解放者
カズヤとの闘いにからくも勝利するが、その代償として激しい傷を負った13
「とにかく、すぐに病院へ・・・」
停電により暗闇と化した路地
その中を13に肩を貸しながら歩く冬香、その時・・・
「どうやら、随分やられた様じゃのう」
コッ・・・コッ・・・っと足音を立てながら現れる人影
暗闇から姿を現したその人物は・・・
「4か・・・」
そう、13の師匠にして最強の暗殺者、「ナンバー4」だった
いつも通りの笑みを浮かべながら近づいてくる4に対し、13は少し目を伏せながら呟く
「すまない・・・4」
「ん?何の事じゃ?」
13の言葉に首を傾げながら問いかける4
それに対し13は、目を伏せたまま答えた
「俺は・・・カズヤを殺す事が出来なかった。俺は暗殺者として・・・」
暗殺者としての任務を遂行出来なかった事、それを4に告げる13。だが・・・
「なに、別にかまわん」
4はそれを事もなげに笑ってみせる
「接続者は全て殺す、それが暗殺者じゃ。・・・だが、儂には儂のやり方がある様にお前にもお前のやり方がある。お前はお前のやり方で強くなればよい」
その言葉に13は少し面を食らった様に目を丸めるが、すぐにフッと笑みを浮かべると
「ああ」
とだけ答えた
それに対し4も笑みで答えると、続けて
「さて、とりあえず儂が肩を貸してやろう。監査官殿も怪我をしておる様じゃしのう」
冬香はその言葉に少し疑問の表情を浮かべながらも、すぐに血まみれとなった自分のシャツに気付く
「え・・・?あ、この傷はもう大丈夫で・・・」
「いいからいいから、後は儂に任せておけ」
そう言いながら4は13と冬香の間に入ると、13の左腕を冬香の肩から持ち上げ自分の肩の上に担ごうとする。その時・・・
「・・・やらんぞ」
ボソっと4が冬香の耳元に囁く
「え?」
思わず聞き返した冬香に対し、4は13の身体にしな垂れかかる様にしながら答えた
「「コレ」は儂のじゃ。・・・やらんからな」
そう拗ねる様に言う4に対し、冬香は少し首を傾げるが・・・
(お前を他の誰かになんてくれてやるものか・・・。お前は・・・私の物だ・・・)
先程の自分の言葉を思い出し、顔を赤くする
そしてすぐに慌てて否定の声をあげる
「あ!あれは!そういう意味の言葉ではなく・・・!」
「どうじゃかのう~・・・」
冬香の言葉を、4は聞く耳持たずと言った感じで顔を横に反らし拗ねてみせる
「と言うより!一体何時から・・・!」
そして冬香がそう続けようとした・・・その瞬間!!!
「ッ!!!???」
突然!4が警戒態勢に入ると、辺りを素早く見渡し始める!
「4・・・?」
突然の4の行動に、冬香が首を傾げ言う
だが4はそんな冬香に構わず見た事もない様な険しい表情のまま、厳戒態勢で周囲を警戒し続ける
(この感覚・・・!!!「ヤツ」か!?じゃが・・・)
辺りはシンっと静まり返ったまま、鼠一匹の気配すらない
(・・・消えたか。追うのは・・・不可能じゃろうな。「10人目」に釣られて姿を見せたか?)
少し考え込む4だったが、すぐに気を取り直すと・・・
「・・・なんでもない、気のせいじゃった。さあ、とにかく13を病院に連れて行かんとな」
そう言って13を肩に貸したまま歩き始める
「は、はい・・・」
4の行動に腑に落ちない物を感じながらも、冬香もそれを追って行くのだった
それから少し経った頃
グラウンドゼロ外縁部近くの路地をフラフラと歩く影、カズヤの姿があった
(俺は・・・何の為に・・・。俺の5年間は・・・無意味だったのか・・・?)
13との闘いに敗れ、だが死ぬ事も許されず
生きる目的を見失い、幽鬼の様にフラフラと彷徨うカズヤ
だがその時、カズヤの足がピタリと止まる
そして、地面に向かって俯いたままカズヤが呟く
「誰だ・・・テメエは・・・」
その時、まるで突然その場に現れたように気配が現れる
カズヤの正面に立ちふさがる様に暗闇から現れた一人の男
それに対しカズヤは・・・
「いや・・・誰だ「テメーラ」・・・」
そう、周囲に殺気を放ちながら告げた
その言葉に、正面の男がニヤリと笑みを浮かべながら言う
「・・・さすがだ。良い感覚をしている」
その言葉と共に、カズヤの周りのビルの影から人影が現れた
カズヤは懐の銃をすぐ抜ける様体勢を整えながら周りを警戒する
(正面の奴を合わせて4人・・・しかも、全員かなりの手練れか・・・)
気を抜けば一瞬で殺されてもおかしくない、それ程に危険な相手が4人
その時カズヤは、冬香に向けて差し向けた接続者3人を瞬殺した相手を思い出す
(シングルナンバーとか言ったか・・・コイツラ全員、奴らと同格・・・)
今の自分では全く勝ち目はない相手だ、しかし・・・
(タダでは死なねえ・・・!一人でも道連れに・・・!)
