無敵で凶悪で妖艶な女
二人の暗殺者が出撃してから数分後
「こちら13、施設地下への侵入に成功した」
地下へと向かっていた13から通信が入る、しかし・・・
「これよ……データ……」
「13?・・・13!?」
突然、通信にザザッと言ったノイズが走る
13の言葉が不明瞭になり、カメラからの映像も映らなくなった
その時、4から冬香に通信が入る
「ジャミングか何かかの?どうやら余程見られたくない物が地下にはあるようじゃな。だがまあ13なら心配はあるまい、あちらはあちらに任せよう」
その言葉に冬香は少し考え込むが・・・
「冬香さん。通信を送る事は出来ませんが、13さんの状態は私の「索敵」で把握出来ています」
「そうか・・・」
後部座席に座るアイリの言葉に頷くと、方針を決定した
「・・・そうですね。4さんの言う通り、13なら問題ないでしょう」
そして作戦を続行しようとするが、その冬香の言葉に4は落ち着かない様子で返事を返す
「さんは止めてほしいのじゃが・・・むずむずするでのう。「4」と呼び捨てでよい」
「そ、そうですか・・・?」
仮にも相手はシングルナンバー、しかも最高位の暗殺者
いくら監査官と言えども、高圧的な言葉は避けたい所ではあったのだが
「安心するがよい。吹連が任せた以上、儂はお主の命令に従う。監査官として毅然とした態度でおればいい」
それは歴戦ならではの余裕なのだろうか?
その4の言葉に、冬香は一度深呼吸をしてから仕切りなおす様に再度命令を下す
「分かりました・・・。作戦を続行、4は陽動を開始!」
「ククッ・・・それでよい」
冬香の命令に従い、ビルへと向かう4
そして冬香は作戦の具体的な方法を伝える為、4に通信を入れるが・・・
「それで陽動の方法だが・・・」
「ああ、それは心配しなくても平気じゃ、儂に任せておけ」
「えっ?」
冬香にそう通信を返しながら、4は懐からハンドガンとナイフを取り出す
そしてそのまま、4はビルの「正面口」へ堂々と歩いていき・・・!!!
ガシャァァンッ!!!!!
「グッドイブニング!!!儂じゃあッ!!!儂が来たぞぉッ!!!!!」
正面口のガラスを蹴破り!4がビルの1Fフロアに突撃した!
「な!?誰だテメエ!?」
すぐさま近くに居た組織の構成員が銃を構え叫ぶ!だが次の瞬間!
ダァンッ!
「がっ・・・」
男が次の行動を起こす前に、4が撃った弾丸が男の眉間を貫いていた!
崩れ落ちる男に4が吐き捨てる様に言う
「「敵」に決まっとるじゃろうがたわけ。構えたらすぐに撃たんか」
そして敵を殲滅すべく、4は先へ進もうとするが・・・!
「侵入者だ!正面口から来やがった!」
通路の奥から1Fの広間に集まってくる足音が複数!
「敵来ます!12人!」
「おっ?探す手間が省けたかのう?」
そして4は悠々と、敵が来る方向へ目を向けるが・・・!
「居たぞ!撃て!!!」
現れたのは最新型のアサルトライフルを装備した敵が12人!
さらに敵は4の姿を確認すると問答無用で弾丸を連射し始めた!
ドガガガガガッ!!!!!
「おっ!おお!?」
ダッ!!!
凄まじい弾幕に声を上げると、すかさず近くの柱の後ろへ走りこむ4!だが!
「相手はおそらく接続者だ!弾を惜しむな!」
ドガガガガガッ!!!!!
敵はまるで柱ごと弾丸で削るかの様に弾を連射してくる!
「ふぅ~!いきなり撃ちまくってきおって!この儂の悩殺ボディに傷を付ける気か!?」
「さっきはすぐ撃てって言ってました!それにこのままだと傷どころか蜂の巣にされると思います!」
そんなアイリのツッコミの間も敵の弾幕は止まず、じょじょに包囲の輪を縮めてくる!
「いきなり正面突撃を仕掛けた上に反撃で身動き取れず!どうするんだ4!?」
「そうじゃな・・・。さすがにこの弾幕の中に突っ込むのは、いくら暗殺者でも無謀と言うものじゃのう・・・」
「じゃあ・・・!」
のんびりとした4に対し、冬香が抗議の言葉を放とうとした、次の瞬間!
「・・・「儂以外の暗殺者なら」の話じゃがの?」
「えっ・・・?」
その場に居た全員が気づかない程の一瞬の間に!
4の姿は柱の後ろから、攻撃を仕掛けてきていた敵の後ろに移動していた!そして!
「目くらましに使わせてもらうぞ?」
シャッ!
素早く後ろからナイフで敵の首を掻っ切り、その敵の体に圧を加える4!そして次の瞬間!
ブシャァァァァッ!!!
「なっ!?」
男の首から大量の血が噴水の様に吹き出し、辺りを赤く染めた!
「くそっ!みえ・・・!」
返り血で視界を失った敵が混乱に陥る!
