遠くから来た貴人
特別治安維持課による竜尾会殲滅作戦から、3ヶ月程経ったある日
日中、新宿の街を歩く外国人の集団があった
集団の中央にはスーツ姿の初老の男性が数名
その彼らを中心に、大勢のSPが周りを固めている
初老の男性達
その正体は、国連から派遣された監視団である
東京の街の現状を監察に訪れた彼ら
そしてその中に一人、一際目を引く女性の姿があった
腰まである長い金髪に、仕立ての良い白のワンピース
年齢はまだ十代ながら、ある種カリスマ的なオーラを発する気品を感じさせる女性
彼女の名は、ルミリアム・ヴォールドハイド
ヨーロッパの小国、ヴォールドハイド王国
その継承順位3位が、彼女ルミリアム
正真正銘、一国の皇女である
しかし、彼女自身はそんな立場を自覚しているのかいないのか
碧い目をキョロキョロさせながら、珍しそうに辺りを見て回る
その彼女の隣、彼女に振り回される様にされながら付いていくパンツスーツ姿の日本人女性
東京特別治安維持課監査官、霧生冬香
そして、そんな二人からやや距離を置いて付いていく白髪の青年
「13」の姿があった
時は変わり、一週間程前
カズヤとの戦いの傷も癒え、通常任務に戻っていた「13」と冬香の元に
特別治安維持課課長である吹連から、本部へ出頭する様指示が下った
そして本部にある課長室へと訪れた彼らに、吹連は新たな任務の説明に入る
「国連特別監視団・・・ですか?」
「ええ」
冬香の言葉に頷きながら、吹連は冬香達に部屋のモニターを見る様に促す
「監察内容は東京の治安、またその維持に関して非人道的行為が行われていないか? と言った所ね」
「はぁ・・・」
吹連の説明に、冬香は思わず生返事を返してしまう
接続者達と暗殺者達が蠢くこの東京で何を今更・・・と言った考えが冬香の頭に浮かんだせいだ
もちろん、その場に居る他の面子も同じ様な事を考えていたのだが。その時
「まあ原因はアレじゃ。例の竜尾会殲滅作戦」
ソファーに座っていた「4」が説明をする
「儂ら暗殺課による竜尾会への一斉攻撃、それによって竜尾会の構成員の9割を殲滅する事が出来たわけじゃが。それに対して、A国から人道的見地からの抗議が来ておったのじゃ」
「確かニュースでもやっていましたね。接続者の人権を保護する抗議デモも起こっていたとか」
「クックッ! 全く、無知とは恐ろしい物じゃのう。とは言え本当の所は、東京で動かせる手足を潰された事への嫌がらせじゃろうがな」
竜尾会の背後に隠れていた存在、それがA国であったのは既に判明している
当然ながら、A国はその事を認める様な発言は存在しないのだが・・・
「じゃあその国連特別監視団も?」
「まあA国の意向も多少はあるじゃろうな。儂ら暗殺課は一応警察に所属する組織ではあるが、その活動内容は限りなく黒に近いグレー。東京に住む一般人ならともかく、外の公的な機関にバレれば色々とマズイ事になる。監察が終わるまでの間、大人しくしておく必要があるじゃろうな」
だが、そんな「4」の言葉に吹連が首を横に振りながら言った
「ところがそうも行かないのよ」
そして吹連はリモコンを操作すると、モニターに金髪の女性・・・女の子の顔写真が映し出される
「彼女はヴォールドハイド王国の皇女、ルミリアム・ヴォールドハイド皇女」
「ヴォールドハイド王国と言うと、確かヨーロッパの小国の名前ですよね?」
「ええ、現代でも君主制を残している小さな国ね。以前は牧歌的な暮らしの国だったのだけれど、数年前に自国の領土からとても希少な鉱物・・・レアメタルが発掘される様になり。一躍国際社会での発言力を高める事になったわ」
「ええと・・・その皇女様が一体・・・? もしかして・・・」
嫌な予感を感じ冬香の声が小さくなっていく
そしてそれに答える様に、吹連がコクリと首を縦に振った
「国連の監視団、それに彼女も同行する事が決定しているわ」
「なっ・・・!?」
思わず驚きの声を上げる冬香
「それは・・・一体どういった理由で?」
「さあ? 本人から強い希望があった、としか聞かされていないわ」
その言葉に唖然とする冬香
「13」は部屋に入ってきた時から変わらず無言、「4」はそれを聞いてクックッと大声で笑い声をあげている
「それで、ここからが本題なのだけれど・・・」
そう前置きをすると、吹連は一度コホンと咳払いをしてから冬香と「13」に告げる
「二人には彼女の護衛任務についてもらいます」
「えっ!?」
吹連の言葉に、またもや驚きの声を上げる冬香
「私達が・・・護衛ですか?」
冬香はそう慎重に聞き返す
「ええ。もちろん、貴方達以外にも沢山の護衛が付く予定となっているわ。警察からも300人態勢での警護体勢が敷かれる予定よ」
「でしたら・・・」
自分達の護衛は不要ではないだろうか?
