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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第六章:十字架と黒き願いが交わり扉は開く
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死神の正体

竜尾会の接続者達による監査官の誘拐未遂事件、その翌日

暗殺者達の活躍により難を逃れた冬香は

その事件の際負傷し暗殺課本部に搬送された13の様子を見る為、メディカルルームにやってきていた


「・・・」


ベッドの上で死んだ様に眠り続ける13、隣のベッドでは同じく負傷したアイリが寝息を立てている

その時、部屋の自動ドアが開き一人の男性が現れた


「ん?・・・やあ霧生監査官、来てたのかい?」

「安栖研究主任。はい、少し様子を見に」


温和な笑みを浮かべた白衣姿の男性

研究室主任であり、医療や機械工学等様々な分野に精通する俊英、安栖宗次だ


「霧生くんはコーヒーで良かったかな?と言っても、ここにあるのはインスタントの物だけだけれど」

「あ、いえ。お構いなく」

「そうかい?」


そう言うと、安栖は部屋の隅にあった電気ケトルでお湯を沸かしながら言った


「アイリちゃんの方は問題ないよ。念のため一晩泊まってもらったけど、目が覚めたらすぐ家に戻っても大丈夫」

「そうですか、良かった・・・」


ホッと軽く息を付く冬香

だが、安栖は続けて13の容態について説明をする


「しかし、13の方は今度こそ絶対安静だ。前回の負傷も治らない内に出撃し、あれだけ無茶をしたんだからね」

「負傷・・・」


その時、冬香は昨日6がボソリと呟いた言葉を思い出す


(オマエ・・・本当に接続者か?)


そして軽く深呼吸をし、意を決した様に安栖に問いかけた


「安栖研究主任・・・。その、13の身体の事ですが・・・」

「ん?13の身体がどうかしたかな?」

「13は・・・本当に接続者なんですか・・・?」

「・・・!」


6の言葉と13の負傷、そこに感じていた違和感


「以前聞いた事があるんです。接続者は身体能力の他に自然治癒能力も向上していると。接続者なら、骨折程度の怪我一週間もあれば治癒してしまうとも。ですが・・・」


ベッドの上で寝息を立てる13の顔を見ながら、冬香は続ける


「13の自然治癒能力は常人と大差ない様に思えます。その理由は・・・」

「・・・彼が接続者ではないから、と考えたわけだね」

「はい」


答えを待つ冬香

それに対し、安栖は呟く様に言う


「・・・本当は口止めされていたんだけど。彼の監査官である君なら知っておくべきかもしれないな」

「じゃあ・・・!」


思わず声を上げる冬香に対し突然、安栖は奇妙な質問をする


「霧生監査官。君は人間と接続者の違いについて分かるかい?」

「え?えーと・・・」


人間と接続者の違い

唐突に安栖が口に出した質問に、冬香は少しだけ考えた後答えた


「常人を超えた身体能力、最先端の機器をも超える優れた五感。それと、それぞれが持つ特異な能力・・・でしょうか?」

「うん、そうだね。一般的には人間と接続者の違いはそういう事だと説明されている」


そして安栖はコーヒーを用意しながら続ける


「だが実は違う。人間と接続者の一番の違いは「脳」なんだ」

「脳・・・ですか?」

「そう脳みそさ。具体的に言うと、接続者の脳は神経パルスの伝達速度が常人の10倍以上の速度だと言う事が分かった。これはつまり僕達が1秒だと感じる時間を彼らは10秒、もしくは数十秒の様に感じているという事になる。そして、彼らの使う能力も「脳」による機能だと言う事が分かっているんだ」

「能力が・・・接続者の脳から生まれている?」

「そう。恐らく接続者になった瞬間、僕らが普段使っていない脳の領域に能力が刻みこまれる。インストールされると言った方が分かりやすいかな。そして脳はインストールされた能力を効率的に使う為成長・・・いや、進化し。常人を超える情報処理能力を得る、という訳さ。肉体の強化や五感の鋭敏化は、この際の副次効果に過ぎない」


