狩る者、狩られる者
13の前に現れた2人の接続者!
13は左手の銃を構え、戦闘状態を維持したまま呟く
「冬香。無事なら返事をしろ」
すぐさま、耳に取り付けられた小型通信機から応答が返ってきた
「・・・ぐっ。ああ、私はなんとか無事だ・・・」
車が壁に激突した衝撃でエアバッグが作動した為、冬香に大きな怪我はなかった。しかし・・・
「・・・」
後部座席で目を閉じたまま意識を失っているアイリ
だが幸い、気絶しているだけで命に別状はなさそうだ
「・・・だがさっきの衝撃で、アイリは気絶してしまっている。それに車も動きそうにない・・・」
「分かった、お前は車の中に居ろ。この二人は俺がなんとかする」
その時、空気を操る方の接続者がニヤニヤと笑みを浮かべながら言った
「ハハハッ!俺達二人をなんとかする?なかなか面白い事を・・・」
だがその時、男は13の右腕を見て言葉を途中で止める
「ん?義手の右腕・・・?なあ271、もしかしてコイツが例の暗殺者じゃねえのか?」
そう問いかける接続者、406に対し、271は冷ややかな声で答えた
「ああ・・・そうみたいだな」
「そうみたいだなって。俺達の任務はコイツをおびき出す事じゃなかったのか?どうすんだよ?」
「・・・」
その時、銃剣付きのハンドガンを構える13の姿を見た271の脳裏に、ある光景が思い出される
(オレの名は「カズヤ」だ。もう一度言った時はお前を殺すぞ)
片手で271を壁に叩きつけ、殺意の籠った視線を向けるカズヤの姿
脳裏に浮かんだその光景に、271はギリッと歯を噛みしめる。そして・・・
「かまいやしねえ。やっちまうぞ」
「あん?いいのかよ?」
「いつから俺達はアイツの部下になった?アイツの命令なんて知った事かよ」
忌々しそうな声でそう言い放つ
だがすぐに、その不機嫌そうな顔を笑みに変えると言った
「それにアイツが仕留められなかった暗殺者を俺達が殺れば、俺達にハクが付くってものよ。初期ロットだかなんだかしらねーが、いつまでもアイツにデカイ顔させておく必要はねーだろ」
「まあ・・・確かにな」
271に言葉に406もニヤリと笑みを浮かべて答えると、二人の接続者は戦闘態勢に入った!
「ハハハッ!んじゃまあ!殺るか!」
そして!二人の接続者と13の戦闘が開始された!
「それじゃあ第一球!!!」
そう叫ぶと同時に!406は圧縮空気球の投球モーションに入る!
「投げました!!!」
グオンッ!!!
そして406が腕を振ると同時に!周囲の空気を引き裂きながら、不可視の球が13へと襲い掛かった!しかし!
「って、ああ!?」
13はこの不可視の球を難なく回避する!
「俺の球をかわすのかよ!?」
「・・・弾丸と違って軌道は見切りにくいが、速度は大した事はない」
そして13は一気に406へと間合いを詰めようとダッシュする!しかし!
「ヒャッハッハ!おいおい何処見てる!?2対1だって事忘れてねーか!?」
「ッ!?」
ゴオッ!!!
瞬間!13は咄嗟に身を翻すと、真横から飛行して突っ込んできた271をかわす!だが!
「ナイス271!隙あり!ってな!」
13が体勢を崩した瞬間!すかさずそこへ2発目の圧縮空気球が投げ込まれる!
「くっ!」
しかし13は地面をローリングで転がりこの攻撃もかわす!
「今のもかわすのかよ!」
驚愕する406に対し!13は姿勢を低くした状態から真横に向かって飛び跳ねる様にして一気に間合いを詰める!
「なっ!?うおお!」
すかさず!至近距離から放たれる打撃、斬撃、銃撃のコンビネーション!
片腕のみとは言え、13の銃術は406を圧倒する程十分な威力を誇っていた!
ダンッ!ギィンッ!!!
この怒涛の連続攻撃に対し、空気を固め障壁を作りなんとか攻撃を捌いていた406だったが・・・!
「だ、駄目だ!さばききれねえ!271!!!」
271に援護を求める406!だがしかし・・・!
「分かってる!だが近すぎて援護が出来ねえ!」
406に対しゼロ距離まで肉薄した13!
この間合いでは271の飛行突撃で13のみを狙うのは不可能だった!
「どうにかして間合いを離せ!」
「お、おう!」
その言葉に406は13との間合いを離すべく後ろへ飛び退くが!
ダッ!
「ふ!ふりきれねえ!」
406が飛び退くと同時に13は前に詰める!そして!
ドゴォッ!!!
