そして扉は開く
13とカズヤの戦いの最中・・・!
「ッ!!!終わりだ!!!カズミィィィィィッッッッッ!!!!!」
決着を付けるべく放たれたカズヤの渾身の一撃!だがしかし・・・
ドスッ・・・!
「1・・・3・・・」
その一撃は、13を庇い乱入してきた冬香の胸に突き刺さったのだった
「なっ・・・!?冬香!!!」
目の前で崩れ落ちる女性の身体を両手で咄嗟に抱きかかえる13
「チッ・・・!」
それに対し、冬香に銃剣を突き刺したカズヤは忌々しそうに舌打ちをしながら間合いを離す
「くそっ・・・あと一歩の所で・・・!」
あと一歩
あとほんの一瞬で、長年に渡る宿願が果たせたはずだったのに
(いや、だからこそか・・・。最後の最後で、俺はカズミを殺す事以外見えていなかった)
あと一歩で願いに手が届く
その気の緩み故に、カズヤは接近してくる冬香の存在に気が付けなかったのだ
そんな自分自身の詰めの甘さを嘆いたのか、もしくは他の理由だったのか
カズヤはやや顔を伏せながら・・・
「・・・クソッ」
と、ボソリと呟いた
カズヤの銃剣を胸に突き刺され、倒れた冬香を抱きかかえる13
意識朦朧と言った状態の冬香に対し、13は静かな声で問いかける
「アンタは・・・何をやっているんだ・・・?」
その問いに対し、冬香はやや自嘲する様に微笑みながら
「さあ・・・?私は・・・何をやっているんだろうな・・・?」
と言った
冬香の胸からは大量の血が流れ、冬香の着ている白いYシャツを赤く染めている
そして、長年暗殺者として戦い人の生死に触れてきた13はそれを見てすぐに理解した
もう助からない
霧生冬香はあと数分もしない内に死ぬという事を
13を庇い致命傷を負った冬香
そんな冬香に、13は何かに耐えるように眉をしかめながら続けて言った
「どうして俺なんかを庇った・・・」
「・・・」
「言っただろう。俺は罪を犯した、ミナを殺すという許されざる罪を。だから俺は裁かれる事を望んだ。あのまま殺される事が、俺の望みだったのに・・・」
そう、言ってしまえば冬香の行動は13の望みを邪魔する行為に他ならない
冬香がそんな事をする理由、ましてや自分の命を賭けてまでする理由は全くないはずだ
冬香の行動が理解出来ないと言った風に言う13に対し・・・
「お前の望みか・・・」
冬香は朦朧とした意識のまま呟く様に言う
「ずっと・・・ずっと考えていたんだ。お前のそれは本当に正しいのかって・・・」
「・・・?」
「お前が罪を犯したのは確かなんだろう。けど、その為に命を捨てる必要があるのか?と・・・。お前だけが犠牲にならなければならないなんて事が、あっていいのかと・・・」
「それは・・・」
「ああ、分かっている・・・。お前のそれは間違いなく「正しい」。どんな罪を犯してもやり直せる、どんな罪を犯しても命ある限り生き続けてもいい。そんな綺麗事には何の価値もない。罪人は裁かれなければならない。他ならぬ罪を犯したお前自身が決めた事に、他人が何かを言う権利なんて最初からなかったんだから・・・」
そう、13の生き方に口を出す権利は冬香にはない
いや他の誰にも、他人の生き方に口を出す権利などないのだ
「そうだ・・・。なら、どうして・・・」
そう13が問いかけたその時・・・!
冬香は13の襟元をグイッと掴み乱暴に引き寄せながら言った!