安栖の言葉に頷きながら、冬香は考える

能力がインストールされる、ならば・・・


「その、能力がインストールされるというなら、その大元は・・・」

「ゼロ・オリジン・・・であると推測されているね。オリジンとはいわばサーバーだ。そこにネットワーク接続した人間は能力をダウンロードしインストール、接続者となる。彼らが「接続した者」と言われているのはそんな理由からだね」

「では、オリジンに接続する為の条件は分かっているんですか?」

「いや、それは完全にお手上げだよ。まず、人間の方からオリジンにコンタクトを取る事が不可能なのは、過去の実験から分かっている。よってオリジンの方からコンタクトを取ってくるのを待つしかないわけだけれど。人種、性別、年齢、ありとあらゆるデータを精査したが、接続者となる人間の共通点は見つけられなかった。現状、オリジンが接続する人間をランダムに選んでいる、としか言えない状況だ」


人が接続者となるメカニズム

安栖の話に冬香は真面目に耳を傾ける


「そして最初の話に戻るんだけど。13の事だ」

「・・・!」

「結論から言うと、彼の肉体や五感は「常人となんら変わりがない」事が分かった」

「なっ・・・!」


安栖の言葉に驚きの声を上げる冬香

しかしすぐさま、その言葉に反論する


「で!でも!今まで13は様々な接続者相手に互角以上に渡り合ってきました!それなのに彼の身体が常人と同じなんて!」

「違うんだ、霧生監査官」

「・・・え?」

「13の優れた戦闘能力。それは彼が接続者になった事により手に入れた物ではない。彼の戦闘能力は、彼がその過酷な人生の中で培ってきた物なんだ」


安栖が語る13の過去

物心が付いた時には既に天涯孤独、孤児としてグラウンドゼロ外縁部のスラムで暮らし

その後、接続者の能力と鍛え上げられた戦闘技術を併せ持ったエージェントを作り上げる為の施設に収監され、訓練に明け暮れる

そして5年前、施設の崩壊と共に暗殺者である4に保護され、彼女の指導の元暗殺者となり

100回以上の接続者との殺し合いを経て、現在に至る・・・


「・・・彼は何も与えられてなんかいない。ただ今までの技術と経験だけで、これまで生き残ってきた。それが暗殺者・ナンバー13の本当の姿だ」

「じゃあ・・・。やっぱり13は、人間・・・なんですか?」


唖然とした様な顔のまま冬香が呟く

しかし、その冬香の言葉に対して安栖は首を横に振る


「いや、それも違う。君も見ただろう?彼が能力「接続リンク」を使う所を」

「・・・あっ」


そう、確かに13は「能力」を使っていた

それこそ彼が「接続者」である事を証明する一番の理由と言える


「では一体・・・?」

「正直な事を言えば、僕にも分かっていない。彼の現状を言葉にするなら脳は接続者、身体は人間の「半接続者デミ・コネクター」と言った状態だ」

「半接続者・・・」

「彼の様な例は他には存在していないし、原因も全く分からない。だがおそらく、その原因は彼の過去に何か関係があるのではないか、と僕は思っている」

「13・・・」


安栖の言葉に、冬香は顔を伏せボソリと呟く

その時・・・


コトッ


「・・・?」


目の前のテーブルに置かれたマグカップの音に、冬香が顔を上げる


「ホットココアだよ。彼が心配だったのは分かるけど、睡眠不足は良くない」

「あっ・・・」


咄嗟に目尻に指を当てる冬香

昨日は一睡も出来なかったのであろう、そこには遠目でも分かる程の隈が出来ていた


「それじゃあ僕はちょっと出てくるから、彼の事を頼むよ」


そう言って安栖は、コーヒーの入ったマグカップを二つ持ったまま部屋を出て行った






目を閉じたままの13の側で、冬香はこれまでの事を思い返す


(アンタは何をしているんだ?)


