始まりの追憶
東京某所、グラウンド・ゼロ外縁部にある訓練施設
そこは元々は軍の施設だったが
2020年、接続者達の出現により旧山手線エリア内が無法地帯グラウンド・ゼロと化し、放棄された
その後、東京が3つのエリアに分かれた際
東エリアに拠点を構えるとある犯罪組織がこの施設を占拠
ゼロ・オリジンが原因とされるグラウンド・ゼロ内部の秘匿性を利用し、この施設で独自の研究を行っていた
東京中から集められた200人の孤児達
厳しい訓練と、接続者として覚醒する為の能力覚醒プログラム
これにより高い戦闘技術と、接続者の持つ異能を併せ持った最強のエージェントを作り上げる、それがその施設の目的だった
「走れ!!!あと50周も残っているぞ!!!」
その施設内部のグラウンドに教官と思しき男の激が飛ぶ
周囲を全て塀に囲まれた、まるで刑務所のグラウンドの様な場所を子供達が延々と走り続けていた
「ハァ・・・ハァ・・・」
だが、子供達の足は重い
ここがエージェント養成施設とは言え、彼らがここに来たのはほんの数ヵ月前
大抵の子供達は、この過酷な訓練に付いていくのが精一杯なのが現状だった。しかし・・・
「・・・・・・」
多くの仲間がリタイアする中、息を整えながら一定のペースで黙々と走る少年
「・・・ハァッ!」
そしてやや息を荒げながら、その少年の数歩後ろに食らいついていくもう一人の少年の姿があった
目の前を走る少年の背中を追いかけながら後ろの少年、K・018(ケー・ゼロイチハチ)は思う
(クソッ!コイツ全くペースが落ちねえ!)
孤児となった自分が連れてこられた施設で待っていた過酷な訓練
路上孤児として食うに困るの生活とどちらがマシだったのかは、分からないしどうでもいい
だが、そんな過酷な環境に自分はいち早く適応して見せた
全ての訓練において、他を圧倒する優秀な成績を叩き出して見せたのだ。だが・・・
(だが・・・いつもコイツの次だ!)
そんな018以上に適応して見せたのが、目の前を走る少年だった
K・013(ケー・ゼロイチサン)
こちらが必死に超えたハードルを軽々と飛び越えていく天才タイプ
常に無口で、何を考えているのか分からない気に食わない奴
(今日こそは・・・!コイツに勝つ!!!)
そう考えながら、018が周回遅れの集団を追い抜きにかかった。その時・・・!
フラッ・・・
丁度二人の目の前を走っていた白い髪の少女の身体が揺れた
「ッ!?」
思わず目の前の少年の背中から目を反らし、少女の方へ視線を向ける018
そして、その少女の身体が前方に向けて倒れこもうとしたその時・・・
018が少女の身体を支えようと手を伸ばした瞬間!
ドサッ
「大丈夫か・・・?」
「あっ・・・」
018が少女を支えるとほぼ同時に、反対側からもう一人の少年、013が彼女を支えていた
「なっ・・・お前!?」
「・・・?」
共に少女を支える013を、018は意外そうに見ながら言う
「お前・・・人助けなんてするタイプだったのか?」
その言葉に013はわずかに眉を動かすと・・・
「いや・・・俺は・・・」
そう答えようとした、その時!
「貴様ら!!!誰が休んでいいと言った!!!」
そう叫びながら教官が詰め寄ってきた
「さっさと立て!まだ半分も走り切っていないぞ!」
そして倒れている少女を起き上がらせようとしたその時!
「コイツはこれ以上無理です、一旦休ませるべきかと」
そう言いながら013はスッと立ち上がると、教官と少女の間に立ちはだかった。しかし・・・!
「そんな事は聞いていない!ついてこれないと言うのなら廃棄するまでだ!貴様らはさっさと訓練に戻れ!」
教官は聞く耳を持たず、013を手で押しのけようとする!だがその時!
ガッ!
「なっ!?」
013は教官の押しのけようとする手を掴みそれを阻む!
そして手を掴んだまま、あくまで冷静に言い返す
「これ以上の訓練はオーバーワークです、休息を取らせるべきです」
「貴様・・・!」
あくまで主張を曲げない013に対し、教官が殴りかかろうとした・・・その瞬間!
