有無を全て把握する能力なんだ」

「なるほど。索敵専門の能力と言うわけですか」

「ああ。そしてこれまでの実験結果から、彼女の能力はグラウンドゼロ内でも問題なく機能するという事が分かった」


その言葉にほんの少し驚きの表情を見せる「9」


「グラウンドゼロ内に於いて、その優位性は説明するまでもないだろうね。また彼女の能力で使用される特殊な波を解析して作ったチップを外部電脳に組み込む事によって、グラウンドゼロ内での短距離通信も可能となった」

「ほう、それは凄い能力じゃのう!」

「いえ・・・そんな・・・」


椅子から立ち上がり、背後からアイリを抱きかかえに行く「4」に対し

アイリはされるがままに抱きかかえられながら、頬を赤くして顔を俯かせる


「・・・ただその為には、通信の起点として彼女に前線に居てもらう必要がある。もし彼女に何かあれば・・・」


そう告げようとする安栖に対し、「4」はあっさりとした感じで答える


「クック。なに、問題ない。相手が誰であろうと儂らが、この娘には指一本触れさせはせん。のう? 「9」」

「「4」の言う通りだ。彼女も私が護るこの国の民の一人。護国の元に、彼女を護ると誓おう」

「うむ。・・・それにこの娘に何かあれば、「13」達に合わせる顔がないからのう」


アイリの頭を撫でながら、そう断言する「4」

その時、飛山が安栖に対して言う


「・・・つまり襲撃に対する準備は万全と言う事でいいのか?」

「はい。明日の護衛では現在任務に就いている暗殺者達に加え、シングルナンバーである「4」「6」「9」の全員に参加してもらう予定です。万が一の事態が起こっても、対応は可能であると考えます」

「フン」


その安栖の言葉に、大して興味なさそうに飛山は鼻を鳴らす

そして椅子を立つと、確認する様に周りに告げる


「では他になければ私はこれで失礼させてもらう、「6」と打ち合わせしておく必要もあるのでね」

「そうね。では以上で会議を終了とします」


吹連がそう宣言すると、飛山はスタスタと早足でドアに向かって歩いていき

早々に部屋を出ていった


「では我々も失礼します」


飛山が部屋から出て行った後、そう言って「9」も退出し

その一歩後ろに続いて鳥羽監査官も部屋を出る


「さて・・・後はルミリアム皇女の側に付いている霧生監査官と「13」にもこの事を伝えておかないと」


続いて席を立った安栖が言った、その時


「皇女か・・・」


その言葉に「4」が少し考え込む様にして呟く


「国連の監視団が来るのは分かる。しかし、何故「皇女」なのじゃ?」

「・・・本人の強い希望があったと聞いているけれど?」

「それは儂も知っておる。じゃがどうも違和感を感じると言うか・・・この場に於いて彼女の存在は異質である様に感じる」


どうにもスッキリしない違和感

その「4」の懸念に対し、安栖が言った


「全ての人間にはそこに居る意味・・・いや、意図がある。兵士は戦場に、医者は病院に、それは社会を構成する為の人間の効率化と言ってもいい。警官 政治家 サラリーマン 主婦、全ての人間は何かしらの意図があってそこに配置されている。無意味な場所に配置される人員はほぼ存在しない」

「・・・その通りじゃ。では「皇女」は? この街は彼女が配置される様な場所とは思えん」


その言葉に安栖は少し考え込むが、しばらくして


「いや、「意図」はあるのかも知れない・・・。「皇女」を「東京」に配置した、何者かの意図が・・・」











そして暗殺課本部での会議から数時間程たった頃


ルミリアム皇女と国連の監視団が滞在するホテル

その最上階、スイートルームの一室がルミリアム皇女が滞在する部屋


そして彼女の護衛に付いていた冬香と「13」の姿も、その部屋にあった


現在、部屋の中には皇女の姿は見えない

代わりにサァー とシャワールームから流れる水の音が静かに部屋の中に響き渡っている


シャワールームの中に居るのはルミリアム皇女の姿

扉の前には冬香が立っており、そこから少し離れた部屋の角に「13」が立っている


冬香は緊張した様子で周りを警戒しているが

ここ数日の疲労から、その視線は精彩さを欠く様に泳いでいる


(うう・・・。私は警官ではあるが護衛のプロと言う訳ではないのに・・・。いや、だがこれも任務だ! 皇女が滞在している間は私達が彼女の身を守らなければ・・・!)


その時、何気なく部屋を見渡した冬香の視界に「13」の姿が映る


「・・・」


緊張した様子の冬香とは対照的に、「13」は部屋の角に寄り掛かり無言のまま目を閉じている

立ったまま寝ているのかと言われれば、その様に見えなくもない


(あんなので護衛が務まるのか・・・?)


思わずそんな事を考える冬香

だが、次の瞬間!


バッ!!!


「13」はカッと目を見開くと!

素早く懐から銃を抜き、真横に向ける!


「なっ!?」


突然の「13」の行動に驚きの声を上げる冬香!

そして・・・!


「お? 今回は速いのう。感心感心」


銃を向けた方向から聞こえてきたどこか能天気な声に、「13」は銃を下ろしため息をついた


「気配を消しながら近づいてくるのは止めてくれ・・・」

「もちろん却下じゃ。弟子の成長を確認するのは師匠の義務じゃからな」


そう言いながら現れた姿に、冬香が驚いた様に声を上げる


「「4」!? 一体いつの間に・・・」

「うむ、少し用事があってのう。ルミリアム皇女はシャワー中じゃな。まあ、分かっておったから姿を現したわけじゃが」


そして4は手早く会議の内容を伝えると共に、通信用のチップを渡す


「それがあればグラウンドゼロ内でも通信が可能だそうじゃ。ただし有効距離は最大でも1キロ程じゃそうだから忘れるな」

「了解」

「それとこっちは監査官殿の新しい通信端末じゃ。接続者ではない監査官殿に外部電脳の機能を使う事は出来んが、通信だけなら問題ない」

「あ、ありがとうございます」

「安栖曰く、これは試作型でまだ量産はされておらん代物らしい。特別に霧生監査官に預けるそうじゃが、貴重品なので失くさない様に」

「は、はい・・・!」


緊張した様子でそう答えると

冬香はやや大型になった通信端末を懐に仕舞う


「では用も済んだし、儂も任務に戻るとするか」


そう言って部屋の窓から外へ出て行こうとする「4」


「くれぐれも、油断はするなよ「13」」

「ああ・・・」


何の問題もない、と言った風に答える「13」の言葉に

「4」はほんの少しだけ笑みを浮かべながら姿を消す。そしてその直後


「アレ? 今トーカとミオン誰かと話していましたカ?」


ややイントネーションの可笑しい日本語を口にしながら

バスローブ姿のルミリアム皇女が姿を見せる


「いえ、別に何も。少し明日の事で打ち合わせしていただけです」


咄嗟に冬香がそう答える


「ソウですカ?」


皇女はやや不思議そうに首を傾げていたが

それ以上は追求してこなかった


そしてその日も何事もなく、夜は更けていくのだった・・・











その日の夜中・・・


「分かっているな・・・?」

「はい。彼女には、その立場に相応しい「役」を演じてもらうとしましょう・・・」

「うむ・・・。では・・・計画通りに・・・」


闇の中で暗躍する存在、そして・・・


「・・・フッ」


闇よりも更に深い深淵から、それを眺める存在があった事を知る者はいなかった

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