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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第六章:十字架と黒き願いが交わり扉は開く
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罪科の価値


「・・・そして俺は暗殺者になった」


そこまで語った所で13はフッと息を吐く

13が冬香に自らの過去を語り始めてから、すでに1時間程が経過していた


「・・・」


そんな13に対し、冬香はやや俯いたまま黙り込む


13の過去

孤児としての生活、施設での訓練の日々、そして妹の様な存在を自らの手で殺した事

13が語ったそれらの過去に対し、冬香は何の言葉も告げる事が出来なかった

お互いに無言のまま時間だけが流れていく


どれだけの間そうしていただろうか?

その沈黙を破って、冬香は13に問いかける


「・・・理由は見つかったのか?」

「理由?」


冬香の言葉に、13は意味が分からず問い返す

そんな13に対し、冬香は13の瞳を見つめながらハッキリと告げた


「お前が生きる理由だ」

「・・・」


冬香の問いかけに、13は少し目を伏せて考え込む。そして・・・


「俺が生きる理由、生を望む理由。暗殺者として戦い続けていれば・・・。生と死が隣り合わせにある戦いの中でなら、その答えが見つかると俺は思っていた」


無謀とも思える接続者との戦いの数々

13は自ら死地へと飛び込む事により、己の心から湧き出してくる生きようとする意思を

その身で感じ、自分が生きる意味を理解しようとしていたのだ


「だが、結局俺は何も見つけられなかった。任務だから。ただそれだけの理由で、この5年間に100人以上の接続者を殺してきた」


最初の頃は、殺しに対して激しい拒絶感を覚えていた

初めて殺した相手の事を、ミナの事を思い出して

殺しの度に激しい不快感に嘔吐し、胸の内から湧き出てくる痛みに地面をのたうち回った。そんな時だ・・・


(それでお前が壊れずに済むのなら、儂は構わないとも。お前の好きにしていい・・・、「コレ」はお前の物だ)


俺は4の事を求め、4はそれを受け入れた

接続者を殺す度に、俺は4を抱き、その身体を貪り

バラバラになりそうな心を無理矢理繋ぎ止めた

いや、4が繋ぎ止めていてくれたのだ



・・・だが、そんな生活も長くは続かない。人間は慣れる物だ



1年も経つ頃には、俺は殺しに何も感じなくなっており

4との行為も惰性となりつつあった

そして俺は4の元を去り

ただただ死なない為に殺す、殺し続ける

そんな亡霊と化していた


「一体いつまでだ?俺はいつまで生き続ける?いつまで殺し続ける?ずっとそんな事ばかり考えてきた、だが・・・」

「・・・?」


その時、13の眼にほんの僅かに意思の様な物を冬香は感じ取った


「だが、アイツが現れた。カズヤが」


何もかもを失ったはずだった、だがたった一つだけ残っていた

生きる意味を失った13が唯一見つけ出した自分が生きる意味、それは・・・


「その時俺は悟った。俺は「裁かれる為」に生きてきた。ミナを殺した罪をカズヤに裁かれる為に・・・。カズヤに殺される為に俺は今まで生きてきたんだと」

「なっ・・・!」


自らに殺意を、復讐心を向けるかつての家族

だが、それは13にとって福音に近い物だった


「俺はミナを殺した。そんな俺があっさりと死んで楽になるなんて許される訳がない。苦しんで苦しんで苦しんで。苦しみ抜いてから、かつての家族に・・・、カズヤに殺される。それが俺に与えられた罰だったんだ」

「そんな事・・・!」


そんな13の言葉に、冬香は思わず声を張り上げる


「そんな人生があっていいはずがない!お前にも他に生きる意味が・・・!」


咄嗟に冬香の口から出た言葉

それは東京の外で暮らしてきた人間、「正しく」育った人間の言葉だ

しかし、その瞬間・・・!


