断罪を求める死神
「俺が殺しにいくまで・・・ミナを殺した罪を存分に噛みしめておけ・・・。じゃあ、またな」
13に向かってそう言うと、カズヤはビルの屋上から飛び降り闇に紛れて撤退する
「逃げたか・・・まあよい」
そう言って4は逃げるカズヤを追撃する事なく見逃すと、戦闘体勢を解除する
そしてクルリと振り返ると、倒れている13に向かって真っすぐに歩いていく
その時、13の手当をしていた冬香が4に向かって歩きながら言う
「ありがとう4、お陰で助かった」
「・・・」
だが4はその言葉に答える事なく無言で冬香の横を通り過ぎ
俯いたまま立ち尽くす13の側へ歩いていく。そして・・・
「・・・何故撃たなかった?13」
4は13の目の前に立つと、真っすぐに13を見つめながら問いかけた
「奴が倒れたお前に銃を寄越した時・・・いや、それ以外でも奴を撃つ機会はいくらでもあったはずじゃ。何故撃たなかった?」
その表情に普段の飄々とした笑みはない
淡々と、無表情のまま冷静に13に問いかける
「・・・俺は」
だが13はその問いに答える事が出来ず、そう一言だけ呟いた後俯く
黙り込む13に対し、4はその心中を推察する様に続ける
「元同じ施設の仲間だったから撃つのを躊躇ったか?それとも・・・」
そして、4はその答えを13に告げる
「これでようやく死ねると思ったか?」
「・・・ッ!」
5年前のあの日
ミナを自らの手で殺したあの日から、ずっと脳裏から離れない一つの疑問
(どうして俺は生きている?)
何も持っていなかった13にとって、彼女の存在だけが生きる意味であり存在する理由だった
それを自らの手で殺してまで生き続ける意味はあるのか?そして・・・
(ミナの仇を俺がうつ!「復讐」を果たさせてもらうぜ!カズミ!!!)
復讐とカズヤが言ったその時13は思ってしまったのだ、カズヤは「正しい」と
(・・・ミナを殺した俺が「悪」で、その復讐を果たそうとしているカズヤは「善」だ。なら俺は・・・)
そして13は、自らの罪を懺悔するかの様にその答えを口に出そうとする
「カズヤの復讐は正しい、なら裁かれるべきなのは・・・殺されるべきなのは・・・」
殺されるべきなのは俺だ
だが、その答えを最後まで告げようとした直前!
パァンッ!!!
乾いた音が周囲に鳴り響いた!
13の言葉に対し4は右腕を振り上げると、その頬を打ったのだ
「・・・思いあがるなよ13」
そして頬を打たれ戸惑う13に対し、4は静かに告げる
「誰が貴様に勝手に死ぬ権利を与えた?貴様は「暗殺者」じゃろうが。殺して殺して殺して、自らが殺されるまでに一人でも多くの接続者を殺す。ただそれだけの機械、それが儂ら「暗殺者」じゃ」
「・・・」
「機械に情など必要ない。相手が女子供であろうと、友人や家族であろうと、ただただ命令に従い殺す。ましてや「正しさ」など、儂らに最も必要のない物のはず」
そして4は、13の襟元をグイッと力づくで掴み寄せながら睨みつける
「貴様が暗殺者の道を選んだ時、儂の弟子になったその日から徹底的に叩きこんでやったはずじゃ、忘れたとは言わせんぞ!」
「・・・4」
しかし13は、まだ迷いを見せた表情のまま4から顔を背ける
そんな13に対し4は襟元から手を放すと、スッと背を向け歩いていく。そして・・・
「次に奴が来たなら確実に殺せ、暗殺者として」
「俺が・・・カズヤを・・・」
「・・・どうしても出来んと言うのなら、貴様は暗殺者失格じゃ。・・・その時は勝手に死ね」
そう厳しい言葉を言い放つと、4の姿は闇に溶け込む様にして見えなくなった
カズヤと4が去った後、ビルの屋上には13と冬香だけが取り残される
「13、その・・・」
無言のまま立ち尽くす13に対しそこまで言いかけた所で、冬香は言葉を詰まらせる
聞きたい事、疑問はいくつもあった
カズヤという男とはどういう関係なのか?5年前に13が居た施設で何があったのか?
そして・・・ミナとは一体誰なのか?
だが、その全ての疑問が軽々しく聞く事の出来ない事であろうという事
13という青年の過去に深く関わる事であるという事も、冬香は理解していた
「・・・いや、何でもない」
そして理解しているからこそ、冬香はそれ以上問いかける事が出来ず口を閉ざす
・・・・・・
都会の喧騒、夜のない街
その中にありながらも、まるでこのビルの屋上だけが世界から切り離されたかの様に静寂と闇が包み込む
その闇の中、13と冬香は共に一言も言葉を発さず、ただ時間だけが過ぎていく
それは数分の事だったのか、それとも数時間の事だったのか
ずっと続くかの様に思われた静寂を、冬香の一言が遮った
「戦わないという選択肢はないのか・・・?」
「・・・」
唐突に冬香が発した言葉に、13が視線を向ける
「お前があの男とどういう関係だったのかは分からない。でも友人だったのなら話して解決出来るんじゃないのか?そうだ・・・ミナという子の事も何か誤解が・・・」
それは解決策と呼べるような物ではない、そうあって欲しいというだけの願望
しかし今の冬香にとって、それは藁にも縋る様な思いからの答えだった。だが・・・
「無理だ」
そんな冬香の言葉を、13は首を横に振り否定した
「カズヤは絶対に俺を許しはしない」
「だが・・・!」
それでも何か道はあるはず
そう言おうとする冬香を13が遮る
「ミナは俺とカズヤにとってかけがえのない存在。血が繋がっていなくとも、俺達はこの世にたった3人だけの家族だ。そしてその家族を殺した俺を、カズヤは絶対に許さない。・・・アンタなら分かるだろう、冬香」
「・・・それは」
「アンタは父親を殺された、カズヤは妹を殺された。アイツの復讐が、アイツの憎悪がアンタには分かるはずだ」
復讐
そう、父を殺した接続者を必ず見つけ出し殺す
それが霧生冬香の生きる意味であり、どんな手段を使ってでも果たすべき目標
もしもその相手が見つかったとして、私はそいつを許せるだろうか?
絶対に許さない
自分の心に問いかけるまでもない、この憎悪は決して消す事は出来ない
だがだとするなら、あの男も同じだと言うなら・・・
「・・・ならお前はどうするんだ?13」
「・・・」
「あのカズヤという男は必ずまたやってくる、お前を殺す為に。その時、お前はどうする?4の言う通りに殺すのか?それとも・・・」
3人だけの家族、と13は言った
つまり13にとってあの男は今でも家族なのだ
そんな男を殺せるのか?
そう冬香は問いかける、だが・・・
「分からない・・・」
そう曖昧に首を振る13
しかし、それは冬香の問いに対する答えではなく・・・
「俺はアイツと違う・・・。「復讐」という答えを得たカズヤと違って、俺には何もない・・・」
「それは・・・どういう・・・?」
戸惑う冬香に対し、13は俯きながら背を向ける。そして・・・
「俺には・・・生きる意味がない・・・」
最後にそう呟くと、その場に冬香を残し歩き去っていった
しばらくして、冬香はもうその場に居ない13に向かって問いかける様に呟く
「13・・・。お前が求めているのは「罰」なのか・・・?」
だが、その問いに答える者はなく
冬香の言葉は、ただ静かに都会の闇空の中に消えていった