そしてカズヤが銃を抜き戦闘態勢に入る!だがその時・・・
「フッ・・・。そう警戒しなくていい、私は君の味方だ」
「何・・・?」
正面の男はカズヤの警戒を解く様に穏やかに語りかけた
正面に立った男
身長は180程だろうか、年齢は20代後半か30代前半と言った所だろう
全身を隠す様にボロ布を纏っているが
その佇まいから洗練された技量の高さ、その声からは気品の様な物を感じさせる
王者の風格さえ思わせる様な、見た目の年齢以上に落ち着いた雰囲気の男だ
「・・・味方だと?」
銃口を向け、警戒を強めたまま問いかけるカズヤ
それに対し、男は穏やかな口調のまま告げる
「ああ。私は全ての接続者の解放を望む者だ」
「・・・解放?」
意味が分からないと言った様に目を細めるカズヤ
「・・・我々接続者は全員、この東京に囚われている。そして自由を奪われたまま、いずれ殺されるだけの運命だ。だが・・・私はそんな運命に抗う。接続者達をこの東京から、オリジンの意思から解放する」
その誇大妄想じみた言葉にカズヤは更に不信感を見せるが、男は気にせず続けた
「・・・そしてその為には、一人でも力のある同士が必要なのだ」
そして男はカズヤに手を差し伸べる様にして言う
「カズヤ君、全ての接続者を救う為に。君の力を貸してくれないか?」
その言葉にカズヤはしばらく怪訝そうな表情を見せたまま立ち尽くしていたが
しばらくたった後、カズヤは銃を下ろし、男に向かって背を向け言う
「興味ないな・・・。解放だの自由だの、テメエラの好きにやればいい。俺には関係ない」
そしてその場から立ち去ろうとするが・・・その時
「ナンバー13」
「何・・・?」
男の言葉にカズヤはピタリと足を止めた
「彼との決着を付けたくはないのかね?」
「・・・」
その言葉に、カズヤは無言のまま耳を傾ける
「接続者達の解放。それを成す為の最大の障害になるのが奴ら、東京特別治安維持課・・・暗殺者達だ。遠からず、我々は奴らと雌雄を決する事となるだろう。我々と暗殺課の全面戦争。当然、あのナンバー13も出てくるだろう」
「・・・」
「君が同士として仲間に加わってくれるのなら。その戦いの際、彼と君の一騎打ちを行える様に計らおう。奴らに手出しはさせないし、我々も手を出さない。一対一で決着を付ける機会を用意しよう」
「決着・・・」
男の言葉にカズヤの心は揺れるが・・・
(だが・・・俺はすでにカズミに敗北している・・・。今更何を・・・)
すでに決着は付いたのだ、もうカズヤに戦う理由はない
しかし、そんなカズヤの心の内を見透かした様に男は続けて言う
「まだ彼と君の決着は付いていない、そうだろう?何故なら・・・まだ君は生きているからだ」
「・・・ッ!」
「君とナンバー13、どちらかが死ぬまで本当の決着が付くことはない。彼と決着を付けたくはないか?カズヤ君」
「・・・俺は」
決着・・・
そうだ・・・まだ決着は付いていない・・・
まだ、俺達の物語は終わっていない・・・
(いや・・・!)
終わらせない・・・!
まだ終わらせない・・・!
俺が生きている限り、まだ俺達の物語は終わらない!!!
カズヤの心に芽生えた新たな生きる意志
カズヤはクルリと振り向き男の方を向くと、男に向かって答えた
「・・・いいぜ。その条件、乗ってやる」
その言葉に男はニヤリと笑みを浮かべる
だが、カズヤは続けて男に向かって言った
「ただし、テメーラの同士になる気はない。あくまで利害が一致しただけの協力関係だ。テメーラの命令に従う気はないし、俺が何と戦うかは俺自身が決める」
自分勝手ともとれるカズヤの言葉
しかしそのカズヤの言葉に、男は何の問題もないと言った様子でフッと笑い答える
「それで構わない。歓迎しようカズヤ君」
そして男は、握手を求めカズヤに向かって手を差し出すが・・・
「・・・」
カズヤはその手を冷たく見下ろしたまま言う
「・・・どうやらアンタは俺の事を良く知っているみたいだが、生憎と俺はアンタの名も聞かされていないんだがな」
その言葉に、周囲でそれを見ていた影の一つが声を上げる
「貴様!誰に向かって・・・!」
だがその声を、男は片手を軽く上げただけで制する
そして、カズヤに向かって答えた
「君の言う事ももっともだ。すまない、名を名乗る等と言った機会は長らくなかったものでね、失念していた」
そして男は、顔を隠す様に覆っていたボロ布を取ると言う
「私の名はナンバー1・・・」
「何・・・?」
その言葉にピクリと眉をしかめるカズヤ
それに構わず、男はカズヤに向かって笑みを浮かべたまま名を告げた
「元暗殺者・・・「ナンバー・1」だ」