「えっ・・・!?」


詰め寄ってきた冬香の腕を13はグイッと掴むとベッドに押し倒す

そしてその上に覆いかぶさる様にしながら言った


「それ以上言うな。それ以上言うなら例えアンタでも許さない」

「どうして・・・?」


13が冬香に向ける暗く冷たい目

だがその中には、13が決して見せようとしない感情の奥底

濁った泥の様な情念が見えた


「5年前に、ミナを殺した時に俺は何もかもを失った。だがたった一つだけ、この「罪」だけは俺が俺だった証なんだ」

「13・・・」

「だから冬香、決して俺を認めないでくれ、俺を許さないでくれ。俺から・・・この罪を取り上げないでくれ」


そう懇願する13に対し、冬香は何も言えず口をつぐむ




私は13の事を助けたいと思った


だが、その13自身はそれを求めてはいない


13は自身が不幸になる事を望んでいる


考えうる苦痛の全てを味わった上で、自らの罪を裁かれる


それが13が唯一生きる意味


全てを失った彼に残された、罪と罰なのだ


なら、私は・・・




一言も発する事なく、互いの瞳を見つめたまま動かない二人・・・

だがその時


「・・・あー。すまんがそこまでじゃ、続きは家でするがいい」

「ッ!?」


突然気配もなく現れた声

冬香がメディカルルームのドアの方を振り返ると、そこには暗殺者4の姿があった


「4・・・。何か用か?」


冬香から離れ、何事もなかったかの様に問いかける13

いつもと変わらない様子の13に、4はほんの少しだけ唇を吊り上げながら答えた


「次の作戦についてじゃ」






4が告げた言葉に13が答える


「次の作戦?もう決まったのか?」

「まあのう。だが・・・」


そこで何かを言いよどむ4

それに対し、首を傾げながら13は問いかける


「何か問題が?」

「・・・いや、何でもない。とにかく次の作戦じゃが、一週間後に行われる予定じゃ」

「予定?」


普段聞きなれない言葉に13は更に首を傾げる

暗殺課の任務は万全を期した上で行われる物、タイムスケジュールの管理も当然徹底される

にもかかわらず「予定」等と言った言葉が出てきた事が、13にとって不可解だったのだ


「次の作戦に必要な情報が一つ欠けておってのう・・・。儂が情報提供者と会う予定なのじゃが、向こうにも色々と都合があるらしい」

「それで予定か」

「うむ」


4の言葉に納得する13

その時、二人の会話を横で聞いていた冬香が4に質問する


「その・・・次の作戦とは一体?」

「ん?あー・・・」


冬香の言葉に4は少しだけ考え込む、そして・・・


「まあ別に教えても構わんじゃろう。次の作戦は一言で言えば「報復」じゃ」

「報復・・・?」

「そう、昨日監査官殿を襲った接続者。竜尾会に対する報復じゃよ」

「私が襲われた事への・・・?」


その言葉にやや疑問を感じ、問いかける冬香


「当然じゃろう?白昼堂々儂らの仲間を襲ってきたわけじゃから」

「では、竜尾会の施設に対して攻撃を?」

「うむ」


そして、4はいつも通りクックと笑って作戦内容を告げた


「目標は竜尾会が保有する施設、関連組織、その「全て」」

「えっ・・・?」


全て?

一瞬その言葉の意味が分からず唖然とする冬香

だが、4はそんな冬香に構わず淡々と告げる


「竜尾会に所属する構成員、末端から幹部、人間に接続者。その全てを「皆殺し」にする」

「なっ!?」


何のためらいもなく皆殺しと告げる4に、冬香は思わず声を上げる。しかし・・・


「久々の派手な殺しじゃ、クックックッ!楽しみじゃのう!」


そんな冬香に対し、4は殺戮の予感に狂気の笑みを浮かべるのだった






同じ頃

PCに映し出された東京の地図を見つめながら険しい表情を見せる暗殺課の課長、吹連双葉

そして部屋にはもう一人、白衣を着た男性、安栖宗次の姿があった


「本当にやるのかい?双葉」

「必要な事よ。この東京の治安を守る、それが私達の仕事。今更死体が百や千増えた所で、今まで殺してきた数を思えば大差ないわ」

「ああ、理解しているよ」


普段より緊張している様に見える吹連に対し、安栖はいつも通り温和な笑みを浮かべながら答える

だがそんな安栖の言葉にも吹連の様子は変わらず、吹連は更に思いつめた様な表情で呟く


「それに、この作戦で竜尾会に所属する接続者を殺してその死体を回収すれば、宗次の研究も先に進めるかもしれない。そうすれば・・・」

「双葉・・・」


そう呟くと、安栖は座っていたソファーからスッと立ち上がり、彼女のデスクの椅子の横に歩いてくる

そして、安心させる様に優しく肩に左手を添えた


「・・・宗次」


そんな安栖の手に、吹連は頬を寄せる様にして目を閉じる。そして・・・


「そう・・・姉さんの為にも・・・」


吹連が呟いた言葉

安栖はその言葉を聞きながら

吹連が頬を寄せた左手、その薬指にはめられた指輪を眺め、静かに・・・


「ああ・・・瑞葉の為にも・・・」


そう呟いた

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