「だがな・・・!そんな事、私には関係ない・・・!」
「っ・・・!?」
「お前の人生も!罪も!罰も!!!私の復讐には何の関係もない!!!」
そして黒い意思の籠った眼差しを向けながら、冬香は言い放つ
「忘れたのか!?お前は私と契約したはずだ!私の父の仇を討つと!全ての接続者を殺すと!!!」
「ッ!?」
そう、それは監査官と暗殺者として二人が最初に行った任務
レンを殺し、それでも監査官を続けると冬香が言った時に13が答えた言葉
(俺に殺せと命令しろ、オマエの殺意を俺に寄越せ。殺してやる、例え何を犠牲にしてでも・・・、どんな罪を背負ったとしても・・・。オマエが望む全てを殺してやる)
その契約はなくなってはいないのだと、冬香は言った
「私にとって一番大事なのは父を殺した接続者への憎悪!どんな手段を使ってでも復讐を果たすというこのエゴだ!その為なら・・・私はお前の生き方も否定してやる!お前の罪も罰も、お前の決断の全てを踏みにじってやる!!!」
「・・・」
「だから、改めて言うぞ13・・・!私の父を殺した接続者を殺せ!私の復讐を果たせ!!!これは私とお前の契約だ・・・!」
「契・・・約・・・」
「そう、お前は私の復讐を果たす為の道具。だから・・・」
冬香の言葉を茫然と繰り返す13に対し
冬香は13の襟元を掴んでいた手に力を込め、一気に引き寄せる。そして・・・
スッと二人の唇が重なる
ほんの一瞬だけの口づけ
最後の口づけだ
意表を突かれた様に目を見開く13に対し、冬香はすぐに唇を離すと告げた
「これは契約の証だ・・・」
「冬香・・・」
「フフッ・・・お前を他の誰かになんてくれてやるものか・・・。お前は・・・私の物だ・・・」
そして満足した様に微笑むと、最後に・・・
「殺せ・・・13・・・。それまでは・・・絶対に死ぬな・・・」
そう呟き、スッと目を閉じた
同時に13の襟元を掴んでいた手が落ちる
「冬香・・・?」
目を閉じた冬香に呼びかける13
「・・・」
だが答えはない
そう、既に彼女の心臓も呼吸も止まっている
彼女はたった今、その人生を終え、息絶えたのだから
動かなくなった冬香の身体を、その亡骸を抱きかかえる13。その時・・・!
「・・・ッ!!!ぐっ・・・!!!おおおおおおおおおおっ!!!!!」
13が狂った様に激しく叫び声を上げる!
それは心の底から湧き出てきた、どうしようもない程の後悔の想い
(まただ・・・!どうして俺は・・・!)
ミナ、レン、ユウヤ、そして冬香
誰も彼もが死んでいく、13の目の前からいなくなっていく
守ろうと、誰も死なせないと想っているのに
運命はいつもその真逆の方向へと進んでいってしまう
(どうして・・・!!!!!)
心の中でありったけの声で叫ぶ13
だが、その時・・・
(声を・・・私の声を聞いて・・・!)
(・・・ッ!?)
心の中に響いた別の人物の声に、13は目を見開く
(誰だ・・・!?この声は・・・一体・・・!?)
(ようやく届いた・・・!それより、いいから聞いて!能力を使うの!「接続」を!)
(接続・・・?)
(今ならオリジンに届くはず!いえ、今しかない!)
(何を言っている!?一体何を!?)
心の中に響く不可解な声に動揺する13、だが・・・
(お願い!信じて!!!)
(ッ!?)
その声に・・・
そう・・・どこかで聞いたような懐かしい声に促され
(分かった・・・!)
13は力強く頷く
そして・・・!その右目が紫色に発光し!!!
「「接続」!!!」
13はその能力を発動した!!!
13が能力を発動した瞬間
「ぐっ!?」
「宗久様!?」
殲滅任務を終えて帰還途中だった「9」が頭を抱えてうずくまる
「どこかお怪我を!?」
「いや・・・この感覚は・・・!?」
更に別の場所でも
「があっ!?」
突然走った頭の痛みに「6」が叫び声を上げる
「どうした!?何があった!?報告しろ6!!!」
「こ・・・これは!!!」
6は右手で頭を押さえながら言う
「誰かが・・・!俺達シングルナンバー以外の誰かが・・・!オリジンにアクセスしている・・・!?」
そして・・・
「クッ・・・クックックックック!!!!!」
今まさに能力を発動させた13をビルの上から見下ろしながら、4は高らかに笑い声を上げる
「そうじゃ!それでいい13!!!10年前、儂ら9人が開いた扉を!今、お前は開いた!!!」
脳を直接突き刺すかの様な頭痛
それをまるで天からの福音であるかの様に祝いながら、4は笑い声を上げ叫ぶ!
「神の座へと至る扉!オリジンへと至る扉!!!お前が!!!「10人目の資格者」じゃ!!!!!」
「なっ!?何だこれは!?」
13から放たれる圧力に気圧されるカズヤ!
