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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第五章:狩人を狩るのは人ならざる獣の顎
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嘘を封じた鳥籠


冬香の住んでいる警察寮から車で数十分、冬香とアイリの二人は渋谷繁華街に来ていた

昼の渋谷は人通りも多く、旧渋谷駅前の交差点では大勢の人々が行きかっている

東京が隔離される以前程ではないにせよ

その平和な光景は、ここが防壁によって隔離された中である事を忘れさせる程だった

その時、きょろきょろと辺りを見回していたアイリに冬香が言った


「街の風景がそんなに珍しい?」


冬香の言葉に、アイリは振り向いて答える


「はい。場所的にはすぐ近くに住んでいたはずなんですけど、こうやって買い物に来るなんて初めてですから!」

「そう?本当は立川か八王子辺りまで行けばもっと賑わっているんだけど」


2020年以前は、新宿渋谷等が東京の繁華街と言った感じだったのだが

接続者の出現移行、都市機能の多くは東京西方面に移転され

同時に人々が集まる場所も西側へと移動していったのだ


「すみません・・・。私が接続者だから・・・」


その時、アイリが少し項垂れながらそう答える


「あ、いや私こそすまない!そういうつもりではなかったんだ!」


項垂れるアイリに、冬香が慌てた様にそう言った


現在、西エリアへは検問による厳しい移動制限がかけられている

特に接続者の移動は、警察組織に所属する暗殺者ですら許可されていない

その為、東京警察本部がある立川とは別に、新宿地下に暗殺課本部が秘密裏に設置されているわけだ


(万が一の可能性を考えた上での処置なのだろう・・・)


例え暗殺者であっても接続者である以上、能力が暴走する危険性がある

そして暴走した接続者は理性を失い、ただただ周囲を破壊するだけの存在と化してしまう

もし暗殺者程の強力な接続者が暴走した場合、街一つでは済まないかもしれない


(その危険性は、私も実際その目にしている・・・)


故に、暗殺者を含む、接続者の西エリアへの移動禁止処置は当然の様に思われた。だが・・・


「・・・?どうしたんですか?冬香さん」


そのアイリの言葉に、冬香はハッとしながら答える


「あ、ああ。少し考え事をしていた」

「考え事・・・ですか?」

「西エリアへの移動禁止処置の事だが・・・。政府に従う暗殺者ならともかく、法をなんとも思わない、犯罪者の様な接続者の移動も制限出来ているのが少し疑問に思えて」

「・・・?」


冬香の言葉に、アイリはどういう事かと首をかしげる


「ええとそうね・・・。この東京はあの巨大な壁、「東京防壁」によって覆われている。それによって接続者達をこの東京に封じ込めている、というのが政府が言っている事なんだけど」

「ええっと・・・はい」

「でも、中央エリアと西エリアの間に壁なんて存在しないでしょ?なのに政府は西エリアへの接続者の侵入を完璧に防いでみせている。その証拠に、西エリアでの接続者による犯罪・事故件数はゼロ。接続者による犯罪や事件は全て、旧山手線周辺エリアでしか起こっていないのよ」

「言われてみれば・・・おかしいですね・・・?」

「・・・そもそも、あの東京防壁で接続者を封じ込めておくなんて本当に可能なのかしら・・・?いくら巨大な壁に加えて、軍隊が封鎖してるからって。その気になれば、接続者はいつでもあの壁を超える事が出来る気がする・・・」


冬香が今まで目にしてきた接続者達

それらは全て、人知を超えた圧倒的な力を持っていた

そんな彼らが、いくら巨大であっても壁一枚程度乗り越えられないとは思えないが・・・


(でも事実として、壁を越えた接続者はただの一人も存在していない・・・。なら、壁や軍隊の有無は接続者の封じ込めに何も関係していないとしたら・・・?この東京にはまだ私も知らない何かが存在し、そしてその何かこそが、本当に接続者をこの東京に封じ込めている要因だとしたら?政府はその何かを知った上で、東京防壁という偽物の鳥籠を作った・・・?)


東京を覆う不可解な事実

それについて冬香が推察を始めようとした、その時・・・!


パチン!