「・・・なら、俺達がその子の分まで走る、ってのでどうですか?」
突然、そう言って018が二人の間に割り込んだ
「何だと・・・?貴様?」
「K・018です。その子の分残り50周、俺とコイツが走るって事で勘弁してもらえませんか?」
「・・・」
018の言葉に教官はやや落ち着きを取り戻すと、振り上げていた手を下ろし言った
「・・・良いだろう。ただしその倍だ!教官に口答え出来る程体力が有り余っている貴様らには丁度いいだろう!貴様ら一人100周づつ追加だ!!!」
「・・・げっ!」
「分かったならさっさと戻れ!」
「了解」
苦々しそうな顔を見せる018に対し、013はその言葉を聞くとすぐに走り込みを再開した
そして、数時間後・・・
既に日は沈み、夕方から夜になった頃
「ハァ・・・ハァ・・・くそっ・・・」
ふらふらと走ってきたかと思うと、ゴールラインに向かって倒れこむ018
「くっ・・・ハァ・・・」
そしてもう一人、013もゴールラインを超えた所でその場に倒れこむ
「くそっ・・・ホントに・・・倍走らせやがって・・・!」
大の字に寝っ転がったまま悪態を呟く018
そして二人とも、その場から動けず倒れていたその時・・・
「あ・・・あの・・・」
「・・・ん?」
遠慮がちに話しかけてくる声に二人で振り向く
「あ、さっきの・・・!」
そこに立っていたのは、二人が手を貸そうとした白い髪の少女だった
「これ、よかったらどうぞ・・・」
そう言って少女は二人にボトルに入った水を差しだす
「み!水!助かる!」
そう言って018は少女から受け取った水をゴクゴクと勢いよく飲んでいく
013もその水を受け取ると口にする
「ぷはぁーーー!!!生き返ったぜ!マジで死ぬかと思った!!!」
水を飲みほした018が大声でそう叫ぶ
「すみません、私のせいで・・・」
そう申し訳なさそうに謝る少女に対し、018は大げさに首を横に振った
「いやいや!気にすんなって!何の因果か知らないが、こんな所に来た以上助け合わないとな!」
「ありがとうございます、・・・えっと」
言葉を詰まらせる少女に対し、018はその理由を察し答える
「ああ、俺は018」
「018さんですか、私は037です、よろしくお願いします。それでそっちの人は・・・」
そう言って視線を向ける037に対し・・・
「013だ」
彼はそう簡潔に答えた
それ以上喋ろうとしない013に対し、少し困ったようにしながらも037は続けて言う
「えっと・・・013さんも助けてくれてありがとうございました」
だがその言葉を聞いた瞬間、013は視線を反らしながら呟く様に答えた
「別に助けたわけじゃない・・・」
「えっ?」
「あのまま倒れていられたら訓練の邪魔だっただけだ」
013がそう冷たく言い放った瞬間
「・・・」
018と037は目を丸くしながら顔を見合わせる、そして・・・
「クッ・・・ハハハハハハッ!!!!!」
突然、018は大声で笑いだした
「・・・フッ・・・フフフ!」
037も口を抑えながら遠慮気味に笑っている
「何だ・・・?」
いきなり笑い出した二人に、訳が分からないと言った様子で首をかしげる013
それに対し、018は笑いながら言った
「お前って・・・!嘘が滅茶苦茶下手だな・・・!」
「なっ・・・!?」
そして戸惑った様子のままの013に対し、018と037はしばらくその場で笑い続けた
「ッ!?」
瞬間、飛び跳ねる様にして彼、K・018「カズヤ」は体を起こした
「夢・・・か・・・」
まだ3人が一緒だった頃の夢
これまでは夢なんて見なかったのに、最近はよく思い出す
(あの施設で俺達3人が出会い過ごしてきた日々、そしてそれが終わった5年前の最後の日・・・)
そうカズヤが思った瞬間!
「ッ!ぐうっ・・・!!!」
全身の痛みにカズヤはうめき声を上げると、体をこわばらせる
「くそっ・・・あの女、滅茶苦茶やりやがって・・・!」
先日の戦いで4から受けた全身のダメージ
骨折は3か所、ヒビが入った場所は多数
常人であれば全治半年以上はかかるであろう重傷
「いくら接続者になって治癒能力も上がってるとは言え・・・しばらく戦闘行動は無理だな・・・」
そう呟くと、ベッドに横になるカズヤ
ベッド以外何もない自室の天井を眺めながら、カズヤは先日の戦闘に対して考える
(「絶対回答」、こっちが何をしようが全てが裏目に出る最悪の能力。正面から戦って勝つのはほぼ不可能・・・)
その時、先日負った傷がじくっと痛む
(そう言えば、何故奴は俺を殺さなかった・・・?あの能力があればいつでも俺を殺せたはず・・・)
その他にもカズヤの脳裏に様々な疑問が浮かぶ、だが・・・
(今は考えても分からねえ・・・、あの女の事よりもカズミだ)
そう考えを切り替えると、4の事は後回しにする事にした
(アイツもあのダメージじゃしばらくは動けないはず、決着を付けるのはお互いに怪我が完治してからだな・・・)
5年間追い続けたカズミとの決着、それはこんな中途半端な状態で行うわけにはいかない
お互いに最高の状態でなければ、本当の決着とは言えないのだから
(今は怪我が治るのを待つしかない、か・・・)
そう結論づけるものの、カズヤの心は逸ったままだった
「くそっ・・・!ようやく見つけたってのに・・・!これ以上待たなきゃならねえのかよ・・・!」
その時、ふとカズヤの脳裏に一人の女性の姿が思い出された
(13!)
撤退の瞬間チラリと見えた、カズミの側に居た女
カズミを13と呼ぶスーツ姿の黒髪の女
二人がどういった関係なのかはよく分からない、だが・・・
「監査官とか言ったか・・・。試しに仕掛けてみるか・・・」
そう呟くと、カズヤはニヤリと唇を歪めるのだった