「まさか5年前と同じ!?ミナと同じ様に暴走を!?」
その瞬間・・・
(カズヤ兄さん!!!うっ・・・!あああああっっっっっ!!!!!)
5年前、カズヤの目の前で能力を暴走させたミナの姿が脳裏に浮かぶ。しかし・・・!
「いや・・・暴走はしていない・・・!これは・・・!?」
能力を発動させた瞬間!何処からか13の脳に無数の情報が直接叩きこまれる!
それは容易に人を発狂させる程の情報の渦!しかし・・・!
(静かだ・・・)
その情報の渦のただ中で、13の精神はこれ以上無い程に鮮明かつ穏やかになっていた
(そう、それでいいの。大丈夫、ゆっくり・・・。運命を・・・再構築して・・・)
(ああ・・・)
そして割れてしまったガラスを元に戻す様に
ゆっくり・・・それを手繰り寄せ修復する
その時・・・!
「・・・ん?」
まるで眠りから覚める様にその目が
死んでいたはずの冬香の目が開かれる
「サー・・・ティーン・・・?私は・・・?」
現在の状況が分からないと言った様子で呟く冬香。だがその時・・・
「・・・え!?」
胸元に感じた違和感
咄嗟に冬香は血に塗れた胸元を右手でまさぐる。そして・・・
「傷が・・・ない・・・?」
カズヤによって受けた致命傷の刺し傷
だがそれは冬香の身体から跡形もなく消え去っていた
「これは・・・一体・・・?」
訳が分からないと言った様子で呟く冬香に対し、冬香を抱きかかえていた13が言う
「冬香、立てるな?」
「え?あ、ああ・・・」
冬香の返事を聞くと、13はゆっくりと冬香をその場に立たせる
(これはまさか能力なのか・・・?だが13自身にも外部電脳にも、そんな能力は・・・)
その身に起きた不可解な現象に唖然としたままの冬香
そんな冬香に、13が落ち着いた声で言った
「歩けるなら少し下がっていろ。巻き込まれない距離までな」
「あ、ああ・・・だが・・・」
不安気に13を見つめる冬香、だがしかし・・・
「・・・心配するな。もう俺は大丈夫だ」
「・・・分かった」
その落ち着いた声に諭される様に、冬香は少し駆け足でその場を離れる
そして、13の背に向かって一言だけ告げる
「命令だ、勝て・・・13」
「了解」
冬香がその場から離れ、改めて向かい合う二人の青年
「カズミ・・・」
「カズヤ・・・」
それは嵐の前の静けさか、ピンと張りつめながらも静かな空気が二人の間に流れる
その時、13がカズヤに向かって告げた
「カズヤ・・・。5年前俺は確かに罪を犯した、俺は確かに許されない事をした。だからお前の復讐は正しい、お前の想いも生き方も何も間違ってなんかいない。お前の手によって俺の罪は裁かれるべきだと言う想いは、今も全く変わっていない」
静かに、だがハッキリとした口調でそう告げる13
しかし・・・!
「・・・だが、「今は」死ねない」
「ッ!?」
「アイツと約束した。アイツの父親の仇を討つと、だから・・・」
そう言って、13はゆっくりと十字銃術の構えに移行する!
「俺はお前を倒すよ、カズヤ」
そう穏やかな声で宣言した13。それに対し・・・!
「ふ・・・ふざけるなぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
猛るマグマの様に怒りを噴き上げながら!カズヤは叫ぶ!!!
「そんな理由で俺達を!!!!!俺達3人の物語を捨てるっていうのか!!!???俺達より、その女を選ぶって言うのか!?カズミィィィィィッ!!!!!」
「・・・捨てたりはしない。お前もミナも・・・俺は決して忘れたりはしない」
「黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!そうやって!!!お前はまた・・・!!!!!」
大声で叫びながら、両手で頭を抱え振り回すカズヤ!そして・・・!
「・・・だったら!!!今度こそ俺が終わらせてやる!!!俺とお前とミナの・・・!全ての決着をここで付ける!!!この物語に終止符を打つ!!!!!」
そう叫びながらカズヤは素早く構えを取ると、間髪入れず突撃を開始する!!!
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!カズミィィィィィッ!!!!!」
そして13とカズヤの宿命の戦いが、再度幕を上げた!!!