そして当然その隙を見逃す4ではなかった!
「さあ!お楽しみの皆殺しタイムじゃ!!!」
ジャンッ!!!ダンダンダンッ!!!
そのまま敵集団の中に飛び込み縦横無尽に動き回りながら、ナイフを振り回し弾丸をばら撒く4!
3秒足らずで12人のうち6人が死体になる!
「ほれ!そこのお前!盾になれ!」
「なっ!?」
近接戦の最中!そう言って4が大柄な敵の後ろに回り込んだ瞬間!
ドガガッ!!!
「がっ!!!」
4を狙った弾丸が盾にされた大柄な敵の胴体に突き刺さる!
「ナイス同士討ち!これは儂からの礼じゃ!」
ダンッダンッ!!!
すかさず4は大柄な敵を盾にしたまま、他の敵の頭部に弾丸を撃ち込んだ!
「ぐあ・・・!」
そして12人のうち11人が死体になり
4は大柄な男の後頭部に銃口を突きつけると・・・!
「ご苦労」
ダンッ!
12人目にトドメを刺し、悠々と空になったマガジンを捨てリロードをした
その時、ビルから少し離れた車内
その中で、冬香はカメラに映った光景に唖然としていた
(これが・・・シングルナンバー・・・!?)
絶体絶命の状態に陥ったと思った十数秒後、重装備の敵12人があっという間に全滅・・・
もはや強い弱いなどと言った次元を遥かに超えている
それはまるで竜巻か雷の様な・・・人の形をした災害の様だった
(あまりにも圧倒的すぎる・・・だが・・・)
だがその時、冬香の脳裏を占めていたのは、最も理解出来なかった「あの瞬間」への疑問であった
(一番不可思議だったのはあの一瞬だ。4が柱の後ろから敵の後ろに移動していたあの一瞬・・・)
目を離していたわけではない、実際4と相対していた12人の敵なら尚更だろう
だが実際、全員の意識が外れた一瞬の間に、4は敵の後ろに回り込んでいたのだ
(まさかこれが、4の「能力」・・・?)
カメラの記録映像を見直したが、瞬間移動や高速移動の類でもない
もっと人知を超えた「圧倒的な能力」が行使されたのは明らかだ
ゴクリ・・・
余りに想像を超える4の戦闘能力に思わず喉をならす冬香、その時・・・
「さて、どうじゃ?他の敵はどこかのう?」
反応しないエレベーターのボタンを押しながら、先程までと全く変わらない様子で問いかける4
それに対し、アイリが能力を発動させながら答える
「1階の敵はそれで全部です。他の敵は上階でバリケードを作って応戦する構えみたいです」
「ほう~、ホントに便利な能力じゃのう~。わざわざ家探しをしながら登っていく必要はなさそうじゃ。ところで地下の方はどうじゃ?」
「地下に配置されていた戦力も、大半が直通のエレベーターで上階へ先回りしています」
「ふむ、ならば陽動は成功じゃな。このままゆっくりと上に進んでいく事にしようかのう」
そして4は階段の方へ向かうとニヤリと笑みを浮かべながら、ゆっくりと上へ向かって行く
「さあ、子供を攫う悪い奴らを皆殺しじゃ~!暗殺者の恐怖を存分に味わうがよいぞ~!」
その後、30分程が経過
その短い間にビルの1階から7階までは血の海となり
100人近くいた組織の構成員は、その全てが物言わぬ屍と化していた
「~♪」
その中を鼻歌を口ずさみながら悠々と進んでいく4
その体には傷どころか、返り血の一つすら付いていない。そして・・・
「ここが最後かの?」
最上階の一室、恐らくは組織のトップが居るであろう部屋の前に4は立っていた
その時、アイリから通信が入る
「中に一人、武器は持っていないみたいです・・・けど!」
「うむ。大抵、こういう部屋で出てくるのは「ボスキャラ」じゃな」
アイリの言葉にそう答える4
だがすぐに、ニヤリと笑みを浮かべると・・・!
「まあやる事は変わらんのじゃがな!」
ドガァッ!!!
ドアを蹴破り!部屋の中へ侵入する!
「宅配じゃ!この儂が死を届けにきたぞ!受け取り拒否は死刑じゃ!!!」
そう叫びながら、4は部屋の中に居た人物に銃口を向けた!だが・・・!
「ほう~?侵入者は女だって聞いてたが、なかなかの美人じゃないの?」
部屋の中に居た人物は机に座ったまま、余裕たっぷりでそう答えてみせた
中に居たのは軽薄そうな男、年齢は20代くらいだろうか?
高級そうなスーツに、男としてはやや長髪の金髪
一言で言うならホストと言った感じだろうか?犯罪組織の構成員としては違和感を覚える装いだ
「なんじゃ貴様は?」
銃口を向けられながらも余裕の態度を崩さない男に、4が問いかける。だが次の瞬間!
ギュンッ!!!
「!?」
一瞬で男の姿が見えなくなったと思うと同時に!4の背後から首筋にナイフが突きつけられる!
