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レインボーブリッジ
旧山手線エリアから南に存在する
港区芝浦から、東のお台場エリアへと通じる巨大な架け橋である
東京中央エリアが完全無法地帯グラウンド・ゼロになった事により
西部エリアと東部エリアを繋ぐ数少ないルートの一つとなっていたが
現在は検問が敷かれており、一般車両の通過は禁止されている
検問には接続者の襲撃にも対応できる様、重装備の警官隊が配備されており
まるで国境線を守る軍隊の様な、物々しい雰囲気となっていた
PM:11:30
そのレインボーブリッジ前の検問に一台の車が通りかかった
「止まれ!ここは一般車両の通行は禁止されている!」
即座にアサルトライフルを構えた警官隊が警告を放つ
その警告に対し車はゆっくりと検問の前で停止すると、運転席のウインドウを開ける
そして近づいてきた警官に対し、車を運転していた女性が手帳を開いて言った
「特別治安維持課だ。通行許可を」
「治安維持課・・・!」
その言葉に、近くに居た警官達にも緊張が走る
「何か問題でも?」
「い、いえ!確認させていただきます!」
女性から受け取った警察手帳のIDをスキャンし端末で情報を確認しながら、警官がチラリと視線を車の助手席の方へ向ける
そこに座っていたのは黒のコートを着た全身黒ずくめの男
フードを目深に被っており顔はよく見えないが、周囲に放つ威圧感は尋常ではない
その威圧感に、ゴクリと喉を鳴らす警官
この検問に配備されている警官隊は特別に訓練された人員であり
その装備もお飾りではなく必要とあれば躊躇なく発砲する事が出来る、そう言ったプロの集まりだ
だが、目の前の男の放つ威圧感はそれを遥かに超えている
もしもこの場にいる全員が一斉に車に銃を向けたなら
その瞬間に、全員の命は無くなっているだろう
(あれが暗殺者か・・・)
目の前の男が敵ではない事に心底ホッとしながら、警官は警察手帳を運転席の女性に渡す
「確認しました。どうぞお通りを」
「ありがとう」
女性がそう言うと、車は緩やかに加速し検問を通り抜けていった
道路脇の電灯が照らす中、一台の車がレインボーブリッジを渡っていく
その途中、後部座席に座っていた少女、「アイリ」が感嘆の声を上げた
「うわ~。凄く綺麗です・・・」
それに対し、車を運転しながら運転席の女性、「霧生冬香」がクスっと笑いながら言った
「昔はイルミネーションとかでもっと凄かったらしい」
「そうなんですか?」
「ああ。まあ、私も実際に見た事はないんだが」
その言葉を聞きながら、食い入る様に窓の外を見つめるアイリ
グラウンド・ゼロの廃墟の街でずっと暮らしてきたアイリにとって、目の前の光景は全て真新しく珍しい物なのだろう
その時、助手席に乗っていた黒ずくめの男、「13」が冬香に問いかけた
「冬香」
「ん?どうした」
「アイリの事だが。どうして同行させている?」
「ああ、その事か。実はな・・・」
そして冬香は、3日前の事について13に語り始めた
それは接続者となった少女、アイリを保護し暗殺課本部に預けてから数日後の事
「失礼します。監査官霧生警部補、参りました」
「ご苦労様。呼び出して済まなかったね」
冬香は研究室主任である安栖の呼び出しを受け、暗殺課本部へと出頭してきていた
「それでその、お話と言うのは?」
「ああ。実は先日君たちが保護した少女、アイリちゃんの事なんだけどね」
そして少し真剣な表情で安栖は言った
「実は彼女の「能力」なんだが。あまり暗殺者には向いていない能力だった事が分かったんだ」
「えっ!?」
暗殺者には向いていない、それはつまりアイリは暗殺者にはなれないという事
そして、暗殺者ではない接続者は全て処理されるのが政府が定めたルールだ、つまり・・・
「ま、まさか!」
焦った様に叫ぶ冬香に対し安栖は少し驚くが、すぐに事情を把握すると笑みを浮かべて言った
「ああ、勘違いさせてすまない。向いていないと言ったのは「戦闘向きの能力ではない」という事なんだ」
「え?」
「彼女の能力は凄いよ・・・。彼女の能力が応用出来れば暗殺者の任務も格段に楽になるだろう」
そう言うと安栖は、冬香にアイリの能力について説明を始める
そして現在
先日13が手に入れた情報、路上孤児を攫い売買していた組織
その組織の施設と思われるビル、それをを見渡せる数キロ離れた場所に冬香達の車があった
「じゃあアイリ、頼む」
「はい!」
冬香にそう答えるとアイリは神経を集中させる、そして!