そう疑問を抱く冬香に「4」が答える
「しかし、用意されている護衛は警察も含め全て「普通の人間」じゃ」
「あっ・・・。それは、つまり・・・」
「うむ。「接続者」に襲撃されればひとたまりもないじゃろうな」
そう、ここは「東京」なのだ
超常の力を持つ接続者達が闊歩する地
通常の護衛体勢など、木の盾で大砲を防ごうとする様な物だ
「とは言えさっき「4」が言った通り、我々暗殺者の存在を彼らに対し知らせるのは得策ではない。そこで二人には、あくまで警察の護衛要員として彼女の側に付いてもらう事となります」
「一般の警察官として・・・ですか」
その時、不安そうな表情を見せる冬香に対し「4」が告げる
「安心せい。皇女の側に付いてもらうのはお主ら2名だけじゃが、儂も含めた精鋭が距離を置いて同じく護衛の任務に付く。怪しい奴がおったとしても、そちらに近づく前にこちらで処理してやるからのう」
「なるほど・・・それなら」
「4」の言葉に、冬香は納得した様に首を縦に振る
そして最後に、吹連が冬香と「13」の二人に告げた
「皇女に万が一の事があれば、この東京を取り巻く環境にも大いに影響を与える事となるわ。最悪、水面下で動いている各国に、正面から東京に干渉する理由を与えかねない。失敗の許されない任務だという事を肝に銘じて」
「ッ! 了解しました!」
そう言って敬礼をする冬香、「13」も無言のまま敬礼を返す
「では、お願いね。二人共」
そして現在
二人は件の皇女の護衛任務に付いていたのだが・・・
「トーカ! あれは何の店デスカ!?」
「えっ? あれはとんかつと言って日本の・・・って皇女! 今度は何処に!?」
説明の途中にも関わらず、彼女は次の目標に向かって駆け出していた
「待ってください! 皇女!」
そう叫びながら冬香はすぐさま彼女を追いかける
ゆっくり、じっくりと周囲を見渡しながら歩く監視団の本隊とは別に
彼女は目に付いた物にすぐ飛びついて行ってしまう
一応他の護衛もそれに合わせて動くものの、側に付いている冬香の心労は他の護衛とは比べ物にならない程に増していく
(ただでさえ危険な街だって言うのに! こうも動き回られると・・・!)
常に周囲を警戒しながら、動き回る皇女を追いかけ彼女からの様々な質問にも答えていく
冬香の頭と身体はこれ以上ない程にフル稼働し続けていた
(完全にオーバーワークだ!!! こんなの長くはもたないぞ!!!)
冬香のキャパシティを完全にオーバーした現状
助けを求める様に後ろから付いてくる「13」に視線を向けるも・・・
「・・・」
それは俺の仕事じゃない、とでも言わんばかりに「13」は視線を反らす
(裏切り者め!!!)
