十字への祈り
データの入手に成功し、13が通路を進もうとしたその時!
「後ろです!13さん!」
ゴオッ!!!
突如として通路の闇の中から現れた男が13に向かって拳を放つ!
「ッ!?」
だがアイリの言葉により咄嗟に回避行動を取った13は、これを地面に転がりながらかわした!
「ほう?吾の初手をかわすとは・・・なかなかやるな?」
「くっ!」
ダンッ!!!
拳を構えたまま13を見下ろす男に対し、13はすかさず左手で銃を抜くと発砲する!しかし!
「フッ・・・」
ギュンッ!!!
「なっ!?」
男は13の放った銃弾を最小限の動きでかわしながら、まるで地面を滑るかの様に一瞬で間合いを詰め!
「ハァッ!!!」
ドグォッ!!!
そのままのスピードで強烈な拳を13に叩き込んだ!!!
「ぐっ!!!」
その強烈な一撃に思いきり後方に吹き飛ぶ13!
だがすかさずバッ!とバク転で体を回転させると、体勢を立て直し銃を構える!
「自ら飛んで衝撃を殺したか。面白い」
それに対して男は構えを維持したまま、余裕の表情を見せていた
「13!?無事か!?」
「問題ない。それより・・・」
冬香の通信に答えながら、13は目の前の男を観察する
その男は中華風の服を纏った60代程の老人だ
髪は白く、顔には年齢を思わせる皺が多く浮かんでいる
だが、その身体つきは精悍その物
服の上からでも鍛え上げられた肉体が容易に見て取れる
(武器ではなく拳を放ってきた事から考えておそらく拳法使い、そして・・・)
先程の老人の動き
最小限の動きで銃弾をかわしそのまま拳を放ってきた、明らかに常人を超えた動き
「接続者か・・・」
「フッ・・・如何にも」
13の呟きに対し老人は笑みで答える、そして老人は続けて13に向かって言った
「どうやら上の方が騒がしいと思ってみれば、地下にも鼠が入り込んでいたか。お前、どこの組織の者だ?」
「・・・」
「答える気は無いか、まあよかろう」
そう言いながら老人はゴキッと指を鳴らす
「吾としては拳を振るえればなんでも良い。久々の手ごたえありそうな相手だ、ガッカリさせるな!?」
そして老人は13に向かって踏み込む!
10メートル程の距離を一足飛びに間合いを詰め拳を放とうとする!だが!
ズラァッ!
「ッ!」
これに対し13は右手を腰の後ろに回すと、大型のマチェットを引き抜いた!
そのまま13は踏み込んでくる老人に対しマチェットを思いきり振り下ろす!しかし!
「何っ!?」
老人は目の前に迫る刃物に対しそのまま自分の拳を合わせてきた!
そして生身の拳と鋭く光る刃物がぶつかりあい、次の瞬間!
バキィツ!!!
信じられない事に!
老人の右拳は13が振り下ろしたマチェットを粉々に粉砕し!そのまま13の胴体に突き刺さった!
「ぐうッ!!!!!」
凄まじい衝撃に13が苦悶の声を上げる!
だがそこに老人はすかさず返しの左で追撃を放つ!
「ハイッ!!!」
「ぐおっ!!!」
ガキィンッ!!!
間一髪!13はその一撃をナイフの柄で受け止めるとその勢いのまま後方へ飛ぶ!
(心意六合拳をベースにした接近戦重視の技か!?この間合いは不利!)
一度間合いを離し仕切りなおそうとする13!だが!
「逃しはせんよ!」
13が後方へ飛ぶよりも速く老人はグンッと間合いを詰めると!怒涛の連続攻撃を放つ!
「つ・・・強い!」
次々と放たれる攻撃をなんとか捌きながらも、13が焦りを見せ始める!
強烈かつ正確無比!間合いを離す事も出来ない!
老人の凄まじい連続攻撃に13は防戦一方!その時!
「何なんだ!?この接続者は!?」
13のカメラを通じて分析を続ける冬香が驚愕の声を上げる!
「対象の能力適正はD-!能力は拳を固くする事だけ!接続者としてはハッキリ言って並以下の相手だ!なのに!」
今まで幾多の接続者を屠ってきた13が完全に圧倒されている!
それは冬香にとって信じられない光景だった!
