暗殺者殺し
池袋、サンシャイン60
高さ240メートルを誇る超高層ビルである
そのビルの上からネオンと闇に彩られた池袋を見下ろす影が一つ
闇に溶け込む様にビルの上に佇む女、暗殺者「4」の姿であった
「どう?4」
「そうじゃな・・・」
通信機の声、彼女の監査官である吹連の声に応じ眼下の街をぐるりと見渡す4
接続者である4の視力は常人を遥かに超える物であり
この超高層ビルの上からでも容易に地上を見通す事が出来た、しかし・・・
「それらしき姿は見当たらんの」
そう言って首を振る4
「貴方の能力ならどう?」
そう問いかける吹連に対し、4は街を見下ろしたまま神経を集中させる
「・・・さて」
キンッ!
そして僅かに4の瞳が発光したかと思うと、4は能力を発動させた!だが・・・
「駄目じゃな。どうやらその「可能性」は無いようじゃ」
結果は変わらず、4はまたも首を振る
「そう。貴方の能力でも見つからないという事は・・・」
「単純に近くにはおらんのじゃろう。東側はハズレだったかもしれん」
「西側を任せた霧生監査官とナンバー「13」の事も気になるけれど・・・。4は引き続き「目標」の捜索を続行して」
「了解じゃ」
そう言ってビルの上から眼下に広がる街へと飛び降りる4
そしてその姿はすぐさま闇に溶け込み、見えなくなった
同時刻、池袋駅を挟んで丁度反対側
池袋西側区域の道路を巡回する車両があった
「・・・了解、こちらも捜索を続行します」
車を運転しながら、そう言って通信を切る冬香
助手席には13の姿もある
「東側も空振りか」
「ああ。これだけ探しても出てこないという事は、今日はもう出てこないのかもしれないな」
ゆっくりと車を走らせながら13の問いかけに答える冬香
「アイリの能力があれば簡単に見つけられたのかもしれないが・・・」
「相手が相手だ。今回はアイリを連れてくるわけにはいかないだろう」
「そうだな・・・」
そして今回の捜索対象の事を思い出しながら、冬香がボソリと呟いた
「・・・暗殺者殺し、か」
それは数日前の事
突然暗殺課本部に呼び出された冬香と13は、暗殺課課長である吹連の執務室へと来ていた
「監査官霧生冬香及びに暗殺者ナンバー13、招集に応じ参りました!」
「お疲れ様。まずはそちらのソファーにかけて」
「はっ!」
そう言ってソファーに座る冬香と13、その時
「クック、久しぶりじゃのぉ」
冬香達の目の前から声がかかる
「お、お久しぶりです。4・・・さん」
「じゃから「さん」は必要ないと言っとるじゃろう、4でよい」
そう言って、ニィと唇を歪ませ笑みを浮かべたのは暗殺者4だった
「13もこの間ぶりじゃな、右腕の調子はどうじゃ?」
「問題ない。それより俺達を呼び出した用件は?」
そう言ってさっさと本題に入ろうとする13
「取りつく島もないのう・・・」
4はそんな13の態度に人差し指を突き合わせいじけて見せるが、当の13はそんな4に構うそぶりすらない
「そうね、それじゃあ早速本題に入りましょう」
近くのソファーに腰掛けながら吹連が話を切り出した
「二人はここ最近池袋付近で発生している「暗殺者殺し」について知っているかしら?」
「暗殺者殺し・・・!?」
そう問いかける冬香に、吹連は暗殺者殺しについて詳しい説明を始める
「ええ。一ヵ月程前から池袋周辺で、暗殺者を狙った殺人事件が多発しているの」
「暗殺者を狙った殺人・・・、では犯人は・・・」
「間違いなく接続者でしょう」
冬香にそう答えながら、手元の資料を確認する吹連
「殺されたのは「43」、「29」、それと「17」ね」
「3人も・・・」
驚きを隠せない冬香の様子に、4がやや声を落として言う
「3人ともほぼ一瞬で殺されておる。接続者を狩る暗殺者が逆に狩られるなど、冗談にもならんのう」
そう言って目を細める4に、13が言う
「・・・しかし3人とも、そこらの接続者にあっさりと殺される程弱くはないだろう?」
「うむ。相手はかなりの手練れじゃな」
暗殺者を3人も仕留めた手練れ、それは一体何者なのか?