そして4にナイフを突きつけたまま、男は答えた
「俺はいわゆる「用心棒」ってやつ?お察しの通り接続者さ」
「ほう?儂の背後を取るとはなかなかの腕前のようじゃな、能力は「高速移動」と言った所か・・・?」
その時、4の言葉を遮る様に男が耳元に囁く
「正解、だから変な動きはしないほうがいい。俺がその気になれば、0.01秒とかからずこのナイフを振り抜く事が出来る。美人を殺すのは俺の世界にとって損失だからな」
そう言って男は右手でナイフを突きつけたまま、左手を4の身体のラインに沿って這わせる
首筋にナイフを突きつけられた4は黙ってその手を受け入れていた、だがその時・・・
「おいおい・・・なんだよこれ?」
「なんじゃ?儂のカラダに不満でもあるのか?」
「いいや、全く逆。こんな最高のボディライン見た事ないね」
そして男は4を振り向かせると、正面から4の全身を確かめる
上から下まで、髪から爪の先まで
手が届く範囲の全身をその手で堪能していく
「思った通り・・・最高だ・・・」
そう熱に浮かされた様に男は呟くとナイフを仕舞い、両手で4の身体を隅々まで確かめ始める
その時、既に自由の状態になっていたにもかかわらず、男にされるがままの4が呟いた
「ンッ・・・。何じゃ?お主・・・儂が欲しいのか?」
そう言って4が男の目を上目遣いに見つめる
その誘うかの様な瞳、息遣い・・・
男を飲み込む様な4の雰囲気に、男が興奮した様に答える
「ああ・・・!欲しいね!」
「ククッ・・・そうじゃな・・・どうするかのう・・・?」
それに対し、4は男にしな垂れかかりながら、その胸に指を這わせる。だが・・・
「・・・ふむ。やっぱり駄目じゃな」
4はそう言って男の身体から少し離れた
「何・・・?」
思いがけず袖にされた男が戸惑いの表情を見せる
「理由が知りたいか?答えてやろう」
そんな男に、4が妖艶な笑みを浮かべたまま言った
「第一に、儂は弱い男に興味がない」
「なっ!?」
その言葉に思わず声を上げようとする男、だが・・・
スッ・・・
4は右手の人差し指を男の唇に当てそれを止める
そして、続けて4は言った
「第二に、儂はすでに死んでいる男にも興味がない」
「・・・は?」
男が疑問の声を上げると同時に、4は男の唇に当てていた人差し指を軽く押した
「え・・・?」
ピリリッ・・・
それと同時に男の首に切れ目が入ると、首から上だけが後ろに傾いていく・・・!
「なん・・・え・・・?」
訳が分からないと言った様子の表情のまま、後ろへ傾いていく男の首
(斬られてた・・・?いつの間に・・・?怪しい動きをした素振りは全くなかった・・・)
そんな男に対し、4が笑みを浮かべたまま「ある物」を見せる
「「高速移動」か。動きが早くなっても、意識がそれに追いつけないのでは意味がないのう。こんな障害物に気が付かないようではな」
それは「糸」だ、髪の毛よりも細い暗殺用の「鋼糸」
最初に男が後ろに回り込んだ時すでに、4は男が高速移動をする軌道にこの糸を仕掛けていた
男が自分で斬られている事にすら気づかない程静かに。だが・・・
(いや・・・あり得ないだろ・・・?だって俺は「さっき初めてこの女に能力を見せた」んだぞ・・・?初見の相手の能力を見破って、それに対しカウンターを仕掛けていた・・・?そんなバケモノ・・・存在するはずが・・・)
その時点で男の意識は途絶え、首を失った胴体はまるでカカシの様にその場に立ち尽くしていた
「さて・・・」
4はそんな男の死体に全く興味ないと言った様子でくるりと背を向けると、部屋中央奥のデスクを調べ始めた
「本命は地下じゃろうが、一応こっちからも何か有用なデータが取れないか探ってみるかのう」
そしてデスクの上にあったノートPCにクラッキングを仕掛ける
しばらくして、クラッキングを続けていた4が声を上げた
「むっ?」
「何かあったんですか?4」
「いや、これと言ったデータはない。じゃがどうやら地下のジャミングの解除がこちらで出来るみたいじゃ、解除しておこう」
カチッと4がキーを叩いた直後、冬香が13に通信を送る
「聞こえるか?13」
「冬香?通信が復旧したのか?」
「ああ、そっちの状況は?」
「研究室と思われる部屋でデータの入手に成功した、これから・・・」
そう13が返答しようとした、その瞬間!
「後ろです!13さん!」
「ッ!?」
通信を遮ったアイリの叫び声に咄嗟に回避行動を取る13!それと同時に!!!
ゴオッ!!!
空気を裂く強烈な音!
床を転がり、それを回避した13が振り向いた先に立っていたのは・・・!
「ほう?吾の初手をかわすとは・・・なかなかやるな?」
拳を構えたまま13を見下ろす、白髪の拳法家だった!