「チイッ!!!」
老人の凄まじい踏み込みに間合いを離す事を諦め、両手の武器をナイフに持ち替え同じく接近戦を挑もうとする13!だが!
「残念だが、吾の間合いはそれよりももう少し近い」
「なっ!?」
ミシィッ!!!!!
その言葉と同時に老人の足元の通路にヒビが入る!
そしてナイフの間合いよりも更に内側!ほぼゼロ距離から渾身の一撃が放たれた!
「ハァッ!!!!!」
ドグォッ!!!
「ぐっ!!!!!」
老人の放った発勁によりくの字に曲がったまま13の身体が大きく吹っ飛ぶ!そして!
「がはっ!!!」
そのまま通路の壁に激突すると口から血を吐き出す13!
「13!!!」
そして13の手に握られていたナイフが地面に転がり・・・
ドシャッ・・・
13は崩れ落ち、地面に倒れ伏した
「ふむ、これで終わりか。存外あっけなかったな」
倒れた13に対しそう告げる老人、そして・・・
「さて。次の相手は貴様という事でよいのかな?」
背を向けたまま、背後の闇に対してそう告げた。次の瞬間・・・!
「ククッ・・・」
通路の闇から人の影が浮かび上がる!
そして現れたのは、暗殺者4の姿だった
「新手・・・。しかも今度は羅刹の類か。相手にとって不足はないな」
老人は笑みを浮かべると4に向かって構える
だが、4は腕を組んだまま通路の壁によりかかると言った
「ククッ、13が苦戦しておるようじゃから見に来てみれば。まさかあの「上海の虎」とはな」
「ほう?吾の事を知っているのか」
その時、冬香から4に向かって通信が入る
「4!あの接続者は一体!?」
「ん?ああ、あやつの名は「ラオ・フーシェン」、20年程前上海では敵無しとうたわれた裏の武術家じゃ。いつの間にか姿を消したと聞いておったが、まさか東京におったとはのう?」
そして4はラオに向かって問いかける
「さて、あの「上海の虎」が何故この様な場所におるのじゃ?」
その4の質問に対し、ラオは笑みを浮かべると構えを解く
「そうだな。己の身の上を語る機会など滅多にない、答えよう」
そして、ラオが東京に来るに至った経緯について語り始めた
「幼き頃から功夫を積み、そして裏の世界を渡り歩いた。今も昔も、吾の目的はただ一つ「強くなる事」だけだ」
「ほう・・・?」
ただ強さのみを追求する青年は、さらなる戦いを求め裏の世界へと身を投じる
「吾は強き者との死合に望み更なる高みを、更なる武を追求し続けてきた。だが・・・」
それはラオが「上海の虎」と呼ばれ始めた頃・・・
「いつしか、吾と死合おうなどと言う者は居なくなっておった。吾はあまりに強くなりすぎた」
その頃にはラオと戦おうなどと言う命知らずは居なくなっており、ラオは退屈を持て余す様になっていた
「だが、その頃だ。東京に人ならざる力を持った人が現れ始めたという話を聞いたのは」
「接続者か」
18年前、突如として東京に現れた異能力者達
更なる高みを目指す相手としてこれ以上ないのは間違い、ラオはそう考えた
「吾が積み上げた武が人ならざる人にどこまで通用するのか?吾は意気揚々とこの東京に向かい・・・」
東京へと向かったラオは接続者達に戦いを挑み、そして・・・
「そこで吾は、己が井の中かわずであった事を思い知る事となった」
人間にはどうしようもない程の、圧倒的な力の差という物を目にする
「接続者共の力に対し、吾が積み上げてきた武など正に蟷螂の斧が如し。吾はこれ以上無い程の屈辱と辛酸を舐めた」
「「上海の虎」と言えども人には違いなかったと言う事かのう?」
「その通り。人ではバケモノには勝てん、それが道理という物だ。だが・・・」
しかし絶望の淵に沈みながらも、虎はまだ戦う意思を捨てては居なかった
「吾は諦めなかった。更なる力を、更なる武を求め己を鍛え続けた。接続者をも屠る力を求めてな」
そして虎はその牙を、その爪を磨き続け、そして・・・
「そして我が武は完成した、吾自身が「接続者になる」事によってな」
いつしか虎は・・・「虎でない物」に変貌していた
「ククッ・・・」
そのラオの言葉に、4は笑い声を上げ言った
「接続者を屠る為の技が、接続者になる事によって完成するとは!本末転倒よのう!」
それに対し、ラオも笑みを浮かべ答える
「ふふっ、まこと滑稽よな。だが、吾は存外満足しているのだ」
「ほう?」
「この力があれば吾は更なる高みへと行ける。まだ誰もたどり着いた事の無い武の極地へとな!」
そしてその瞬間!
