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トーキョー・アサシン 隔離都市東京特別治安維持課  作者: 三上 渉
第五章:狩人を狩るのは人ならざる獣の顎
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しばしの休息


東京都目黒区

旧池尻大橋駅近くに存在する警察寮、その一室

ベッドの上で布団にくるまる女性の姿があった

東から昇った太陽はすでに空高くから辺りを照らしていたが、彼女が起きてくる気配はない

その時、部屋の中を掃除していた少女がベッドに近づいていった。そして・・・


「起きて下さい。もうすぐ昼ですよ?」


そう言いながら、ベッドの上に横たわる布団の塊を少女が軽く揺らす

すると、その塊の内側からか細い声で返事が返ってきた


「ん・・・あと5分・・・」

「それ1時間前にも言ってたじゃないですか、いい加減起きてくださいー!」

「ん・・・んぅ・・・」


少女が塊に手をかけ、今度は先程よりも激しくユサユサと塊を揺らすと

その内側から眠そうな眼をした女性がはい出てきた


「ん・・・眼鏡・・・眼鏡・・・」

「ここですよ、はいどうぞ」


少女から眼鏡を受け取ると部屋の主、霧生冬香は手の甲でまぶたをぬぐい眼鏡をかける

そして部屋で掃除をしていた少女、アイリに向かって問いかけた


「今・・・何時・・・?」

「11時半、もうすぐ昼ですよ」


そう言いながらアイリが近くにあった目覚まし時計を指さす

冬香は目を細めそれを確認すると・・・


「あと1時間・・・」


そう言いながらぞもぞと布団の中に戻ろうとする。がしかし・・・


「駄目ですー!いい加減起きてくださーい!」


アイリに強引に布団をはぎ取られ、観念した様に部屋の中央に置かれたテーブルの横に座った


「はい、これで目を覚ましてください」


そう言って、アイリがコーヒーの入ったマグカップを目の前に置く

冬香はそれをふーふーと息で冷ましながら口にする、そして・・・


「ふー・・・目が覚めた。おはようアイリ」

「おはようございます冬香さん。と言っても、もう昼ですけど」


ゴミ袋の口を縛りながら返事をするアイリ

その様子を見た冬香は、辺りを見渡してから言った


「部屋、掃除してくれたのか・・・」

「はい。まあなんというか・・・酷い有様だったので」

「うぐっ・・・!」


アイリの言葉に口を詰まらせる冬香

今はごく一般的な一人暮らしの部屋と言った感じだが、数時間前までは足の踏み場もない程の酷い有様だったのだ

そしてアイリは玄関の近くに大きなゴミ袋を3つ並べると


「次の燃えるゴミの日に出してくださいね。忙しいからって忘れないで下さい、・・・絶対ですよ?」


そうジト目を向けながら、改めて冬香に釘を刺す


「あ、ああ・・・」


そんなアイリに対し、冬香はバツが悪そうに肩をすぼめながら返事をする


「もう・・・。私、冬香さんはもっとしっかりした人だと思ってました。この部屋、食べ物はインスタント食品と冷凍食品のみだし、キッチンはまるで新品同然で包丁もまな板も使用した痕跡なし。部屋の中には脱ぎちらかした服や下着が散乱し、テーブルの上にはうず高く積まれたプラスチック容器の山。冬香さん、仕事以外はてんで駄目人間じゃないですか」

「う・・・うう!」


10歳以上歳の離れた少女に説教をされ、さらに小さくなっていく冬香


「13さんが怪我をしてからずっとお休みだっていうから。家でどうしてるか心配して見に来て正解でした」

「13・・・」


その何気ないアイリの言葉に、冬香は一週間前の事を思い返していく・・・






13とカズヤの戦闘の翌日

暗殺課本部で冬香を迎えたのは研究室主任、安栖宗次だった


「安栖研究主任!13の容態は!?」


そう詰め寄る冬香に対し、安栖はいつも通りの穏やかな笑みを浮かべながら答える


「とりあえず、命に別状はないから安心してほしい」

「そ・・・そうですか」

「・・・とは言え。左肩の銃創に打撲が多数、骨にヒビが入っている箇所も複数ある。それに、義手である右腕も完全に破壊されてしまったからね。しばらくはこの本部のメディカルルームで安静にしてもらう他ない」