「索敵!」
アイリがそう叫ぶと同時に、アイリの脳内にビルの内部構図や人員の配置場所が全て見えてきた
そして能力を発動させながら、アイリは以前教わった通りに端末を操作していく
「今マップを作成するので、少し待ってて下さい」
「分かった」
アイリがマップを作成している間、車を降りた13は外から運転席の冬香に話しかける
「この距離で敵地の内部構造を全て把握できるのか。安栖さんが驚くわけだな」
「ああ。それで能力のデータ収集も兼ねて、アイリを私達で預かる事になったというわけだ」
戦闘経験を持たないアイリは暗殺者として戦闘に出す事は出来ない
そこでサポート要員として、冬香達と行動を共に出来る様、安栖が取り計らってくれたのだ
「だが・・・。ここなら前線でないから安全というわけでもない、いざという時は・・・」
「ああ、任せろ。その為に俺がいる・・・」
13が冬香にそう答えた、その瞬間・・・!
「・・・ククッ」
「ッ!?」
突然!周囲から感じた異様な気配に13が戦闘態勢に入る!
「なっ!?どうした13!?」
「・・・何者かが近くに潜んでいる、相当ヤバそうな相手だ」
「なんだと!?」
その言葉に異常事態を察知したアイリがマップの作成を中断する、そして!
「任せてください!索敵!」
キィン!
周囲一帯を能力で把握する!
「ッ!?い、居ます!でも誰か分からない!物凄く速くて私の能力でも補足出来ません!」
その言葉に13は周囲を見渡し、そして視界の端に黒い何かを捉える!
「ああ、今一瞬だけ見えた・・・、影を追うので精一杯だがな・・・」
その時、黒い影は少し笑みを浮かべると呟く
「ほう・・・補足されたか、やるのう・・・。じゃが・・・!」
死角から死角へ、素早く動く影を必死に目で追う13!
(ちいっ!俺の視線の動きを読んでいるとでも言うのか!?)
そして13は、両手の銃を構えながら冬香に向かって言った
「冬香、俺に何かあったら車を走らせてこの場から逃げろ!絶対に止まるな!」
「しかし・・・!」
「いいから言う通りにしろ!コイツは俺ではどうにもならない相手だ!」
その言葉に冬香が答えようとした瞬間!
13は意識を集中、神経を周囲に張り巡らせていた!
(目では捉えられなくとも、俺の死角から死角へ移動していると言うならば動きは予測出来る!)
そして!
「そこかっ!!!」
ダンッ!!!
視界の端に映った影に向かって13が銃撃を放つ!
バスンッ!!!
弾丸は影に命中!弾丸が影を撃ち抜き、そして・・・!
「何っ!?」
その影の正体に13が目を見開く!
そこにあったのは、宙に浮いていたコートだけだった!
「変わり身だと!?・・・しまっ!」
13がそう叫び振り向こうとした瞬間!
コンッ・・・
13の後頭部に銃口が付きつけられていた!
「・・・ククッ。ここまでじゃのう?」
「・・・」
背後を取られ全く動けず硬直する13に対し、背後を取った影は銃を突きつけたまま笑みを浮かべる
そう、13が銃撃を放った後、宙に浮いていたコートに気を取られた一瞬
その一瞬の間に、影は13との間合いを詰めると真後ろに回り込んでいたのだ
「馬鹿な・・・13があんなあっさり・・・」
その光景に車の中に居た冬香が驚愕した表情を見せる、そして影の正体に視線を向けた
その影は女だ、身長は冬香よりやや低い、160前後と言った所だろうか
年齢はやや冬香より下だろうか?顔はよく見えないが若い女性に見える
腰まである艶やかな黒髪にぴったりとした全身黒のボディスーツ、浮き上がっているシルエットはまるで黒豹の様だった
(どうする・・・?このままでは13が・・・)
その時、先程の13の言葉を思い出す冬香
(13は逃げろと言った、しかし・・・13を見捨てて逃げるわけにはいかない・・・!)
そして、冬香はその手にリボルバーを握りしめたまま緊張を走らせる・・・。だが、次の瞬間!
「・・・フウッ」
13が軽く息を吐き出すと、その手に持っていた銃を下ろし、そして・・・
「アンタか・・・」
と呟いた
その答えを聞いた女はニヤリと笑うと・・・
「まだまだじゃな、13」
そう言って、13に突きつけていた銃を下ろした
「な・・・?一体何が・・・?」
その光景に唖然とする冬香に対し、13は落ち着いた声で言った
「心配ない冬香、コイツは味方だ」
「味方?」
「ああ、俺と同じ暗殺者だ」
その時、女が13に向かって問いかける
「そちらが、お前の監査官殿かのう?」
そして今度は冬香に視線を向けると、女は言った
「自己紹介させてもらおうか。儂は「4(フォー)」じゃ、暗殺者・ナンバー「4」」
4と名乗った女に対し冬香は一瞬だけ考え込むが、すぐに驚きの声を上げる
「4・・・?まさかっ!?シングルナンバー!?」
驚愕する冬香に対し、13が補足する様に言った
「ああ。そして現在現役で活動している暗殺者の中の最高位でもある、つまり・・・」
13の言葉に4はニヤリと笑いながら・・・
と言うより、あからさまなドヤ顔を見せながら言った
「つまり、儂が最強の暗殺者じゃ!」




