その先で待つ者
暗殺者達による一斉襲撃より少し時間は遡り
時刻は22:00、メディカルルームから出た13は出撃の準備を行っていた
各種センサーを内蔵した暗殺者用の戦闘服を着用
ブーツに投擲用のダガーナイフを左右に一本づつ装備
更に腰に大型のマチェットを装備すると、銃剣の装備されたハンドガンをホルスターごと身に付ける
そして、右腕の義手にスモークグレネードを装填
ワイヤー機構、外部電脳、各部関節の動きをチェック
全て問題がない事を確認し、その上から防弾防刃に優れた黒いロングコートを纏うと
笑いと嘆きが描かれた仮面を手に取り部屋を出る。その時・・・
「13・・・」
更衣室を出た13を待っていたのは、深刻そうに顔を曇らせた冬香の姿だった
完全武装状態の13に冬香は問いかける
「やはり出撃するのか?」
「ああ。怪我なら問題ない、完全に快復している」
その13の言葉に、冬香の表情が僅かにピクリと反応する
(嘘だ)
そう、あれは安栖が言っていた言葉だ
(彼の肉体や五感は「常人となんら変わりがない」事が分かった)
常人と同じ肉体構造である以上、13の怪我がこの一週間弱で完治するわけがない
事実、この時の13は薬により痛覚を鈍らせてようやく動けると言った状態だった。しかし・・・
「暗殺課の総力を挙げた作戦だ、俺だけが寝ているわけにはいかない。それに、相手が竜尾会ならカズヤが出てくる可能性がある」
「だが・・・!」
「行かせてくれ」
「13・・・」
決意の籠った瞳を冬香に向ける13
(止められない。いや、どんな理由があって止めるつもりでいたんだ私は・・・)
戦っている時だけが安息の時、戦い続けなければ生きていられない、それが13だ
その13に向かって戦うななんて、そんな事を言う権利が誰にあると言うのだろうか?
「だが、私達に出撃の要請は出ていない。作戦への参加は・・・」
そう冬香が告げようとした、その時・・・!
シュッとメーセッジカードの様な物が13に投げつけられる!
「・・・?」
パシッと指でそれを受け取った13に対し、通路の奥からカードを投げた人物が言う
「お前の出撃場所はそこじゃ」
「4か」
カードを投げてよこした人物、それは暗殺者4だった
カードには竜尾会の施設と思われるポイントの座標が記されている
「4!?ですが13は・・・!」
「問題ない、じゃろう?」
「・・・ああ」
4の言葉に対し、13は4を真っすぐ見据えながらハッキリと答える
それを見た4はニヤリと笑うと
「作戦開始は24:00からじゃ。それじゃあのう」
用件だけ伝えると、4も出撃をするべくその場から去って行く
だがその時、4はピタリと立ち止まると一言だけ13に向かって声をかけた
「勝て、13。儂の期待を裏切るなよ?」
「・・・」
そう告げると今度こそ、4はその場から去って行く
だが13は無言のまま、その背を見送るだけだった
時刻23:45
4に指定されたポイントからやや離れた場所の車の中で、冬香と13は作戦開始の合図を待っていた
「・・・」
無言のまま目を閉じ、集中力を高める13
「・・・」
対する冬香も、無言のまま車内に取り付けられていたモニターを眺めていた
(あと10分程で作戦が始まる・・・)
暗殺課の総力を挙げた大規模掃討作戦
かつてない程の大規模作戦に、監査官としてはまだまだ新人の冬香が緊張するのは当然だ
だがその時、冬香の心を占めていた不安の原因はその事ではなかった
(監査官として、暗殺者を戦場へと送り込む。今まで何度も行ってきた事のはずだ・・・なのに・・・)
それは、今まで気にしてもいなかった事
監査官の命令で暗殺者は任務へと向かう
敵と戦い、殺す。それが暗殺者・・・
(だが、もし失敗したら?)
暗殺者の敗北、それは当然「死」だ
もちろん、監査官である冬香がそれを理解していなかったはずもない
だが、それはどこか実感に欠ける事の様に思えていたのも事実だ
(13は無敵のヒーローではない。いつかは戦いに敗れ死ぬ、それは当然の結末だ・・・)
今日か、明日か、それは分からない
だが、それはいつか必ず訪れる
暗殺者にとっては運命の様な物、仕方のない事だ。なのに・・・
(それが・・・今はこんなに怖い・・・)
冬香が震える身体を両手で抱きかかえようとした、その時・・・!