路地裏で暴漢に絡まれていた私を助けた時、彼は冷たい目でこちらを見ながらそう言った。だが・・・


(冬香!)


レンを追って廃校舎へ乗り込んだ時も、ユウヤを追ってスラムへ向かった時も

私が危機に陥る度に、彼は私を助けてくれた。だが・・・


(・・・やはりコイツも同類か。バケモノ共・・・)


私が最初に彼に抱いた印象

私の父を殺した接続者という存在、人間の力を超えた化け物

そう、13も同じなのだと私は思っていた


(13は私とは違う)


何の力も持たない私と違い、13は常人よりも遥かに優れた力を持っている

だからだろう、私は彼が助けてくれる行為をどこか「当たり前」の様に思っていた

13は私よりも遥かに優れた力を持っている。だから私を助ける事ぐらいどうという事はないのだ、と


(だが・・・違った)




そう、そんな事はなかったのだ


彼は無敵のヒーローなどではない


傷つけば血を流し、倒れる。そんな当たり前の存在


そしてそれでも、他人の為に命を賭けて戦う


ただの心優しい青年に過ぎなかったのだ




「なあ13・・・。どうしてお前はそこまでして、私を助けてくれるんだ・・・」


目を閉じたままの13の手を握りながら、冬香は呟く。だがその時・・・


「・・・違う」

「えっ・・・?」


不意に返ってきた答えに冬香が顔を上げる

そこには目を開き、身体を起こす13の姿があった


「ッ!13!まだ無理は・・・!」


冬香はすぐに13の体を横にしようとするが

そんな冬香を遮る様に、13はもう一度言う


「違うんだ冬香。俺が冬香を助けた理由はそんな物じゃない・・・」

「13・・・?それはどういう・・・」


唖然とする冬香に対し、13は続けて言った


「俺はただ怯えているだけだ・・・。自分がかつて犯した罪に・・・」

「罪・・・?」

「そうだ・・・。俺はずっと俺自身が犯した罪に、その罪悪感に苛まれ続けている。だが暗殺者として任務を遂行している間、命を賭けた戦場に居る間だけ、俺はそれを忘れていられる。何も考えず、ただ敵を殺す機械でいられる。俺に取っては暗殺者として接続者と対峙している時だけが、心が休まる時間なんだ」

「そんな・・・」


戦っている時だけが、喉元に死を感じるその時だけが13の安らげる瞬間

そんな13の言葉に冬香は静かに問いかける


「ミナ・・・か?」


ミナを殺した罪

13と同じ施設で暮らしたカズヤという接続者が言っていた言葉

間違いなく、13の罪とはミナという少女に関わる事だと冬香は確信していた


「・・・」


冬香の言葉に13は何も答えなかったが

その沈黙が逆に答えを告げていると理解し、冬香は続けて問いかけた


「一体何があったんだ・・・?お前とあのカズヤという奴と、そしてミナ・・・。一体何が・・・!」


そう問いかける冬香に対し、13は・・・


「・・・アンタには関係のない事だ」


静かに、そう一言だけ告げた。だが・・・!


「関係ならあるだろう!私はお前の監査官!お前の相棒だ!」


そう叫びながら、訴えかけるように13の瞳を見つめる冬香!


「それに・・・!」

「それに・・・?」

「いや・・・。とにかく!私にもお前の過去を知る権利はあるはずだ!」


そして13の瞳を真っすぐに見つめ続ける冬香

そんな冬香に根負けした様に13は軽くため息をつくと


「・・・そうだな。分かった、話すよ」

「本当か!」

「ああ・・・。・・・これは俺の犯した罪、5年前の事件。俺とカズヤとミナ、3人だけの兄妹の話だ・・・」


ゆっくりと

13の過去、5年前の事件について話し始めたのだった

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