闇の中で降る赤い雨
時刻23:45
月の明かりもない新月の夜
だがネオンが煌々と輝く繁華街にはそんな事は関係なく、今も大勢の人通りで街は賑わっていた
その中、それらを眺める物言わぬ視線
街中に設置された監視カメラの一つがある男を映し出した
瞬間、カメラの映像を元にシステムが顔認証を行い地図にマーカーを表示する
それを確認したオペレーターがコンソールを操作し報告した
「ターゲットを確認。追跡します」
そのオペレーターの報告と同時に、管制室の大型モニターに映った地図上に赤い点が一つ追加される
東京全体を映した地図、それに示された数百個に及ぶ赤い点
それらは単独で動いていたり、いくつかが固まり集団になっていたりしている
赤い点、それは今回の作戦のターゲット、竜尾会の関係者を示すマーカーだ
「ハッハッハ!でな!その時ソイツの足を撃ったらよ・・・!」
補足されているとはつゆ知らず、男達は大声で喋りながら我が物顔で繁華街を闊歩している
そして、その様子を遠くの闇から眺める者達がいた
「・・・」
赤い点からやや離れた位置で待機する白い点
それらは闇の中で息を潜ませながら、その合図を待っていた
その時、地図上に映る点を管制室の中央で眺めていた吹連にオペレーターが報告する
「目標の9割を補足。作戦開始に支障はありません」
「ええ、分かりました」
そして吹連は立ち上がると、通信機を手に取る
「治安維持課に所属する全ての職員に通達します。予定通り、本日24時より竜尾会殲滅作戦を開始します」
その言葉と同時に、部屋の中がシンと静まりかえり
全ての職員が手を止め吹連の言葉に耳を傾ける
「先日起こった竜尾会所属の接続者による監査官襲撃事件。幸いにも、襲撃を受けた監査官は救援に向かった暗殺者達により大事を免れました。ですが・・・それは問題ではありません。襲撃が起こった事、それ自体が問題なのです。我々、東京特別治安維持課の存在目的。それは暗殺者達による暗殺の恐怖により、この東京の治安を維持する事。つまり、その我々が恐れられなくなるという事は、この東京の治安を著しく脅かす事に他ならない。監査官襲撃事件はその一つ、始まりに過ぎません。これを看過すれば、彼らは更に増長しこの街の治安を乱す事となるでしょう。そして、それは絶対に容認してはならない事です」
そう断言すると
吹連は続けて全ての職員、暗殺者達に向かって告げた
「よって我々はこの東京の治安を守る為、この街に住む全ての人々に示さなくてはなりません。我々に敵対するという事、暗殺者を敵に回すという事がどういう結果をもたらすのかを・・・」
そう言うと、吹連は時間を確認する
作戦開始まであと3・・・2・・・1。そして・・・!
「では、これより作戦を開始します。全員行動開始」
時刻24:00
日付が変わると同時にそれは東京中で起こった
突然、街を照らしていたネオンがフッと一斉に消えたのだ
「え?」
辺りを見回す人々
東京中で起こった大規模停電、それは一瞬にして都会を闇へと染めた
「全員行動開始」
そして、それと同時に作戦に参加する全ての人員が動きだす!
地図上に点在する白い点が一斉に動き出し、赤い点へと向かっていく!
「あん?停電か・・・?」
赤い点の一つ、繁華街を歩いていた竜尾会の構成員の一人が仲間に向かって何か言おうとする。だがその直後!
バァンッ!
そんな破裂音と同時に男の胸が内側からはじけ飛び、周囲に赤い血を降らす!
「は?」
突然の事態に何が起こったのかも分からず倒れる男
「う・・・うああああ!何だ!?一体何が!?」
混乱する男の仲間達の前に、闇の中から黒のコートを着た男が現れ言う
「肺を内側から爆発させた」
「な!?何なんだてめえ!」
そう言いながら男達は銃を抜こうとする!しかし!
バァンッ!!!バアンッ!!!
銃を向けるよりも速く、男達は風船の様に破裂し全滅した!
「ひっ・・・!」
暗闇の中とは言え、人通りの中で突然行われた凶行に周囲の人間は悲鳴を上げる事も忘れ立ちすくむ
だがそんな周囲の様子を気に留める事もなく、男達の返り血で真っ赤に染まった男は呟く
「・・・暗殺終了」
同時に、男はバッ!と壁を蹴ってビルの上へと消えていった
男が去った後、突然の出来事に唖然としたままの周囲の人々
その時、その中の一人が腰が抜けた様にペタリとその場に座りこみ、呟いた
「暗殺者・・・」
作戦開始からほんの数分
地図上に記されていた赤いマーカーは次々と消えていっていた
「ぐああああああっ!!!」
路地裏、大通り、駅前、飲食店、娯楽施設
「ひっ!ああああ・・・・!」
銃撃、狙撃、刺突、爆破、能力
闇に包まれた東京を駆けまわる暗殺者達
あらゆる場所で襲撃が行われ、ターゲットは全て血の海に沈んでいく
その時、オペレーターの一人が吹連に報告する
「繁華街周辺のターゲットはほぼ駆逐完了しました」
「主要施設に送りこんだ暗殺者達はどうなっていますか?」
「そちらは・・・」
その頃、作戦開始と同時に竜尾会の重要施設への襲撃も行われていた。だが・・・
「撃て撃て!撃ちまくれ!」
ダダダダダッ!!!