その時、冬香が吹連に向かって問いかけた
「その・・・暗殺者殺しについては分かりました。ですが何故私達を・・・?」
暗殺者殺しへの対応が必要なのは理解できる
しかし、今回何故自分達が名指しで招集されたのかが分からない
そう疑問を浮かべる冬香に対し・・・
「そうね。これを見て」
そう言って吹連はリモコンを取り出すと、部屋にあった大型モニターを点灯させる。そこに映し出されたのは・・・
「事件現場・・・?いやそれよりもこれは・・・!」
倒れた暗殺者の側、路地裏の壁に大きく血で描かれた文字
「13・・・か」
そこには「13」と書かれてあった
「クックックッ!分かりやすいラブコールじゃのう!相手に心当たりはないのか?13」
「さあな。心当たりが多すぎる」
「それもそうじゃな、クックックッ・・・!」
暗殺者などやっていれば恨みの一つや二つ、十や百も買うという物
涼し気にそう答える13と含み笑いを浮かべる4を横目に、冬香が吹連に質問をする
「私達を招集したのはこれが理由ですか?」
「ええ。この数字に別の意味がある可能性もあるけれど。暗殺者だけを狙った犯行・・・、狙いが貴方達である可能性は極めて高い」
その吹連の言葉に対し、4が笑みを浮かべながら言った
「つまり「喧嘩を売られておる」という事じゃ。暗殺者ならばどうするべきか、分かるじゃろう?13」
「・・・ああ」
静かに殺気を尖らせていく13に対し、吹連は冷静に命令を下す
「これ以上暗殺者に損害を出すわけにはいきません。監査官霧生冬香、暗殺者13。両名には「暗殺者殺し」の捜索、そして対象の殺害を命じます」
「了解!」
「了解」
吹連の命令に立ち上がって敬礼を返す冬香と13
「もちろん儂も行くぞ。暗殺者殺し、何者なのか興味があるからな」
「ええ、お願い。こちらからもサポートするわ」
そして冬香、13、4の3人は、池袋周辺での捜索活動に入る事となった
それから数日間、池袋周辺での捜索活動を行っていた冬香達だったが
目標を見つける事が出来ず、現在に至る・・・
「・・・どうやら今日も現れる事はなさそうだ。4にも伝えてまた明日にしよう」
「そうだな・・・」
そう言って車を帰路へと向かわせ、今日の捜索を打ち切ろうとした・・・その瞬間!!!
「ッ!!!伏せろ!!!」
ビシッ!
車の防弾ガラスを撃ち抜いて、真正面から運転席の冬香に銃弾が撃ち込まれた!
「っ!?」
しかし間一髪!
13が冬香の身体を上から押さえつけこれを回避させる!
「なんだ!?一体何が!?」
「顔を上げるな!そのまま伏せていろ!狙撃を受けている!」
そう言って冬香の身体を押さえ続ける13!だが次の瞬間!
バスッ!バスッ!
直接運転手を狙うのが不可能と判断したのか、即座に車のタイヤに向かって弾丸が撃ち込まれる!
「くっ!!!」
タイヤを撃ち抜かれバランスを崩す車を、押さえつけられた状態のままなんとか制御する冬香!しかし!
「だ!駄目だ!走れない!」
バランスを崩した車はスピンしながら道路脇のビルへと向かって行く!
「車を停止させろ!」
「くうっ!!!」
13の叫び声に冬香は咄嗟に思いきりブレーキを踏み、ハンドルをきりながら暴走する車を制御!
キキィーーー!!!
なんとか道路脇のビルに激突する前に車を停止させる事に成功する!
「はぁ・・・はぁ・・・!」
とりあえずの危機を乗り切り安堵の息をつく冬香
「まだ顔を上げるなよ・・・」
それに対し停止した車の中から外を警戒しながら、13が冬香に呼びかけた
「・・・よし、即座に追撃は無い様だ。動けるか?冬香」
「大丈夫だ・・・。それより・・・!」
「ああ・・・。どうやら「目標」が現れた様だな」
そう言って仮面を被りながら車を降りる13、それに続いて冬香も車から降りる、その時・・・!
コッコッコッ・・・
ブーツの音を響かせながら、道路の先から二人に向かってゆっくりと歩いてくる一人の人物!
二人は視線をその人物へと向ける!
「奴が「暗殺者殺し」か・・・」
そして二人の前に立ちふさがったのは、13と同じく黒コートに仮面をつけた謎の人物だった!




