過去から未来へ
「これが本当の最後の攻撃だ。耐えろよカズヤ・・・!」
13の最後の攻撃、至近距離からのグレネード弾の爆発によりカズヤが吹っ飛ぶ!
相打ち覚悟の自爆攻撃、当然二人共無事では済まないと思われた。だが・・・!
「・・・ッ!はぁっ・・・!はぁっ・・・!」
爆風によって吹き飛ばされたカズヤは血だらけとなり、荒い息を吐きながらもなんとか立ち上がる!
(あ・・・危なかった・・・!あとほんの少し反応が遅れれば命はなかった・・・!)
13がグレネード弾を爆発させる為に「発火能力」を使ったその瞬間
カズヤは急所をガードしながら咄嗟に後ろへ飛び、ダメージを軽減させていたのだ。しかし・・・
「ぐっ・・・!」
そう呻くとカズヤはその場に膝を付く
身体に突き刺さった無数の破片
いくら咄嗟の行動でダメージを軽減したとは言え、カズヤの怪我は生きているのがやっとの重傷だった
(まさかカズミが自爆攻撃を仕掛けてくるとは・・・。咄嗟に防御した俺でさえこのダメージ、ゼロ距離でマトモに食らったカズミの命はないだろう・・・。だが・・・これで・・・)
そしてカズヤは13の生死を確認するべく視線を正面に向ける。だがその時・・・!
「なっ・・・!?」
カズヤの視界に入ってきたのは
右手を前に突き出したまま、左手で自らの着ていたコートを掴み自分の身体を覆う様に防御
その場に仁王立ちする13の姿だった!
「なっ・・・バカな・・・!」
ゼロ距離でグレネードの直撃を食らいながら、その場に立ち続けている13の姿にカズヤが驚愕する!
そしてその時、13の身体を覆っていたコートの裾が左手から零れ落ち・・・
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
榴弾に耐えきった13の姿が現れた!
その時、遠くからそれを眺めていた「4」がニヤリと笑いながら呟く
「あのコートは儂ら暗殺者専用の特殊繊維製。とは言え、至近距離の榴弾の爆発に耐えられるものではない。恐らく・・・ラオ・フーシェンの能力じゃな」
そう、13が「発火能力」を使いカズヤが飛び退いたその瞬間
13は左手でコートの裾を掴み自分の身体を覆い
同時に「硬化」を発動、爆発への防御体勢を取っていたのだ。しかし・・・
「・・・ぐっ」
それでも完全に防ぎきる事は出来ず、13もカズヤと同じく大きなダメージを受けていた
「13・・・!」
重傷を負った13の姿に、冬香が叫び声を上げる
榴弾によるダメージ、カズヤとの戦闘による全身からの出血
グレネードを持っていた右腕は爆風で砕け、あらぬ方向へと曲がっている。だが・・・
ザッ・・・
そんな瀕死の重傷を負いながらも、13はゆっくりと前へ足を進める
「ぐっ・・・!くそっ・・・!」
迫ってくる13に対し、カズヤも立ち上がろうとするが
「足が・・・うご・・・かねえっ・・・!立てよ・・・!くそっ!立て・・・!」
カズヤの負った怪我はもはや一歩も立ち上がれない程のダメージ
そして13は地面に落ちていた自分の銃を拾い、カズヤの前に立つ。そして・・・
チャキッ・・・
その銃口を倒れたままのカズヤの額に向けた
そして、静かに・・・
「俺の勝ちだ・・・カズヤ・・・」
と告げた
勝敗は決まった
地面に倒れたままの自分と突きつけられた銃口
カズヤは己の敗北を悟る。しかし・・・
「どうしてだ・・・!」
「カズヤ・・・?」
「どうして俺が負ける・・・!?俺が間違っていたとでも言うのか!?」
カズヤはその結果に納得がいかないと言った様に大声で叫ぶ
その言葉に、13は首を横に振りながら答えた
「いいや。さっきも言った通り、お前は何も間違ってなんかいないよカズヤ」
「ならどうしてだ!?俺は何も間違っていないのに、どうしてお前に勝てない・・・!?」
施設が崩壊したあの日から、カズヤが過ごした5年間
決してそれは綺麗な生き方ではなかっただろう
組織のエージェントとして命令に従い
時には何の罪もない人間を手にかける事もあった
しかし・・・
間違いなく、彼の心の中には「正しい物」が存在していた
ミナの為に
それだけは間違いなく、「正しい願い」だと彼は信じていたのだ
「お前は正しい、そして俺は間違えた。それでも・・・」
だが、そんなカズヤに対し13は静かに答える
「それでも・・・俺はまだ死ねない。責任を果たすまで・・・」
「責任・・・だと・・・?」
「この手で奪った命、守れなかった命。目の前で散っていった全ての命に対する責任だ。彼らの命の意味を、その答えを。俺は探さなくてはならない」
そう告げる13に対し、カズヤは大声で叫び否定した
「そんな物どうでもいい!赤の他人が死のうが生きようが関係ない!俺達の物語には俺とお前とミナの3人だけ居ればそれでいい!そうだろ!?」
そう訴えかけるカズヤに対し、13はゆっくりと横に首を振る。そして・・・
「お前の知っている俺はあの日・・・5年前のあの日にミナと一緒に死んだ。今の俺は暗殺者・・・。矛盾し、間違い、それでも戦い続ける。「暗殺者・ナンバー13」だ」
そう告げる13に対し、愕然としながらカズヤは俯く
「カズ・・・ミ・・・」
そして、お互いに無言のまま時が過ぎる
・・・
だがしばらくしたその時、カズヤがボソリと呟く
「なら、撃て・・・」
そして顔を上げると、13を睨みつけながら言った
「なら撃てよ!カズミ!ミナと同じ様に俺も殺していけ!お前の言う「暗殺者」らしく!!!」
「カズヤ・・・」
そう叫ぶカズヤに対し、13は銃口を突きつけたまま動きを止める。そして・・・
「ああ・・・そうだな・・・。お前の言う通りだ、カズヤ・・・」
そう呟きながら、引き金にかけた指に力を込める
それを見たカズヤは・・・
「ああ・・・それでいい」
そう呟き、俯くと・・・
(これで・・・ようやく・・・)
そう安堵し微笑んだ。そして・・・
ダンッ!!!