「うげっ!!!」
強烈な足刀が406の腹部に直撃!406の身体を道路の端まで吹っ飛ばした!
「・・・!馬鹿が!離れた!」
だがその瞬間!406の身体が13から離れた瞬間を狙って271が突撃する!
ゴオオッ!!!
時速300キロを超える砲弾と化した271が13を襲う!しかし!
「そう・・・このタイミングで来ると思っていた」
「ッ!!!」
それは13がわざと見せた隙!13は突撃してくる271を回転しながら回避!
そしてそれと同時に!左手のハンドガンを捨て腰のマチェットを引き抜くと!突撃してきた271に向かって斬撃を繰り出していた!
ザシュッ!!!
13と271の身体が交差し!
次の瞬間!突撃してきた271がそのままの勢いで道路に激突し転がっていった!
「がああっ!!!いてえ!いてえぞチクショウ!!!」
地面に転がり、腕についた深い切り傷を抑えながら271が叫ぶ
13の斬撃は271の腕を切り裂き、その傷口からは激しい出血が見られた
「がはっ・・・コイツつええ!」
道路端に蹴り飛ばされた406も、血を吐き出しながらヨロヨロと立ち上がる
「2対1・・・しかも相手は片腕だぞ・・・?」
だがその406の言葉に対し、13は感情の起伏を感じさせない冷酷な声で告げる
「その程度の不利で倒される程、暗殺者は弱くはない。特に、お前らみたいな二流相手なら尚更だ」
「ハハハッ・・・言ってくれるじゃねえか」
目の前の男から感じる圧倒的実力差に、乾いた笑いを返す406
だがその時、倒れていた271が笑い声を上げながら言った
「ハッ・・・ヒャッハッ!確かにテメーはつええ・・・。だがなぁ・・・!」
ガシャァンッ!
「・・・ッ!何っ!?」
その時!突然背後から聞こえてきたガラスが割れる音に13は振り返る!
背後にあったのは車から引きずり出され、ひとりでに空中へ浮かぶ冬香の姿!
「ぐっ・・・」
その時!空中に浮かんだ冬香のすぐ側の空間が揺れ!冬香を腕で吊り上げる男の姿が現れた!
「なっ!もう一人!?」
「ヒャッハ・・・そうさ!透明になる能力で伏せさせといたのさ!これで3対1!しかも人質付きって訳だ!!!」
そう叫びながら、271は勝利を確信し唇を歪めるのだった!
突然現れ、冬香を人質に取った透明化能力の接続者
その時、透明化の能力を解いた男が言った
「何やられちゃってんのさ271に406。俺が居なけりゃそのままトドメさされてたんじゃないの?」
「うるせえ!358!いいからその女を抑えとけ!」
「へいへい了解」
358と呼ばれた長身でひょろっぽい姿をした接続者は、右手で冬香の首を掴んだまま吊り上げる
「ぐっ・・・!13・・・!」
「冬香!」
すかさず358に向かって突撃の構えを見せる13だったが、その機先を制す様に358が言った
「おっと動かない。俺がこの女の首をへし折るのに、0.5秒もかからないよ?」
「・・・ッ!」
即座に動きを止める13
その時、動きを止めた13に対して冬香が叫ぶ!
「構うな!コイツらを殺せ!13!」
その声を聞いた358は、軽く笑いながら言った
「はは!美しい友情?愛情?でも・・・」
その時、13の腕に握られていたマチェットがカランと音を立てて地面に落ちた
「・・・」
「どうやら彼は抵抗しない事を選んだみたいだよ?」
「13・・・」
武器を捨て、無表情のまま立ち尽くす13
「そうそう。大人しくしときなって。さて?どうする271?」
13が抵抗出来ない事を確認した358は271に向かってそう問いかける
その言葉に271は怒りの表情を浮かべながら答えた
「もちろんぶっ殺してやる!だが、その前に!!!」
ドガッ!!!
「くっ!」
「この腕の傷の借りは返させてもらわないとな!」
そう叫びながら、無抵抗の13に対し殴りかかる271!
そのまま何度も拳を、蹴りを叩き込む!
「おおっと・・・271の奴、ちょっとヒステリー入ってないか?」
「腕を斬られたのがよっぽど頭に来たんだろうねぇ」
その様子をやや呆れた様に眺める406と358
そしてその間も、13に攻撃を加える271。だが・・・
「ハァ・・・ハァ・・・なんだコイツ・・・!」
既に数十発以上の打撃を食らっているにも関わらず、13は表情一つ変える事はなかった
逆に攻撃を仕掛けていた271の方が息を荒げてしまっている始末
その時、13の見下す様な視線が271の目に突き刺さる
(この眼・・・!ヤツと!018が俺達を見る目と同じだ!気に入らねえ!気に入らねえ!気に入らねえ!)