柱の後ろに隠れた敵に対し、構成員達による一斉射撃が加えられる
その辺りのチンピラとは明らかに違う訓練された動き、それらを突破するのは暗殺者と言えど至難の技の様に思われた。その時・・・
「宗久様。音響センサーによる敵位置情報を送ります」
「確認した。暗殺開始、対象を殲滅する」
キンッ・・・!
それと同時に暗殺者9が刀を抜く・・・!
そしてバッ!と柱の影から飛び出すと敵に向かって突撃していく!
「来たぞ!敵の獲物は刀だ!近づかれる前に撃ち殺せ!」
ダダダダダッ!!!
即座に迎撃の銃弾が放たれる!しかし!
ザシュッ!
突然切り落とされる腕!
亡霊の様な影が突然スウッと現れると、構成員達に斬りかかったのだ!
「な!なんだコレは!?」
ダンッ!
構成員の一人が影に向かって銃弾を放つ!
だがその弾丸は影をすりぬけていくだけだ!その時・・・!
「私の「記録」により作り出した影だ。そちらから触れる事は出来ない」
「なっ!?」
すぐ側から聞こえてきた声に男が振り向く!
構成員達が影に気をとられたのはほんの一瞬、だが9が間合いを詰めるにはそれで充分だった!
キンッ!
即座に閃光がきらめく!
暗闇の中、9と幻影が振る刀の軌跡に構成員達は一瞬でバラバラに斬り刻まれていった!
そして、別の施設では・・・
「ハハハ!いやぁ楽しいなぁ!コイツはあの監査官の子に感謝しないと!」
既に死体をいくつも積み上げながら、暗殺者6は高らかに笑う
だがその時、通信機から飛山が6に向かって言った
「6、何を悠長に行動している?とっとと片付けろ」
「あん?そう言うなよ。久々の派手な殺し、しかもオーダーは皆殺しときたもんだ。愉しまなきゃ損だぜ」
手に持ったバタフライナイフをもてあそびながら答える6
彼に取ってここは命を賭けた戦場などではない
ただ一方的に蹂躙し殺す、殺しを愉しむテーマパークの様な物だ。しかし・・・
「貴様の愉しみなど知った事ではない。貴様がノロノロと行動していると・・・」
「俺の評価が下がる、ってか?」
「私の評価がだ」
堂々と言い放つ飛山に6はその場で肩をすくめてみせる
「評価ねぇ?まあ気持ちは分からんでもないけどなぁ」
「・・・何が言いたい?」
そう問いかける飛山に6はニヤリと笑みを浮かべながら答える
「アンタが欲しいのはトップの座だ。そうだろ?「副課長」」
6の言葉に飛山は一瞬口を閉ざす、しかし・・・
「フン、私は能力に見合ったポストを要求しているだけだ。吹連・・・あんな小娘に東京の治安の全てを任せる気などない」
飛山はその野心を隠す事もなく、6に向かって堂々と言い放つ
「ハハハッ!野心家な事で!まあ俺はそれで美味しい思いが出来るなら文句はないさ!」
「それを分かっているなら話は早い。結果を出せ。お前を飼ってやっているのはその為だという事を忘れるな」
「へいへい。了解したぜ飛山「課長」」
そして6は唇を歪ませると殺戮を再開し始めた!
「クソッ!一体何が起こっている!」
そう叫んでデスクを叩きつける男
年齢は50代程だろうか?派手なスーツに白髪交じりの髪
明らかに堅気とは違う暴力的雰囲気を身に纏っている中年太りの男だ
「ボス!墨田の方の施設とも連絡が途絶えました!」
部下の言葉に苛立たし気に歯を食いしばる男
そう、この男こそが犯罪組織竜尾会のボスだった
「大規模停電と同時に全ての施設に対して襲撃だと・・・!?一体何処の組織が・・・!?」
心当たりはいくつもある、それは彼らがただ単に犯罪組織だからと言うだけではない
「とにかく普通の奴じゃ話にならねえ!接続者だ!接続者に迎撃させろ!施設で調整中の奴も全部出して・・・!」
男が叫んで指示を出そうとした、その時・・・!
