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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第一章:恋の炎はその身を焦がして燃え上がる
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東京の神様


「おにーさん!!!」


御音の後ろから突然抱き着いてきた先程の少女!

そして御音は、そのまま押しつぶされる様に・・・


ドゴッ!


頭から地面へ突っ伏した!

その様子に思わず声をかける冬香!


「お、おい!御音!」

「・・・問題無い」

「いや、だが凄い音だったぞ?」

「問題無い。それより「コレ」をなんとかしてくれ」


地面に倒れた御音、その背に擦り寄る様に抱きつく少女

年齢は若く、可愛いらしい顔をしている様に思えるのだが

金髪に染め上げたセミロングの髪に派手な服装とメイクが、年不相応の印象を与えている

昔の言葉で言うのなら、ギャル系と言った感じだ


「お、おい。キミ」

「えへへへ~おにーさん~強い~」


冬香が少女に声をかけるが、全く聞いていない様子


「・・・全く」


仕方ないと言った様子で、御音は強引に背中の少女を押しのける


「うわっ!」

「・・・」


そして立ち上がった御音は服の埃を払うと、冬香の方へ視線を向け・・・


「それで?誰だコイツは?アンタの知り合いか?」


そう問いかける御音に、冬香は少し遠慮気味に答えた


「ああいや、先程彼女が男に襲われていて・・・」

「それで?」

「放っておくわけにもいかないから、助けに・・・」


その言葉に眉をしかめる御音


「・・・ハァ」


そしてため息をつくと、眉間を指で押さえる

その時、横で話を聞いていた少女が口を挟む


「ま、全然役に立たなかったけどね。そっちのオバサンは」

「なっ!?」


その恩知らずにも程がある言葉を聞いた冬香が驚愕する!そして!


「誰がオバサンだ!私はまだ26だ!」


と大声で反論した!


(そっちの方を気にするのか・・・)


と、御音は呆れるが

口には出さず、溜息を一つつくだけにとどめた

そんな御音の様子を気にする事もなく、冬香とレンの言い合いは激しくなっていく


「いやいや。26とかもう完全にオバサンっしょ」

「暴漢から助けてもらっておいて!その言い草はなんなんだ!?」

「助けてくれたのはおにーさんだし。おにーさんが助けてくれなきゃ、オバサンだってあのままヤラれちゃってたっしょ」

「この!人を見捨てて逃げておいてその言い草・・・!」」


さらに険悪になりつつある二人の間に割って入る御音


「その辺にしておいてくれ。コイツは煽れば煽るだけ熱くなるからな」

「あー分かる。頭固そーだもんね」

「キサマ達・・・!」


冬香が鋭い視線を向けているのを感じる御音

だが面倒な事になりそうなので、それには気づかないフリをしておく


「それで?オマエは?」


自分の方へ話を振られて一瞬キョトンとした顔を見せる少女

だがすぐに、御音の質問の意図に気付き答える


「あー、そう言えば名前も言ってなかったね。アタシ「羽崎恋はねさきれん」、「レン」でいいよおにーさん」


レンと名乗った少女は、そのまま御音に向かって言う


「いやーほんとヤバイ所だったからさー、おにーさんが助けてくれなかったらどうなってた事か!ほんと感謝してる!」

「そうか」


御音の手を取りながら大げさに言ってみせるレンに対し、御音は大して興味無いと言った風に返す


(いや、実際全く興味無いのだが・・・)


そう思いつつも、御音はとりあえず当たり障りない返答を返す事にした


「俺は十塚御音。こっちが霧生冬香」

「ミオン?女の子みたいな名前だね」

「・・・」


レンの言葉に、またかと思いつつ御音は黙り込む

冬香がクククッと笑みを浮かべているが、先程のお返しとでもいう事だろうか

そして黙り込む御音に代わって、冬香は少しニヤついたままレンに質問をする


「それで?キミは何で絡まれてたんだ?」

「何でって・・・それは・・・」


冬香の質問に、レンは渋々と言った感じで事情を話し始める


「アイツさ・・・ああ、アイツってアタシに絡んでたオッサンの事ね。アイツ、アタシがここらで客を物色してた時に声かけてきてさー・・・」

「客?」


何の事かと首をかしげる冬香に、レンが答える


「客は客っしょ、ーーーな事してお金をもらうから客」

「なっ!?」


一瞬で顔を真っ赤にする冬香、どうやらこちらの方の耐性も低い様だ

そして冬香は赤い顔のまま口を開こうとするが、それを御音が遮る


「それで?」


この件で冬香に言及されると話がこじれると考えた御音は、すぐさまレンに続きを促しそれを避けたというわけだ


「ん?あーそれで声かけてきてさー、相場の半分ぐらいの金でヤラせろとか言ってきたわけ。んで当然断ってたんだけど、あんまりしつこいからさー。OKしたフリしてホテル入って、隙見て財布盗んで出てきたってわけ」

