三人の家族
2020年
突如として現れた接続者達が、その能力を使い暴力の限りを尽くしていた頃
その被害を受け破壊された街
そこに取り残されていた男の赤子を、たまたま近くを通りがかった男が助け
自分の住処であるスラムへと連れ帰ったのが始まりだった
赤子を助けた男は善人ではあったが、特に強いわけでも賢いわけでもない普通の男だった
3年後、接続者達の戦いに巻き込まれ、男は拾った赤子を残し命を落とす
育ての親は死に、実の親は生きているかどうかも分からず
たった一人で生きていく事を余儀なくされた少年
だが彼は、そんな劣悪な環境下に於いても一人で生き延びてみせた
そう、暗殺者ナンバー13
後にそう呼ばれる事になる少年の記憶は旧山手線外縁部の荒廃地域
グラウンドゼロのスラムから始まった
数年後、少年がおおよそ10歳になった頃の事
少年は竜尾会と呼ばれる犯罪組織によって拉致され、とある実験施設に収監される
その施設は
子供達を鍛え上げ、戦闘技術を身に付けさせると同時に
様々な実験により人工的に能力を覚醒させ
訓練によって培った高い技術と、接続者の人知を超える力を併せ持った最強のエージェントを創り出す
それを目的とした施設であった
過酷な訓練と、ありとあらゆる方法で接続者への覚醒を促す、拷問とも呼ぶべき実験
当初200人居た子供達は一人、また一人と命を落としていく
だが、そんな中でも少年・・・
個体識別番号「K・013(ケー・ゼロイチサン)」は生き延びていた。そして・・・
「013・・・さん!」
そう呼ぶ声に少年は振り返る
そこに立っていたのは同じ施設で暮らす孤児の一人、白髪の少女「K・037(ケー・ゼロサンナナ)」の姿だった
「・・・何か用か?」
そうぶっきらぼうに返事をする少年
少年は一人で居る事を好んでいた
いつ居なくなるかも分からない他者との付き合いは、彼にとっては苦痛とも言える物だったからだ
だが先日、訓練中に倒れた彼女にたまたま手を差し伸べた事により
以降目を合わす機会があると、彼女の方から少年に話しかけてくる様になってしまったのだ。そして、もう一人・・・
「よお、013に037」
そう陽気に声をかけてきた大柄な少年、「K・018(ケー・ゼロイチハチ)」だ
018も同じ施設で過ごす孤児の一人
037を助けた時、彼もその事に関わっており
以降037と同じ様に、少年に声をかけてくる事になった
「相変わらず暗い顔してんなぁ~。たまには笑顔で返事でもしてみたらどうだ?」
「断る。というより、用が無いなら話しかけてくるな」
そう冷たく言い放つ少年
その言葉は018に対して向けられた物だったのだが・・・
「あ・・・。ごめんなさい・・・013・・・さん」
それを自分に対する文句だと受け取ったのだろう
少年の言葉に咄嗟に頭を下げる037
「あ、いや・・・」
少年はすぐに誤解を解こうとするが、元々口下手な性格が災いし適切な言葉が浮かばず口ごもる。その時・・・
「おいおい!037が可愛そうだろうが!」
018が少年に非難の言葉を浴びせる
「年下の女の子相手なんだから、もう少し言葉を選べよなぁ~。鈍感と言うか、人の心が分からないって言うか」
「・・・ッ。元はと言えばお前が!」
「お?やるか?今度こそお前に勝って、俺がナンバー1に・・・!」
言い返す少年と受けてたとうとする018
二人の少年の口論はどんどんヒートアップしていく、だが・・・!
「ふ、二人とも!喧嘩は止めて下さい!!!」
「ッ!?」
普段の少女からは想像もつかない様な大きな声に驚き、思わず二人ともピタっと動きを止める
「あ・・・ごめんなさい。でも、喧嘩はしないでください・・・。013・・・さんに018さん」
そうか細い声で呟く少女、それに対し少年達は顔を見合わせた後・・・
「別に喧嘩じゃない。心配するな」
「そ、そうなんですか・・・?」
「あ、ああ!まあちょっとしたじゃれ合いって言うか!少しテンション上がっただけだよな!?」
「そうだったんですか・・・。私勘違いしてしまって・・・ごめんなさい」
そう言って、また頭を下げる037
「いやいや!別に謝る事ないから!」
そんな彼女を、018は咄嗟にフォローし、話を変えようとする
「あー、そう言えば。037って俺達の事「さん」付けで呼ぶよな」
「え?それは、多分私の方が年下だから」
「いや別にそれはいいんだけどさ。なんかこう呼びづらそうって言うか・・・特にソイツを呼ぶ時」
「・・・」
018の言葉に無言で返す少年、だが・・・
(確かに。ゼロイチサンさんと言うのは呼びづらいだろう。013じゃなく0133の様だ)
心の中ではもっともだと納得していた
「でも呼び捨てにするのも・・・」
そう困った様に俯く037
そんな037に対し、少年は極力優しい声でフォローする
「別に呼び捨てでも構わない。こんなのはただの個体識別番号だ、本当の名前ってわけでもない」
「名前・・・」
その少年の言葉に037はハッと何かを思い浮かんだ様に顔を上げた
「名前・・・。その・・・013・・・さんの名前って・・・?」
「俺の名前・・・?」
その言葉に自分の記憶を思い返す少年、だがそんな物は思い出せるはずもない
何故なら、そんな物は産まれてから一度も与えられていなかったからだ
「・・・えっと」
無言で黙り込む少年に対し、037が遠慮がちに声をかける。そして・・・
「カズミ・・・兄さん」
「・・・?」
ふと037が呟いた言葉に、少年は目を見開く
「あ、その・・・。013だから・・・。13・・・カズミ。カズミ兄さんって思っただけで・・・」
自信なさげに呟く037
最後の方はほとんど聞き取れない程の小声だったが・・・
「カズミ・・・。いいんじゃねえのそれ!」
笑みを浮かべながら018がそう答えた
「名前か!そういや俺達いつも番号で呼ばれてるから、名前なんて考えた事もなかったな!」
そう楽し気に言う018
「・・・」
対して少年の方は相変わらず無言のままだったが
心のどこかに、決して不快ではないざわつきがあるのを感じていた
「んー、なら俺は018だから・・・カズヤって所か?」
「いいと思います!カズヤ兄さん・・・」
「お、おう・・・。なんか照れるなコレ・・・」
そう言って目を泳がせながら頭をかく018・・・いや、カズヤ
「それなら後は037だけど・・・んー?サンナナ・・・サンナ・・・?」
そして037の名前を考え始めるカズヤ
しかし、どうにも納得のいく名前が思い浮かばず、頭を悩ませる。その時・・・
「・・・ミナ」
「ん?」
ポツリと少年が呟いた言葉に、二人が顔を向け・・・
「ミナ・・・」
「ミナ・・・ミナか!」
納得した様に笑みを浮かべるカズヤ
そして037も、その名前を何度か口に出しながら言った
「ミナ・・・。はい、私もこの名前好きです」
037・・・
いやミナは、そう言って嬉しそうに微笑んでみせた
こうしてこの日、少年は「カズミ」となり
「カズヤ」と「ミナ」という同じ施設で過ごす仲間は
同じ運命に立ち向かう、3人の家族となった
その、最後の日が来るまでは・・・