バァンッ!!!
「なっ!?」
扉が蹴り飛ばされ吹っ飛ぶ!
「クック・・・!」
そして、不敵な笑みを浮かべた一人の女が現れた!
「ッ!」
部下の動きは速かった、女の姿を見るや否やすぐさま銃に手をかける!
バァンッ!!!
だが、女はそれよりも速かった
手に持っていた対物ライフルをまるでハンドガンを扱うかの様に軽々と片手で構え、後ろの壁ごと部下の上半身を吹っ飛ばした!
「なっ・・・」
常軌を逸するその光景に、ボスは唖然と口を開いたまま立ち尽くす
「うーむ。壁ごと吹っ飛ばせるのは楽じゃがちと重いのう・・・。肩がこりそうじゃ」
そう言いながら女は対物ライフルをポイッと放り捨て、ボスの目の前に歩いてくる
「な・・・何だテメエは・・・?」
「儂か?儂は暗殺者。暗殺者ナンバー4じゃ」
「暗殺者・・・!?この国の犬か!?じゃあこの停電も、他の施設への襲撃も・・・!?」
「うむ、全て儂らじゃ」
不敵な笑みを浮かべたままそう答える4
ボスはその瞳に底知れぬ恐怖を感じ叫ぶ!
「くそっ!他のヤツはどうした!?接続者は!?」
「クック!そんなの決まっておるじゃろう、儂がここに居るんじゃ。全員下で死体になっておるぞ?」
「なっ・・・馬鹿な・・・!?」
4の言葉に後ろへと後ずさるボス、だがその時
「018(ゼロイチハチ)!018はどうした!?ヤツなら暗殺者ごとき!」
そう大声で叫ぶボス、それに対し・・・
「・・・」
4は唖然とした様に目を丸くする、そして・・・
「・・・クッ・・・クックックッ!!!」
大声で笑いだした
「な・・・?何が可笑しい!?」
笑う4に対し怒声を浴びせるボス
そんなボスに4は笑いを抑えながら答えた
「クック・・・いや、まさか気づいておらんかったとはのう・・・!」
「気づいてないだと・・・?一体何が・・・?」
「もちろん、「飼い犬に手を噛まれた事」にじゃ」
一瞬、その言葉にボスが茫然となる。だが次の瞬間!
「まさか・・・!アイツが!!!」
「全ての施設、全ての構成員への同時襲撃。そりゃ情報を流した内通者ぐらいおるじゃろうよ」
「018が裏切っただと!?だがヤツへのマインドコントロールは完璧だったはずだ!」
信じられないと言った様子で叫ぶボス
だがそんなボスに、4は冷めた表情になり冷酷に告げる
「お前達が例の施設で何をやっていたかは大体知っている、孤児を自らの手駒にする為にどういう教育をしてきたかもな。だが、大方ヤツは洗脳されたフリをして今までお前に従っておっただけじゃろう。ちょっとした交換条件であっさりと情報を流してくれたぞ?」
「クッ!クソッ!!!」
さらに後ずさるボス、そしてそのまま部屋の隅へと追い詰められる
だがその時、ボスが4に向かって言った
「わ、分かってるのか!?俺達を敵に回すって事がどういう事か!?俺達はただの犯罪組織じゃねえ!俺達は国に送り込まれた・・・!」
しかし、その言葉を遮るように4が告げる
「もちろん分かっておるとも。それに関してはウチのボスから言伝がある」
「言伝・・・?」
「うむ、耳の穴をかっぽじってよく聞くがいい。「我々東京特別治安維持課の任務はこの東京の治安を守る事、それを阻む物は何者であろうとも排除します。犯罪組織であろうと、他の国から送り込まれた工作員であろうと。つまり・・・」」
そして4は脚のホルスターからハンドガンを取り出すと、ボスの脳天に向けて狙いを定め言った
「我々が、この東京のルールじゃ」
ダンッ!
4は躊躇いなく引き金を弾き、その音と共に頭を撃ち抜かれボスは倒れた
そして施設の人員を全て殺しつくした4は、通信機に向かって報告する
「終わったぞ。これで竜尾会は壊滅じゃな」
「ええご苦労様。他の施設もほぼ制圧完了しているし帰投して構わないわ」
「・・・」
だが、その吹連の言葉に4は黙り込む
「4?」
「帰投はもう少しだけ後になる、ちょっと寄る場所があるからのう」
「寄る場所?どういう事?」
4の言葉の意味が分からず問いかける吹連
しかし、4はそれに答えず移動を開始する
「・・・約束通り場は用意した。貴様達の決着・・・見届けさせてもらうぞ」
そして4は、黒豹の様に暗闇に包まれた街に紛れ、駆け抜けていった