だがどんなに痛めつけても、13の表情が変わる事はない
どれだけ暴力を振るってもこの男を屈服させる事は出来ないであろう、それなら・・・!
「358!女を殺せ!!!」
その時、271がヒステリックに叫んだ!
その言葉に358は呆れた様に首を傾げながら答える
「は?人質を殺してどうすんの?ソイツまた攻撃してくるぜ?」
「人質ならもう一人、ガキが車の中に居るだろうが!いいからその女を殺せ!」
「ふーん、まあいいけどさ」
「ッ!」
瞬間、これまでどれだけ打撃を食らい続けてもピクリともしなかった13の表情が動く!
それを見た271はニヤリと笑みを浮かべ・・・!
「ヒャッハッハッ!!!殺れ!358!」
「はいはい。んじゃサックリと死んでもらおうか!恨まないでくれよ?」
ゆっくりと冬香の首を掴んだ腕に力を込める358!
「がっ・・・!すまない・・・13・・・」
「冬香!!!」
だが!次の瞬間!!!
キンッ・・・!
「えっ・・・?」
一瞬、何が起こったのかその場の全員が理解出来なかった
まるでキャンバスの絵を鋭利なナイフで切り裂く様に、空間その物に亀裂が走ったかの様に見えた。そして・・・!
「右手・・・?」
ボタリ、と
冬香を掴んでいた358の腕が、冬香ごと地面に落ちた
「う・・・。うおあああああっっっっっ!!!!!」
一瞬遅れて、切断された右腕を押さえながら358が叫ぶ!
そして358のすぐ側から、日本刀を持った男の姿が現れた!
「なっ!?358!」
406が、突然358の側に現れた男に対し戦闘体勢に入ろうとする!だがしかし!
「・・・おいおい、オレの事は無視かい?」
「なっ!?」
406が振り向くと同時に!
ヒュンッ!ともう一つの影が、まるでカマイタチの様に406の腕を切り裂いていった!
「痛ッ!なんだコイツ!いや、なんだコイツら!?」
切り裂かれた腕を押さえながら叫ぶ406!
「なっ・・・なんだ?味方なのか?」
突然現れた二人の男に戸惑いながら、そう呟く冬香
だがその時、日本刀の男は戸惑う冬香の前に立つと言った
「安心していい。この国の民を護る、それが私の使命であり、私の目指す護国の在り方なのだから」
「は・・・はぁ・・・」
そう言って目の前の男を見上げる冬香
スーツ姿に黒の長髪、身長はおおよそ190はあるだろう
そして男の手にあるのは、刃渡り90センチを超える大太刀
しかしながら、そんな凶悪な武器を構えているにも関わらず
端正な顔立ちと、冬香を不安に感じさせない気品を感じさせる所作が
殺し合いの場であるこの場所にはとても不釣り合いに見えた
その時、その様子を眺めながらもう一人の男が言った
「ハッ・・・いつもながらお堅い奴。オレは殺しが出来ればなんでもいいさ」
そう言って、嘲る様に笑うもう一人の男
同じくスーツ姿に派手に染めた金髪、シャツは派手な赤でネクタイはしていない
身長は170程だろうか?日本刀の男と比べるとかなり小柄に見える
だが、その身から放たれる威圧感は日本刀の男と比べても全く遜色はない
両手に持ったバタフライナイフを回しながら無邪気な、そして残酷な笑みを浮かべるその男の姿は
まるで遊びながら人の命を奪う、悪魔の様だった
その時、日本刀の男が耳を押さえながら呟く
「対象、接続者3体。命令を」
それは耳の小型通信機に対する言葉
そしてすぐさま、物静かな女の声で答えが返ってくる
「確認致しました、殺害を許可します。・・・全てはご随意のままに、宗久様」
「了解・・・」
そう呟くと戦闘体勢に入る日本刀の男、そして・・・
「おっと?アイツはやる気みたいだなぁ?オレはどうするよ?監査官」
その金髪の男の言葉に、耳の通信機から応答が来た
「愚問だな。奴ら接続者はこの世界のダニ、存在していてはいけない物だ。即刻駆除しろ」
「了解了解・・・。んじゃ殺すとしますかねぇ・・・」
通信機から聞こえる横柄な男の言葉にそうニヤニヤ笑いながら答えると、金髪の男の方もナイフを構える
そして二人同時に戦闘開始の合図、敵対する相手に取っては死の宣告にも近い言葉を告げた!
「ナンバー「9(ナイン)」。暗殺開始・・・!」
「ナンバー「6(シックス)」ッ!暗殺開始ってな!!!」
この瞬間、狩人は獲物へと変わる
暗殺者、シングルナンバー「9」と「6」
人ならざる獣達がその顎を開いたのだった!