13の銃から弾丸が発射された
弾を撃ち尽くした銃から空の薬莢が排出され、地面に落ちキィンと金属音を上げる
何の音も聞こえない、ただただシィン・・・とした静寂
夜の闇にひと時の静寂が訪れた・・・
だが・・・その時
「・・・どうしてだ?」
その静寂を打ち破る様な静かな問いかけ
「どうして・・・外した・・・?」
それは地面に撃ち込まれた弾丸の跡を茫然と眺めながら呟く、カズヤの声だった
「・・・」
そんなカズヤの問いかけに、13は弾切れになった銃を構えたまま黙り込む
そして・・・
「それでも・・・」
「・・・?」
「それでも・・・俺にお前を殺す事なんて出来ないよ、カズヤ」
13は絞り出す様な小さな声で、そう呟いた
だが・・・!その時!!!
「ふ・・・ざけるなぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
カズヤの口から出たのは怒りの叫び!
今までで最も大きい怒りの叫びだ!
「そんな事認められるかぁ!!!こんな・・・!こんな結末・・・!!!トドメを刺せカズミ!!!決着を・・・!決着を付けろォッ!!!俺の・・・!俺達の物語に終止符を打て!カズミィィィィィッ!!!!!」
自らを殺す様叫ぶカズヤ!
しかし13はゆっくりと銃を下ろすと、そう叫ぶカズヤに背を向ける。そして・・・
「すまない・・・。どこか遠くで生きてくれ・・・」
そう告げると、カズヤの元から去って行く
「ッ!?待て・・・!待てェェェェェッ!!!」
憤怒の表情のまま叫ぶカズヤ!
だが13は背を向けたまま歩いていく。その時・・・!
「ぐっ・・・!おおおおおっっっっっ!!!!!」
カズヤは震える手で懐から予備弾倉を取り出し、手元の銃に装填する!
そのまま歯を食いしばりながら銃を構えると、13の背中に向かって照準を合わせた!
「カァァァァァズゥゥゥゥゥミィィィィィッ!!!!!」
そして、叫びながら引き金を弾こうとした・・・その瞬間!!!
「ーーー」
「なっ・・・!?」
13を庇う様に立ちふさがった影
それはもうこの世のどこにも居ないはずの、白髪の少女だった・・・!
「ミ・・・ナ・・・」
カズヤの行動を止める様に立ちふさがる少女の幻影に、カズヤはその手に持っていた銃を落とす
「ーーー」
それを見た少女の幻影は少しだけ悲しそうな顔をした後、カズヤに背を向け13の後を追っていく
「ッ!!!ま・・・待て!待ってくれ!!!」
そう叫ぶと、カズヤは背を向けて去って行く二人に向かって手を伸ばす
「カズミ!ミナ!待ってくれ・・・!」
だがそんなカズヤの声に答える事なく、二人の背中は遠ざかっていく
「どうして・・・!どうしてなんだ・・・!カズミ・・・!ミナ・・・!俺を・・・!!!」
そのまま13の背は遠く見えなくなり、少女の幻影も霧の様に消えていく
そして誰も居なくなった闇に向かってカズヤは手を伸ばしたまま・・・
「俺を・・・置いていかないでくれ・・・」
誰にも聞こえない、縋る様な声をあげた
カズヤとの闘いを終え、歩いていく13
「13・・・」
そんな13を迎える様に冬香が目の前に立つ。そして・・・
トッ・・・
崩れ落ちる様に寄りかかってきた13を冬香が抱き留めた
「よくやった・・・」
「ああ・・・」
それだけ言うと、お互いに抱き合ったまま目を閉じる
しばらくして、ゆっくりと名残を惜しむ様に冬香が呟く
「帰ろう・・・13」
「そうだな・・・」
そして13は歩きだそうとするが、その身体がフラリとよろめく
だがその時、すかさず13を冬香が支える
「おっと。大丈夫か13?」
「・・・アンタには大丈夫に見えるのか?」
「それだけ生意気な口を聞けるなら大丈夫だな」
呆れた様に言いながら、冬香は13の左腕を取り肩を貸して歩く
無言のまま、ゆっくりと歩いていく二人
その時、13が冬香に向かって静かに言った
「冬香・・・」
「何だ?」
「あの時・・・冬香は俺に私の復讐を果たせと、そう言ったな」
「え?あ、ああ・・・」
13を庇い、重傷を負った冬香
死を目前にし、それでも復讐を果たす為13にそれを託した
その言葉はそういう意味の言葉だったのだが、それに対し・・・
「だが・・・、やはり冬香の復讐は冬香の物だ」
「そうか・・・」
13は冬香の復讐を託されるのを拒む
だが、続けて・・・
「だから・・・その時まで、俺の前から居なくなるな・・・」
そう言った
「えっ?」
13の言葉の意味が分からず、キョトンとした様な顔で冬香が聞き返す。それに対し・・・
「俺が冬香の父親の仇を殺す時・・・、お前は生きてそれを見届けろ。今日みたいなのはナシだ・・・いいな?」
13はそっぽを向いたまま、そう告げた
それを唖然とした表情で見ていた冬香は、少しだけフッと笑い・・・
「ああ、分かった」
そう、穏やかに微笑みながら答えた