「いたっ!」


頬を軽く叩かれ、冬香は正気に戻る

目の前にはむーっという顔をしたアイリが居た


「もう!冬香さんまた仕事の事考えて!仕事以外は全然駄目なのに、どうして仕事の事になるとそんなにやる気なんですか!?ワーカーホリックなんですか!?」

「いやそんな事はない・・・と思う」


自信なさげにそう答える冬香、アイリはその腕を引っ張りながら言う


「そんなスーツ姿で言われても説得力ありません!今日ぐらいは仕事の事は忘れて羽根を伸ばしましょう!」

「分かった分かった!分かったから腕を引っ張らないで!袖が伸びる!」


子供とは思えない程の力で腕を引っ張られると

冬香はそのまま引きずられる様に、街へと歩いていった






数時間後

二人は近くのコーヒー店の野外テラスで休憩していた

ニコニコと笑みを浮かべるアイリに対し、冬香はやや疲れた様にコーヒーを口にする


「ふう・・・。随分回ったな・・・」


まるで修学旅行の学生の様なテンションのアイリに連れられ、これでもかと言う程休日を堪能した冬香


「はい!ファミレスもブティックも初めて入りました!それに・・・」


そう言いながら、アイリは肩にかかっていた髪を手でかきあげる

その様子を見ながら、冬香が言った


「随分短くしたね。さっきまでは腰ぐらいまであったのに」


長く伸びていたアイリの髪は、今は肩よりほんの少し長い程度のミドルヘアーになっている

美容師の腕のお陰か、ふんわりとした雰囲気の髪がアイリによく似合っていた


「以前は髪を切るのも大変でしたから。お兄ちゃんに任せるとすごく変になっちゃうし」

「お兄ちゃん・・・」


その時、冬香は以前出会った接続者の少年を思い出す

その能力を妹と仲間の子供達の為に使い、そして命を落とした少年


「私も、他のみんなも。こんな風に生きていけるなんて夢みたいで・・・」


ファミレスで食事をし、美容室で髪を切り、ブティックで服を買う

東京の外では当たり前の生活が、あの時のアイリ達には遠い夢物語の様な事だった


「もうお兄ちゃんが居ないのは悲しいけど・・・。私は冬香さんと13・・・御音さんにはとても感謝しているんです」

「アイリ・・・」


心の陰りを覆い隠す様な笑みを浮かべながら、アイリは冬香に言う


「その恩を返す為にも、二人が困っている時は助けたい、私の能力はその為にあるんだって思うんです。だから・・・」


そう優しく告げるアイリに、冬香はこの一週間程ずっと考えていた事を思い出す




13の過去と、それを知るカズヤという接続者


謎に包まれた10年前の事件と、父を殺した接続者


問題はさらに深刻になるばかりで、解決の糸口は全く見えてこない


13はどうするのか?私はどうするのか?


そのどちらもまだあやふやなままだ・・・だが・・・




そう言った悩み事に対し開き直る様に、冬香は考え方を改める


(今は分からない事を考えても仕方ない・・・!ただ任務をこなし生き延びるだけだ、13と共に・・・!)


そして冬香は、穏やかな笑みを浮かべながらアイリに答える


「ありがとうアイリ。これからは一人で悩まず、アイリにも相談する様にするよ」

「・・・はい!どんどん頼って下さい!私も頑張ります!」

「うん。・・・そろそろ暗くなるし、今日の所は寮に戻ろうか」


そして冬香とアイリは席を立つと、姉妹の様に並んで歩いていくのだった





(なんだかんだで、今日は良い気分転換になったかな・・・)


そんな事を考えながら、車を停めてある場所へと向かう冬香

その時、耳に携帯電話をあてながらその様子を見ていた男が居た


「ああ見つけた、写真の女で間違いない。・・・分かってる、捕まえるだけでいいんだろ?接続者でもない普通の女一人、楽勝だっての」


男はそう言いながら電話を切ると、人込みの中をやや足早に歩いて冬香のすぐ側まで近づいてくる

そして男は腕を伸ばすと、目の前を歩いていた冬香の腕をガシッと掴む!


「なっ!?」


人込みの中、突然腕を掴まれ勢いよく後ろを振り返る冬香!

振り返った先に立っていたのは、身長190cm程で筋肉質の大男だった!


「ほい確保。監査官の霧生冬香だろ?一緒に付いてきてもらおうか?」

「何だと!?誰だ貴様!?」


大声で叫びながら睨みつける冬香に、その男はにやにやと笑みを浮かべながら答える


「「竜の尾」だよ。言っとくが抵抗しても無駄だぜ?」


その言葉と同時に大男の眼がぼんやりと発光する!


「接続者・・・!」


13の居ない冬香の前に現れた竜尾会の接続者!

こうして冬香達に、新たな危機が迫るのだった!

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