だがその時、その安栖の言葉にベッドで寝ていた13が体を起こしながら言った


「問題ない。軽傷だ」

「13!?」

「この程度の怪我なら慣れている。任務に戻るぞ、冬香」


そう言って、13はベッドから起き上がろうとするが


「そこまでだよ13。今の状態で任務に戻る事は看過出来ない」


安栖は穏やかな口調のままキッパリとそう言うと、13をベッドに押し戻す


「安栖さん・・・。だが、俺は・・・」


そんな安栖に対して何かを言おうとする13、だがしかし・・・


「13。その命が続く限り接続者を殺し続ける、それが暗殺者。・・・とは言っても、僕達は何も君達を殺す為に任務に送り出しているわけじゃない」

「・・・」

「綺麗事かもしれないが、僕は君達暗殺者にも生きて帰ってきて欲しいと思っている。その為にも、今は君の体調を万全にする事が僕の仕事だ」


安栖はそう諭す様に13に言う


「とりあえず、今は安静にする事。いいね?」

「了解・・・」


そんな安栖の言葉に、13はそう一言だけ言うと

ベッドに横たわり目を閉じ、数秒もしない内に眠りについた

安栖はそれを確認すると、冬香に向かって言う


「そういうわけだから、しばらく13を任務に出す事は出来ない。今後の事については、吹連課長に指示を仰いでくれるかな?」

「は。了解しました」


冬香はそう言うと部屋の出口に向かって歩いていき・・・


「それでは、失礼します!」


ピシッと敬礼をすると部屋を出て行った

冬香が部屋を出て行った後、安栖はボソリと呟く


「全く・・・あまり無茶はしないでくれ13。君の身体はただでさえ・・・」


それは誰に聞かせるでもない、ただの独り言だった。だが・・・


「問題ありません」

「13?」


その安栖の言葉に、ベッドで眠っていたはずの13が返事をする


「俺の身体の事は俺が一番よく分かっているつもりです。それにない物ねだりをしても仕方ない、俺はこの身体で任務を遂行していくだけです」

「そうか・・・。ならせめて、今はゆっくり休むといい13」

「ええ、そうさせてもらいます」


そう言うと、再び13は深い眠りにつくのだった






研究室を後にした冬香は課長室へと向かった

そして、吹連課長から冬香に言い渡されたのは・・・


「きゅ・・・休暇ですか・・・?」

「ええ。貴方のバディであるナンバー13が動けない以上、監査官である霧生警部補一人で行動するのは難しいでしょうし。あ、心配しなくても、お給料ならちゃんと出るわよ?」

「ああいえ・・・ですが」


唐突に言い渡された休暇

東京に来て以来、ほぼ毎日監査官としての任務に励んでいた冬香はそれに戸惑いを見せる。だがその時・・・


「まあいいんじゃないかのう?休める時に休むのも仕事の内じゃぞ?」


課長室のソファーに座っていた暗殺者4が、冬香に向かってそう言った

その手にあるのはスマホ3台分はあろうかという、大型の黒い携帯ゲーム機

今やっているのはひたすら宝石を消していく落ち物パズルのようだ


「・・・4、貴方は仕事中よ」

「ま、待て!あと少しで自己ベストを更新できるのじゃ!こうなれば絶対回答を使ってでも!」

「くだらない事に能力を使わないでちょうだい・・・」


そう呆れた様にため息をつくと、吹連は冬香に向かって言った


「まあ4の言葉も一理あるわ。休める時に休むのも仕事の内、ナンバー13が復帰したらまたすぐ忙しくなると思うし。それでいいかしら?霧生監査官」

「はっ・・・そういう事なら。了解しました」


そして課長室を後にすると、冬香は東京での住まいである警察寮へと戻っていった






それから丁度一週間

最初の2日は自室で本を読んだり、久しぶりに買い物に出かけたりしていた冬香だったが

すぐにやる事がなくなり暇を持て余していた


「こんな事になるんだったら、もっと実家から色々持ってくるんだった・・・」


そう言いながらテーブルに突っ伏す冬香

そのボサボサになった黒いロングヘアーを櫛でとかしながら、アイリが言った


「なら、これからお出かけでもしますか?」

「んー?だが、必要な物はもう揃って・・・」

「そういうんじゃなくて。その辺りの街を適当に見て回ったりブラブラしたり、ウィンドウショッピングって言うんですか?」

「ふむ・・・」


そのアイリの言葉に、あまり乗り気ではなかった冬香だったが・・・


「私その・・・ずっとあの廃墟で暮らしてたからそういうのやった事なくて。今はちゃんと部屋も、生活費も支給されていますし。冬香さんさえ良かったら・・・」

「アイリ・・・」


そう少し寂しそうに言うアイリに対し、冬香はスクッと立ち上がると


「そうだな・・・。じゃあこれから出かけるとするか」


そう言って、アイリに微笑みかける

それに対しアイリは


「・・・あ。はい!行きましょう!」


そう元気よく答え、子供らしい無邪気な笑みを浮かべた

そして二人は車に乗りこむと、繁華街へ向かって出かけていくのだった

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