ラオから殺気にも似た闘志が4に向かって放たれた!
「さあ、言葉を交わすのはこれぐらいでいいだろう?我が武が羅刹相手にどれ程通用するか!?死合おうではないか!」
尋常ならざる闘志を放つラオに対し、4はニヤリと笑みを浮かべる
「ククッ・・・。お主の様な奴は嫌いではない、相手をしてやるのもやぶさかではないが・・・」
だが4は戦闘態勢を取らず、腕組みをしたままラオの背後に向かって視線を投げかけた
「だがそれは、お主があやつを倒せたらの話じゃ」
「むっ・・・?」
そう呟きながら背後を振り向くラオ、そこには・・・!
「ほう?まだ息があったか」
ユラリと立ち上がる13の姿があった!
「吾の渾身の勁を受けて立ち上がるとは。その服のお陰か、それとも・・・」
その時、冬香から13に通信が入る
「13!無茶だ!」
なんとか立ち上がったとは言え13のバイタルが低下しているのは明らかだ、とても戦闘を継続出来る状態ではない
「ここは4に任せて撤退しろ!」
そう言って13を離脱させようとする冬香
しかし、13はそれに答える事なく呟く様にラオに向かって言った
「俺は・・・アンタによく似た男を知っている・・・」
「ほう?」
「そいつも接続者を殺す為、常に技の研究に明け暮れていた」
その13の言葉に、ラオが興味深そうに問いかける
「似たような事を考える者はいるものだな。それで、その男はどうなった?」
「死んだよ、アッサリと。ある施設の崩壊に巻き込まれてな」
「そうか、それは残念だ。同じ人外を屠る技、どちらが上か手合わせしてみたかったが。技が潰えてしまったのでは仕方ない」
そう残念そうに言うラオに対し、13は首を横に振った
「いや、技は潰えていない」
「何?」
その言葉にラオがピクリと眉を動かす
「ソイツが研究していた技はアンタの武と同じ様な問題にぶつかっていた。「人間」では接続者を殺す技を十分に使いこなせないという問題にな」
その問題に対し、ラオは自分自身が接続者となる事によって解決した
だが、その男が取った手段はラオとは全く違う物だった
「だからソイツは自分の技を伝える事にした。東京中から集めてきた200人の孤児達、「接続者になるかもしれない」素質を持った子供達にな」
そう、その男は東京中から集めてきた孤児達に自らの殺しの技を伝えようとしたのだ
その言葉に眉をひそめながらも、ラオは問いかける
「・・・なるほど。それで、技は完成したのか?」
「ああ・・・」
そのラオの言葉に答える様に、13は左右のホルスターから銃剣の付いたハンドガンを抜くと
左手の銃を額に合わせ上に向け、そして右手の銃を左手の銃に対して垂直に添え十字の形を作る
そして、ある言葉を呟き始めた
「・・・我々は死をもたらす弾丸である」
その言葉と共に、13の脳裏にいつかの光景が浮かび上がる
今はもうどこにもいない200人の子供達
彼らは13と同じ様に両手の銃で十字を切ると、同じ言葉を紡いでいく
ーー我々は死をもたらす弾丸である、我々は善悪の区別なく死を与える罪深き者達である
それは一種のマインドコントロール
年端もいかない少年少女達を死をも恐れぬ戦士に変える呪いの言葉だ
ーーされど我らの罪は、この十字への祈りの元、その全てが赦されるであろう。故に・・・
子供達は銃を構えたまま目を閉じると、自分自身の心の内にその呪いを刻んでいく
ただ、生きる為に
ーー祈れ、殺せ、祈れ、殺せ、祈れ、殺せ、祈れ、殺せ、祈れ、殺せ、祈れ、殺せ!!!
そして・・・!
「目の前の全てを殺しつくす!弾丸の嵐となれ!!!」
その言葉と共に13の目が見開き!
狂戦士と化した13がラオに襲いかかった!