「治安維持課に所属する全ての職員に通達します。予定通り、本日24時より竜尾会殲滅作戦を開始します」
「ッ!?」
通信機から聞こえてきた声に冬香はビクッとした様に震える
「・・・始まるか」
そして同時に13は目を見開くと、車のドアを開け外に出る
「13!」
「・・・いつも通りだ、作戦に集中しろ冬香」
その言葉に冬香は目の前のモニターを見据え集中する
「・・・分かった。死ぬなよ13」
「・・・ああ」
頷きながらそう答えると、13は指定された施設への襲撃ポイントへと移動する
そして・・・
「では、これより作戦を開始します。全員行動開始」
通信機から聞こえてきた吹連の言葉と同時に、13は施設への襲撃を開始した!
暗殺課によって起こされた停電により、ネオンに照らされた東京の街が一斉に闇に包まれた!
そしてそれに乗じ暗殺者達は動き出し、その一人である13も施設へと向かう!
「・・・」
素早く、そして静かに施設の入り口近くへと移動する13
そして仮面の暗視機能をオンにすると、慎重に中へ侵入するが・・・
「今、施設の中に侵入した。だが・・・」
その時、周囲の様子に13が違和感を覚え言った
「どうした?何か問題が?」
「ああ・・・静かすぎる。突然の停電騒ぎだっていうのに話し声の一つもしない」
「何?どういう事だ・・・?」
「分からない。もう少し奥に行ってみる」
その言葉と同時に、車内のモニターに映った映像が移動を開始する
13が侵入した施設、それは以前13と4が壊滅させた施設と似た構造の施設だった
地上にあるビル部分と広大な地下の研究施設、それなりの規模の施設
だが、それだけの大きさであるにも関わらず、人の気配は全くしない
そのまま地下へと進む13
静まり返った通路を13は奥へ進んでいこうとする、その時・・・
「・・・?」
何かを見つけ、13が足を止める
「どうした13?」
「死体だ」
「何っ!?」
13の言葉に冬香が大きく声を上げる
「おそらくこの施設の警備だろう。一人じゃない、複数倒れている」
「どういう事だ・・・?まさか他の暗殺者が既に侵入していた・・・?」
冬香の言葉に倒れている警備兵の死体を調べる13、その時・・・
「ッ!?・・・これは!」
「どうした13!?何か分かったのか!?」
動揺する13に冬香が問いかける、しかし・・・
「・・・」
13は無言でスッと立ち上がるとゆっくり通路を進んでいく
隠密体勢を解き、コッ、コッと音を響かせながら奥へと進んでいく13
「おいどうした!?何があったんだ!?」
通信機から聞こえる冬香の叫び声に、13は静かに答える
「・・・警備兵達は全員、至近距離からの銃撃とナイフによる傷で殺されている」
「至近距離からの銃撃とナイフ・・・?まさか・・・!」
「ああ、「十字銃術」だ。そして俺以外に十字銃術を使える奴はこの世に一人しかいない・・・」
静かに呟きながら、13は施設の奥へと足を進めていく
「ま、待て13!今のお前は万全じゃない!一度撤退を!」
「・・・いや駄目だ。分かる、アイツはこの奥で俺を待っている。じっと、俺が来るのを待っているんだ。逃げるわけにはいかない」
そして研究施設の奥、訓練場の扉の前で気配を感じ、13はピタリと足を止める
「ここか・・・」
その時、通信機から冬香の叫び声が聞こえてきた
「行くな13!その先へ行ったら!お前は!!!」
そう、その先へ進めば間違いなく彼はもう戻ってこないだろう
その悲痛な叫び声に対し、13はほんの少しだけ笑みを浮かべると答える
「これでいいんだ。俺は・・・こうなる事こそを望んでいた。俺は5年前からずっと死んだように生きてきた。だが決着を付ける事で、裁きを受ける事によって、俺はようやく俺の人生に納得して終わらせる事が出来る。だから・・・これでいい。これでいいんだ・・・」
「駄目だ!13!!!」
自分でも理由が分からないまま13を引き留めようとする冬香、しかし・・・
「すまない・・・それと・・・」
13はそう静かに告げると、最後に・・・
「さようなら、冬香」
「13・・・!」
ブツッ!
その言葉と同時に通信が途絶え、モニターも全て黒く染まる
そして、無音となった車内に・・・
「サー・・・ティーン・・・」
冬香が呟く音だけが、静かに響いた
カランと、乾いた音が通路に鳴り響く
壊れた通信機と仮面を外し通路に捨て、13はゆっくりと目の前の扉を開く
暗闇の中ギギギと音を立てて扉が開き、13は部屋の中へ歩を進める
訓練場と書かれた部屋の中は、非常灯だけが暗闇を照らす広い空間だった
「・・・ん?」
その時、その部屋の中央で椅子に座っていた男が顔を上げる
そして13の姿を確認すると、微笑みながら部屋に入ってきた13に向かって告げた
「・・・よう。遅かったな、カズミ」
微笑みながらそう告げた男・・・
「カズヤ・・・」
それは、13と同じ施設の生き残り
もう一人の十字銃術使い、カズヤだった