「・・・ところが逃げきる前に捕まって。そこにコイツが通りがかったって事か」

「そーそー」


御音の言葉に頷くレン

普通に考えるならばレンの行動は窃盗なのだが、それに対して御音の反応は薄い


(窃盗犯を捕まえるのは俺の仕事じゃない・・・それに・・・)


そう、それにこの様な話はこの街では別に珍しくもない話なのだ。だが・・・


「私は窃盗犯を庇ったのか・・・。いやだが、相手も暴力を振るっていたし・・・」


冷静な御音に対して、冬香はその話を聞いて茫然としている


(お外育ちのエリートにはカルチャーショックが大きかったか?)


間の抜けた表情のまま立ち尽くしブツブツと呟く冬香に、御音が声をかける


「おい、もう用は済んだだろ?行くぞ」

「・・・はっ!わ、私に命令するな!」


顔を赤くしたまま、御音に向かって叫ぶ冬香

その時、そんな二人のやり取りを面白くないと言った風に見つめていたレンが言った


「ねえ。その人っておにーさんの何なの?カノジョ?」

「なっ!?」


何故か御音ではなく冬香が動揺するが、当の御音は顔色一つ変えず言った


「コイツは仕事上の付き合いだ」

「へー、そうなんだ・・・」


品定めするように二人を見比べるレン、そして・・・


「それなら十分チャンスあるよね・・・」

「チャンス?」


その言葉に首をかしげる御音、その瞬間


チュッ


レンは素早く御音の傍へ踏み込むと、その頬にキスをする

そしてすぐに離れ、ニカッと笑うと


「今のは助けてくれたお礼!んじゃまたね、おにーさん!」


そう言って、まるで突風の様に駆けて行った






そしてその突風に吹かれた後、その場に取り残された御音と冬香

二人とも呆気に取られた様に立ち尽くしていたが、しばらくして・・・


「やれやれ・・・」


そう呟いて御音もその場を去ろうとする、だがその時・・・


「どうした?」


その場から動こうとしない冬香に、御音が問いかける


「え?あ・・・」


御音の呼びかけに答える冬香、だが足はその場から動いていない

何やら考え事をしていたのだろうか?冬香はボーっとした様子で立ち尽くしたままだ

そんな冬香に、御音は落ち着いた声のまま言った


「この街であのレベルのいざこざをいちいち気にしていたらキリが無いぞ」


その言葉にピクリと反応する冬香、どうやら図星だったらしい

そして冬香は、ボソリと呟く様に御音に問い返す


「・・・あんなのが、日常だと言うのか?」

「そうだ。あの程度の犯罪この東京じゃ珍しくない、場合によっては殺人だって簡単に起こる。知らなかったわけじゃないだろう?」

「・・・」


冬香も監査官になろうとしていたからには、この街の事を知らなかったわけではないはずだ

だが、授業で習うのと実際に見るのとでは全く違う


「誰も、この街をなんとかしようとしないのか?」


そう呟く冬香

だがその言葉に、御音は思いきり目を丸くし、そして・・・


「アンタは神様になりたいのか?」


冬香に向かってそう問いかけた


「それは・・・どういう意味だ?」


その言葉の意味が分からず問い返す冬香

そんな冬香に、御音は当然の事だとばかりに告げた


「人には出来る事と出来ない事がある。この街の全てを救うなんて、それこそ神様にでもならないと無理だ。そうだろ?」


今度は冬香がその目を丸くする


「それは・・・」


そう、御音の言っている言葉は何も間違っていない

人には出来る事と出来ない事がある、当然の事だ

この街の全ての苦しみを救えるとしたらそれはもはや人間ではない、神の所業と言えるだろう

だがどう足掻いても、霧生冬香はただの人間でしかない


「だから、俺達は俺達の仕事をこなすだけだ」


そう言い聞かせて、目の前の不幸から目を背ける

そう、それは仕方のない事なのだ

人は誰も神にはなれないのだから


「ああ・・・」


そう思いながら、御音の言葉に頷く冬香

しかし、冬香の胸をザワつかせているのはその事だけではなかった


「なあ御音・・・?」

「何だ?」

「私は・・・」


冬香は御音に向かって何かを問いかけようとする。だが・・・


「・・・いや、何でもない」


冬香はそれを口に出さず、御音に続く


「そうか」


御音はそれだけ言うと、そのまま歩き始める

そして御音の後ろを歩きながら、冬香はその背に別の質問をした


「なあ」

「何だ?」

「御音はどうして私を助けてくれたんだ?」


そう問いかける冬香に向かって、御音は振り返り一言・・・


「アンタに消えられると仕事に支障が出る」


そう、冷たく言い放った

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