そんな冬香の抗議の視線に気づかないフリをしながら、「13」はため息をつく
「13」の視界に映るのは
楽しそうに走り回る金髪の女の子と、それに振り回されながらもどこか楽しそうな笑みを浮かべる冬香の姿
(まるでどこか遠い、平和な国の光景みたいだな)
その光景を見ていると、普段目に映る血生臭い現実を忘れてしまいそうになる
「13」はそんな事を考えながら、二人を視線で追う。その時・・・
「・・・!」
一瞬、「13」と皇女の目が合った
しまった・・・と「13」が思った時はもう手遅れだった
彼女は人懐っこそうな笑みを浮かべながら「13」に駆け寄ってくる
「こんにちハ!」
「・・・」
勢いよく挨拶をする彼女に対し、「13」は無言
「ええト・・・ワタシの日本語変でしたカ?」
「・・・」
無言
なるべく早く彼女が興味を失う様に思いながら無言を貫き通す「13」
しかしそんな暖簾に腕押し状態にもかかわらず、彼女は諦める様子もなく「13」に話しかけ続ける。その時・・・
「すみません皇女! サー・・・いや、御音はその何というか・・・無口と言うか協調性を何処かに置き忘れてきたと言うか!」
失礼にあたったのではと、しどろもどろに言い訳をする冬香
しかし、その言葉に彼女の目が更に爛々と輝き始める
「ミオンさんって言うんですカ!? 女の子みたいでカワイイ名前ですネ!」
「・・・」
冬香め、余計な事を・・・と思いつつ「13」は顔を上げる
案の定、彼女は水を得た魚の様に更に怒涛の質問を浴びせてくる
それに対しても、「13」は変わらず無言を貫き通していたのだが
そんな「13」に対し、冬香が目配せをしてくる
「・・・! (いいから何か答えろ! 相手はVIPなんだぞ!?)」
冬香のそんな意図を察してしまい、「13」はハァ・・・とため息をつく。そして・・・
「ルミリアム皇女」
「ミリアでイイですヨ!」
「・・・ミリア皇女。俺の仕事はアンタの護衛で、それ以上でもそれ以下でもない。話し相手が欲しいならそっちの女に頼め」
その言葉を聞いた冬香が「13」に対し怒鳴りつけようとしたその時・・・!
「貴様! ルミリアム皇女に対して何だその口の聞き方は!?」
冬香より先に、周囲を警戒していた護衛の一人が「13」に向かって怒鳴る
それに対し、「13」の代わりに冬香が返事を返す
「すみません。ええと・・・」
「ルミリアム皇女の執事に護衛の隊長も勤めております、バーディです」
そう答える黒服の男
年齢は30代程だろうか? 整髪料で固めたオールバックの髪
一重瞼に神経質そうな表情の男だ
「それより! そこの男! ルミリアム皇女は継承順位3位とは言え、立派なヴォールドハイド王国の後継者! 不遜な態度はこの私が許さんぞ!」
「・・・」
バーディの言葉に「13」は内心面倒に思いながらも、極力それを表情に出さない様に聞き流す
だがその時、バーディの言葉を遮りミリアが言う
「イエ、ワタシは気にしてまセンから。バーディさんもその辺りデ・・・」
そのミリアの言葉に、バーディは渋々と言った感じで護衛に戻る
それを確認すると、ミリアは「13」に向かって言った
「ミオンさん。ワタシがこのトーキョーに来たのは、壁の外からでは知る事の出来ない事を知る為デス。自分の目で見て耳で聞いて、ワタシの心でこの街を理解したい、そう思っていマス。その為にもニュース等で得られる情報ではなく、実際にこの街に住んでいるトーカさんやミオンさんの話を聞きたいのデス。ミオンさんにとっては迷惑かもしれまセンが、少しでも感じている事を話してくれればワタシは嬉しいのデス」
そう言って、彼女は一護衛である「13」に対し深々と頭を下げる
「ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いしマス」
一国の皇女に頭を下げられ、さしもの「13」も困った様に視線を反らす。そして・・・
「とにかく頭を上げてくれ・・・。ミリア皇女の期待に応えられるかは分からないが・・・なるべく努力はする」
観念した様にそう呟いた
その言葉を聞いたミリアは嬉しそうに声を上げる
「ハイ! よろしくお願いしますネ!」
そんな二人の様子を見ながら、冬香はほんの少し笑みを浮かべ息をつくのだった




